HTCってどんな会社なの?

【台北発】SBMからHTC Desire後継の新Android端末登場か?

2010/10/07

 ニーハオ! @ITの西村です。アジア・パシフィックのプレス向けツアーに参加して、「HTC」の本拠、台湾の台北市に来ています。本日、10月7日の夕方に記者発表会を控えていますが、一足先に、そもそもHTCという会社は、どういうことをやってきた会社なのかということをおさらいしてみたいと思います。

 HTCといえば、2008年にグーグルとの協業でAndroid端末「T-Mobile G1」を真っ先にリリースしたスマートフォン市場の台風の目です。多数のプレイヤーが参入した現在でも、新規に購入されるAndroid端末の2台に1台がHTC製だそうで、Android市場で間違いなくトップグループにいる企業の1つです。

hq01.jpg HTC本社正門。台北市街と空港の中間、やや南下した場所にある。周囲には工場もちらほら
hq02.jpg 正面からアクセスできるのは大きな2棟のビル
hq03.jpg 近代的な建物で、中にはスタバやジムがあるほか、裏にはバスケットボールのコートや保育園まである

 PDA時代からのコアなファンであれば、Palm Treo 650やコンパックのiPaqをODMメーカーとして手がけていたり、あるいはWindows Mobile市場では一時代を築いた企業としてご存知かもしれません。1997年創業と意外に歴史は古く、創業者の1人で現在CEOを務めているピーター・チョウ氏は、「当時はスマートフォンなどという言葉はなかった」と会見で回想しています。マイクロソフトとの協業で一気に伸びたHTCは、Androidで再び跳躍を始めています。例えば直近の2010年第2四半期の売上高は、前年同期比66.7%増の約1800億円となっていて、出荷端末数も前年同期間の240万台から330万台に増えています。

ソフトバンクから再び新端末登場か?

 HTCは日本市場で2010年4月末からソフトバンクモバイルと組んで、「HTC Desire」を提供しています。ソフトバンク、というよりトップの孫さんが一点突破の戦略でiPhoneに注力していることから、あまり注目されていない端末という印象もありますが、最先端スマートフォンの合格ラインともいえる大きく明るいディスプレイと、Snapdragon 1GHz、Android 2.1という素直なスペックで市場からの引き合いは強い状態が密かに続いています。

 NTTドコモやKDDIが、サムスンやシャープと組んで秋モデルとして目新しいAndroid端末を発表したことなどから、「ソフトバンク=HTC」が再び影に隠れた感があります。しかし、アジア・パシフィックだけでなく日本から私のような記者を台北に呼んで大々的に発表会をやるということは、これはもう「ソフトバンク=HTC」ラインの新端末の登場を期待せずにはいられません。実はHTCは9月にロンドンで似たような記者向けイベントをやっているのですが、そこではHD動画が撮れて画面が大きい「HTC Desire HD」や、スライド式の物理キーボードを備えた「HTC Desire Z」、それに、アップルのMobileMeに相当するクラウドサービス「HTC Sense.com」を発表しています。現在の市場規模やローカライズのコストを考えると、クラウドサービスが日本市場に来る可能性は低そうですが、2台の新端末については日本市場での展開にも期待が持てそうです。

htcdesire-hd.png 先日発表された「HTC Desire HD」。日本市場ではソフトバンクモバイルから登場するか!?
htcz.png 同じく先日発表された「HTC Desire Z」。再びキーボードに回帰、というのが、この市場の幅の広がりを感じさせます

なぜHTCが注目なのか?

chou.jpg HTC CEOのピーター・チョウ氏

 日本市場ではまだ存在感が薄いHTCですが、比較的高価格帯のスマートフォン市場において、北米やヨーロッパでは、飛ぶ鳥を落とす勢いで業績、ブランド力とも伸ばしている1社です。韓国勢のサムスン、LGエレクトロニクスなどと、スマートフォン市場、タブレット市場でまだまだ話題を振りまく端末を出してくれそうです。ちなみに、気になるAndroid搭載タブレット市場への端末投入の可能性についてですが、アジア・パシフィックの記者団らの質問に答える形で、チョウCEOは前向きなコメントをしています。いわく、「タブレットは非常に興味深い市場セグメントです。単に価格が安いというだけのネットブックと違って、大きなチャレンジ、イノベーションの余地がある」ということです。ちょうどLGもタブレット端末の投入を延期したというニュースが流れたので、Androidタブレットは、マルチコア対応が進んだ次期Android 3.0(コードネーム:Gingerbread)、あるいはGoogle Chrome OSの登場待ちということになりそうです。

 さて、ある世代以上の日本人消費者には、韓国や台湾はコンセプトを真似て安く作ってナンボという印象があるかもしれませんが、チョウCEOや、マーケティング部門トップのジョン・ワン氏(Chief Marketing Officer)の話は、こうした印象とは真逆の方向で一貫しています。イノベーションによる差別化をするしかない、というのです。

 「台湾は過去30〜40年にわたってハイテク分野で非常に成功してきました。OEM、ODMではアジア特有の勤勉さでうまくいきましたが、イノベーションということになると……、ぜんぜんです。しかし、われわれもシリコンバレーのようになるべきなのです」(チョウCEO)

 HTCが注目を集める背景には2つのバランス変化の構図があるように思います。

 1つは、スマートフォン市場の主導権が、かつてのキャリアから端末メーカーへとシフトしつつあること。SIMロックフリーの流れが進めば、この傾向はもっと明らかになるでしょう。そして当然ですが、モバイルがPCを超えてインターネットの主要アクセス端末となることはもはや火を見るより明らかです。

 もう1つはOEMやODMメーカーとして力を付けた韓国や台湾の企業が、自社ブランドを前面に打ち出して製品をどんどん開発・投入して元気であること、です。ODMは単なる委託生産と違って、設計(design)も含めて請け負うもので、十分に力が付けば「もう他人のブランドでやらなくてもオレたちは売れる」という段階に達するのは、ある意味では必然です。OEMやODMベンダなど、力を付けた企業がブランドを確立するというのは過去に何度も見た光景です。日本の家電の下請けで安いテレビや電子レンジを作っていたサムスンが、押しも押されもせぬハイテクトップ企業となったこともそうですし、密かに日本やアメリカのノートPCを作っていた台湾のノートPCベンダが、ネットブックブームで自社ブランドを確立したこともそうです。実はサーバ市場やネットワーク機器市場でも似たようなことが起こっていて、IBMやデルのサーバを下請けで作っていた中国企業が、独自ブランドを掲げ、高品質・低価格の製品ラインで自社展開するという動きもあります。

 HTCは、WindowsフォンやPalmというブランドの下で伸びてきて、スマートフォン時代が花開こうという瞬間に、非常に好ポジションをキープしていたといえます。グーグルとの協業で、他社を差し置いてAndroid市場一番乗りを果たした背景には、例えば、Window Mobileの時代から改良を重ねていた「TouchFLO」と呼ぶ独自のUI(ホームスクリーン)で、iPhoneに対抗意識を燃やしていたことがあると思います。現在、TouchFLOは、「HTC Sense」と改名され、Android端末においても同社の差別化戦略の根幹となっています。

HTC Senseの気の利いた機能による差別化

 HTCのフォーカス分野の1つ、Android市場には、有名無名の企業も含めると膨大な数のプレイヤーが参入しています。プラットフォームの共通化による開発コストの低減、エコシステムの創出というのがAndroidの狙いだったとすると、このような市場で他社と差別化することは困難に思えます。

 どうやって差別化するのでしょうか?

wan.jpg HTCのチーフ・マーケティング・オフィサー、ジョン・ワン氏

 この点について、ワン氏は最近同社がロゴの下にさりげなく掲げている「queitly brilliant」というコピーについて、実例を交えて解説してくれました。quietly brillianとは、自分から進んで「こんなすごい機能があるんだ」という自慢話をするのではなく、端末を使い続けているうちに、利用者がふと気付いて「よくできてるね」と思わず微笑むような、そんな気の利いた機能やサービス精神あふれる配慮のことを指しているそうです。

 例えば、地図。AndroidでもiPhoneでもGoogleマップはキラーアプリの1つでしょう。スマートフォンを忘れて出かけてしまった際の、あの戦闘力が下がったようなガックリ感の何割かはGPSと地図によるものではないでしょうか。ところが、3G回線だと地図の表示が遅い! あまりに便利なので「人々はこれを当たり前として受け入れていますが、われわれHTCではハイブリッドの地図アプリとして、事前にキャッシュするようにした」(ワン氏)といいます。「パリに旅行にいって、ホテルから表に出る。どこにいるか分からない。ローミングは非常に高価なので、ああ、いっそこれからフランス語を勉強しようかとか考えたりするかもしれません。でも、キャッシュ済みの地図なら、コストゼロ、待ち時間ゼロですぐに地図が確認できるのです」(ワン氏)。

map.jpg 左がキャッシュありの地図。空白の箇所がなく、スクロールするとともにスムーズに表示されている。右が従来のGoogleマップ。ネットワークが遅いと、スクロールするたびに待たされる

 動作デモを見た限りでは、キャッシュされた地図は粒度が粗めですが、十分に実用的で、あの苛立たしい四角いメッシュの空き領域がありません。スリスリッとスクロールすれば、それに追随して最低限の道と地名が表示されます。「これは別にすごい発明というわけではなくて、小さな機能追加です。だけど、非常に意味のある機能なのです」(ワン氏)

 HTC Senseの気の利いた機能の例として、ナビゲーション中の着信画面表示の工夫というのもあります。Googleマップはカーナビとしても非常に優れた3D表示をしてくれますが、なんとナビ中に電話がかかってくると、いきなり相手の顔がドドーンと画面全体を覆ってしまってナビ画面が見えなくなります。「電話がかかってきたからって、曲がるべき角を通りすぎてもいいってことじゃないですよね?」(ワン氏)。HTCでは、ナビ画面に映る3D地図のアングルを動的に変えて下に空き領域を作り、そこに着信画面を表示するというUIを工夫したのだそうです。

navi.jpg 地図に付属するナビ機能では、電話が着信したときの画面の表示を工夫。従来は右のように画面全体が切り替わっていたが、新しいHTC Senseでは左のようにするすると地面のアングルが変わって、下に開いた領域に必要な相手の情報や電話を取るボタンなどが配置されるようになった
socialmedia.jpg HTC Senseの目玉機能の1つ。ヒト単位で関連する電話履歴、メッセージ履歴、Facebookの更新、メールなどがスライド式のタブでまとめて見られる

UX全体でブランド認知を向上

 こうしたことは小さな機能ですが、非常に大きな違いを生みます。最近はやりの言葉でいえば、UX(ユーザーエクスペリエンス)への配慮です。

 HTC Senseは「ホーム画面」という認識が一般的だと思いますが、HTCとしては、もっと全体的なユーザー体験にかかわる、デバイスと人間の間のすべての機能のことを指すとしています。

 例えば、女性だと電話をバッグの中に入れて持ち歩きますよね。そうすると呼び出し音が聞こえなくて、電話を取り損なうことがあります。なので、HTC Senseは外部環境を認識し(その技術詳細は今はまだ確認できておりません)、大音量で呼び出し音を鳴らすようにしたのだそうです。バッグから取り出すと、今度は自然とボリュームが下がる。これは「独自ホーム画面」というような枠の話ではありません。もう1つ、ボリューム関係で興味深いのは、端末を裏返しにひっくり返すと呼び出し音が消えるというものです。会議中に音が鳴って慌ててボリュームを下げた経験は誰にもあるものですが、こういう直感的な操作はありがたいことでしょう。これも何かすごい発明や技術進歩というものではありませんが(センシング技術がすごい可能性はありますね)、すべての端末に10年前から標準搭載としているべきだったと思えるほど、ありがたい機能かもしれません。

sound.png かばんから取り出すと音が小さくなったり、端末をひっくり返すと音が消えたりという機能もHTC Senseの一部

 「quietly brilliant」というコピーは社内のエンジニア向けのメッセージでもあって、謙虚で寡黙な思想家であれという意味だそうです。何か目立つ機能を実装して派手に宣伝するようなことではなく、どうあるべきか、どうすればユーザーが喜ぶのかを考えて、それを実現する、というのがHTCの文化となっているといいます。

 Webブラウザで一部分を拡大したときにテキスト部分が画面サイズに合わずに左右にスクロールしないと読めないということが起こります。HTC Senseでは、指を離した瞬間に再度テキストだけ再整形して表示するという機能を追加したそうです。これもまた小さな機能改善ですが、非常に意味のあるものです。

 iPhoneのモバイルSafariでは、この辺りを非常によく研究していて、ズーム後にも読みやすくテキストを表示してくれます。こうした小さな気配りの積み重ねこそが、いまや差別化の本質なのではないでしょうか。少なくともHTCは、そう考えていて、それに本気で取り組んでいるのだというメッセージが「quietly brilliant」というコピーや、ワン氏の説明から読み取れます。そして、カメラの画素数やプロセッサの話、表示デバイスの輝度の話、3DだのARだのの誰が使うか分からない未来の話ばかりをするわけではなく、日々使うソフトウェアやWebサービスの使い勝手の改善に注力する。そのことによって、人々は自分以外の人にもHTCを勧めるようになり、ブランドとして育つということのようです。

 HTC Senseは、実は多数の機能全体を指す総称で、個別の端末に搭載される機能は異なるそうです。「ちょうどBMWにも上位モデルと下位モデルがあるように、HTCの端末もいろいろあり、機能も少しずつ違います。ただ、BMWは、どれに乗っても、やっぱりBMWなんです」(ワン氏)。

 完成度の高い高級品に慣れきった日本の消費者に、HTCがアピールできるのかどうか、またHTC Senseによる「差別化」が奏功するのか、まだまだ未知数ですが、もしソフトバンクから新端末が出れば、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクのすべてで魅力的なAndroid端末の選択肢が出揃うことになり、この秋の市場はちょっとしたAndroidブームになるかもしれませんね。

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(@IT 西村賢)

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