ファイバチャネルの技術をイーサネットに

イーサ「ネット」から「ファブリック」へ、ブロケードの提案

2010/11/18

 「従来のイーサネットが悪者というわけではない。従来型のネットワークにおいては、スパニングツリープロトコル(STP)は役目を果たしていた。だがいま、データセンターでは仮想化が普及し、その役割はどんどん進化している。それに伴ってネットワークも姿を変えなければならない」(米ブロケード プロダクトマネジメント ディレクター ジャック・ロンドニ氏)。

 米ブロケードは現地時間の11月15日、データセンター向けの新型スイッチ「Brocade VDX 6720」を発表した。仮想化が進む、新世代のデータセンターならではのニーズに応える機能を備えた製品で、同社が6月に発表した戦略「Brocade One」を実現する重要な構成要素となる。

 米ブロケードは、11月16日に開催した顧客向けフォーラムにおいて、Brocade VDX 6720の概要と、それによってデータセンターのネットワークがどのように変化するかについて説明した。

 Brocade VDX 6720は、見た目は通常のスイッチ製品と変わらず、既存のネットワークに導入して普通のレイヤ2スイッチとして使うことができる。だがこれは、データセンターのネットワークアーキテクチャを根本的に変える新技術、Virtual Cluster Switching(VCS)を実装する初のスイッチでもある。

brocade01.jpg 米ブロケードの本社データセンター内で検証中の「Brocade VDX 6720」

 スペックは、1Uサイズの「Brocade VDX 6720-24」は1/10ギガビットイーサネットを24ポート搭載し、スイッチング帯域幅は480Gbps。2Uサイズの「Brocade VDX 6720-60」は1/10ギガビットイーサネットを60ポート搭載し、スイッチング帯域幅は1200Gbpsだ。米国での価格は1万700ドルからとなり、12月に出荷開始の予定だ。また、使用するポート数に応じて課金する、10ポート単位でのライセンスが提供される。

 ここまでならば普通のボックス型スイッチだが、Brocade VDX 6720の最大の特徴は、アクセス-アグリゲーション-コアという従来の階層型アーキテクチャではなく、VCSによってメッシュ型のレイヤ2ネットワークを構成できることだ。フラットなネットワークの上に仮想マシンを載せることで、運用管理を簡素化し、冗長性を高め、仮想マシンの柔軟性を最大限に生かすインフラを実現するという。

 ブロケードは今回の製品を皮切りに、VCS対応の製品を拡大していく計画だ。2012年にかけて、より大規模な環境に対応したシャーシ型モデルやストレージネットワークの統合を視野に入れたモデルなど、さまざまな形態の製品を追加していく見込み。

イーサネットファブリックを実現

 米ブロケードのテクノロジー&セールスイネーブルメント担当シニアディレクター、ロン・トッター氏は、Brocade VDX 6720とそのコアテクノロジであるVCSを、「仮想化されたデータセンターのためのイーサネットファブリックを実現するものだ」と表現した。イーサネットファブリックとは、階層型のイーサネットネットワークとは異なる、フラットなネットワークを指す。

 VCSでは、イーサネットファブリックを構築してシンプルなネットワークを実現し、その上で多数の仮想マシンを動作させることができる。現時点では1万台規模、2012年には数十万台規模の仮想マシンに対応する拡張性を備えるという。より高い冗長性を確保してサービスの継続を支援するだけでなく、仮想マシン単位でACLをはじめとするさまざまなサービルプロファイルを結び付け、仮想マシンが自由に移動しながら、サービスの品質やセキュリティレベルを保つための仕組みも提供する。

brocade02.jpg イーサネットファブリックの概念(米ブロケードのWebサイトより)

 トッター氏によると、従来の3階層アーキテクチャに基づくネットワークインフラで、このような仮想化環境に対応しようとしても、拡張性や柔軟性などの面で課題があったという。その代表例が、STP(スパニングツリープロトコル)だ。STPは、障害が発生した際に自動的に経路を切り替え、ネットワーク接続を継続させるための技術だが、基本的にツリー型アーキテクチャを取るため経路の柔軟性に欠け、切り替えに要する時間も長かった。

 これに対してVCSでは、現在標準仕様として策定中のTRILL(Transparent Interconnection of Lots of Links)を活用し、マルチパスで接続するレイヤ2ネットワークを実現する。TRILLはいわば、ファイバチャネル(FC)の世界におけるECMP(Equal Cost Multi Path)をレイヤ2で実現するもので、トラフィックの負荷分散も可能だ。

 イーサネットファブリックの構成に際しては、さらに、Priority-based Flow Control(IEEE 802.1Qbb)やEnhanced Transmission Selection(ETS、IEEE 802.1Qaz)、Data Center Bridging eXchange(DCBX、IEEE 802.1Q.az)といった、現在標準策定中の複数の仕様を活用していく。これは、「これまでのストレージ分野における経験を生かしたもの」(トッター氏)であり、ロスレスで低遅延、輻輳時の優先配送などが可能な「ファブリック」になる。

 また「分散インテリジェンス」も、VCSの柱の1つだ。VCSを構成するネットワーク機器はすべて、ネットワーク設定およびサービスに関する「知識」を分散保持する。マスタースイッチは不要だ。そして、仮想マシンが持つ仮想MACアドレスに対し、ACLやQoS、セキュリティポリシーといった情報をプロファイル化してひも付け、共有しておく。これにより、例えば仮想マシンが別の物理マシンに移動しても、いちいち手動で管理を行うことなくプロファイルを適用していくことができる。これはAMPP(Automatic Migration of Port Profiles)によって実現している。これも、スイッチ側がステート情報を持って管理を行うというSANの仕組みを、イーサネットに適用したものと表現できる。

 こうして構成されたイーサネットファブリックは、物理的には異なるスイッチ、異なるラックに分散していても、1つの論理シャーシとして動作し、外からはシンプルなレイヤ2ネットワークとして見えるという。もちろん、「Brocade Network Advisor」を通じて、単一のコンソール上で管理可能という。

サービスを結び付ける

 ブロケードが今後VCSで提供予定の機能が「Dynamic Serice Insertion」だ。データの種類や性質に応じて、必要なサービスのあるところにネットワーク経路をリダイレクトする仕組みである。例えば「機密情報なので、暗号化アプライアンスのところにリダイレクトして処理する」という流れを、エンドポイントに対して透過的に提供できるようになるという。

 また、VCSで実現されたイーサネットファブリックを拡張して、データセンター間のブリッジにつなげていく構想もある。アクセス増加に応じて仮想マシンを別のデータセンターに移動させたり負荷分散を行う仕組みを、よりシンプルに実現していくアーキテクチャで、ここにはネイティブのFCやFoCEといったストレージネットワークも統合されていくことになる。

 そして、この一連の構想を、ベストオブブリードで実現していくことがブロケードの特徴だと、米ブロケードのデータセンター&エンタープライズネットワーキンググループのバイスプレジデント、ジェイソン・ノレット氏は述べた。

 「サーバにもストレージにもハイパーバイザにも、いろいろな製品がある。我々は垂直統合ではなく、顧客に柔軟な選択肢を提供していく。そして、高度に仮想化され、伸縮性に富み、データがネットワークのどこにあろうとオンデマンドでサービスを提供できるような世界への移行を支援する」(ノレット氏)。各製品の組み合わせを検証する認定プログラムを展開することで、「オープンかつ保証された選択肢を提供する」(同氏)という。

ファイバチャネルのメリットを移植

 Brocade VDX 6720、そしてイーサネットファブリックは、ブロケードがFCの分野で提供してきた信頼性を高めるためのさまざまな技術を、イーサネットの世界に持ち込んだものとも表現できる。

brocade03.jpg 米ブロケード プロダクトマネジメント ディレクター ジャック・ロンドニ氏

 ロンドニ氏は、これまでのイーサネットを使っても信頼性を高めることは可能ではあるが、実現しようとするとあまりに複雑になると指摘した。「いまのデータセンターには、FCならではの信頼性や可用性が必要とされている。そうした技術を取り込んだものがイーサネットファブリックだ」(同氏)。

 これまでの10年間、ストレージの分野で蓄積してきた実績と技術をイーサネットに反映し、「ファブリック」を構成することによって、簡素化し、仮想マシンの増減に柔軟に対応でき、ミッションクリティカルな性質のアプリケーションにも対応できるという。

 最終的には、iSCSIやFCoEを統合した「Converged Network」の実現を目指す。「ストレージのファブリックが浸透するまでにも長い時間がかかった。当初はストレージファブリックという考え方に対する懸念を抱く顧客もあったが、いまではしっかり動作していることが証明されている。イーサネットにも同じことが言えるだろう。ただし、それが実現するまでには時間がかかる。今回の製品は、新しいネットワークを実現するための、1つ目の煉瓦であり、われわれはこの上にさまざまな要素を積み上げていく」(ロンドニ氏)。

(@IT 高橋睦美)

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