文字通り節目の「節分」に式典
IPv4中央在庫の配布終了は「通過点」、本当の枯渇に備えを
2011/02/04
インターネットのアドレスを管理しているIANA(Internet Assigned Numbers Authority)は米国時間の2月3日、最後に5つ残っていたIPv4のアドレスブロックを、RIR(Regional Internet Registry)にそれぞれ1つずつ割り振った。IANAはこれに先立つ2月1日に、自由に割り当て可能なIPv4アドレスブロックの最後の2つをAPNICに払い出していた。これにより、IANAからRIRへのIPv4アドレス配布はすべて終了したことになる。
大本での配布は終了し、残されているのは流通経路に乗っている在庫分のみという状態だ。近い将来、流通経路にある分、つまりRIRやNIR(National Internet Registry)が保有しているIPv4アドレス在庫がなくなるときが本当の枯渇となる。今回の中央在庫の枯渇は「前触れのイベント」(JPNIC インターネット推進部 部長の前村昌紀氏)と表現できる。
最後のIPv4アドレスブロックを「手渡し」
IPv4アドレスブロックは残り5つになった時点で、5つのRIRに1つずつ割り振られることになっており、2月3日には米国・マイアミでその割り当てを記念する式典が行われた。この模様は、インターネットイニシアティブ(IIJ)、インターネットマルチフィード(MF)、日本インターネットエクスチェンジ(JPIX)、日本レジストリサービス(JPRS)の協力を得て、日本語同時通訳付きでUstreamで中継され、ピーク時には1400人近くの視聴者があった。
APNICの代表として登壇したPaul Wilson氏は、2月3日が節分に当たることに触れ、節目として非常にふさわしい日だと述べた。APNICは現在、RIRの中で最も多くのIPv4アドレス在庫を保有しているが、インターネットの成長にともない、いずれはそれも枯渇していくだろうと予測。「IPv4はもちろん、IPv6についても適切なアドレス管理が求められる」と述べた。
またICANNのCEO、Rod Beckstrom氏は「35年前にIPv4でネットワークを立ち上げたとき、ここまで大きくなるとは想像もしていなかっただろう。実験から始まったこのネットワークは、いま我々が『インターネット』と呼ぶものになり、考えもつかないスピードで広がり人々の生活を変えている」と述べ、インターネットの成功において、この日は重要な意味を持つと述べた。
ただし、いまのIPv4ネットワークが利用できなくなるわけではない。質疑応答の中では、IPv4がいつまで使われることになるのかという質問に対して、「数カ月ではなく、数十年かかるだろう」とIABのチェア、Olaf Kolkman氏が回答した。
「IPv4はなくなるわけではなく、継続していく。しかし、将来に向けた、より革新的なイノベーションを生み出すのは新しい世代(=IPv6)だろう」(ISOCのPresident/CEO、Lynn St.Amour氏)。同氏は、GoogleやFacebook、Yahoo!といったコンテンツプロバイダー、さらにAkamaiなどのコンテンツ配信ネットワーク事業者もIPv6へ対応し始めたことを挙げ、「IPv6によってさらなるサービスが生まれ、さらに世界は広がるだろう」と述べた。
ここで気になるのは、IPv6への移行がスムーズに行われるかどうかということだ。この問いに対する回答は、どの立場で携わるかによるという。
例えばISPなどではアドレストランスレーション技術などを適切に導入し、ユーザーに不便を掛けない体制が求められるだろう。コンテンツプロバイダーの場合も同様に、移行プロセスを検討しておかなければ、ユーザーからのアクセスに支障が出る恐れがある。ただし「一般のユーザーは、オペレータ(ネットワーク事業者)が責任を持って対応していれば、それと意識することなくネットワークに接続できる。タブレット端末などを購入した一般ユーザーは、まったく気にせず利用できるはずだ」(Kolkman氏)という。
一方で、IPv4に希少価値が生まれ、ブラックマーケットで取引される可能性があるのではという質問には、「あるかもしれないけれど、ごく少数だろう」(NROのチェア、Raul Eceberria氏)とした。一部のRIRはすでに、ポリシーに基づいて、必要以上に持っている組織から別の組織にIPv4アドレスを「移転」するシステムを整備しており、そちらが活用されるのではないかという見通しだ。
AfriNICの代表は、これからIPv6接続が増えていくことを考えると「IPv6に移行しない方のコストが大きい。IPv6に移行するかしないかではなく、いつやるかが問題だ」と述べた。
「いまから準備を」
前村氏は、今回のIANAでの中央在庫切れを「単なる通過点」だと表現した。
まだAPNIC/JPNICにはIPv4アドレスの在庫があるため、ISPや企業などが申請すれば配布を受けることができる。いまのうちに、在庫が本当になくなったときに備えて準備を進めておいてほしいという。
同氏は、その枯渇時期を少し前倒しして「2011年中盤」と予想した。当初は2011年後半と予測していたが、アジア太平洋地域ではかつてないほどのスピードでインターネットが拡大し、アドレスに対する需要も増えているからだという。
もし、その時がやってきたらどうなるのか。「追加申請をしても、需要どおりにIPアドレスを配ることができなくなる。この結果、グローバルIPアドレスで新たなホストを接続するといったことがやりにくくなる」(前村氏)。例えば、新規にサービスを立ち上げようとしても、思い通りにIPアドレスが配布されなくなるかもしれない、というわけだ。
JPNICではIPv4アドレスの在庫の推移を注視しつつ、最後の/8ブロックになった時点で新たな配布ポリシーに切り替える予定だ。それ以降、新たに割り振るIPv4アドレスは最小単位の/22(1024個)に限定する。それも需要に応じてというわけではなく、NATやトランスレータなどの機器が、IPv4インターネットへの接続を維持しながら枯渇後に備えるために必要な分として、所定の要件を満たした場合にのみ一度だけ割り振られる仕組みだ。
「慌てないよう、ユーザーの皆さんに混乱を招かないよう、準備をしてほしい」(前村氏)。
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