AWSクラウドアドバンテージセミナー レポート
クラウドで、「夏までにDR作れ!」に間に合わせる方法
2011/04/07
アマゾン データ サービス ジャパンは4月6日、「AWSクラウドアドバンテージセミナー」を開催した。特別セッションには、かつて日本に滞在していた経験もある米Amazon Web Servicesのバイスプレジデント、ダン・パワーズ氏が登壇。同氏は講演に先立って、東日本大震災の被災者に対する黙祷を行った。
Amazon Web Services(AWS)は開始から5年を経て、膨大な量のリソースを提供するに至っている。パワーズ氏によると、2000年当時、Amazon自身のリテールビジネスをカバーするのに必要だった分と同じだけのリソースを、いまでは「毎日」追加しているという。S3上の利用量も増加の一途をたどっており、2006年は29億オブジェクトだったものが、2010年第4四半期には2620億オブジェクトに至っている。
この間同社は、Amazon EC2とS3を軸に、次々にサービスを拡張してきた。データベースを提供する「Amazon RDS」に分散処理を実現する「Elastic MapReduce」、コンテンツ配信を行う「Amazon CloudFront」といったサービス群のほか、モニタリング、認証/認可といった運用管理に不可欠な機能、さらに開発のためのライブラリなどを提供している。3月には、顧客専用の仮想ネットワークを構築する「Amazon VPC(Virtual Private Cloud)」を拡張したほか、物理サーバを占有できる「Dedicated Instance」を発表した。一連のサービスによって、「AWSは単なるプラットフォーム以上のものを提供している」(パワーズ氏)という。
パワーズ氏は、過去のITシステム構築では、キャパシティの見積もりが困難だったと述べる。何とか予測を立てたとしても、それを満たすインフラの調達、構築に何カ月もかかるうえ、インフラを動かすためだけに多くのコストがかかってしまう。しかもそうして作り上げたシステムでさえ、ピーク予測がずれれば、せっかくの投資が無駄になったり、殺到する需要に応えられなかったりという結果が待っていた。
こうした「旧世界」に対し、ITの新世界、つまりAWSでは「必要に応じてリソースが拡張、縮退し、使った分だけ支払う、使わない分は支払わない」(パワーズ氏)というコスト効果が得られる。また、スケールアップ/スケールダウンを迅速に行えるため、調達を何カ月も待たなくてよい。「数分の内に数百台、数千台のサーバを立ち上げることができる。これは劇的な変化だ」とパワーズ氏。
こうしたAWSの特徴を生かしたユーザー事例の1つが、米国のある企業だ。この企業では、Facebook対応のアプリケーションをリリースした直後に、利用が急増。EC2のインスタンスを3日間で5000まで追加し対応したという。また、別の米国の金融機関は、リスク解析処理にAWSを採用した。この解析処理を行うのは平日のみ。そこで、平日は3000インスタンス、週末は300インスタンスという具合に、柔軟に拡張、縮退を行っている。こうしたやり方は、これまでのITでは困難だったし、たとえ実現していてもコスト的に見合わなかった。
RDS on Oracleも登場予定
パワーズ氏はまた、アプリケーションなどを提供するパートナーとの協業が不可欠だとも述べた。すでにOracleのほか、SAP、IBM、Microsoftといった数々のベンダとパートナーシップを結んでいる。「SAPもJavaもデータベースも、Oracle ApplicationもPeoplesoftも、あらゆるワークロードがクラウド上で、柔軟な形で利用可能になる」(同氏)。
さらに、間もなくリリース予定の「Amazon RDS on Oracle Database 11g」にも触れた。「もうすぐMySQLに加え、Oracle DBもクラウド上で稼働できるようにサポートする」(パワーズ氏)予定で、従量課金方式に加え、ライセンス持ち込み形式(BYOL:Bring Your Own License)も可能だ。
30年以上IT業界に携わっているというパワーズ氏だが、いま、最もエキサイティングな時だと感じているという。「いままでの技術をすべて組み合わせることによって、真の価値を提供するという、長年の夢を実現できるようになった」(同氏)。
AMIを使って待機系システムを構築
続いて登壇したAmazon Data Services Japan エバンジェリスト/技術推進部長の玉川憲氏は、東日本大震災後、顧客からの問い合わせが急増しているという「ディザスタリカバリ」の実現に、クラウドおよびAWSがどのように役立つかを説明した。
玉川氏いわく、「今年のIT流行語大賞候補と思っているのが、『夏までに作れ!』」。計画停電を前に、ITシステム、ひいてはビジネスを止めないためにどうすればいいか、という課題が急浮上している。首都圏に置いているシステムやデータセンターのディザスタリカバリをどう実現し、生かし続ける環境を作るかが喫緊の課題という。
しかし、サーバや電源、データセンターの調達……もろもろの要素を考えていくと、夏までという短い期間にディザスタリカバリを実現するのは困難だ。そして「まさにいま、この状況で、クラウドが果たせることは大きい」(玉川氏)という。
同社が描くディザスタリカバリ支援案はこんな感じだ。まず、データの保存/バックアップについては、ストレージサービスのAmazon S3を使って保存する。待機系システムの構築やシステム復旧にはAmazon EC2を当てる。ポイントは、ここでAmazon Machine Image(AMI)を組み合わせることだ。AMIからサーバを立ち上げ、そのまま通常のシステムとして使ってもいいが、実は、待機系システムに最適だという。
「例えばEC2でWindowsサーバを立てて、アプリケーションやデータを持ってきたあと、そのまま動かしてもいい。さらに、それをAMIとしてS3に保存しておけば課金はされず、必要なときに瞬時に起動し、切り替えて利用できる。待機系にはうってつけだ」(玉川氏)。
待機系とはいえ、クラウド利用時の懸念として挙げられるのが可用性やセキュリティだ。玉川氏は、S3はデータの保存場所を世界の5カ所から選ぶことができる上、実は裏側で3カ所にコピーを取っているため、耐久性は高いと説明した。セキュリティに関しては、SAS70をはじめとする第三者機関の認定を得ている。それらに加え、APIを使って作業を自動化できること、ディスクを物理的に送付するサービスがあるため、大容量のデータもインポート/エクスポート可能というメリットがあると述べた。
実際に使ってみて気に入れば、待機系に限らず、本番系システムもクラウドに持ってくることも可能だ(もちろん、すべてをクラウドに移行するという意味ではない)。その先には、「そもそもクラウドを使うならば、待機系を用意するというよりも、クラウドを使って冗長構成を取ればいればいいのではないか」という、パラダイムの変化が待っている。
クラウド側での冗長性確保で重要な役割を担うのが、「アベイラビリティゾーン(AZ)」だ。AZとは、独立した物理拠点や電源系統、空調を持つデータセンター区画のことだ。それぞれ個別に運営され、いずれかに問題が起きても他方には影響が生じない。同社は3月末に、東京リージョンで2つ目のAZを開設し、より高い耐障害性を実現できるようになったことを発表している。
複数のAZを利用するオプション、Multi-AZを利用すれば、これまで手間の掛かっていたデータベースの冗長構成も、容易に実現できると玉川氏は述べた。異なるAZにRDSでデータベースを稼働させ、Multi-AZを用いてレプリケーション/フェイルオーバを行う。さらに、ロードバランサやオートスケーリングを組み合わせれば、無駄にシステム投資を増やすことなく、適切な形の冗長構成を実現できるという。
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