「傾向と対策ミーティング」で想定されるトラブルを共有
「World IPv6 Day」に向けて準備すべきこととは
2011/04/28
6月8日、世界中のコンテンツプロバイダなどがIPv6対応し、問題点がないかどうかを洗い出す「World IPv6 Day」が行われる。これに向けて、IPv6対応の動向や発生しうる問題などの情報共有を目的とした「World IPv6 Dayの傾向と対策ミーティング」が4月13日に開催された。
IPv6普及・推進高度化協議会、インターネット協会 IPv6デプロイメント委員会、WIDEプロジェクトおよび「再活性化中」というISOC日本支部が主催した今回の会合は、立ち見が出るほどの盛況となった。
World IPv6 Dayは、協定世界時で6月8日0時から(日本時間では朝の9時から)行われる。参加するサイトはこの日丸1日、自社WebサーバをIPv4とIPv6の両方に対応させてサービスを提供する。
当日はWebサイトのDNSサーバにAAAAレコードも付けて運用し、接続性に影響はないか、遅くなったりしないか、ブロードバンドルータや端末OS、ブラウザをはじめとするアプリケーションの実装は支障なく動作するか、問題があった場合のサポート体制をどうするか……といったもろもろの事柄を検証する。これに合わせてISOCでは、参加各サイトのステータスを表示するダッシュボードを提供し、IPv6での接続状況を把握できるようにする計画だ。
「IPv6対応によって何かが起こったときに対処することも大事だけれど、『何も起こらなかったね、安心だね』ということを確認することも大事。何がうまくいって何がうまくいかなかったかを把握し、ぜひ共有していきたい」(インターネットイニシアティブ 松崎吉伸氏)。
World IPv6 DayはInternet Society(ISOC)が支援し、米Google、米Facebook、米Yahoo、米Akamai Technologies、米Limelight Networksといった企業/団体が呼び掛けて実施されることになった。参加企業/団体はじわじわと増えており、その一覧はISOCのWebページ(http://isoc.org/wp/worldipv6day/)にまとめられている。日本語版も用意された(http://www.attn.jp/worldipv6day/)。
なお日本では、東日本大震災の発生により、復旧・復興作業に追われている企業も多い。そこでISOCに延期の可能性について尋ねたところ、「お見舞いとお詫びは来たけれど、世界中でもう動き始めているので止めるのは難しいという返答が返ってきた」(インテック 先端技術研究所 廣海緑里氏)ということで、予定通り決行されるという。
現実問題として、4月15日にはAPNICおよびJPNICが保有していたIPv4アドレスの在庫が枯渇している。ISPはまだいくばくかのIPv4アドレス在庫を保有してはいるが、早晩、割り振りたくても割り振れない状況がやってくる。「早めにIPv6をデプロイしなければいけないのも事実」(廣海氏)だ。
立ちふさがる難問「IPv6-IPv4フォールバック」
では、実際にWebサイトがIPv6に対応するとどんな問題が起こり得るのか。松崎氏によると、コンテンツ提供サイトがIPv6に対応すると、アクセスできなくなるユーザーが発生してしまうという。その割合は、全ユーザーの0.05%程度。数字だけなら少なく見えるが、インターネット利用者の総数を考えると、アクセスできないユーザーが数万人単位で発生することになる。その大きな要因が、「IPv6-IPv4フォールバック」だ。
日本の場合は、特に影響が大きくなる恐れがある。
NTT東日本/西日本のフレッツ網を介してインターネットに接続するユーザーに割り当てられるIPv6アドレスはNTT東西の「閉域網」での利用を前提としており、インターネットと通信する際にはそのままでは通信できない(いわゆる「マルチプレフィックス問題」。これを救済するため、NGNを利用した新サービスが4月以降開始される予定だったが、提供が遅れている)。つまり、IPv4へのフォールバックが発生する環境が多く、アクセス遅延や失敗が起こる可能性が高くなる。
グーグルのエリック・クライン氏は、同社サイトをデュアルスタック化した前後の計測結果を紹介した。デュアルスタック化後は、「アクセスできない」「画像データをゲットできない」といったアクセスに失敗する割合が確かに上がっているという。
多くのブラウザの実装では、IPv4/v6デュアルスタックの環境ではまずIPv6での接続を試み、その接続に失敗するとIPv4で接続し直す「フォールバック」という動作を行うが、クライン氏によると、場合によってはこのフォールバックに許容しがたいほどの時間が掛かってしまという。サーバがTCP RSTを返してからフォールバックするのに1000ミリ秒もかかるケースも観測されたといい、「かなり痛い」(クライン氏)。1つのWebページには複数のリンクやパーツが含まれているので、この場合、キャッシュはあまり手助けにはならず、「AAAAレコードは複数書かず、1つだけにする」くらいが緩和策だという。
日本の企業として、World IPv6 Dayへの参加表明第1号となったNECビッグローブは、2009年10月に、メールや個人ホームページ、訪問分析サーバなどのサービスをデュアルスタック化したが、問題が発生して切り戻したという体験を持つ。アプリケーションによってはフォールバックがうまくいかないという事象が発生したほか、セキュリティソフト/通信ソフトの未対応、HTTP以外でのフォールバックに時間がかかるといった問題が浮上した。
ただし、主な通信ソフトはいまではIPv6対応していることが確認できている。「これには端末側ソフトのバージョンアップが必須。カスタマサポートで情報を整備していくことも必要だろう」(NECビッグローブ 基盤システム本部 サービス開発グループマネージャーの佐藤彰洋氏)。メールなどHTTP以外の通信でフォールバックに時間が掛かったという問題も、Bフレッツ網が全ポートで対応することで解決されたという。
それでもまだ、フォールバックに起因する問題は残っている。ブラウザの種類、バージョンによっては、「画像とHTMLを別々のサーバに保存している」など特定の条件下で、ときどき、フォールバックの後HTTP Getリクエストが発行されず、画像が表示できないという問題が発生した。悩ましいのは「JavaScriptを使った場合など、ページの作りによっては問題が生じないこともある」(佐藤氏)こと。Webページの作成者は、IPv6対応時には注意を払う必要がありそうだ。
しかも今後は、PC上のブラウザだけでなく、スマートフォンからのアクセス増加が予想できる。NECビッグローブでは、AndroidやiPad、iPhoneについても対応状況を調査したが、きっちり対応している端末がある一方で、アプリケーションや端末によってはIPv6未対応だったり、フォールバックがうまく行えないなどの結果が確認された。
これを踏まえ、「IPv6に対応する際には、アプリケーションの不具合を考慮し、何をどのようにIPv6化するか慎重に選ぶ必要がある」(佐藤氏)。また、ISPという立場からは、ユーザーサポート窓口の体制を整え、ユーザーからの問い合わせに適切に対応できる準備を整えておくことも必要になるだろうとした。
いますぐ可能な現実的な対応の用意も
根本的には、AAAAでスムーズにアクセスできフォールバックが発生しない環境、つまりIPv6によるエンドツーエンドの接続性をISPがきちんと提供すればいいが、残念ながら、それにはまだ時間がかかる。いますぐ提供可能な現実的な解決策も必要だ。
あまりスマートな方法ではないが、名前解決の問い合わせに対してDNSサーバがAAAAアドレスを応答しないようにする「AAAA Filter」も1つの手だという。IPv6対応には逆行するが、IPv4でのアクセスができなくなる問題は緩和できる。
また、フォールバックに関連する問題は、新しいバージョンのOSやアプリケーションではおおむね解決できている。そこで、ユーザーにバージョンアップやポリシーテーブルの書き換えなどを促すというアプローチもあり得る。ただこの場合、ユーザーに手間とコスト負担を強いることになり、すべてのユーザーが対応することは難しいかもしれない。
「あと2カ月しかない、あまり時間はない。無策で突っ込むことはせず、影響しそうなユーザーを見積もってうまい方向に持っていきたい」と松崎氏。「ユーザーがアクセスできなくて困る」「IPv6対応が遅れる」といった事態を避けるためにも、準備できることは事前に済ませ、皆で当日の対応体制を整え、取り組んでいきたいと呼び掛けた。
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