Citrix Receiverを変革の武器に
コンシューマライゼーションが企業ITを変える、シトリックス
2011/05/30
「コンシューマライゼーションは、今後10年の間に、ほかの何よりも、ITにおいて最も多くの変化を強いるトレンドになるだろう。これに対抗するのか、受け入れるのか。抵抗せずに、(企業ITに)組み込むべきだ」――。米シトリックス・システムズの社長兼CEOであるマーク・テンプルトン(Mark Templeton)氏は、5月第4週に米国カリフォルニア州サンフランシスコで同社が開催したイベント「Citrix Synergy 2011」でこう語った。
「コンシューマライゼーション」とは、コンシューマIT市場で広まった技術や製品が、エンタープライズIT市場に大きな影響を与えるようになることを示す言葉だ。同氏はとりわけ、iPhoneやiPad、Android端末、Chrome OSなどの端末を特に若い世代が使いこなし、自分の端末をプライベート、仕事を問わずに活用するようになってきていることを指摘した。シトリックスはこの1〜2年、「BYO-C」(従業員が個人所有のPCを職場に持ち込むこと)から「BYO-3」(PCだけでなく、携帯電話端末やタブレット端末も、個人所有のものを職場に持ち込んで使うこと)がトレンドになると強調してきた。テンプルトン氏は今回のSynergyで、「パーソナル・クラウド」というコンセプトを持ち出し、この考え方を広げてみせた。
この言葉でシトリックスが言いたいのは、業務環境そのものが「仮想化」しつつあるということだ。これまでの業務環境は、社内でPCを使うということにある意味で固定化されてきた。しかし、働く側が求めているのは、いつでもどこでも、PCだけでなく自分の好きな端末を使い、データやアプリケーションがどこにあるかを意識することなく、フルに活用して仕事ができること。企業としては業務スタッフに生産性を最大限に発揮してもらうために、端末や時間、場所に限定されない業務環境を提供すべきだというのが、「パーソナル・クラウド」という言葉を通じたシトリックスのメッセージだ。
そのために。企業ITはパラダイムシフトを迫られるとテンプルトン氏は話した。「構築」から「利用」へ、「ロックイン」から「選択肢の提供」へ、「硬直的」から「伸縮性の確保」へ、「固定的コスト」から「変動コスト」へ、「複雑」から「シンプル」へ、といった発想の転換が求められるという。企業ITの機能とされてきた構築・運用は集約(アグリゲーション)・指揮(オーケストレーション)に移行していく。新たな尺度は「TCO(Total Cost of Ownership)」ではなく、「TVO(Total Value of Ownership)」になるだろうとテンプルトン氏は語った。
どこでもリッチな業務環境を実現
こうした新たな時代のためのツールとして、テンプルトン氏は自社の新製品・新サービスを紹介した。
ビデオ会議サービス「GoToMeeting」では、HD(1920p×960p)画像での多地点ビデオ通話が可能な「GoToMeeting with HDFaces」(オープンベータ開始、正式サービス提供は7月)を発表。高価なビデオ会議システムなしに、通常のGoToMeeting利用料だけで、ドラマ「24」のような世界が実現できるとテンプルトン氏は説明した。
クライアントPC自体を仮想化する「XenClient」では、対応ハードウェアを3倍に増やした新バージョン「XenClient 2」のテクノロジー・プレビュー版を提供開始した。これまではvPro対応の一部機種にのみ対応していたが、非vProのインテルCPU端末にも対応、さらにIntel HD Graphicsや、AMDのFirePro、RadeonといったGPU搭載機も新たにサポートしたことで、グラフィック性能が問われる場面でもクライアント仮想化が活用できるようにした。
クライアント側ソフトはあらゆる端末に対応
シトリックスの「武器」としてますます重要になってきているのが、シトリックスのデスクトップ/アプリケーション仮想化を使うためのクライアント端末側のソフトウェアである「Citrix Receiver」だ。すでに、PCだけでなく、iPhone、iPad、Android端末、Windows Mobile端末、BlackBerryなど、多様な端末に対応していることが大きな特色となっている。BYO-3を実現するには、基本的にあらゆる端末に対応しなければならないというのがシトリックスの考えだ。
テンプルトン氏はさらに、現在開発中の「Citrix Receiver for the Web」を紹介した。HTML 5を大幅に採用し、Citrix Receiverをソフトウェアとして端末にインストールしなくとも、あらゆるWebブラウザから使えるようにする試みだ。
Citrix Receiverには、エンドユーザーごとに、そのユーザーの利用を許可されたアプリケーションが、AppStoreのように一覧表示され、このリストからエンドユーザー自身が使いたいアプリケーションを選択するだけで、利用を開始できる機能が組み込まれている。これは、ユーザーへのアプリケーション提供を管理するツール「Citrix Dazzle」のクライアント側インターフェイスだ。
このクライアント側インターフェイスでは、エンドユーザーがセルフサービス的に、ドロップダウンリストから使いたいアプリケーションを、自分のワークスペースにドラッグ&ドロップするだけで、使い始めることができる。テンプルトン氏は、このインターフェイスの拡張機能、「Follow-Me Apps」を紹介した。1人のユーザーが複数の端末を使いこなす場合、Follow-Me Appsではいずれかの端末で利用を登録したアプリケーションが、他の端末でもReceiverのワークスペースに自動登録されて使えるようになる。端末に左右されない利用環境実現への取り組みの1つだ。
テンプルトン氏はさらに、開発中の「Follow-Me Data」機能も紹介した。これはアプリケーション登録だけでなく、データについても端末間で同期を行うことにより、どの端末でも同一の業務環境を実現できるようにするというものだ。データの暗号化や遠隔消去機能により、ユーザーにとっての利便性を確保しながらも、企業のIT部門が一定の制御を維持することができるという。
クラウドアプリと社内アプリを一元管理
シトリックスは、社外のSaaS/Webアプリケーションを、社内のWindows/Webアプリケーションと同じように提供・管理できるようにするための製品、「NetScaler Cloud Gateway」をまもなく提供開始すると発表した。これを使うと、エンドユーザーは社外のSaaSにも、社内アプリケーションと同じID、パスワードでシングルサインオンができるようになる.
管理者は、Cloud Gatewayでは社内/社外のアプリケーションのライセンス管理が可能。コーポレート・ライセンスのなかから各エンドユーザーに対してライセンスを払い出す作業とともに、残りライセンス数を確認する作業も自動化できる。また、各アプリケーションのパフォーマンス管理も可能だ。
米ヴイエムウェアも、Synergy直前に「Horizon App Manager」というサービスを発表したが、こちらはSaaSと社内アプリを統合的に管理できるものではなく、ライセンス管理機能も限定的であることから、NetScaler Cloud Gatewayとは大きく異なるといえる。
テンプルトン氏は、エンタープライズ・システムをシンプル化し、セルフサービスでコンシューマーとしての体験を向上し、クラウドサービスの活用で柔軟性を向上し、業務環境の仮想化で業務の生産性を向上できると訴えた。こうした新たなITのあり方への動きをリードすることが、シトリックスの役割だという。
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