被災地のニーズに寄り添いながらの取り組み
ITの力で復興支援、Hack for Japanが第3回イベント開催へ
2011/07/22
「ITがすべてを解決するわけではないが、何かできることはあるはず」――。
東日本大震災の復旧、復興に向けて、自らの持つITスキルを役立てようという動きが広まっている。ハード、ソフトやクラウドサービスの無償提供といった形の支援もあれば、アプリ開発の形で支援に取り組む「Hack for Japan」もその1つだ。
Hack for Japanでは、アプリケーション開発者やWebデザイナーなどのIT技術者有志が集まり、互いにアイデアを出し合いながら、復興を支援するアプリケーションやサービスを開発している。どんなアプリが必要か、アイデアを出してディスカッションする「アイデアソン」と、そのアイデアを実装すべく手を動かす「ハッカソン」の2ステップで、被災地のニーズに応じたアプリを作り出してきた。
多種多様なアプリが生まれたアイデアソン/ハッカソン
第1回が開催されたのは、震災直後の3月19日から21日にかけて。京都、岡山、徳島、福岡の4カ所に加え、インターネットを介して多数の技術者が参加した。5月21日、22日には東京のほか、高松・福岡・ロンドン、そして仙台と会津若松という被災地を結んで第2回アイデアソン/ハッカソンが行われた。
この取り組みを通じて、多くのつながりとアプリが生まれている。安否情報や放射線量、避難所情報など重要な情報を集約し、マッピングする実用的なものから、思わず眉間のしわがゆるんでしまうようなユーモアに満ちたものまで、80近くの開発プロジェクトが進行中だ(Hack for Japanのプロジェクト一覧:http://www.hack4.jp/RelatedInfo/ProjectList)。
第2回アイデアソン/ハッカソンでは例えば、仙台会場からは「美人時計」ならぬ「復興時計」といアイデアが生まれた。さまざまなソーシャルネットワークに投稿された写真情報を集約し、どんどん復興していく姿を見せるとともに、震災の風化防止を狙ったアプリだ。
福岡では、義援金や献血の状況を可視化し、楽しみながら寄付などを行える「どねったー」の開発が進んだ。APIを拡張し、募金だけでなく、被災地の物産を購入した、といった事柄も可視化できるようにしたり、寄付した分だけ木が育つ、といったゲームアプリ化を図ったりしたという。
会津若松では、ガイガーカウンターで測定した放射線量をBluetoothでAndroid端末に転送し、GPS情報とともにアップロードするというプロジェクトに取り組んだ。こうした情報を集約し、Google AppEngineを活用して時間や種別、放射線量といった情報をGoogle Map上にマッピングするという仕掛けだ。
一方、ユーモア派アプリの筆頭は「だじゃれクラウド」だろう。「アプリは人を幸せにする」というキャッチコピーを掲げるニッポン放送のラジオ番組、「オールナイトニッポンGOLD app10.jp」との共同企画で生まれたアイデアだ。Twitterでハッシュタグを付けてつぶやかれただじゃれを集約して次々に表示するというもので、「これは思わず吹き出した」というだじゃれを「イイネ」ボタンで評価するというアイデアもある。くだらないかもしれないが、「被災地に、少しの時間でも笑顔を」という思いから生まれたアプリだ。
現地のニーズにどう寄り添うか
さまざまなアイデアが生まれているHack for Japanだが、「われわれがやっていることは、本当に被災地の役に立っているのだろうか」と自問自答しながらの取り組みでもある。デジタルデバイドもあって、ここで生まれたアプリがどこまで活用されるのか、未知数な部分もある。本当に被災地の役に立つには何が必要なのかを常に問いかけながら、プロジェクトは進んでいる。
第2回アイデアソン/ハッカソンのプレゼンテーションでは、「『ITありき』ではうまくいかない。現地のほしいもの、必要なことをしっかり聞いて、それがITでできることならば提供していくという姿勢が必要だ」(助け合いジャパン 藤代裕之氏)という意見が出た。
Hack for Japanの西脇資哲氏(マイクロソフト)は、仙台会場からプレゼンテーションを行い、「押しつけがましいITになってはならない」と述べた。
例えば避難所にはボランティアの手で、PCやインターネット接続環境が提供されるようになった。これを活用すれば、人を探したり連絡を取ったり、地図を見たり、いろいろなことが可能になるはずだ。けれど、「それが何なのか分からないし、使っている人も少ない」(西脇氏)。せっかく配布したPCがうまく活用できるようなシステムやアプリケーションが求められるという。
一方で、避難所やボランティアセンターにおける情報共有手段は、とても原始的だった。避難者名簿やボランティアの名簿、支援物資の配給状況などを把握しようにも、プリントアウトや名刺、手書きのメモなどがまちまちに貼ってあり、どれが大事な情報でどれが最新の情報か、被災者向けなのかボランティア向けなのかが分からないような状態だったという。こうした情報を集約し、マッチングしていく部分こそITの得意な分野であり、「システム化できたらもっといいはず」という。
あちこちに分散している情報を集約し、使いやすく加工して広く提供するというのはITの得意技だ。APIを介してほかのサービスと連携させる、再利用するのもお手のものである。ボランティア情報や支援物資のマッチング、あるいは位置情報と連携した検索など、データベースを軸に、さまざまなアプリが活躍できる余地がある。前述の「助け合いジャパン」でもAPIを公開しており、ぜひいろいろなアプリを開発してほしいという。
ただ、そこでネックになるのが情報の形式だ。政府や自治体、企業が提供する情報は、テキストやXML形式のものも増えてはいるが、PDFや画像形式もいまだに多い。そのままでは、せっかくの情報の再利用が困難だ。Hack for Japanのプロジェクトの中には、こうした情報をCSVなどの加工しやすい形で公開するよう推進していく、という取り組みもある。
「1年間は続ける」
Hack for Japanの山崎富美氏は、LinuxConの前日に行われた「The Power of Collaboration in Crisis」において、「第1回では、『こういうものが必要じゃないかな』と想像しながらやっていたが、現地に行ってみると違う部分もあった」と述べ、現地の状況が刻々と変わっていることにも注意が必要だと語った。被災地では必死の復旧、復興作業が進んでいる。あるサービスを提供しますといっても、次の日にはシチュエーションが異なってくることもある。
「行って、見て、感じるということが大切。現地の情報に基づいてやっていく。『People first』で、使ってくれる人のニーズに合わせたサービスを作っていきたい」(山崎氏)。
「現地で困っていること」と「ITにできること」をどうやって結び付けていくか、知恵を絞りながらの取り組みは続く。7月23日には第3回アイデアソンが、30日にはハッカソンが、仙台、会津若松、東京と遠野(遠野のハッカソンは24日)で開催される予定だ。
「しりすぼみにならないために、『絶対に1年間は続けるぞ』という思いをもってやっている。持続していくためには、楽しくないとだめだと思う」(山崎氏)。
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