石狩データセンターで提供
さくらのクラウド、Amazon EC2の半額以下で11月開始へ
2011/09/06
さくらインターネットが、11月15日に竣工する北海道・石狩の新データセンターで、竣工と同時に本格的なクラウドサービス「さくらのクラウド」の提供を開始することを明らかにした。9月5日に東京・新宿で開かれたユーザー向けイベント「さくらの夕べ」で、田中邦裕社長自らが語った。
「昨年11月のクラウドコンピューティングEXPOで、さももうすぐ出るかのように言ってしまいましたけれども、ようやく明日ベータサービスのリリース予定です」
昨年の時点で、後発となるクラウドサービスのコンセプトを「何の変哲もないIaaS型クラウドを圧倒的なコストパフォーマンスで提供する」と語っていた田中社長だが、改めて「開発者志向のシンプルクラウド」という設計目標を強調。公式発表前ながら、「同一スペックであれば、Amazon EC2の1/3から1/2の料金にできると思う」と話し、国内の競合サービスや、機能や利用実績で先行するAmazon EC2に十分に対抗できるサービスであることを印象付けた。
当初は北海道・石狩に新設したデータセンターでサービスを提供する。東京や大阪のデータセンターへもクラウドサービスを広げることを検討している。「拡張性が高いので、テンプレートを用意しておけば100台でも1000台でも一瞬でサーバを作れる」(田中社長)という。
KVMをベースに独自で開発
すでに提供済みの「さくらのVPS」同様に、ハイパーバイザーにはLinuxカーネルに含まれる仮想化モジュールの「KVM」を利用。クラウドサービスの多くは商用のハイパーバイザーを使っているが、さくらインターネットではKVM上に独自実装の機能を積み上げることで低価格を実現した。サービス開発を担当した、さくらインターネット研究所の鷲北賢氏は、「さくらのVPSの時代から、KVMで実績を積んでいる。われわれとしては十分に安定していると考えている」と話す。
基盤となるソフトウェア構成は、提供済みのVPSサービスと似ているが、機能やコントロールパネルは異なる。
まず、最大の違いは、REST APIによる運用・管理ができることだろう。コントロールパネルで提供しているサーバ、ストレージ、ネットワークの管理機能は、全てAPIで利用可能といい、現在、PHP、Perl、Ruby、Pythonなどのライブラリも準備中という。
次に大きな違いは、ディスクイメージのスナップショット機能だ。任意の時点でサーバのディスクイメージのスナップショットを取ることがでる。作成済みのスナップショットは、サーバのロールバックのほか、テンプレート作成にも使える。例えば、Webサーバをインストールした状態のOSインスタンスを用意し、このスナップショットからテンプレートを作成しておけば、同一設定のWebサーバを複数起動することができる。田中社長は「LAMP環境がすぐに立ち上がるようなテンプレートも用意したい」と話している。
サーバ作成は3つの方法でできる。上記のように、さくらインターネットが用意したテンプレートやユーザーが作成したテンプレートからサーバを作成して起動する方法。2つ目は、OSを含むISOイメージから起動する方法。そして3つ目は、既存ディスクを接続して起動する方法だ。
さくらのクラウドのストレージの実装はNFSを使っていて、それをQEMUを通して「/dev/sda」など、ローカルのブロックデバイスに見せている。このため、ストレージは外部ハードディスクのような存在として扱える。削除済みサーバのディスクを、別に生成したサーバで利用するといったことができる。さくらのクラウドでは、動的スケールアップの機能が実装されていないが、既存サーバのディスクを切り離し、リソースの大きな別のサーバで使うといったこと自体はAPIを使っったスクリプティングで対応可能かもしれない。
仮想スイッチなどネットワーク設定機能を充実
さくらのクラウドで特筆すべき機能は、仮想スイッチ、仮想ブリッジが使えることだろう。
デモンストレーションで田中社長は、グローバルIPアドレスを持つ1台のサーバにリバースプロキシとしてNginxをインストール。これを仮想スイッチ経由で「10.0.0.11〜13」のローカルIPアドレスを割り振ったApacheサーバ群に接続することが可能であることを示した。「実際の物理サーバでも、20台のサーバがあったとき、10台ずつにスイッチで分けて設定するということは良くあります。そういうことをオンライン上で実現したい」(田中社長)という。例えば、MySQLのレプリケーションをゾーンを分けて行うということができるという。各サーバインスタンスは、生成時にインターネット接続とするか、仮想スイッチに接続するかを選べる。
仮想スイッチや仮想ブリッジの機能は、オープンソースのソフトウェアルータ「Vyatta」などを使わず、VLANのタグを書き換えるソフトウェアとして独自に実装した。
もう1つ、さくらのクラウドで興味深いアプローチは、課金に関するものだ。従量制課金の「使った分だけ払う」という料金体系では「ホテルのように、どれだけテレビを見たら何円、何を使ったら何円というように、後から課金される」(田中社長)が、これでは事前にいくら課金されるのかが分かりづらい。そうではなく、さくらのクラウドでは「使う分だけ払うという明朗会計」(同)としたという。「利用開始時に料金が分かるので、使った分ではなく、“使いたい分”だけ払えます。後からブレがありません。日割り計算もします」(同)
ライブマイグレーションなどは今後の課題
北海道に大きなデータセンターを構築したことと、Linuxの一部分でオープンソースのKVM上に独自のシステムを実装したこととで低価格を実現したが、課題もある。
1つはライブマイグレーションだ。仮想サーバをシャットダウンさせずに、異なる物理サーバ間で移動する機能で、これが実現できればサーバの動的スケールアップへの道も開ける。また、ライブマイグレーション機能がないと、物理サーバのメンテナンス時に、その物理サーバ上で稼働中の仮想サーバをいったんシャットダウンしなければならないという問題がある。「ライブマイグレーションはハードルが高く、まだ実現できていないが、まずは、社内のメンテ用に実装できればと考えている。われわれのメンテの時にお客様のVMをライブマイグレーションしてサービスが落ちないようにするというのが第一の目標」(鷲北氏)という。
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