各都市・キャリアごとに、iPhone端末も実回線と実機で計測

Googleも使う監視サービス、Keynote Systemsが日本再上陸

2011/09/22

 モバイル向けを含む、Webサイトやアプリケーションの監視、パフォーマンス計測をグローバルに提供しているKeynote Systemsが日本に再上陸する。1995年創業の同社は、欧米を中心に2800の企業ユーザーを抱えているものの、日本国内の顧客数は100以下に留まっている。

 2001年に日商エレクトロニクスが代理店となる形で日本市場に進出したが、その後は撤退。再び日本市場に目を向ける理由と勝算はどこにあるのか。ワールドワイドセールス&サービス担当の上級副社長 ジェフ・クラッツ(Jeff Kraatz)氏に話を聞いた。

――Keynote Systemsが提供するサービスの概要を教えてください。JMeterやApache benchなどのツールと計測できるものが違うのでしょうか。

photo01.jpg Keynote Systems ワールドワイドセールス&サービス担当 上級副社長 ジェフ・クラッツ(Jeff Kraatz)氏

クラッツ氏 われわれはSaaSでサービスを提供しています。世界257カ所、アジア18カ所にステーションと呼ぶ観測用の拠点を持っていて、Webサイトやアプリの監視や、パフォーマンス計測をWebブラウザから行えます。

 多くのパフォーマンス計測ツールは、ファイアウォールの中からアプリケーションをテストするよう設計されています。開発チームは、インターネットを経由した実際のエンドユーザーが体験しているパフォーマンスを正確に把握できなくなりがちです。

 Keynote Systemsが提供するサービスを使えば、実際のネットワーク、キャリアの回線を経て、各都市、各キャリア、各ブラウザでどの程度のパフォーマンスが出ているのかが、ダッシュボードの1画面で分かります。

measure.jpg 世界の拠点から、Webサイトへのアクセスをしてパフォーマンスを計測できるという
customers.jpg 2800の企業ユーザーを抱えていて、中にはWebサービスを専業とする企業もある

――実際にどう計測するのですか?

クラッツ氏 Webサイトの計測の場合は、実際のブラウザ(IE9、Firefox5)で、5、15、30、60分の計測間隔で、計測対象のWebサイトにアクセスします。計測用マシンは、各国各都市のTier1クラスのISPのデータセンターに設置しています。

 IE9の場合は、GPUアクセラレーションの機能が実装されていますが、その効果も計測結果に反映させるために、計測用マシンにはGPUが搭載されています。IEとFirefoxでどれだけパフォーマンスが違うのかを確認する作業は、欧米のIT管理者、Webマスターの間では常識となっています。昨今では、Webブラウザ側での有効期限を設定したローカルキャッシュを活用している企業も増えているので、キャッシュがない場合(初回訪問)とキャッシュがある場合(再訪問)の場合でのパフォーマンスの違いをご覧になりたい方も多いでしょう。弊社の計測は、キャッシュがある場合とない場合の計測を見比べることも可能です。

 弊社の計測は実際のブラウザを使って行われるので、Ajax、Flashなど、ページに含まれる全てのコンテンツを表示するのに必要な時間を正確に計測できます。また、トランザクションテストと呼ばれる、それぞれのWebサイトにおける典型的動線に従ってページ遷移する計測も可能となっています。例えば、Eコマースであれば、ログイン、商品検索、商品の詳細表示、購入手続きというような一連の流れを計測することができ、どのステップで時間がかかっているのかを、ユーザーの実体験スピードとして把握できるのです。ユーザーの具体的な行動はKITE(Keynote Internet Testing Environment)というツールで表示されるWebブラウザ上で操作すれば、自動的に操作内容がトレースされて、計測スクリプトとして作成されます。

 より自動化したい場合には、スクリプティングも可能です。例えば、航空券予約などで、出発日や目的地をランダムに選ばせたいという場合、KITEで生成されるスクリプトはJavaScriptであるため、関数をJavaScriptで記述することで可能になります。

iphone.jpg iPhoneアプリの操作などはスクリプトによってカスタマイズもできる

東京にもiPhoneを物理的に設置

クラッツ氏 われわれはモバイル向けへの投資を増やしていて、各都市のステーションに、物理的なデバイスを置いてもいます。例えば、東京であれば、NTTとソフトバンクの2種類のキャリアに対応し、iPhoneやAndroidの物理デバイスをシャーシに入れたものを用意しています。KDDI (au) についても、半年以内に対応予定です。

 日本のフィーチャーフォンも一部対応していますが、物理デバイスで対応できないものについては、プロセッサやブラウザの種別をプロファイルとして登録してエミュレーションモードで対応しています。現在、モバイル端末は全部で16種類に対応しています。iPhoneアプリであれば、デバイス上に表示されるエラー画面を実際に見ることもできます。このように、携帯端末やスマートフォンの実機で計測できるのは、全世界でもKeynoteだけが提供しているサービスです。

 シミュレータも、キャリアと契約しているSIMを使って計測しており、i-modeなどの公式サイトを計測できるようになっています。実機での計測(MDP: Mobile Device Perspective)では、CPUやメモリなど携帯端末のスペックに依存するパフォーマンスの計測を行い、シミュレータ(MWP: Mobile Web Perspective)では、パフォーマンスの詳細を分析するための計測を行います。MWPでは、インターネット経由での測定と、3G回線での測定ができるようになっており、双方での計測結果を見比べることで、自社のサーバの問題か、それともキャリア回線の問題かを切り分けることが可能になっています。

 日本では、まだ一般的ではないようですが、欧米ではキャリアごとの回線スピードの違いを理解しており、キャリアごとにWebサーバ側でコンテンツを出し分けるように実装している企業が多いのです。日本でも、NTTドコモ、au、ソフトバンクで回線のスピードに開きがあることを弊社では把握しています。ユーザーは自分の使っているキャリアの回線が遅いかどうかは知りません。IT管理者やWebマスターの多くは、どのキャリアが遅いというのはご存じのようですが、ユーザーからすればキャリアが遅いのではなく、そのサイトが遅いという認識になります。

 来年には、スマートフォンでのWebブラウジング数がデスクトップPCとノートPCでのWebブラウジング数を合わせた数を凌駕すると予測されています。日本企業がサイトのブランディングを確立する上で、キャリアごとの回線スピードの違いに対応することはスマートフォンユーザーへのサービス提供を強化する上で避けられない課題となるでしょう。そのためには、日々、継続的に携帯キャリア網を経由して自社サイトにアクセスしてパフォーマンスを計測し、現状を正確に把握するという、「感覚」ではなく「データ」に基づいた管理が必要になります。

――なぜ今、再び日本市場に力を入れ始めたのですか?

クラッツ氏 5年前、日本企業は国内市場ばかりをターゲットとしてビジネスをしていましたし、IT投資も盛んではありませんでした。しかし、あの時から、いくつか前提が変わったのです。

 1つは、モバイル端末の興隆です。iPhoneの普及は、アプリケーションのあり方をガラリと変えました。それまでの日本のユーザーはFTTHやADSLといった高速なネットワークで17インチのディスプレイでWebを使っていましたから、パフォーマンス計測は必ずしも必要ではなかったのです。しかし、今やユーザーは街中をモバイル端末を持って動き回っています。グーグルが動画サービスで弊社サービスを使っているのも、そうしたリアルなユーザーの利用状況を把握するのが難しくなっているからです。

 地震による自然災害があったことで、あらゆるものが、もろく、変わり得るということも感じてらっしゃることでしょう。以前は日本国内の市場を見てビジネスをしていた企業も、今や日本国外の中国やアジアで市場を開拓していかなければならないはずです。実際に、日本では製造業を中心にして、工場や研究拠点などの東南アジアへの移転が進んでいます。楽天やユニクロは、日本を拠点として、全世界展開を行っています。しかし、海外のユーザーがWebやWebアプリケーションにアクセスする際に、どれくらいの表示速度を体験しているかを把握できているでしょうか?

 iPhoneなどのプラットフォームが登場したことで、海外展開のコスト効率は非常に良くなってきています。ところが、新興国などでは、まだまだネットワークが遅い都市もありますから、パフォーマンス計測が重要なのです。

 eBayも、われわれの顧客です。彼らはEC企業であり、限られた数の自社エンジニアでは、スマートフォンサイトやアプリのテスト、監視、パフォーマンス計測を実回線、実機で行うようなことは難しいからです。今後、世界市場へビジネスを展開しようという日本企業にとっても、同様の課題が出てくるでしょう。日本の製造業はデータに基づく「カイゼン」が非常に得意で、優れた製品を海外に輸出していますが、日本のITでは「データ」に基づく管理や計画というのが浸透していないように思われます。計測による客観的データによって、日本企業がITシステムを設計、改変していくことのお手伝いができればと考えています。

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(@IT 西村賢)

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