「日本のITコストを世界標準へ」

さくらの石狩DC運用開始、北海道知事も式典に参加

2011/11/16

 さくらインターネットは2011年11月15日、北海道石狩市内に建設した新データセンターの稼働を開始させた。石狩データセンターは、創業以来強化してきた都市型データセンターと異なる特性の「郊外型データセンター」だ。15日に行われた開所式には、地元の石狩市長や北海道知事、報道関係者らが詰めかけ、内覧会や記念式典も行われた。

dc01.jpg 第1期工事で建造された第1、第2棟(1つの建物に見える)。2棟で1000ラックが収納可能で、これでもまだ全計画の4分の1に過ぎないという。
dc02.jpg 敷地内の造成地。ここに順次、第3〜第8棟を増築していくという。石狩データセンターは、札幌市内から30分程度で、羽田空港からなら約3時間の場所にある。都会から訪れた記者の目には荒野といってもいい広大な土地が広がる。時折風に雪が舞う11月の石狩は寒い
dcplan.jpg 全敷地の建設計画。敷地面積は約5万1000平方メートルで、東京ドーム1.1個分。上の1枚目の写真が第1期工事による建物で、2枚目の写真にある造成地が第3〜8棟の建設予定地。
dc03.jpg データセンター建物の裏側
dc04.jpg データセンター正面玄関
dc05.jpg データセンター正面の入り口
dc06.jpg データセンター正面を出て右手の風景
ceremony.jpg 開所記念式典のテープカットには、石狩市長や北海道知事も参加

都市型DCから再び郊外型DCへ

photo01.jpg さくらインターネット代表取締役社長 田中邦裕氏

 記者会見の冒頭で、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏は、これまでの同社の歩みの中に、今回の石狩データセンター建造を位置付けながら説明した。

 さくらインターネットは1996年、田中社長が舞鶴工業高等専門学校在学中にレンタルサーバ事業を提供したのが始まり。その後、1999年に東京・池袋や大阪・本町といった都市部にデータセンターを開設。当時、データセンターは地盤の固い郊外に建設されることが多かったが、インターネットの普及や一般企業へのITの浸透により、アクセスの利便性に優れた都市型データセンターに需要がシフトする時期だった。「2004年には東新宿や大阪の堂島にデータセンターを新設。回線についても、2008年には当社のバックボーン回線は166Gbpsと日本一になり、現在は200Gpbsを超えて最大となっている」(田中社長)

chart01.jpg これまでのデータセンター建造の歴史

 「データセンターの数も増え、バックボーンも増えたというのが当社の歴史。顧客のサーバも合わせると10万台以上が当社で稼働している。ただ、次々とサーバを増やしてきた一方で、莫大な投資と地代がかさんでいる。運用スキルの不足も問題だ。こうした課題を一挙に解決するのが郊外型の大規模データーセンターだ」(同)

いくらでもサーバを増やせる「順次投資、順次増設」モデル

 石狩データセンターのコンセプトの1つは「いくらでも増やせる」というものだ。さくらインターネットが確保した土地に、まだ200ヘクタールの余裕があることや、近隣の土地のことも考え合わせると、事実上「無限に増やせる」(田中社長)という。現在、ソーシャルゲーム市場の急速な立ち上がりで、サーバ不足の問題が深刻化している。「(都市部のデータセンターでは)運用コストが高いばかりでなく、サーバの置き場所がない。そもそも供給電力が増やせませんとデータセンター事業者に言われて困っているという顧客の声も良く聞く」(同)

 データセンターを建造した場所が更地であったこと、近隣への条件が都市部ほど厳しくなかったことなどで、設計・建築がスピーディに行えたのも、郊外型データセンターのメリットだという。

 「通常のデータセンターなら計画から4、5年はかかる。石狩データセンターは2009年12月に初めて視察してから、2年も経たない短期間で開所した。着工から引き渡しまで7カ月。早いと言われているコンテナ型のデータセンターとも遜色のないスピードだ。7カ月というのは電源の引き込みも含めてなので、今後の増設については5、6カ月でできる」(田中社長)

 「増設は1棟(500ラック)ごと、そして200ラックごとに行える。このため、そのときどきで最新の設備が使えるし、需要に合わせて増やしていける」

 「増設は20年で計画している。ただ、サーバの設置場所を分散する流れが出てきている。クラウド化の流れも早まっているので、3年から5年程度で今回開設した1000ラックが埋まる可能性があると考えている。部屋を丸ごと貸してほしいという案件も寄せられている。部屋ごとに貸すとすると、さらに早まる」

full.jpg 全棟が完成した完成イメージ。現在はまだ手前の横長の建物(第1、2棟)のみ

 これまでの都市型と異なり、順次増設していく郊外型データセンターは投資モデルも異なるという。土地代や建物よりも、中身のサーバやネットワーク機器のほうがはるかに高価だ。「毎月投資を続け、今後の投資の大半は石狩となる。製造業では初期投資の後は減っていくだけだが、データセンターは新規サーバが増えていくので、固定資産税の額はどんどん増える。減免の優遇を受けているが、絶対額でいうと月額で1億円から2億円、そして積み上げによる莫大な固定資産税をお支払いできるのではないかと考えている」(田中社長)

11月でも雪が舞う石狩、冷却効果で電力4割カット

 石狩データセンターの特徴は、「都市型データセンターに比べて半分」(田中社長)という運用コストだ。都市型データセンターでは海外のデータセンターと比較して高コスト、低効率となりがちで、石狩データセンターのような郊外型で、電力効率を上げることで「日本のITコストを世界標準へ」下げるという。実際、「Amazon EC2の半額以下を目指している」として11月8日に発表した「さくらのクラウド」は、仮想1コア、2GBメモリで月額2500円からとコストパフォーマンスの高いサービスとなっている(参考記事

itcost.jpg 郊外型、高い電力効率により、ITコストを下げるのが石狩データセンターの狙いという

 運用コスト削減に大きく効いているのは、もちろん電力。北海道の涼しい気候を活かした外気冷房により、ほぼ通年でサーバルームの外気冷房が可能だという。低温の外気とサーバからの排熱を混合して、最適な温度、湿度の冷却風をサーバルームに供給する。

power.gif 都市型データセンターに比べて消費電力は4割減。運用コストは半分以下となるという
cooling.jpg 建物全体の空気の流れ。下部から外気が入り、サーバルームへと送られる
filter.jpg 建物下部の外気が入る場所にはフィルターが設置されている
inner.jpg 下部から入ってきた外気は、チャンバールームと呼ばれる狭い通路状の空間を通り、この写真の下部にある溝から内部に入ってくる
silver_pipe.jpg サーバルームのラックの上部には太いパイプがあり、こここを通って冷却風がサーバを冷やす
cooler.jpg 夏季操業時のために冷却器も1階に備える(サーバラックはすべて2階にある)。夏季でも18時以降は使う必要がないと見ているという
container.jpg 石狩データセンターと並行して進めてきた高電圧直流(HVDC)方式のコンテナ型データセンター。通常、70〜80%の電力利用効率が90%に上がるという。現在、自社サーバなどで試運転中

機能性、信頼性は犠牲にしない

 これまで「IaaS(クラウド)を圧倒的な低価格で提供する」と宣言してきた同社だが、石狩データセンターの建設や運用では、「機能性や信頼性を損なわない」ということをコンセプトとしたという。生体認証や監視カメラでセキュリティを確保した。また、信頼性という点で石狩には地の利があったという。

 「(新データセンター建設地として)全国を行脚してこの場所を選んだ。北海道内だけでも7、8カ所検討し、そのうち3カ所を視察した。北海道の方ならご存じだと思うが、石狩は日本海側で、津波や地震、洪水などの災害リスクが低い土地。道北や日本海側は地震があっても大きくない。電力については、電力会社から2系統の受電がある」

 「石狩には海底ケーブルの引き上げ局がある。石狩データセンターにはNTTとKDDIの全く別経路で東京へ向かうものとして光ファイバーを引き込んでいる」

 人口190万の大都市札幌までクルマで30分程度と、専門的な教育を受けた人が見つけやすい場所であることも選定理由だったという。今回、9人を新規雇用したが、そのうち6人は道内からの雇用だったという。

monitor01.jpg 監視センターでは、サーバやネットワーク機器の稼働状態などをリアルタイムでモニターしている
monitor02.jpg 外気温や室温、電力効率などもモニターしている
door.jpg サーバルームの出入り口は1人ずつしか通れない回転扉となっていて、生体認証を採用しているという
camera.jpg 見学した印象では、サーバルームのほとんどすべての出入り口はカメラにより監視されている

 北海道といえば広いという印象もあるが、実は地域によってその広さの単位が違うという。「石狩には非常に大きな土地がある。何千ヘクタールといった土地は、苫小牧や石狩以外にない」。

 冷却効率が高いことや上記のメリットのほか、石狩選定の理由として田中社長は「視察のときに最初から市長に付き添ってもらえた」と発言。優遇措置や積極的な誘致が奏功したことを伺わせた。地元の理解がないと一般に分かりづらい事業は展開しづらい。

 4年前のプロジェクトの構想スタート時には「前例がない」「いざというときに駆け付けられない」「売れないのではないか」という声が社内にあり、理解を得るのに苦労したという。それが現在では、「同業者からの問い合わせがあり、物色しているという話を聞いている」(田中社長)という。光ファイバーがない、外気が冷たすぎるのではないか、運用は可能なのかと懸念点を、さくらインターネットがクリアした今、「当社がやったことで同業者が動き出しているのが現状」(同)という。郊外型データセンターの建造ブームが続く中、北海道は注目地域の1つとなりそうだ。

(@IT 西村賢)

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