エンジニア同士の相互評価や活動を可視化
ギーク向けLinkedIn!? 「Forkwell」はどんなサービス?
2012/04/03
ソフトウェアエンジニア向けのソーシャルサービスや、その周辺の関連サービスが、ここへ来て次々と登場してきている。GitHubは別格としても、Coderwall、Geekli.st、Coder.lyなどがある。Facebookやmixiのような汎用SNSではなく、目的を絞ったり、ゲームっぽさを前面に打ち出したようなサービスが多い。日本発のベンチャー、garbsが4月3日にローンチした「Forkwell.com」も、そうしたサービスの1つで、ひと言でいえばギーク向けのLinkedInだ。
相互評価でギークのネットワークを可視化
「シリコンバレーだと横のつながりがあって転職するのがふつう。そうなってほしいという思いで、Forkwellというサービスを企画しました」。
Forkwellというサービスを構想段階から担当している大岡由佳氏は、サービス開発にかける思いをこう語る。
「LinkedInのように職歴を書いて、そこに推薦文を書いてもらわなくてもエンジニアは転職ができるはず。なぜならエンジニアは互いに相手のスキルを知っているからです」(大岡氏)
エンジニア同士は、誰がどのスキルでどの程度の実力かを互いに知っている。特に社外に出て活動している人たちはそうだ。これを可視化するのがForkwellという。
LikedInでは学歴や企業内のポジション名といった職歴をリストアップするのが中心的な機能だが、Forkwellはエンジニア向けらしく、互いに互いのスキルを明示的に認め合う(+1ボタンを押す)ことによるスキルの可視化がサービスの軸にある。誰が、誰の、どのスキルについて+1しているのかによってソーシャルグラフが形作られる。
例えば、誰かが自分のスキルとしてRuby、Ruby on Rails、Clojure、jQuery、Titanium、vimなどとタグでリストアップしていくと、これを見たリアルな知り合いがそのスキルを認めている場合には+1していく。実際に同じ職場で働いたことがあるエンジニア同士であっても、実際にコードを見たことがないとか、自身に評価できるだけのスキルがない場合には、+1をしないという。「相手のスキルを知っていれば、推薦文を書くよりも気軽に+1できる」(大岡氏)のがポイントだが、“すごいと聞いている”という程度では押さない、というわけだ。
誰が+1を押したかは、各ユーザーのタグにマウスカーソルを乗せれば表示される。同じ+1でも、ある技術コミュニティの中心的人物、あるいはオープンソースであればプロジェクトのコミッタなら重みが違うだろう。オープン時には単純な表示機能にとどまっているが、サービスが軌道に乗ればペイジ・ランクのようにアルゴリズミックに評価数値を算定することもできるだろうという。+1の総数によって現在、9段階の称号(Craftsman、Grandmaster……など)も用意しているという。
スキルはタグとなっていて、最近流行のPinterst風のUIで画面に並ぶ。現在、250個程度のタグを用意しているが、これは参加者が自由に増やしていけるという。ユーザーやタグはフォローでき、タグに紐付く人々のネットワークはインタラクティブなグラフィクスとしてダイナミックに表示もできる。
セルフブランディングの場としてのForkwell
Forkwellでは相互評価、レピュテーションの可視化がサービスの軸にあるが、セルフブランディングの場としても利用できる。誰とつながっているか、誰に評価されているかを可視化できるという以外にも、自分のパブリケーション(講演資料やLTのプレゼン資料、公開したブログ記事や、執筆・翻訳した書籍など)の集約機能がある。追加したパブリケーション(へのリンク)は、フォロー関係にあるユーザーたちのタイムラインに表示されるので、誰がどこでどういう発表をしたかということが分かりやすい。Facebookの「いいね!」に似た「読んだよ!」ボタンもある。読んだよボタンは外部API化も考えていて、エンジニアが技術系ブログエントリを書くモチベーションに繋げたいという。単にどこかのブログに書くだけではなく、知り合いのエンジニア同士で「読んだよ!」と言えるのは、あるようでなかったサービスだ。
Forkwellが面白いのは、エンジニアだけでなく、企業についてもブランディングの場となり得るということだ。Facebookに似て、企業アカウントは擬人的に振る舞う。企業やプロジェクトについても、Forkwell上ではユニークなエンティティとして存在していて、これらがユーザーに紐付く。つまり、どういう企業の何のプロジェクトで誰が働いたかといったことを、Forkwellは可視化しようとしているのだ。「今まで企業はこうした情報を隠していましたが、求人と結びつけてメリットがあるとなれば、どんどん率先して見せていくようになると思います」(大岡氏)
「知人限定」、30万円の紹介報酬も
ちょっとしたゲーム感覚もあるスキルの相互承認という要素、それにセルフブランディングの場、それがForkwellのサービスの中心にある。さらにForkwellへの参加のインセンティブとなり得るのが、企業へのエンジニア紹介による紹介報酬の仕組みだ。オープン時のベータ版では提供されないが、サービス開始後に人脈やレピュテーションが可視化されていけば、企業とエンジニアを結ぶ場としてForkwellは機能するという。
例えば企業が30万円でエンジニア募集を投稿すると、そのポジションに最適だと思うエンジニアを知っているユーザーは推薦ができる。もし実際にそのエンジニアが募集に応募して採用に至れば、紹介したユーザーが30万円を報酬としてもらえるという。Forkwellを運営するgarbsは、この金額の30%に相当する額を企業にチャージする(つまり企業の支払い総額は39万円になる。ただし、この辺りの金額や課金率は現在は計画段階)。
個人ユーザーへの報酬が30万円と言えば破格と感じる人もいるかもしれない。しかし、一般的な人材紹介ビジネスからしたら、破格の安さである。
「価格が安いというだけではありません。いわゆる人材系エージェント経由で応募してくる人材で、実際に採用に至るのは100人に1人程度という話を人材採用を担当している人からは聞いています。エンジニアからのエンジニア紹介でないと、いい人は来ないのだというのです」(大岡氏)
紹介報酬は高いが、紹介は冷やかしでできるようなものではない。スキル検索機能は友だちの友だちまでに限定されていて、知らない人は検索したり紹介することができない仕組みになっている。「エンジニアとしてこの人のスキルは保証できる」という推挙にこそ意味があるからだ。同様に、非エンジニアがForkwellというサービスを使ってスカウトするような機能を付ける予定もなく、スカウトを規約で明示的に禁じることも検討しているという。
人材紹介ビジネスで成功、リスクマネーを入れてベンチャー
Forkwellを企画・開発したgarbsは、人材紹介サービスの「人財紹介net」を運営するgroovesの関連会社だ。COOの大畑貴文氏によれば、groovesは創立9年目で、人材紹介ビジネスで利益も出していて順調だという。すでにgroovesでも“ソーシャル採用”の動きを捉えて、SocialJobPostingなどFacebook向けアプリも展開しているが、より身軽に動くためにサイバーエージェント・ベンチャーズと個人投資家の資本を入れて別会社として設立したのがgarbsという。grooves自体もベンチャーだが、Forkwellを引っさげて新しい市場やカルチャーを創りだそうとしているgarbsは、リスクマネーで“次の種まき”をしているベンチャーだという。
Forkwellはギークがギークのために設計した遊び心のあるサービスという側面もあるが、人材市場の動向を見据えたビジネス指向も強い。この辺は、冒頭に挙げたほかのギーク向けソーシャルサービスと違うところだ。
ビジネスとして意味のあるレベルで立ち上がるには、ある程度のユーザー数が集まってネットワーク効果が出てこなければならないが、それまで飽きっぽいエンジニアたちがForkwellを使うのかという疑問はある。ただ、最近は、力のあるエンジニアがプロジェクトや企業を渡り歩く傾向が日本でも強まっている。流動性の高まった労働市場で重要な役割を果たすのは、噂話などで人から人へと伝わるレピュテーションと、GitHubのレポジトリ、技術系ブログや発表資料の共有によるセルフブランディング、もしくはシグナリングだろう。Forkwellは、こうした時代背景をうまく捉えたサービスに思える。garbsは日本在住の外国人エンジニアを起点として英語圏へのサービス展開も早期に開始するとしていて、そうした面からも、今後の展開に注目しておきたいサービスだ。
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