CTOの講演から探る
Cloud Connect、そしてシスコの製品戦略
2012/05/15
米シスコシステムズは5月22日に企業とパブリッククラウドサービスを安全に接続するCisco Cloud Connectソリューションを発表する。4月中旬にシスコが開催したCisco Partner Summitの基調講演で、同社CTOのパドマスリ・ワリアー(Padmasree Warrior)氏は、このCloud Connectを含む同社の製品戦略を説明した。本記事では、この講演の内容を中心に、シスコの製品戦略を改めて確認してみたい。
シスコがいま、もっとも注力するテーマは、「クラウド」「コラボレーション」「モビリティ」だ。そしてこれらに必ず絡んでくるのがネットワーク、そしてセキュリティだ。
ワリアー氏は、同社のクラウド戦略について、「クラウドインフラ、クラウドネットワーキング、クラウドアプリケーションのすべてを提供できるのはシスコしかいない」と話した。クラウドネットワーキングの土台となるのは同社が「インテリジェントネットワーク」と呼ぶネットワーク製品群。インテリジェントネットワークが実現するテーマとしては、可視性、俊敏性、セキュリティ、管理性などとともに、プログラマビリティも挙げている。これはいわゆるSoftware Defined Networkingにつながる取り組みだ。
クラウド分野のイノベーションの例として、ワリアー氏は5月22日に発表予定のCisco Cloud Connectを紹介した。企業のネットワークおよびユーザーを、パブリッククラウドサービスと安全につなぐソリューションという。ワリアー氏の説明によると、この「つなぎ」の役割を果たすソフトウェア群「Cloud Connector」を、ISR G2やASR 1000、あるいは仮想アプライアンスとして動作するvWAASと連携させて動かす。Cloud Connectorは、シスコおよびサードパーティベンダが提供する。ワリアー氏は「あなたがCloud Connectorを自分で書くこともできる」と、このソリューションがオープンであることを強調した。
クラウド間接続やクラウドサービスにおけるテナント分離について、シスコはIPsecやVLANといった従来の技術に加え、複数の新技術を提供している。例えばMAC-in-MACを使って、あるネットワークへ別のネットワークが部分的に乗り入れられるようにする「Overlay Transport Virtualization(OTV)」や、Nexus 1000Vに実装された端末単位のトンネリング技術「VXLAN」だ。Cloud Connectには、これらも含まれるのかもしれない。ワリアー氏が示したスライドが、IaaSだけでなくSaaSとの安全な接続も示唆していることからすれば、すでに同社が「Cisco Identity Engine」で取り組んでいるアイデンティティ連携もCloud Connectに統合する可能性がある。シトリックスシステムズの「Open Cloud Access」、ヴイエムウェアの「Horizon App Manager」のような製品と連携するかもしれない。またシスコは別途、ホームネットワークに安全に接続したり、これを外から制御したりできる「Cisco Connect Cloud」というサービスを今夏に提供予定だが、Cloud Connectはこれとも関係するかもしれない。また、同じスライドのCloud Connectorの枠内には、「Cloud Storage」「ScanSafe Web Security」といった言葉も示されている。より広く、外部クラウドとの接続に関連するサービスを提供しようという意図なのかもしれない。
Cloud Connectの詳細については、発表を待つしかないが、シスコの製品戦略における1つのあり方を示しているともいえる。特にクラウド分野では、(プライベートクラウドにしろパブリッククラウドにしろ)他社との連携がますます重要になると、CEOのジョン・チェンバース氏も認めている。自社・他社を問わずこれらの多様な製品やサービスを利用する際のプラットフォームとして、自社の製品やサービスを機能させることに、シスコは価値を見出しているようだ。
サーバの「Cisco Unified Computing System(UCS)」にしてもそうだ。シスコはネットワーク製品との連動性を強化する一方で、ヴイエムウェアおよびEMCのみならず、シトリックスシステムズやマイクロソフトの仮想化関連製品、そしてネットアップのストレージとの親和性を高めている。また、自社開発のアンドロイド端末「Cisco Cius」のほかシンクライアント端末をそろえ、UCSと組み合わせられるソリューションとして推進している。個々の製品だけで闘うのではなく、包括的なソリューションに仕立て上げるというのは、シスコが以前からさまざまな場面で強調してきたことだ。
UCSについてワリアー氏は、これにより、単なる仮想化にとどまらないUnified Data Centerを実現することで、インフラコストはさらに下がり、デプロイメントの所要時間も90%削減でき、運用人員を減らせると訴えた。また、ユーザー端末側では、同社のシンクライアント端末に加え、ユーザーが自身で職場に持ち込むデバイスも取り込んでいくという。
「コラボレーション」で、ワリアー氏が新しい取り組みの1つとして紹介したのは「Jabber for Everyone」だ。シスコは数年前、インスタントメッセージング/プレゼンス管理機能を実現するJabberを買収、Cisco IP PhoneやWebExのクライアントとしての機能を追加し、Mac、iOS、Android、Blackberry、Windows、iPadに展開している。Cisco Jabberクライアントは、シスコのユニファイドコミュニケーション製品の共通ユーザーインターフェイスになりつつある。
ワリアー氏は、ユニファイドコミュニケーション・サーバ製品「Cisco Unified Communications Manager」の顧客に対し、Jabberクライアント(インスタントメッセージング/プレゼンス管理機能のみ)を無償で提供すると話した。これにより、Jabberの導入を広げようとしている。JabberではSDKにより、Webアプリケーションにインスタントメッセージングや音声/ビデオ通話の機能を組み込むことができる。ワリアー氏はMicrosoft OutlookやSalesforce.com、シスコが開発した企業向けソーシャルネットワーキング・ソフトウェア「Cisco Quad」にJabberを組み込んだ例をデモで紹介した。
コラボレーションでは、TelePresenceやWebExによるビデオ会議に、多様な端末から参加できるという点が、シスコにとって今後さらに重要なポイントとなってくる。ここでも、クラウドと同様、個々の技術や製品ではなく、ソリューションによってユーザー企業のビジネスにどう貢献できるかを追求していくと、同社は説明している。
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