クラウドネットワークロボットが未来を変える

ヒトはロボットの言うことを聞くのか

2012/06/05

 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科と日本バーチャルリアリティ学会は、6月5日、第1回テレイグジスタンスシンポジウムを開催した。テレイグジスタンス(Telexistence)とは、「遠隔臨場感/遠隔存在感」と和訳され、遠隔の空間を臨場感を持って体験し行動すること、また、自己の存在感をその空間へ拡張するものである。その中で、慶應義塾大学理工学部准教授の今井倫太氏は、「人はロボットの言うことを聞くのか」という研究結果を基に、ロボットとヒトとのコミュニケーション研究を語った。

今井倫太氏のパネルディスカッションの様子 慶應義塾大学理工学部准教授 今井倫太氏

 今井氏は、ロボットがヒトに「この部屋は人が予約しているから出ていってください」とリクエストをしたとき、ヒトは言うことを聞くのかどうかという実験を例に挙げた。結果は、なかなか出ていってくれなかった。どうやら、「ロボットとお話ししましょう」といっても、ヒトはその気になって言うことを聞いてくれないというのが、現実だそうだ。

 ところが、そこに「アバター」という概念を加えてみると反応は変わる。「アバター」とは「自分の分身」という意味である。従って、アバターの背後には、ヒトがいる。ロボットの背後にヒトを存在させることで、ロボットは急に社会性を持ちはじめ、ヒトはロボットにアイコンタクトや会釈をするようになるようだ。それは、ヒトは自分の分身が遠隔地でどのようにふるまっているのかが気になるからだという。このことを今井氏は、“クラウドネットワークロボット”というキーワードで提示した。

 例えば、こんな経験はないだろうか。TwitterやFacebookなどの仮想空間と実際の人物像とが異なる場合がある。それは、自分が他人からどう見えているかということを、「アバター」で操作しているためだ。それと同様のことが、ロボットでもいえる。これらのアバターは、ある種のファッション性を持ち、情報発信者(操作者)としての視点が加わる。自分は1人しかいないが、他人の中にいる自分も、自分の中の1人である。「それをどうデザインしていくか。それがアバターロボットの研究ではないか」と今井氏は語る。

 このように、受け手側の視点に留まらず「情報発信者」の視点を取り入れる際にキーワードとなった言葉が“クラウドネットワークロボット”である。クラウドネットワークロボットとは、ユーザーの好みに応じて誰でも気軽にカスタマイズできる“オーダーメイド・カスタマイズロボット”のことである。ヒトと機械が一体になることで、自分スタイルの確立を目指すという。

 最後に、今井氏は、ウィリアム・ジェームズという心理学者の言葉を引用した。

――1人の人は、その彼を認め彼のイメージをこころに抱いている個人の数と同数の社会的自我を持っている。これらの彼のイメージのどれを傷つけても彼を傷つけることになる――

 慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の舘教授は、「現在の遠隔でのコミュニケーション問題として挙げられるのが、存在感の欠如である。では、存在感とは何なのか? 存在感とは、インタラクションの可能性のことである。例えば、そこに蛇がいたら、どうするだろうか。多くのヒトは逃げる、あるいは動揺するだろう。それは、インタラクションの可能性を示している。この、身体性こそがテレイグジスタンスには重要であり、本当に親しみのあるコミュニケーションはそこにある」と締めくくった。

(@IT 太田智美)

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