ストレージ仮想化の活用がカギ?
IBMのストレージ新ビジョンは具体的に何を意味するのか
2012/06/07
日本IBMが6月5日に国内発表した、IBMのストレージ事業に関するビジョン「スマーター・ストレージ」。本記事ではこれが具体的に何を意味するのかを探る。
IBMはストレージに関して、いままで独立したビジョンを提示したり、製品や機能をリリース前に紹介したりすることは、ほとんどなかったという。しかし今回はビジョンと新製品をまとめて発表、さらに開発意向表明としていくつかの新技術を発表した。
効率性の追求が最大のテーマ
「スマーター・ストレージ」ビジョンでは、「開発設計段階から極限まで追求された効率性」「クラウドの俊敏性」「自律的に最適化」の3つを軸として、ストレージ関連の製品や技術を開発していくとしている。これらはかなり抽象度の高い表現であり、ストレージ分野における共通課題ともいえる。IBMならではの差別化ポイントは何なのか。
「開発設計段階から極限まで追求された効率性」の実現の背景として、日本IBM ストレージ・テクニカル・セールス ソリューション担当部長 システムズ&デクノロジー・エバンジェリストの佐野正和氏は、ハードディスクの記録密度の向上ペースが低減する見通しを説明している。これまでの10年間、ハードディスクの記録密度向上率は年平均100%だった。しかし今後は、年平均25〜40%の向上率しか見込めないというのがIBMの予測だという。すなわち、これまでデータ量の増大を、ハードディスクのGB単価の低下でオフセットできていたが、今後はこの効果が期待できず、放っておけばストレージコストが増大していくことになるという。
したがって、効率性の実現は、IBMがSmarter Storageで掲げる3つのテーマのうちでもっとも重要だとする。この問題への回答として、例えばインラインのデータ減量技術の包括的な展開は、他社との比較でも非常に際立つ、IBMならではの取り組みだという。
重複除外/データ圧縮はストレージ装置の機能として実装されることが多い。「ポストプロセスの重複除外」とも呼ばれるが、この場合ストレージ装置はいったんデータを受け取ってから、このデータに対して重複除外を適用する。IBMは、これではストレージに一時保存領域が必要となり、重複除外技術の効果がそがれるとする。
そこでIBMはインラインの重複除外/データ圧縮に注力してきたという。「インライン」とはすなわち、ストレージの前段に重複除外専用装置(あるいは機能)を置き、この装置を通してストレージへのデータ保存を行うと、装置がリアルタイムでデータの減量を行ってくれる方式。これならストレージ側に重複除外街データの一時保存領域は要らない。
日本IBMではこれまで、NAS(ファイルストレージ)用のインライン圧縮装置「IBM Real-time Compression Appliance」と、バックアップ媒体の前段で利用する「ProtecTIERサーバーTS7850G」を提供してきた。しかしインライン重複除外はパフォーマンスの劣化につながる懸念から、アプリケーションサーバ用ブロックストレージの前段で使うような製品はこれまで存在しなかった。
日本IBMでは今回、「IBM Storwize V7000」、および「IBM SAN Volume Controller」(SVC)で、ブロックストレージ用のデータ圧縮機能を発表した。同社は「パフォーマンス低下の影響なし」とうたっている。両製品とも、他社製品を含めて複数のブロックストレージを束ね、仮想化する機能がある。従って、IBMのストレージだけでなく、幅広いベンダのストレージ装置に、一貫したデータ圧縮を適用できることになる。
効率性に関連して、日本IBM システム製品事業 スマーター・ストレージ事業推進担当の山崎徹氏は、LTOテープの活用もIBMのユニークなポイントだと指摘している。LTOテープは規格の進展で大容量化が進んでいる。最新規格のLTO-5は、圧縮なしで1.5TBの容量を実現している。IBMはさらに、LTOテープ用のファイルシステム、「Long Term File System(LTFS)」を開発している。これにより、バックアップソフトウェアに頼ることなく、データの読み書きができるようになった。LTOがテープである以上、シーケンシャルな読み書きに最適な媒体であることには変わりがないが、たまに利用する必要のあるデータの長期保存、つまりアーカイブ用途に使えるようになっている。LTOで最後のストレージ階層をつくれるのは、IBMならではの優位性だという。
スケールアウト的拡張への対応は
「クラウドの俊敏性」に関しては、Storwise V7000で、4筺体までをクラスタリングできる新機能が発表された。この機能によるスケールアウト型の拡張で、他社の装置を混在させながら、最大32PBまでを単一のStorwize V7000群で管理できるようになった。この4筺体間では、相互にボリュームを移動することもできる。
よりスケールの大きな「クラウドの俊敏性」について、日本IBMは「IBM Active Cloud Engine」という機能を提供してきた。Active Cloud Engineを使うと、遠隔拠点に配置されている複数のNAS装置を単一のネームスペースで管理し、あたかも1つのNAS装置であるかのようにデータアクセスができる。NAS製品の「IBM Scale Out Network Attached Storage(SONAS)」に搭載している機能だが、将来は「IBM Storwize V7000 Unified」(Storwize V7000のNAS対応製品)にもこれを実装する。SONASも他のNAS装置をあわせて仮想化できる機能を搭載する予定。SONASとStorwise V7000 Unifiedを混在させて、遠隔拠点を結び、シングルファイルシステムイメージが構築できる。
「自律的に最適化」では、自動階層化機能を例として挙げている。すでに日本IBMはStorwaize V7000、SVC、DS8000にこの機能を搭載している。将来はサーバ(AIX、Linux)に内蔵するSSDを、ストレージ側の自動階層化に組み込める機能を搭載するという。さらに、アプリケーション用のAPIを提供する予定もある。これにより、アプリケーション単位で自動階層化の適用における優先度を変えられるようにするという。
ストレージ仮想化の役割が拡大
日本IBMが今回ストレージ関連で発表した内容は、表のとおりだ。
まとめると、ストレージにおけるIBMならではの取り組みとして目立つのは、次のような点だ。
まず、インラインのデータ減量技術に注力していること。ファイルストレージかブロックストレージか、一次ストレージか二次ストレージかにかかわらず、この技術を適用している。たしかに他社にはこうした取り組みは見られない。
もう1つは山崎氏が指摘するLTOテープの積極的活用。これを含めたストレージの自動階層化管理が実現する。
そして改めて気づくのは、今回の発表や開発意向表明で、Storwize V7000およびSVCの名前が頻出することだ。ストレージ仮想化製品の機能を強化し、他社ストレージを含めた効率的なストレージ統合を実現しようとしている点は、最終的にもっとも重要な差別化ポイントになるのかもしれない。
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