ネットワークをマルチレイヤでプログラマブルにする取り組み
“狭義のSDNでは不十分”、シスコがCisco ONE戦略を発表
2012/07/02
シスコシステムズは6月29日、米シスコが6月中旬に発表した「Cisco Open Networking Environment(Cisco ONE)」戦略を国内で説明した。一言で表現すれば、OpenFlowおよびOpen Networking Foundation(ONF)が提唱する意味でのSoftware Defined Networking(SDN)への対応を進めるものの、それだけでなく広義で「ネットワークをプログラマブルにすること」を目的として複数の取り組みを並行して進め、顧客の具体的ニーズを満たすことに注力するというのがその骨子だ。
説明の場にCisco TelePresenceで参加したデビッド・ワード氏は、OpenFlowはネットワークのプログラマビリティを提供する同社の戦略を強化する意味を持つと話した。シスコは今回、Catalyst 3750-X/3560-XへのOpenFlow 1.0エージェントの実証向け実装を、今後提供すると発表した。発表をなぜこの2機種に限定しているのかは不明だ。だが、社内的には幅広い機種でOpenFlowの実装を試しているようだ。ワード氏も29日の説明で、OpenFlowサポートはこの2機種に限定するわけではないと明言した。一方でSDNコントローラの実証向け実装も開発しているという。シスコのスタッフは、OpenFlowおよびSDN関連の標準化などを進めるONFで、委員会の議長を務めているなど、今後もONFの活動に積極的に参加していくという。
ただし、ONFの提唱するSDNの定義は、「データプレーンとコントロールプレーンを分離し、グローバルな可視化ができる集中制御ソフトウェアを用い、ネットワークの直接的なプログラマビリティを実現するという3つの抽象化を実現すること」。そのため、OpenFlowはSDNに不可欠だというのがONFの考えだ。これに対し、シスコの立場は、データプレーンとコントロールプレーンを分離するというのは1つの技術的手法でしかなく、それだけではネットワークのプログラマビリティをめぐる顧客の課題を一部しか解決できないということ。このためシスコは、OpenFlow/SDN以外にも、顧客の具体的な課題のそれぞれに対する解決方法を、Cisco ONE戦略のもとで提供していくという。
例えばクラウドサービス事業者や大規模企業で、サーバ仮想化基盤と連動する「ネットワーク仮想化」、すなわち柔軟なテナント/事業部門分離を実現したいというニーズがある。これについてシスコはすでに、NiciraのNVPに見られるようなエッジ・オーバーレイ技術を提供している。具体的には、仮想化ソフトウェアの仮想スイッチとして動作する「Nexus 1000v」に、仮想マシン間のレイヤ2通信をレイヤ3でカプセル化するトンネリング技術「VXLAN」を実装済みだ。
Nexus 1000VはVMware vSphereのみに対応した製品と受け取られがちだが、実際にはHyper-Vにも対応している。シスコは他のオープンソース・ハイパーバイザへの対応も進めるとしている。また、クラウド運用基盤とNexus 1000Vの連携のため、今後OpenStack QuantumプラグインおよびREST APIを提供するという。
シスコはさらに、VXLANと従来のVLANを連携させるVXLANゲートウェイも開発中としている。
シスコ製品すべてに共通のAPIを提供
そしてCisco ONEの最大の柱は「one Platform Kit(onePK)」。シスコのスイッチ/ルータは、製品シリーズによってCisco IOS、 IOS-XR、NX-OSという3種のOSを用いている。これらすべてに共通のAPIおよび開発者ツールキットがonePKだ。実はバックボーンルータ用のOSであるIOS-XRでは、すでにAPIを提供している。今回の発表の眼目は、ASR、ISR G2、CRS、Catalyst、Nexusのすべてについて共通のAPIという形で機能をプログラマに公開していくことにある。
onePKの提供は、OpenFlow/SDN関連の人々もよく指摘する、一部の大規模ネットワーク/データセンター事業者の不満の1つと関連する。これらの事業者は、自社のネットワーキングニーズに照らして、ネットワーク機器の特定の機能を修正/拡張/強化したいと思っても、これまではネットワーク製品ベンダに機能リクエストをするしかなく、迅速に思うどおりのことができないという問題があった。特定の種類のトラフィックに対してリアルタイムでフロー制御やパケット処理を行いたい、サーバファーム/クラウド基盤との連携を独自に作り込みたい、トラフィックフローの状況に応じたリアルタイムなトラフィック制御を独自に実装したい、トラフィック量に応じた各顧客へのきめ細かな課金処理システムを作り込みたいなど、ネットワークを高度にカスタマイズして使いたいといったニーズは、これまで十分に満たされてきたとはいえない。
onePKでは、1つのアプリケーションを書くことで、同社のルータ/スイッチすべてにまたがる高度なネットワークサービスが構築できる。スイッチやルータの豊富なトラフィック制御機能や情報のリアルタイム・フィードバック機能をフル活用してこそ、高度なネットワークカスタマイズのニーズに対応できるというのがシスコの言い分だ。onePKは段階的に提供の予定で、まずはASR、ISR G2で提供の予定。
今回の発表では説明されていないが、シスコのSDNコントローラは、単なるOpenFlowコントローラではない。すなわちOpenFlowのほか、NetConf、そしてシスコ機器の共通APIを使うツールに進化していくということのようだ。
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