関連イベントが次々に開催

アジアで盛り上がるOpenStackの最新動向

2012/08/22

本記事は、さくらインターネット研究所 上級研究員/日本OpenStackユーザー会の松本直人氏による寄稿です

 近年、クラウド・コンピューティングの発展が目覚ましく、IaaS(Infrastracture as a Service)に代表されるような仮想化環境の大幅な技術革新が進んでいます。その台風の目となっているのがOpenStackです。今回は、最近アジアで開催されたOpenStack関連イベントについてご報告します。

OpenStack APAC 2012が開催

 世界各国でOpenStackのイベントが開催されていますが、2012年8月初めには、アジア太平洋地域を対象としたOpenStack APAC Conferenceが北京で開催されました。北米の企業、そしてアジア地域からはロシア、中国、韓国、台湾、オーストラリア、日本が参加し活発な議論が行われました。今後、アジア周辺地域でもOpenStackコミュニティがさらに盛り上がっていくことでしょう。

 OpenStack APAC 2012では、北京と上海の2つの会場で、2日間にわたり多数の発表がありました。その中での内容をいくつかご紹介します(当日写真のまとめはこちら)。

 UbuntuをリリースしているCanonicalからは、クラウド環境をよりオートメーション化する取り組みとして「Juju」の発表がありました。今後も大規模化・複雑化していくクラウド環境の管理ツールが充実していくことを実感できました。Jujuは西アフリカで使われていた用語で「魔術」を意味しています。その名のとおり、さまざまなアプリケーションをシステム上で操るための仕組みが多々含まれているソフトウェアです。自動管理ツールとして有名なPuppetやChef、Boshと同じく、用途に合わせたシーンで運用の簡素化や自動化が期待できます。

openstack01.jpg CanonicalはJujuを説明した

 また、OpenStackを取り巻くネットワーク仮想化について、上海交通大学からも発表がありました。より多くのシステムをOpenStack環境上で管理する場合に超えるべき壁と、ネットワーク設計上の限界について、よく整理された、非常によい発表でした。企業向けのプライベートクラウドサービスを考えた場合、IaaSとして多数のLANセグメントを収容するには、それぞれ適応できる規模というものが存在します。VLAN数以下であればOpenStackに最初から備わっている仕組みでも十分に機能しますが、それを超えるような数であれば、レイヤ2セグメントを広げるためのネットワーク仮想化技術を取り入れる必要があります。その際のトンネリングプロトコルの例がVXLANでありNVGREです。これ以外にも多数のネットワーク仮想化技術がありますが、今後の開発動向に注目といったところでしょうか。

openstack02.jpg 上海交通大学によるネットワーク問題に関するプレゼンテーション

 KTからは、OpenStackストレージであるSwiftを使い、高いコスト効果を実証したという発表もありました。SwiftはAmazon S3のようなオブジェクトストレージを実現するシステムであり、OpenStackでは当初から仮想マシン・イメージの蓄積保存などが想定されていました。

 KTが実装したサービスでは、主にSNSのイメージファイルなどの保存用途として使われており、データの書き込みが頻繁に行われるようなストレージシステムとは少々傾向が異なっています。オブジェクトストレージはあくまでも低価格に大容量のデータを安全に保存するために創られた仕組みであり、通常のDASやNASのように高いI/O性能を期待するのは、仕組み的にも無理があります。そのことをよく理解した上で、OpenStackストレージとしてのSwiftを活用するとよいでしょう。

 今後もOpenStack APACは定期的に行われる方向性が示され、次回は台湾での開催が決まりました。今後もアジアでOpenStackは加熱していくことでしょう。

アジアで熱を帯びるOpenStackへの取り組み

 これに先立つ2012年6月には、台湾でTaiwan OpenStack User Group(TWOSUG)の第2回Meet Upが開催されました。発表者としては、OpneStackの設立メンバーでもある台湾の工業技術研究院(ITRI)、UbuntuをリリースするCanonical社など数社が集まり、また、日本OpenStackユーザー会として、ビットアイルが発表を行っていました。

 このMeet Upでは、北米で行われたOpenStack Summitの情報共有や、OpenStackの技術動向ならびに運用ツールの紹介などいくつか発表が行われていました。まだ2回目のMeet Upながら、座席も満席と盛況でした。今後も各国でOpenStack User Meetingが行われていくことでしょう。

劇的な変化が起きているクラウド市場

 台湾でのOpenStack Meet Up以外にも数多くの動きがありました。なかでも面白い動きとしてARM CPUコアを多数搭載したサーバ技術を提供しているCalxedaが、ARMサーバ環境で動作するOpenStackの動態展示が行っていました。低消費電力による大量な計算機資源を提供する基盤技術として、OpenStackの開発にCanonicalとともに取り組んでおり、x86 CPU以外の選択肢として有望な技術が見えてきました。これらのMicro Serverを使ったハイパー・スケーリング(Hyper Scaling)と呼ばれる新興分野には、今後も注目が集まっていくことでしょう。

(松本 直人)

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