データセンターのすべての要素を抽象化
ヴイエムウェアが語る「Software-defined Datacenter」とは
2012/09/03
米ヴイエムウェアは8月末に米サンフランシスコで開催したVMworldで、「Software-defined Datacenter」を目指すという姿勢を鮮明にした。これをヴイエムウェアは「ビジョン」(構想)と呼んでいるが、「クラウド関連技術は今後こういう方向で進化する」という、同社としての見方を表現した言葉であるとともに、これを新たな市場としてとらえ、この市場に最初に参入していくという意思表明であるとも考えられる。
新CEOのパット・ゲルシンガー(Pat Gelsinger)氏は、同社CTOのスティーブ・ハロッド(Steve Herrod)氏が一字一句吟味したSoftware-defined Datacenterの定義として、「すべてのインフラが仮想化されてサービスとして提供され、さらにこうしたデータセンターの制御が完全にソフトウェアで自動化される」世界を目指していると基調講演で語った。
簡単にいえば、「やりたいことを即座に実現したい」と思っても、ハードウェアの限界や、設定にかかわる負荷、リスクなどを言い訳にしてじゃまになることがあるのなら、ソフトウェアの力で取り払ってしまえという意味だ。もう少しいえば、ハードウェアだけでなくソフトウェアについても閉じた仕組みを排除し、クラウドの一部として制御できるようにすべきだという考えでもある。
この言葉は明らかに、ヴイエムウェアが買収したNiciraもその急先鋒である「Software-defined Networking」から生み出されたものだろう。ハードウェアの機種の違いが理由で、災害復旧対策(DR)のためのストレージ間のデータの複製ができないとか、ネットワークで新たにVLANを設定しなければならないので、新たなプライベートネットワークセグメントの作成に時間が掛かるとか、既存のハードウェアおよびソフトウェアの都合で足をひっぱられるような状況から卒業できることが狙いだ。
8月28日掲載の記事でお伝えしたが、ゲルシンガー氏は今回のVMworldの基調講演で、今後新しいアプリケーションを立ち上げるのに要する時間は、現在のように数時間から数日といったレベルでなく、数秒から数分にならなければならないと話した。そのためにはSoftware-defined Datacenterが必要になってくるとし、CPU以外の、ストレージやネットワークについても、「抽象化」「プール化」「自動化」を推進していかなければならないと話した。既存の技術で実現可能なことでも、迅速に、自動的に行えなければならない。
すでに実現している機能も多い
ネットワーク関連でヴイエムウェアは今回、VMware vSphereにおけるVXLAN実装を正式に発表した。VXLANはNiciraも対応を表明しているトンネリングプロトコル。もともとvShiled EdgeはスイッチのVLAN機能やMAC-in-MACでデータセンター内ネットワークの論理的な分割を実現していたが、その論理的な分割の方法として、VXLANが新たに加わったことになる。これにより、ネットワークの仮想化という点でさらに進化した(Niciraとの関係については、別記事でお伝えする)。ヴイエムウェアはAristaやシスコなどのネットワークハードウェアベンダとも連携し、VXLANゲートウェイなどの整備を進めている。
今回のVXLAN実装では、vSphereの仮想スイッチにVXLANのトンネリング機能を搭載し、vShield Edgeとの連動を実現している。これによりvCloud Directorを操作するだけで、仮想データセンター(vDC)を構築し、このvDCの仮想ネットワークを即座に構築できるようにしている。ネットワークを仮想化するだけでなく、仮想データセンター構築作業の一環として構成できるようにしているのがポイントだ。
ストレージについては、ヴイエムウェアはすでに興味深い機能をソフトウェアで実現している。
VMware vSphereでは、仮想マシンを稼働したまま別の物理サーバに移動できるライブマイグレーション機能の「vMotion」に加え、仮想マシンを稼働したままそのデータを別のストレージに移動できる「Storage vMotion」機能も搭載している。さらに仮想マシンを、物理サーバの負荷状況に応じて自動的に適切な物理サーバに再配置する「DRS(Distributed Resource Scheduler)」のストレージ版として、「Storage DRS」機能も提供してきた。
今回発表のvSphere 5.1では、仮想化環境構築コストに直接影響を与える重要な機能「Enhanced vMotion」(以前、異種プロセッサ間の仮想マシン移動機能が「Enhanced vMotion」と呼ばれていたが、その話ではない)を搭載した。Enhanced vMotionは、vMotionとStorage vMotionをワンクリックで同時に実行するというもの。これができると、共用ストレージなしでもvMotionが利用できる。
Enhanced vMotionには大きなインパクトがある。VMware vSphereのライブマイグレーション機能であるvMotionは、当初からヴイエムウェアのサーバ仮想化製品の「キラーアプリ」。しかし、vMotionを使うには共用ネットワークストレージが必要であり、特に中小規模のサーバ仮想化では、そのコストが問題とされてきた。しかしEnhanced vMotionによって、必ずしもネットワークストレージを用意しなくても、vSphereをvMotionとともに使い始められるようになった。
もう1つ、Software-defined Datacenterという点から興味深いストレージの新機能は「vSphere Replication」。これは「VMware vCenter Site Recovery Manager(SRM)5」で登場した機能で、ストレージ装置の複製機能を使わずに、SRMのソフトウェア機能だけで遠隔拠点へのデータ複製ができるというものだ。これが今回発表のVMware vSphere 5.1にも搭載された。SRMを使わなくても、vSphereの機能だけで基本的な災害対策(DR)ができるようになった。
ヴイエムウェアはさらに、サーバ機に搭載するPCIeフラッシュと、ネットワークストレージをベンダ非依存で連携させる「vFlash」という機能や、サーバ機の内蔵ハードディスクを論理的に結合してスケールアウトストレージを構築できる「vSAN」という機能も開発中だ。
仮想データセンター自体が「サービス」になる
以下は、クラウドインフラ製品担当シニアバイスプレジデント、ボゴミル・バルカンスキー(Bogomil Balkansky)氏に、私がSoftware-defined Datacenterビジョンについて聞いた内容だ。
―― Software-defined Datacenterについて、何を目指しているのかをより具体的に説明してほしい。
ストレージとネットワークに、これまでサーバについて実現してきた次の3つの原則を適用することを目指している。
1つは抽象化を実現すること。物理的なメモリやCPUを仮想化したように、物理的なハードウェアを仮想的な構造として再現する。
2つ目は、仮想的なフレームワークに、仮想的なサービスを挿入できるようにすること。例えばネットワークセキュリティでは、レイヤ2の仮想ネットワークの上に、ファイアウォール、負荷分散、ウイルス対策、IDSなどレイヤ4〜7のサービスを提供する。顧客は各社の製品から選択して利用できる一方、これらをすべてvCloud Directorから制御できるようにする必要がある。ストレージではバックアップなどが提供される。
3つ目は、すでに述べた抽象化された構造および仮想サービスを仮想データセンター(vCloud DirectorにおけるvDC)に組み込んで、提供を自動化できること。仮想データセンターに、処理能力やサービスを事前組み込みしたものを、求められる規模やサービス品質に基づいて複数用意しておき、仮想マシンをいずれかの仮想データセンターにドロップした瞬間に、この仮想マシンは必要なサービスが活用できる状態になる。
―― さらに、仮想マシンのライフサイクル全体を通じた管理も重要になるのでは?
重要なのは、ポリシーベースの自動化だ。いまの説明で、私は当初のプロビジョニングについて説明したが、あなたがいうように、最初の配置は第一歩でしかない。ワークロード(仮想マシン)が使われていくにつれ、状況は変化する。瞬時に調整を行い、特定アプリケーションに設定されたサービスレベルを維持できなければならない。
ライフサイクル管理ではいくつかやらなければならないことがある。新たに重要になってきているのはキャパシティ管理だ。各仮想データセンターにおいて仮想マシンを増やしていくと、それぞれに十分なキャパシティを確保しなければならなくなる。そこで今回発表したvCloud Director 5.1では、Elastic Datacenterという考え方を導入している。複数のvCenter Serverにまたがって仮想データセンターを構成できるというもので、各仮想データセンターへの物理リソースの割り当てがより柔軟に行えるようになった。
ポリシーベースの管理のもう1つの側面は、仮想マシンが十分なCPU、メモリ、ネットワークI/Oを持っているかを確認し、仮想CPU、仮想ストレージ、仮想ネットワークの基盤同士がネゴシエーションをしたうえで、サービス品質を維持するために、仮想マシンをどこへ動かすべきかを決定するというものだ。
ライフサイクル管理には、構成管理やパッチなどがあるが、これについてはvCenter Operations製品群で構成管理を提供している。ゴールドテンプレートを作成し、実際の仮想マシンの構成がこのゴールドテンプレートからかい離しないように図ることができる。こうした機能を持つため、vCenter Operationsを今回、vCloud Suiteに組み込んでいる。
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