Ruby、PHPをAWS東京リージョンで利用可能
PaaSベンダのEngine Yardが日本で事業を開始
2012/09/04
PaaSベンダーの米Engine Yardは2012年9月4日、東京で記者会見を行い、日本市場での事業を本格的に開始すると発表した。すでに国内でもベンチャー企業を中心に約20社が同社サービスを利用しているが、法人設立のアナウンスと同時に正式販売を開始した形だ。サービスは、Amazon Web Servicesの東京リージョンを含めて世界7リージョンで利用できる。現在同社のソフトウェアスタックはAWSのみをサポートするが、今後は国内のクラウドベンダとの提携も視野に入れる。2013年末までに国内で新規顧客200社の獲得を目指すという。
クラウド、マネージドの主力2製品を東京で提供
同社は3月に日本法人を設立し、ソフトウェア・エンジニアの募集やドキュメントの翻訳など準備をしてきた。日本市場では主力製品であるEngine Yard CloudとEngine Yard Managedの2つにフォーカスを当てて販売を展開する。
Engine Yard CloudはAmazon EC2インスタンスを使ったセルフサービス型のPaaSでRubyとPHPに対応する。利用料はスモールインスタンスで1時間9円(月額約6480円)など。Engine Yard Managedはサーバを含むスタック管理をEngine Yardに委託できるもので、こちらはパートナー経由でも販売をしていく予定という。ManagedサービスはSLAレベルを選ぶことができ、構成やSLAレベルによって料金が異なる。多くの顧客はSLA 99.999%で開始し、場合によっては99.9999%を選ぶ顧客もいるという。
会見で米Engine Yardの社長兼CEOのジョン・ディロン(John Dillon)氏は、PaaSを利用するメリットとして「より多くの時間をイノベーションに当てることができるようになる。技術的な詳細を気にせずに、開発が速くなる」ことを挙げた。
シングルテナントにこだわり差別化
Rubyを対象としたPaaSとしては、すでにSalesforce.com傘下のHerokuがあり、国内でもRuby開発者には広く認知されている。また、同じRuby向けPaaSとしては、IIJのMogokや、paperboy&co.のSqaleなどがあり、今後は競合も増えそうだ。
こうした競合との差別化についてEngine Yardが強調するのは「シングルテナント」であることだ。クラウドではOSインスタンスやデータベースといったアプリから見た下位層のリソースを複数アプリで共有する「マルチテナント方式」が多い。アプリ間でリソースを共有することで稼働率を上げて運用コストを下げることができる一方、マルチテナント方式では、そのプラットフォームがダウンすると、そこで稼働している全ての顧客のアプリが落ちる、もしくは影響を受けるというデメリットがある。
例えば、2012年6月に米東海岸で発生した雷雨による大規模なデータセンター障害で、Heroku利用者はアプリによって1時間から数時間のダウンタイムを余儀なくされた。このとき、Engine Yardではデプロイを担当するモジュールが落ちていたものの、フェイルオーバーを設定をしていた顧客のアプリについては影響を受けなかったという。Engine Yardでは、例えばデータベースを7つある任意のAWSのリージョンで分散することができるという。
Engine Yardはシングルテナントモデルで、OSとその上に乗るソフトウェアスタックをテンプレート提供や情報提供を通してサポートする。このため、SSHでOSインスタンスにログインして、カーネルのチューニングをすることができるなど、柔軟性が高いのもメリットだという。
「フェイルオーバーも含めて、単一の、テストされたソリューションが提供されているのが強み」(Engine Yard日本法人 代表取締役社長 ティモシー・ロメロ氏)といい、OSレベルからアプリケーションレベルに至るまで、自社に専門チームを抱えることで差別化していくという。「われわれはサポートにコールセンターを使いません。スタッフはエンジニアで、開発力とネットワーク力を持っています」(ロメロ氏)。逆に、現在アルファテスト中のNode.jsなど新規プラットフォーム採用には慎重で、「自分たちが本当に得意だと言える言語をサポートする」(ディロン氏)としている。
80%の顧客はRuby on Railsを利用
米Engine Yardの創業は2006年。当初はRuby/Railsのコンサルティング会社としてスタートし、複雑なデプロイ作業などでコンサルティングを行う中から、現在の事業を立ちあげてきた。世界58カ国に2500を超える顧客を抱え、年間売上額は約2800万ドル(約22億円)となっているという。
中堅企業や大企業がクラウドを使って新しい試みするようなケースでの利用も少なくないものの、現在同社のプラットフォームを利用している層としてはスタートアップ企業が多いという。言語プラットフォーム別では、顧客の80%はRuby on Railsを利用。ただ、新規顧客では、RubyとPHPがほぼ同数程度選ばれているという。最近は、「Node.js伸び率が圧倒的で、将来的にはRubyやPHPと同程度使われる可能性もある」(ディロン氏)と考えている、という。
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