「第3回テックヒルズ」まとめレポート
FlasherはスマホやHTML5の世界にも踏み出せ
2012/09/05
2012年8月9日、六本木ヒルズ(東京・六本木)のイベントスペース「アカデミーヒルズ49」で、CROOZ主催の技術勉強会「第3回テックヒルズ」が開催された。テックヒルズは、インターネットサービスやソーシャルアプリに関する最新技術動向について、広くさまざまな企業のキーマンを招いて催される勉強会。
第3回となる今回は「2012..Flashの終焉!? 〜Flashの今後を見抜く〜」と題して、近年その行く末についてさまざまな憶測が飛び交っているAdobe Flash(以下、Flash)について、開発・提供元のアドビ システムズ(以下、アドビ)をはじめ、さまざまな企業のFlash技術者による講演と座談会が行われた。
以下、その内容をダイジェストで紹介する。
アドビが描くFlashのロードマップとは
まずは、アドビのデジタルメディアビジネス開発部 ビジネス開発担当 太田禎一氏が登壇し、Flashの開発・提供元ベンダとしての立場から、Flashの現状と未来についてプレゼンテーションを行った。
2011年11月にアドビがモバイルブラウザ向けFlash Playerの開発終了を発表して以来、モバイル端末を主たるプラットフォームとするソーシャルゲーム開発者の間ではさまざまな憶測が飛び交っていた。太田氏は「ネットでは『情報強者』と呼ばれる人々が勝手に『Flashは死んだ』と、まるで預言者のように吹聴しているが、実際のところはFlashは依然として広く使われている」と述べ、さまざまな市場調査データを示しながら、当面はFlashが持つ重要性は変わらないことを力説する。
では、その先の未来に目を向けた場合には、果たしてFlashはどのような運命をたどることになるのか。太田氏は、「確かに、アドビが何もしなければ、今後Flashは先細りになるかもしれない」としながらも、現在アドビがFlashの明確なロードマップを示していることを紹介した。それによると、Flashは今後「プレミアムビデオ」と「最高品質の“AAA”ゲーム」の分野にフォーカスしていくという。特に後者に関しては、すでにGPU対応の高速描画エンジンに対応したActionScriptフレームワークの提供や、高機能プロファイラの開発などを着々と進めているという。
また、アドビが撤退を表明しているのはモバイルブラウザのプラグインだけであり、Adobe AIRによるスマートフォンアプリの開発技術は、これからも進化させていく。「この点については、くれぐれも誤解なきように」と太田氏は念を押す。しかし逆に言えば、モバイルブラウザ向けFlashコンテンツは、早々にHTML5に対応させた方がいいということにもなる。
ただし太田氏によれば、現状ではHTML5の実装が成熟しておらず、またFlashからHTML5への変換ツールも、アドビ製のものを含め、まだ決定版といえるものが出てきてないのが現状だという。
「そのため、HTML5対応に関しては、今後1、2年の間は、さまざまなソリューションの中から適したものを適宜ピックアップして使う“自己責任フェイズ”になるだろう」(太田氏)
では、これから新規に開発するコンテンツは、初めからHTML5とJavaScriptで作成した方がいいのだろうか?
太田氏は「それも1つの知見だが、HTML5とJavaScriptの世界には、グラフィックスやインタラクションのノウハウがあまり蓄積されていない。その点、Flashのコミュニティには、世界中の優秀なクリエーターが集結している。この有能なクリエイティブプールをいかにHTML5に移行できるかが、今後のチャレンジだ」と述べ、Flashクリエーターは今後、Flasherとしてのアドバンテージを保ちながらも、HTML5をはじめとする新たな技術も積極的に学んでいく必要があると説く。
「立ち止まらずに新しい技術を学び続けていけば、Flasherの未来はきっと明るいものになるはずだ」(太田氏)
Flashで培ったノウハウをHTML5にも継承していくべき
続いて、ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)の近澤良氏が登壇し、同社におけるFlash開発の現状とこれからについて講演を行った。
近澤氏は、HTML5とJavaScriptの開発フレームワークである「Arctic.js」の開発者として知られる。そんな同氏も出自はFlash開発者であり、「誤解しないでいただきたいが、今でもFlashはとても好きだ」と断ったうえで、しかしスマートフォンブラウザ上でFlashが再生できなくなることで、従来Flashが持っていた「クロスプラットフォーム性」の強みは失われざるを得ない点を指摘する。
ただし同時に、Flash自体はデザイナとプログラマの分業を可能にする非常に優れたツールであり、「これまで培われてきたFlash開発の資産は、今後も受け継がれていくべき」とも述べる。
そのためにDeNAが現在取り組んでいる施策として同氏は、HTML5開発における「SWFランタイム」「Flashライクな開発」の2点を紹介した。
SWFランタイムに関しては、Flash Lite 1.1のSWFコンテンツをHTML5+JavaScriptに変換する「ExGame」、さらにExGameの次世代版ともいえる変換エンジン「Post ExGame(Pex)」の開発および提供を行っている。特にPexは、ExGameと比較して変換コンテンツを極めて高速に再生できることが最大の強みだという。
また、Flashライクな開発という点では、同社が提供するArctic.jsが「ActionScript 3.0ライク」な開発スタイルをサポートしており、近澤氏いわく「ActionScript 3.0の開発経験のある方なら、非常にとっつきやすくなっている」という。
これら以外にも、HTML5開発のためのさまざまなツールやミドルウェアが出てきており、またActionScriptとJavaScriptが非常に似ていることから、近澤氏は「FlasherはこれまでFlash開発で培ったフロントエンドのスペシャリストとしての強みを生かしながら、HTML5の世界に移行していくべきだ」と結論付けた。
スマートフォンブラウザ向けのFlash→HTML5変換ソリューション
次に登壇したのは、本イベントの主催社であるCROOZの土濱健太郎氏。CROOZでは現在、アニメーションコンテンツはすべてFlashで制作しているという。土濱氏によれば、これは「ガラケーのシェアが依然として6割を占めており、ガラケー向けコンテンツの制作効率を考慮するとFlashで作るのが最適」と判断した結果だという。
ただしスマートフォン向けコンテンツ、中でもiOSとAndroid 4.x向けに関しては、Flashコンテンツがサポートされていないため、1度Flashで作成したコンテンツをHTML5に変換している。その際に使う変換ツールには、mobageプラットフォーム向けコンテンツに関してはExGameを利用している。ExGameについて土濱氏は「コンテンツの再現度が素晴らしい。mobageプラットフォーム向けは、これで十分」と高く評価する。
一方、mobage以外のプラットフォーム向けには、グーグルが提供する変換ツール「swiffy」を使っているが、こちらはプラットフォームの種類によっては動作が不安定になることもあるため、適宜Flash以外の手段でアニメーションを構築しているという。
具体的には、「CSS3アニメーション+JavaScript」もしくは「Canvasアニメーション+JavaScript」のどちらかの手段をとる。ただ、それぞれに特有のメリットとデメリットが存在するため、適宜コンテンツの性格や開発生産性を考慮しながら、適切な方法をとる必要があると土濱氏は指摘する。
最後に、Flasherの今後について同氏は、「Flashがそのまま動こうが、HTML5にすべて置き換わろうが、あるいはFlashをHTML5に変換しようが、Flasherの最終的なゴールは魅力的なコンテンツの提供であることに変わりはない。従って現実的には、FlashとHTML5はどちらもFlasherにとって必須の技術になるだろう」と述べ、エンジニアはJavaScriptを、そしてデザイナは変換ツールなどの習得を通じて、HTML5に積極的に取り組んでいくべきとの認識を示した。
Flashはソーシャルゲーム開発で今後も必要とされる?
本イベントの後半には太田氏、近澤氏、土濱氏に、gumiの植村完司氏とgloopsの中家啓太氏を加えた5人によるパネルディスカッションが行われた。
今後、Flasherは必要なのか?
冒頭、まず「今後、Flasherは必要なのか?」というテーマで各パネラーの意見が交わされた。
植村氏は、「現在gumiでは、シェアの高いフィーチャーフォン向けのFlashコンテンツをまずは作り、それをスマートフォン向けにHTML5やCSSデータに変換するという方法でコンテンツを開発している。Flashはコンテンツ編集ツールとして極めて優れているので、仮に今後フィーチャーフォンのシェアが落ちたとしても、コンテンツの制作・編集ツールとしてはFlashを使い続けることになると思う」と述べ、Flashは今後も必要とされるだろうとの見解を示した。
一方、中家氏は「Flasherと一口に言っても、アニメーションが得意な人もいればプログラミングが得意な人もいる。また魅力的なコンテンツを作るには、技術だけではなく演出も重要。従って今後は、HTML5のアニメーションに特化したスキルを伸ばす人、JavaScriptのプログラミングに特化する人、あるいは演出に特化する人など、それぞれの立場で自分がやりたいことを模索していくのがいいかもしれない。必ずしも皆が皆、同じ道を進む必要はないだろう」との考えを述べた。「Flash開発におけるそれぞれの役割ごとに、HTML5の世界へ向かう道筋も異なってくるだろう」(中家氏)
今後のモバイルソーシャルゲームにおけるFlashについて
次に、「今後のモバイルソーシャルゲームにおけるFlashについて」というテーマでパネラー間で意見が交わされた。
植村氏の「現在のソーシャルゲームではカードゲームが全盛で、Flashは見た目の演出にしか使われていない。これはもったいないのではないか?」との問題提起に対し、土濱氏も「確かにその通り。Flashは本来、ユーザー操作を介したインタラクティブなコンテンツの制作に向いているはず。今後は制作側が、そうしたコンテンツに適したゲームエンジンを積極的に提供していくべき」と同調した。
これに対して太田氏も、「アドビでも高品質ゲームに重点を置いたFlashの将来戦略を打ち出しており、モバイルプラットフォーム上でも高速でアクションドリブンなコンテンツが作れるようになる。制作側には、ぜひこうしたコンテンツをどんどん出していってほしい」と期待を寄せる。
Flashを用いない開発手法について
パネルディスカッションの最後のテーマは、「Flashを用いない開発手法について」。各パネラーから太田氏に対して、FlashからHTML5への移行パスに関して質問や要望が相次いだ。
近澤氏は、「Adobe Edge Animateが初めて出てきたとき、これをなぜ別ツールとして分けてしまったのか、とても疑問に思った」という問題提起がなされた。これに対して太田氏は、「確かに、Flashの開発環境上で、ボタン一発でHTML5への変換が実現できれば理想的だ。だが、アドビからそのような機能が提供されることは、短期的には期待できないのが実情。なので、現時点ではAdobe Edge AnimateやCreateJSなどの個別ツールを使い分けながら、とにかくHTML5の世界へ向けて一歩を踏み出していただきたい」と述べ、アドビが提供するHTML5への移行パスの現状について理解を求めた。
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