アナリストやジャーナリストに本社でブリーフィング
米ブロケード、「SDN対応は本気」を改めてアピール
2012/09/18
米ブロケードは9月12日(米国時間)、同社が米国本社で行ったイベント「Brocade Analyst and Technology Day 2012」で、話題のSoftware Defined Networking(SDN)関連技術を積極的に生かして、自社のネットワーク製品群の価値を高めていく道筋を説明した。
「2年前のこの場でSDNについて(正確にはOpenFlow対応について)話した時は、業界のなかでも孤独な声だった」とブロケードCTOのデイブ・スティーブンス(Dave Stevens)氏は話した。当時は「SDN」という言葉を使っていなかったものの、目指していた方向はいまと基本的に変わらないという意味だ。同社は今年5月にも、OpenFlow対応とSDN戦略について発表したが、今回はより具体的な実績や計画を説明した。受動的な対応ではなく、最大限に活用していこうという意図が見てとれる。
前提となるのは、企業、サービスプロバイダのいずれにおいてもトラフィックパターンが大きく変化するとともにネットワークインフラの複雑化が進んできたこと。サーバ間の通信が急増し、ネットワークトラフィック量の増減の予測もつきにくくなっている。つぎはぎで拡張されるネットワークは、IPアドレッシングも含めて複雑化が進んでいる。これを解決するには、ネットワーク運用の抽象化と自動化が必要だとスティーブンス氏は話した。
このネットワークの抽象化と自動化を進める取り組みが、ブロケードにとってのSDN。仮想化レイヤでは、OpenFlowによるトラフィック・ステアリング/エンジニアリングを全面的に採用する一方で、VXLANやNVGREといったオーバーレイ型のネットワーク仮想化(分散トンネリング)も同時に推進する。これは、Open Networking Foundation(ONF)がこれまで言ってきた、OpenFlowを前提とするSDNの定義より広い。
スティーブンス氏は、ある記者の質問に、「(OpenFlowとオーバーレイは)コインの表と裏の関係だ。SDNを使って人々がやりたいことは、究極的にはネットワークインフラの上にプログラマブルな、あるいはソフトウェア的なインターフェイスを加えることだ。サービスプロバイダと企業は、アプリケーションニーズが異なる部分もあるが、(いずれに対しても)これら2種類のソフトウェア技術やツールで同じことを実現できる。ネットワークを完全に仮想化し、プログラマブルにすることだ」と答えている。そのうえで、OpenFlowはサービスプロバイダでまず採用され、次に企業ネットワークに広がるだろう、一方オーバーレイは、比較的早い段階から企業ネットワークで使われ始めるだろうとの見通しを述べた。
「SDNが進んでもコモディティ化はしない」
SDNにより、ネットワーク機器のコモディティ化が進むのではないかとの問いに対して、スティーブンス氏は次のように答えた。
「ネットワークインフラベンダが差別化を進められるチャンスは2つある。1つはSDNの実装方法にある。例えば今日発表したVDX 8770で、トンネリングプロトコルをASICレベルでサポートしているなどだ。優れたSDNの物理インフラを提供できるチャンスがたくさんある。もう1つはOpenFlowに関連する。OpenFlowは、これまでルータやスイッチの独壇場だったネットワークにおけるイノベーション(の担い手)を、分割する役割を果たす。これまでのルータやスイッチは今後も機能を提供し続けるが、コントローラ上のアプリケーションがこれを補完できる。ブロケードのような企業が、今後双方(スイッチとアプリケーション)の市場に参加しないといい切る理由はない」
しかし、まずネットワークの物理接続を、従来の階層型ネットワークからイーサネットファブリックに移行することで、SDN以前の数多くの課題を解決できる、というのが、現在の顧客に対するブロケードのメッセージだ。「ファブリックとSDNは相性がいい」とスティーブンス氏はいう。
ブロケードの「VCS」というイーサネットファブリック技術は、階層的に構成しなければならない従来のネットワークの常識を覆している。ネットワークのフラット化が実現できるが、極端にいえばどうつなげてもかまわない。スイッチの追加や、スイッチ間の接続帯域の追加は即座に実行でき、稼働を止めずにビジネスニーズに応じたネットワークの拡張が可能になる。また、仮想化環境上に新たな仮想マシンが接続されると、事前のポリシー設定に基づいて自動的に適切なVLANに割り当てられ、仮想マシンが移動した場合もVLANメンバーシップなどの接続フロファイルが適用され続けるといったプラグ&プレイ的ネットワーキングを実現している。しかもMACアドレスをベースに基づいて識別するので、どんな仮想化環境でも対応できる。VCSは、ネットワークの接続構成におけるオープンな抽象化と自動化を実現している。
こうしたイーサネットファブリックの上で、さらに抽象化と自動化、そしてネットワーク管理のシンプル化を進めるために、OpenFlowやオーバーレイのネットワーク仮想化(分散トンネリング)が有効だという。
ブロケードは双方について、すでに初期の機能を投入している。同社のMLX、XMR、CES、CERスイッチではOpenFlowに対応するとともに、これをハイブリッドモードで使えるようにしている。ブロケードのOpenFlowハイブリッドモードは、スイッチのポート単位で従来のイーサネットトラフィックとOpenFlowを共存できることから一歩進んで、単一のポートに入ってくるトラフィックをingres時にフィルタし、一部のみOpenFlowによるトラフィック・ステアリングの対象とすることまでできる。すなわちこれまでのネットワーク運用を続けながら、一部のトラフィックにOpenFlowを適用するようにすれば、段階的にOpenFlow適用を拡大していくことができる。
米国の学術研究バックボーンであり、多数のネットワークの集合体であるInternet 2は,ブロケードのスイッチのOpenFlowハイブリッドモードを採用し、OpenFlowの大規模な展開を進めているという。用途は、OpenFlowが開発された当初に想定されていたものと同じだ。革新的なアプリケーションが開発できるようにするために、既存のIP/MPLS網上で、一部のトラフィックにOpenFlowを適用し、特定アプリケーションのために仮想的な専用レイヤ2網を構築する。例えばTCP/IPを使わないアプリケーションであっても、論理的にスライスされたネットワークで容易に検証ができるような環境を提供できる。Internet 2は、複数のドメインにまたがるOpenFlow運用の世界初の例になるだろうという。
ブロケードは現在OpenFlow 1.0に対応している。1.3対応について、サービスプロバイダ兼アプリケーションデリバリ製品担当バイスプレジデントのケン・チェン(Ken Cheng)氏に確認したところ、NECのコントローラと歩調を合わせる形で対応の予定という。ブロケードは自社開発のネットワークチップを使っているが、これはプログラマブルASICであるため、汎用ネットワークチップのように新規格への対応でチップを入れ替える必要が発生しないため、かえってコスト効率が優れているとブロケードは説明している。
オーバーレイ型ネットワーク仮想化では、8月末のVMworldで、同社の負荷分散製品ADXにおけるVXLANゲートウェイ機能の搭載を発表した。VXLANの終端、およびVLANとのマッピングが可能だ。この製品にはさらに、おもしろい付加機能がある。負荷分散を仮想化して、各VXLANセグメント内で適用できる機能だ。
ブロケードは、当面、VXLANとNVGREに対応したゲートウェイ機能を、VDXシリーズにも搭載していくという。NiciraのSTTへの対応については、Niciraを買収したヴイエムウェアの動きを見極めて判断したいとしている。VDXに搭載されれば、VXLANでいうVTEP(Virtual Tunnel End Point)として、サーバ機の前段でのトンネリング生成も可能になるはずだ。
「VXLANなどのオーバーレイ技術によって、複雑なトポロジが抽象化される。マルチテナント環境がサポートでき、迅速なデプロイメントと、ネットワーク資産の効率的な利用が可能になる」とチェン氏はいう。
最終的に重要なのはSDNを使うアプリケーション
だがチェン氏は「SDNの真のインパクトは、アプリケーションレイヤにおいてこそ感じられるようになるだろうと私は信じている。Northboundインターフェイスの標準化が進めば、顧客はネットワーク資産のカスタマイズやマネタイズを可能にするアプリケーションを書くことができるからだ」と続けている。
OpenFlowやNiciraのネットワーク仮想化では、「コントローラ」が指令塔の役割を果たす。これらのコントローラはスイッチや仮想スイッチの制御、つまり下向き(英語では「Southbound」(南向き)と表現する)にOpenFlowを使う。しかしコントローラがアプリケーションに対して提供するAPI(上向きなので「Northbound」と表現する)は、標準化の取り組みがなされてこなかった。
チェン氏は、業界全体でNorthbound APIの標準化を進めることが、コントローラベンダ間の差異に悩まされることなく、安心してアプリケーションが書けるようにするために必要だと強調した。
OpenFlowをめぐるONFの新たな動き
Northbound APIに関して、OpenFlowとこれに基づくSDNに関する標準化を進めているONFのエグゼクティブ・ディレクターであるダン・ピット(Dan Pitt)氏は6月、日本で「必ずしも標準化をすると決めているわけではないが、これにかかわる要件を探索(explore)している」と話していた。これが最近、多少前進したようだ。ONFは8月13日に、Northbound APIの要件を話し合うディスカッショングループの開設を発表した。ただし、その説明は「既存および(今後の)進化したBSS/OSSシステムをサポートするため」という限定をつけているようにも読める。どこまで一般的なAPIを想定しているのかは明確ではない。
ONFは同日、ほかにも興味深い発表をしている。その1つはForwarding Abstractions Working Group (FAWG)というワーキンググループを認めたという発表だ。この新設ワーキングループの議長にはブロケードのカート・ベックマン(Curt Beckmann)氏が就任した。FAWGに関するプレスリリースで、ONFはFAWGについて「このフォーカスされたチームは、ASIC、NPU、ネットワーク・フロー・プロセッサといったハードウェア転送ターゲット上でのOpenFlowのイノベーションと提供を加速することに専念する」と説明している。
また、この発表に関するQ&A資料では、「ネットワークの未来はソフトウェアにあるものの、根底となるハードウェアにおける進化と、OpenFlowなどの技術の最適化を合わせることで、価格性能比の向上、エネルギー効率と耐障害性の改善をもたらす新しいソリューションを、業界が開発していけるようになる。われわれは、第1段階の成果が2013年1月に、理事会に提出されると期待している」と述べている。
これは、ソフトウェア一辺倒だったONFが、必要にせまられて変化していこうとしている1つの表われとしてとらえられるのではないだろうか。
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