[Analysis]

Google ストリートビューは新しくない

2008/08/18

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 日本国内でGoogle ストリートビューのサービス提供が始まった。実に感慨深い。というのも、いまから8年ほど前、とある起業家から「カーナビや今後のWeb向けに、ロードビューデータを整備したい」というビジネスアイディアを提案され、投資を検討したことがあったからだ。

意外と古いコンセプト

 斬新に見えるストリートビューだが、元はGIS(Geographic Information System:地理情報システム)の分野で確立された手法を利用している。

 やり方は至ってシンプルで、GPSなどを用いて位置と走行方向を記録しながら地域をくまなく走り、パノラマビデオカメラを使って撮影するだけだ。そのデータをポストプロダクションソフトウェアで処理すると、どの地点からでも、周囲360度を見渡せるデータに整備することができる。

 例えば、都内の道路総延長は2万4052キロメートル。そのうち道幅5.5メートル以下の道路1万6619キロメートルを除く、主要道路の7433キロメートルを時速10キロメートル、1日5時間で整備すれば148日間。経路の無駄やより狭い道路、作業分担を考えても、数千万円のコストで都内のデータ整備が完了するだろう。

 8年前の問題はデータ容量であった。仮に5メートルごとでイメージを保存する場合、主要道路7433キロメートルのストリートビューは148万枚のイメージとなり、画像1枚が100KBとして148GB。当時としては膨大な量である。仮に10分の1に圧縮できたとしてもDVDには収まらない。

問題はビジネス

 ビジネスとしてのデータ整備事業のポイントは、精度、量を武器に、先んじてマーケットを寡占化し、後発に参入余地を与えないことである。しかし、参入コストに対して、対象マーケットが小さな時点で参入してしまうと、データの陳腐化と累積損失が進み、競争力が付かない可能性がある。

 当時提案された事業計画では容量制限を考えて主要交差点のロードビューから始めることになっていた。しかし、それではたいした代金も取れず、参入障壁も築けない。また、不動産サイトなどへの応用も計画されていたが、その場合はビューデータの最新性への要求も高くなる。特に、あれば便利だが、不可欠とまではいえないサービスの採算性は読みにくく、当時はトータルで計算してみると採算性確保は困難と判断し、結局投資は見送った。

 その後、サービスの開始を見ることはなかった。ほかの投資家も二の足を踏んだのだろう。同様に、当時、米国西海岸で行われていたというほかの会社によるストリートビューサービスも、長らく日の目を見ることはなかった。

ドッグイヤーの終焉

 1990年代の後半から2000年の初めにかけては「ドッグイヤー」という言葉がもてはやされ、「スピードが勝負だ」と多量の資金を投下したサービス開発競争が行われていた。いくつかは成功を収めたが、大多数は採算ラインを超えられないまま赤字を垂れ流して消滅していったのである。黎明期のロードビューもそうしたサービスの1つだ。

 その後、ドッグイヤーの時代に消滅したはずのサービスはWeb2.0の時代に、「新しい斬新なサービス」として登場してくることになる。当時のITバブルに乗って株を売り抜けるためにはスピード、そして、先端的なイメージが大変重要であったが、当時も本当に重要だったのは、ビジネスモデルの練りこみと、サービス投下タイミングの見極めであったのだろう。

遺物再発見の勧め

 さて、Google ストリートビューだが、 グーグルほどの利益基盤を持てば、ほかのサービスと比べて相対的に安価な費用で、日本でもサービス提供可能だ。8年前と異なり、現在であれば、プライバシー問題に関しても大量の画像のチェックを、以前より低コストで行うことができる。つまり、進歩した画像解析技術により、ポストプロダクションで顔や自動車のナンバープレートの何割かは自動的に判別できる。

 さらに、Web監視技術を応用して、例えば、特定画像に対するアクセスの急上昇を管理し、“注意を引く画像”を特定できる。その後に人手による修正やアクセスブロックをかけることができるだろう。

 ドッグイヤー後のサービス展開で必要なのは、サービス面での奇抜な発想ではなく、採算に載せるバックエンド技術とコスト低減手法、そしてビジネスパートナーとのマッチングだろう。サービスアイディアならば、ドッグイヤー時代に消滅した事例から、失敗要因も含めていくらでも学ぶことができる。

少しの心配

 しかし最後に1つ心配なことがある。先端的イメージの維持のために、各種サービスの投入と獲得を続けてきたグーグルだが、YouTubeの事業採算化では、目的達成に苦労しているようにも見受けられる。ストリートビューに関しても、“話題になる”サービスであることは確かなのだが、CGMと異なり、データ維持コスト自体は下落余地が限られるサービスであり、このコスト負担を利益に結び付けられるのかは不明だ。ストリートビュー自体が、必須ではなく、あれば便利というサービスの性格は以前と変わりない。

 宣伝的サービスとして、費用/地域を限定してやっていればいいのだけど、ドッグイヤーに追い立てられたITバブル世代のように、先端サービス企業としてのイメージの維持のために利益を浪費する構造になってはいないのだろうか。

 温故知新。先端性を追い求める中での冷静さこそ、ドッグイヤーの教訓なのかもしれない。

(日本ソフトウェア投資 代表取締役社長 酒井裕司)

[著者略歴]

「大学在学中よりCADアプリケーションを作成し、ロータス株式会社にて 1-2-3/Windows、ノーツなどの国際開発マネージメントを担当。その後、ベンチャー投資分野に転身し、JAFCO、イグナイトジャパンジェネラルパートナーとして国内、米国での投資活動に従事。現在は日本ソフトウェア投資代表取締役社長



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