[Analysis]

ビデオ会議で「三丁目の夕日」

2010/06/01

webconferencing.jpg

 思いっきり私事の話だが、先週末に高校のクラス会を「世界同時中継」した。

 このクラス会は幹事役のA君の努力によって毎年(時には年2回)開催されていて、平均してクラスの約半数が参加するという優秀なものだ。去年参加したニューヨーク在住のB君が、今年は参加出来ないが皆の顔を見たいということで、「クラス会へカメラ携帯電話やカメラつきのノートパソコンの技術を使ってコストをかけずに「テレビ会議」参加ができるように設定できるような技術はないんでしょうかね」とメーリングリストで発言したのがきっかけだ。

 会議ではなく、多数の人間が参加する宴会で、個々の人の声を拾って遠隔参加者とのコミュニケーションをとるのは難しいだろうと思った。それでもだめもとで、やってみることにした。A君がPCとFOMAカードを会場に持ってくると言ってくれた。

 ビデオ電話というと、すぐに思いつくのはSkype。だが、調べてみると現在はベータ版のSkype 5.0でないとマルチポイントのビデオ通話に対応していないようだ。このニューヨークの同級生以外にも、世界に散らばっている人がいるため、マルチポイントでつなげたい。そこでシスコシステムズのWebExに目をつけた。

 WebExはビジネスで利用されるWeb会議サービス。これを使ったマルチポイントの音声会議には参加したことも何度かある。ビジネスでの利用を意図したサービスなので、アプリケーションやドキュメントの共有などの機能は充実しているのだが、今回の目的にはこうした機能は不要で、音声とビデオがつながればいい。オーバースペックだが、SkypeのようにPCにソフトウェアをインストールする必要がない(アプレットは使われる)ため、参加者に負担が掛からない。有償のサービスなのだが、今回はWebでトライアルアカウントを申し込んだ。まず自分で試し、開催当日の朝にはA君、ニューヨークのB君との接続テストを経て、クラス会に臨んだ。

 クラス会開始後まもなく、Web会議をスタートする。遠隔参加してくれるのはB君くらいかと思っていたが、アムステルダムとロンドンの同級生の名が表示され、ほどなくそれぞれの姿が画面に現われた。「おー、来たーっ」という感じだった。ビデオ会議の手順は簡単にメーリングリストに流しておいただけで、ほかに何の手助けもせずに一発で接続してくれた。Webブラウザだけで使えるサービスの良さともいえるのかもしれない。MacでSafariを使っているせいか本番ではビデオ通信に手間取ったB君も、Firefoxに代えて接続成功。

 宴会では多数の人間がコミュニケーションをうまくとれないのではないかという心配は、考えすぎだった。入れ替わり立ち代りPCの前に来て、順番に会話している。こちらはFOMAによる接続なので、帯域不足で日本側の参加者の顔が判別できないかもしれないとも考えていたが、PCの前に来て話す限りは、十分な解像度で映し出せる。

 つながったときは多数がPCの前に群がった。そして代わる代わるマイクを手にとって話している様は、まさに「三丁目の夕日」状態だった。音声会議通話だけだったらだれもそれほど感動しなかっただろう。国内の遠隔参加者との接続でもこれほどうれしいと思わなかったに違いない。日本とニューヨークとヨーロッパを結び、何年も会っていなかった同級生の今の顔を見て、変わったねとかひげがいいねとか話せるのは、とても新鮮で楽しい体験だった。その夜の私たちにとっては旧友の顔を見られることが、最強のコンテンツだった。

 いまはPCを使っているが、まもなくこうした用途にiPadのようなタブレット端末が使われることになるのだろう。また、家庭ではGoogle TVかどうかは分からないが、ネットとの融合を深めたテレビを使い、今回のようなビデオ通話が自然に行われるようになるのだろう。

 昔NTTドコモのイメージビデオで見た、寝たきりのおばあちゃんが孫の結婚式にバーチャルに参加するという話も、もはや夢ではない。最近「ちょっとした便利」が世の中にあふれていて鈍感になりがちだが、世界的なネットの進化が、確実に大きなインパクトを私たちの生活に与えてくれているのだということを、改めて実感した夜だった。

(@IT 三木泉)

情報をお寄せください:

Server & Storage フォーラム 新着記事
@ITメールマガジン 新着情報やスタッフのコラムがメールで届きます(無料)

キャリアアップ

- PR -

注目のテーマ

ソリューションFLASH

「ITmedia マーケティング」新着記事

AI生成コンテンツの大増殖で「ソーシャルメディア」が「ソーシャル」ではなくなる日
AIが生み出すコンテンツをAIが学習しさらなるコンテンツを生成する未来は、私たちが望む...

生成AIで美容業界の未来を創造 エスティ ローダーとマイクロソフトがAIイノベーションラボを設立
両社は消費者とのつながりを強化し、より迅速かつ効果的な市場投入を実現することを目的...

ドメイン変更によるSEOへの影響とは? メリットとリスクおよび失敗しない手順
ドメインはWebサイトの現住所を表し、それ自体がWebサイトの看板の役割も果たします。今...