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@ITは富士通と共同で、2009年7月にストレージに関する読者アンケート調査を実施した。これによると、ストレージ導入・運用上の課題として回答者の64.6%が「データ増によるストレージの拡張」を、また62.1%が「バックアップ/リカバリ時間の短縮」を挙げた。一方、ストレージ製品選択時の重視ポイントについては「導入コスト・保守コスト」が74.6%の回答を得て他を大きく引き離したが、同時に「連続稼働時の信頼性」「バックアップ時の処理速度」「導入設定や運用管理のしやすさ」がいずれも50%以上の結果となった。
この調査結果から確認できるのは、いま企業ユーザーは、とにかくコストの掛からないストレージを求めているということ、そしてこれとある意味で相反するが、信頼性やバックアップといった部分での基礎体力が欠かせないと考えていることだ。
低コストの観点からは、価格にして数十万円から百万円を超えたあたりを最低構成価格とするエントリレベルのストレージ製品が、大きな注目を集めている。しかし、上記の調査結果からも分かるように、エントリ・ストレージであっても、値段を払うだけの価値、すなわち「バリュー・フォー・マネー」が非常に厳しく問われる。
サーバ内蔵のディスクドライブだと、障害対策が十分にできないし、バックアップをはじめとした管理も行き届きにくい。だからこそユーザーとしてはエントリレベルのネットワークストレージに関心を持つ。しかし、サーバ内蔵のディスクドライブならサーバにその価格が含まれるから、コストは見えなくなっている。一方、ネットワークストレージだと百万円レベルの出費を余儀なくされる。この違いは大きい。
富士通は2009年5月、エントリ・ストレージとして「ETERNUS DX60/DX80」を新たに市場に投入した。この製品は、果たして出費を正当化できるような製品なのか。開発者はどこに魂を込めたのか。開発者を直撃した。
取材に応じたのはハードウェア担当の荒滝新菜氏、ファームウェア担当の中嶋一雄氏、ソフトウェア担当の矢野英治氏、そしてプロジェクト課長として製品開発を統括した大山貞之氏だ。
冒頭に、荒滝氏がちょっと意外なことを言った。「多数のドライブを積めば約120TBまで拡張できるので、中小企業だけでなく、大企業でも場合によっては使えます」。それだけでなく、今後ETERNUS DX60/DX80はファームウェアを拡張し、多数の筐体を束ねて処理を分散することにより大規模かつ高性能な環境を実現する「スケールアウト型」のストレージに進化させていきたいという。記憶媒体としてSSDも予定している。
富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 システムハードグループ 荒滝 新菜氏 |
つまり、信頼性の確保については、エントリ製品ということからは通常、思いつかないような用途も想定しているというのだ。「エントリ装置であっても、単体としての信頼性を高め、スーパーコンピュータのような環境にも適用できるようにしています」と中嶋氏が続けた。
富士通は、ETERNUS DX60/DX80が上位機種のDNAを継承した製品だとうたっている。中嶋氏は、その最大のポイントが信頼性にあると断言する。「エントリ・ストレージの分野に限れば、値段で勝負しても競合他社には必ずしも勝てないかもしれない。そうであったとしても、富士通は高信頼性設計という部分をしっかりやっていこうと決めている」のだという。
ならば聞こう。信頼性は具体的にどう確保しているのか。
「分かりやすいところでは、キャッシュの二重化、コントローラの二重化、キャッシュ内のデータの二重化など、システムを全部冗長化しています」(荒滝氏)。電源ユニットやディスクドライブももちろん冗長化構成になる。
これらの部品のいずれが故障した場合でも、システムを止めずに、いわゆる活性交換ができるようになっている。そして交換が終われば、その場で冗長性が回復する。
富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 中嶋 一雄氏 |
冗長化は設計面での対策だが、評価の部分でも力は抜いていないと中嶋氏は断言する。
「上位機種に比べれば安い部品を使わざるを得ません。しかし、1個1個の部品について擬似的に故障させ、壊れたときにどうなるかというテストを、全チップを対象に行っています。これにより1つのチップが壊れてもシステムが止まらないということを検証しています」(中嶋氏)
「部品を新規採用する場合も、信頼性保証部との協力のうえで、耐久性試験などにより使えることが確認されたものを採用しています。それでも壊れた場合でも大丈夫なようにつくっているし、検証もしています。つまり、設計思想、部品選定、検証のやり方は大型機とまったく同じです」(荒滝氏)。
ETERNUS DX60/DX80は「ETERNUS2000」という製品の後継に当たる。新製品の開発に当たって、ETERNUS2000においてフィールドで発生した重要障害をすべて分析し、同一の障害を発生させないことが徹底されたという。
大山氏が、マージン試験について付け加えた。「富士通では製品出荷時に、不良品を振り落とすためのマージン試験を、全数を対象に実施しています。温度や電圧に関するチェックですが、エントリ製品もこの試験の対象としています」。
バリュー・フォー・マネーという観点でいえば、信頼性だけでなくパフォーマンスや機能も重要だ。
性能目標としては、前機種のETERNUS2000と比べて1.5倍以上を設定し、これを達成したという。
性能向上のために行ったことの1つはインターフェースの高速化。ETERNUS DX60/DX80ではサーバとの接続インターフェースとしてファイバチャネルを装備しているが、DX80ではファイバチャネルのインターフェースとして4Gbpsに加え8Gbpsに対応している。8Gbpsは小型機、大型機を問わず、現時点では最速のファイバチャネル・インターフェースだ。「これでスループットは、実際には(ETERNUS2000の)1.8倍程度まで向上しました。インターフェースを変えるだけでは全体の性能は改善しないので、内部処理の見直しも行いました」と荒滝氏は話す。ディスクドライブは、15000rpmの高速SASドライブと、バックアップ用に7200rpmのニアラインSASドライブを採用し、この2種類を同一筐体内で共存できるようにしている。
機能は、下のリストを見てもらえば分かるが、かなり豊富だ。ここでは特に、運用性に大きな影響を与えるオンライン容量拡張と、多様な筐体内バックアップ(Disk to Diskコピー)機能に注目しておきたい。
ETERNUS DX60/DX80が搭載するおもな機能 |
・ロジカル・デバイス・エクスパンション ・LUNコンカチネーション(論理ボリューム連結機能) ・RAIDマイグレーション(活性ボリューム再配置) ・アドバンスト・コピー(バックアップ)機能 ・リダンダント・コピー機能 ・ディスクドライブパトロール ・データ暗号化 ・ブロックガード機能 ・RAID 5+0のサポート ・SANブート対応 |
ETERNUS DX60/DX80では、システムの運用を止めずに容量拡張が行える。詳しくいえば、これは2つの機能を使って行える。まず、既存のRAIDグループに、新たなディスクドライブを追加し、より容量の大きなRAIDグループに再構成することが可能だ(「ロジカル・デバイス・エクスパンション」機能)。さらにLUNレベルでは、未使用領域を既存LUNに連結し、LUN領域を拡張することができる(「LUNコンカチネーション」機能)。
富士通が「アドバンスト・コピー」と呼ぶ筐体内バックアップ機能も、業務を停止せずに実行できる。ETERNUS DX60/DX80の筐体内でディスクからディスクにデータをコピーする作業なので、テープへのコピーに比べ、大幅にバックアップ所要時間が短縮できる。標準でスナップショット機能が利用できるほか、オプションソフトウェアを使うことで、サーバやネットワークへの負荷をかけないバックアップが可能になる。また、フルコピーや差分コピーに当たる機能が使えるようになる。
では、エントリ製品ならではの製品面での工夫とは何か。荒滝氏はまず、ハードウェア的な扱いやすさを挙げる。
富士通 ストレージシステム事業本部 ストレージシステム事業部 プロジェクト課長 大山 貞之氏 |
保守性を高めるためにバッテリは排除したという。通常のストレージ製品では停電時でも、キャッシュ上のデータを消失しないように、電源を供給するためのバッテリが搭載されている。しかしバッテリは充放電の回数に限界があり、富士通ストレージの場合は3年で定期交換が必要となっている。ETERNUS DX60/DX80ではバッテリに代えて、充放電による劣化をほとんど気にする必要のない電気二重層コンデンサを採用。ETERNUS DX60/DX80の5年間の装置寿命のうちに定期交換しなければならない部品を全廃した。
同時に、従来のエントリ装置はバッテリからの電源をキャッシュメモリに供給することでデータを保護していたため、バッテリが切れた時点でデータは消失してしまったが、今回の製品ではコンデンサからの電源供給を受けてキャッシュメモリから不揮発性メモリへデータを退避するようになった。このため停電時間の長短にかかわらず、確実にデータが保護できるように改善されている。
また、コントローラモジュールや電源装置など、主要な部品には故障の発生を示すLEDがついている。このため、故障部品の交換作業は、LEDの点灯している部品を活性交換すればよい。管理ソフトを立ち上げたり、コンソール画面で確認したりといったことなしに、故障部品を交換可能である。
さらに中嶋氏は、コントローラの故障耐性を高めるべく工夫したと説明する。
「コントローラの部品が壊れた場合に、そのコントローラの動作が全部止まると、非冗長の期間が長くなって危険です。このため、壊れた部品が関係する機能だけを止めて、コントローラとしての動作をできるだけ維持できるようにしています。これにより、交換までにある程度の時間的余裕を持たせられるようにしました」
サーバ機でもそうだが、エントリ製品は必ずしも独立したコンピュータルームやデータセンターに設置できないため、動作音が大きな問題になる。また、ランニングコストに影響を与える消費電力も気になる。これらの点ではどうか。
富士通は、同条件で計測した場合、ETERNUS DX60が他社の競合製品と比べ、最高の成績を示したとしている(富士通調べ)。コントローラ×2、ディスクドライブ×12で構成したETERNUS DX60を、摂氏25度程度の気温の環境下で計測したところ、消費電力は330W、騒音は42dBだったという。
「(消費電力は)ETERNUS2000の際にもかなり落としましたが、今回はさらに改善しました。電源周りでの効率改善に加え、回転数可変空冷ファンのギアを増やし、回転数制御の点で厳しくチューニングしました。これはファンの動作音が温度変化に対して急激に上がらないことにもつながっています」(荒滝氏)
ETERNUS DX60/DX80は「エコモード」も搭載している。これはMAIDと呼ばれる技術で、アクセスのないディスクドライブの回転を止めることによって消費電力を抑えるというもの。例えば筐体内バックアップ機能を使用している場合に、バックアップボリュームとして設定しているディスクドライブ群の動作を、バックアップ時間以外は止めておくことが可能だ。
ETERNUS DX60/DX80がエントリ製品であるかぎり、コストとの闘いは避けられない。開発陣はコスト削減にどのように取り組んだのか。
「部品の価格は1円・1銭単位で徹底的に削るという地道な活動を行いました。ただし、それによってこれまでの保証ができなくなるといったことがないようにしました」(荒滝氏)。コントローラの1チップ化などによって部品点数も極力削った。
さらに、ETERNUS2000では交換を必要とするバッテリが別ユニットになっていたが、ETERNUS DX60/DX80ではこれに代わる電気二重層コンデンサおよび不揮発メモリの部分を1モジュールに一体化した。空冷ファンの数も、10個から4個に減らしている。こうした取り組みによって構造の簡素化も大幅に進めることができたという。
部品点数削減のため、ファームウェアでも工夫を行っている。例えば、装置監視制御のための専用監視プロセッサをSAS Expanderチップに一体化するため、この2つの部品のファームウェアを一体化した。
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「ETERNUS DX60/DX80」はまさに「バリュー・フォー・マネー」を追求した製品だ。信頼性、保守性、機能性、そして低コストに関する開発者の思いが、さまざまな部分で形となって現れている。
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ETERNUS DX60/DX80紹介 | |
ETERNUS DX60/DX80製品情報 | |
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提供:富士通株式会社
アイティメディア営業企画
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2009年10月31日
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@IT/ITmedia リンク |
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