Solaris Innovation Forum イベントレポート Solaris on x86がサービス基盤に 選ばれた理由とは? |
先日都内のカンファレンスホールにて開催された「Solaris Innovation Forum」は、PCプラットフォーム上で動作するSolaris、すなわち「Solaris on x86」の魅力を伝え、コミュニティでの情報共有を促進することを目的としたカンファレンスだ。その模様をレポートする。 |
Solaris Community for Businessの成果を紹介 |
「SolarisというとSPARC」、そんな印象が強いが、実際にはx86/x64プラットフォーム上で動作する「Solaris on x86」が浸透しつつある――Solaris Community for Business(SCB)は6月5日、都内のホテルにて「Solaris Innovation Forum」カンファレンスを開催し、PCサーバと同等の感覚で、Solarisがこれまで蓄積してきたさまざまな技術を利用できることの価値を訴えた。
SCBは2007年11月に、Solaris on x86の普及促進を目指す企業34社によって設立された。Solaris on x86が持つコストパフォーマンスや安定性、セキュリティといった特徴を企業に向けて訴求し、ソリューションの検証といった活動を通じて新しい市場を開拓することを目的としている。現在では、システムインテグレータや独立系ソフトウェアベンダ(ISV)、独立系ハードウェアベンダ(IHV)など42社が参加している。
今回開かれたSolaris Innovation Forumは、その活動状況と成果をパートナー各社、そしてエンドユーザーに向けてアピールする場となった。また、SolarisコンテナやZFS、DTrace、そして新しい仮想化機能のxVMといった、Solaris 10が提供する新機能の一端も披露された。
SPARC版で培ってきた価値をx86の世界に |
冒頭の基調講演には、サン執行役員 マーケティング統括本部長の九里禎久氏が登壇し、「SolarisおよびSPARCで培ってきたさまざまな技術やノウハウは、Solaris on x86でそのまま利用できる」と述べ、その付加価値とポテンシャルの高さを訴えた。
サン執行役員 マーケティング統括本部長 九里禎久氏 |
SolarisといえばSPARC上で動作するOSというイメージがいまだに強い。しかし九里氏によると、Solaris 10の全世界の登録ライセンス数は1100万に上るが、そのうちSPARC上で動作するものは約3分の1に過ぎない。残り3分の2はx64/x86で動作しているという。九里氏は、ほかの市場では競合するベンダであっても、Solaris on x86に関してはバックラインのサポートなどで支援を行っているとし、「エンドユーザーには安心して使っていただける環境を整えている」と述べた。
現在x86サーバの世界では、デュアルコア化、そしてマルチコア化が進んでいる。どんどん強化されるCPUリソースを効率的に活用するという目的からも、Solaris on x86は効果的な役割を果たすという。
例えば、システム運用管理ツールの「DTrace」は、ボトルネックを解析し、アプリケーションパフォーマンスの大幅な向上を支援する。「今後は、マルチコア、マルチスレッドアプリケーションのパフォーマンスをどのように引き上げるかが課題となるが、そのためのツールがまだそろっていない。しかしDTraceを利用すればそれが実現でき、マルチスレッドプログラミングでのデバッグが可能となる」(同社マーケティング統括本部 ISVアライアンス本部本部長 伊藤敬氏)
さらに、オーバーヘッドの少ない仮想化機能「Solarisコンテナ」やディスクの着脱を自由に行え、拡張性の高いファイルシステム「ZFS」といった機能によって、新たなビジネスを切り開くチャンスが広がるだろうとした。
ユーザーが語る「Solaris on x86」を選ぶ理由 |
「やはり負荷をかけ続けても死なない堅牢性が魅力」「安定して動作し、いざ障害が発生したときの対応も迅速に行える」――基調講演に続くパネルディスカッションでは、Solaris on x86を利用しているユーザー企業が、率直な感想と要望を述べた。
スクウェア・エニックス 情報システム部 ネットワークサービスグループマネージャー 立岡雅也氏 |
ゲームソフトメーカーのスクウェア・エニックスでは、オンラインゲーム「ファイナルファンタジーXI」のサーバ基盤としてSolaris on x86を採用している。同社の情報システム部 ネットワークサービスグループマネージャー 立岡雅也氏は、「24時間365日安定したサービスを提供するには、堅牢性の高いサーバシステムが求められた。また、数十万人規模のMMORPGを支えるには大規模なサーバシステムが必要だった。その観点からSolaris on x86が最適だと考えた」と述べた。
Solaris on x86上で、日本はもちろん、北米をはじめとする全世界向けのサービスを提供しているが、今までのところ、OSが原因となっての障害は発生しておらず、安定稼働が実現できているという。
しかもSolaris on x86は無償で、一般的なx86サーバをそのまま利用できる。このため、新規導入時のコストを抑え、コストパフォーマンスに優れた環境を構築できることもメリットだという。また「予備機を用意しておき、ハードウェア障害が起こったらすぐに予備機に変更することで、常に安定したサービスを提供できる」(立岡氏)利点もある。
スクウェア・エニックスでは当初、WindowsやLinuxなども検討対象に上がった。しかし「堅牢性の高さとコストパフォーマンスの両面を持ったOSを選択するとなると、Solaris on x86になった。CPUに対してぎりぎりの負荷をかけても、OS自体が死んでしまうこともないのも優位点の1つだ」(立岡氏)。
一方、地図情報サービス「Mapion」を提供するサイバーマップ・ジャパンでは、これまでLinuxを中心にプラットフォームを構築してきたが、データベースサーバで新たにSolaris on x86を採用した。導入に際してベンチマークを実施したところ、CoolStack上のMySQLはほかの候補に比べ2倍以上のパフォーマンスを示したという。大規模システムにおける実績やツール類の充実、サンからのサポートなども選択のポイントになった。
サイバーマップ・ジャパン 技術開発部技術管理グループ 長谷川行雄氏 |
サイバーマップ・ジャパンの技術開発部技術管理グループ 長谷川行雄氏は、主に運用管理面からSolaris on x86のメリットに触れた。「アプリケーションに障害が発生しても、DTraceを利用することで、どこに問題があるかをシステム運用側の目線で特定し、迅速に対応することができた」(長谷川氏)。
また、Solarisのフラッシュアーカイブを使えば、短時間でサーバをセットアップできる。これを活用し、アクセス集中時にもサービスレベルを落とさずに対応することができたという。しかも、あくまでハードウェアはx86サーバなので、既存の遊休サーバを有効活用できるのもメリットという。
さらに「サイバーマップ・ジャパンでは、これまでずっとLinuxを利用してきた。Linuxが悪いということではないが、やはり堅牢性という意味ではSolaris on x86に一日の長がある」(長谷川氏)という。
日本サン・ユーザ・グループ(NSUG)幹事として長年Solarisを活用してきた佐藤通敏氏は、改めてSolarisおよびOpenSolarisの特徴に触れた。中でも大きな魅力は堅牢性にあり、しばしば管理者の頭を悩ませる「監視システム自体の監視をどのように実現するか」という課題にも答えてくれるという。また、xVMを活用することで「WindowsやLinuxも含めたさまざまな古いOSを1台のマシン上で動かし、評価することができる」点にも魅力を感じると述べた。
コミュニティを通じた進化に期待 |
元日本サン・ユーザ・グループ(NSUG)幹事 佐藤通敏氏 |
一方で、実際に毎日触れているユーザーならではのリクエストも寄せられた。
普段Linuxを使い慣れているエンジニアにとっては、Solarisの流儀に違和感を感じることもあるという。佐藤氏は「いきなりぶつかる障壁が高い。まずコマンドが違うし、パスも違う。『makeはどこ?』『コンパイラは?』という具合だ。CVSやSubversionなどのツールも自分でコンパイルし、追加しないといけない」という。
一方長谷川氏は、ビジネス上の意思決定を下す際に、Solaris on x86の存在感やメリットをなかなか理解してもらえないと訴えた。「その安定性を説得できる材料があれば」という。また立岡氏は現場の意見として、「WindowsやLinuxに比べると、デバイスドライバの入手がまだ困難だ。また、商用ミドルウェアの対応が不足していることも難点だ」という。
その意味からも、SCBの設立が「Solaris on x86が商用ソリューションの1つとして認知される機会になれば」と両氏は述べた。
長谷川氏は「OSの選択肢が増えれば、システムの柔軟な選択が可能になる。SolarisというとSPARCという図式があるように思えるが、Solaris on x86の安定性はSPARCと同等。商用サービスの候補として見ていければ」とした。さらに佐藤氏も「LinuxからSolaris on x86への移行・構築のノウハウなどを共有していければ」と述べている。
今後は「Solarisコンテナのような仮想化技術に期待したい。システムの中にはWindowsやLinuxなども混在しているが、これを活用すれば、基本はSolaris on x86で構築し、その上に既存のOSを載せることができる。この結果、サーバシステムの運用管理を統一することも可能になるだろう」(立岡氏)と期待を寄せる。
また長谷川氏は、DTraceの活用やパッチ適用も含めたSolarisの運用を整備しつつ、「ほかの会社がどういう風に活用しているかという情報も知りたい。こういうコミュニティでそういう情報を共有し、生かすことができれば」と述べた。
Solaris on x86はミッションクリティカルにも |
カンファレンスの最後には、SCBの参加各社によるパネルセッションが行われ、各社の取り組みとコミュニティに対する期待が述べられた。
パネルセッション2「Solaris Community for Businessメンバーが語る - Solaris on x86の可能性とは」の模様 |
電通国際情報サービスの白戸大輔氏(ビジネス・ソリューション事業部 グループ経営コンサルティング2部 プロジェクト・マネージャ)は、Solaris on x86上でSAPを動かすというチャレンジに取り組んでいるという。
「SAPでは1つの環境を作るのに1週間くらい時間がかかるが、SolarisコンテナとZFSを活用すれば、障害発生時にマイグレーションを素早く行い、ダウンタイムを最小化できるだろう。また、クローンコピーによって構築作業をより早く、安価に行える」(同氏)。Windowsベースのシステムと比較した見通しでは、サーバの台数を大幅に減らせる上、バックアップシステムも含めた全体のコスト削減にもつながるという。
新日鉄ソリューションズの北沢聖氏(システム研究開発センター システム基盤技術研究部長 上席研究員)は、既存ユーザーにおいて、サーバのリプレース時期が近付いているところにチャンスを見ているという。特に、Solarisの蓄積を生かし「IAサーバ上でミッションクリティカルなアプリケーションを動かしたい」というニーズに応えられるのではないかとした。
「1つのOS上で複数の環境を構築し、しかも相互の影響を排除できるSolarisコンテナには威力があると思っている。5〜6年前に導入したサーバの統合について検証しているが、最大24台まで集約できるかもしれない」(北沢氏)
仮想化技術の導入は、逆に見ると販売できるハードウェアの台数が減るということにもつながるが、それは「むしろ歓迎すべきこと」(白戸氏)であり、差別化を図るチャンスだという。ほかのパートナーも「ITライフサイクル全体でサポートしていく」(伊藤忠テクノソリューションズ ITエンジニアリング室 プラットフォーム推進部 部長の中川裕路氏)、「ハードウェア販売中心のビジネスから運用管理やユーティリティ、オートノミックといった部分にフォーカスを」(北沢氏)とし、新しいビジネスモデルを探るきっかけになると述べた。
中川氏はさらに、Linuxとの比較という観点からもコメントした。同社で実施した負荷テストでは、ピーク時を過ぎて負荷をかけ続けた場合、安定した性能が出るのはSolaris on x86であったという。
このように「Solarisには、ミッションクリティカルに関していろいろなノウハウがある」(北沢氏)。これを受けて、サンの伊藤氏は、「Solaris on x86により、x86サーバは十分ミッションクリティカルで使えるようになっている。そこにチャンスが見える」と述べた。さらに、xVMやSolarisコンテナ、ZFSといったテクノロジを通じて「今後大きく発展するであろうクラウドコンピューティング環境をしっかり支え、集約するサービスを実現していけるのでは」という。
「SCBを通じて、サードパーティベンダのサポートが広まってほしい」(北沢氏)、「コミュニティを通じて事例を増やし、それを共有していければ」(白戸氏)、「自社の中だけでは見えない視点が提供される。ますます盛り上がっていければ」(中川氏)と、各社ともSCBに対する期待を寄せている。
提供:Solaris Community for Business(SCB)
企画:アイティメディア 営業本部
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2008年7月25日
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