ワールドワイドなユーザーカンファレンスとして昨年再スタートを切り、今年で2回目となる「SPSS DIRECTIONS Japan 2008」が、10月21日−22日の2日間にわたって開催された。会場には連日1000人を超えるSPSSユーザーが来場し、展示ブースでのSPSSの新バージョンや協賛各社のデモを体験、また、各種講演やワークショップ、セッションに熱心に耳を傾けていた。
オープニングアドレスでは、SPSS Inc.の会長兼社長兼CEOのジャック・ヌーナン氏が都合により来日できなくなったことから、同社のSVP, Corporate Developmentのダグラス・ダウ氏が替わって壇上に立った。ダウ氏は、今年が1968年に創立されたSPSS本社は40周年、また、エス・ピー・エス・エス(株)が1988年に日本で事業を開始してから20周年を迎えるという記念すべき年に当たることに触れ、同社の発展を支えてきたユーザーに対する感謝の言葉を示した。
では、本レポートではいくつかの講演やセッションを取り上げ、そのポイントをご紹介しよう。
SPSS DIRECTIONS Japan 2008 日時:2008年10月21日(火)−22日(水) 会場:東京ドームホテル 主催:エス・ピー・エス・エス株式会社 |
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井上氏はまず、近年提唱されている「オーガニック・コミュニケーション・ミックス」について解説した。井上氏によれば、現在の「マーケティング・マネジメント」の中心的課題は「ブランド・マネジメント」だという。では、「ブランド・マネジメント」の中心的課題は何かというと、それは、「ブランド知識形成」である。「ブランド知識形成」とは、ユーザーの頭の中に、ブランドに対する構造的な知識(具体的には、その商品が提供できる価値:バリュープロポジション)を植え付けることを意味する。
この「ブランド知識形成」は、マーケティング・コミュニケーションを通じて取り組まれるものである。従って、マーケティング・コミュニケーションにおける効果を把握するための指標として、「ブランド知識形成」を測定することが重要だという。
そして、ブランド知識形成を促すコミュニケーションの考え方が、「オーガニック・コミュニケーション・ミックス」である。これは、知識構造化に対するメディアの特性の違いを踏まえて、各種メディアを有機的に結合しようとするものである。
ブランド知識構造化のために利用する各種メディアの基本的な特性の違いについて、井上氏は以下のように説明した。
- 水をやるメディア(「新聞」など)
- 種をまくメディア(「テレビ」など)
- 土を耕すメディア(「インターネット」など)
- 収穫・確認のメディア(店頭)
井上氏は、上記のような考え方に基づき、ユーザー対象のリサーチ結果を分析することによって、実際にブランド知識構造化の度合いを「効果指標」として算出する研究に取り組んでいる。
続いて井上氏は、「フレームワーク・モデリング」の説明に移った。「フレームワーク・モデリング」とは、データや分析方法そのものではなく、そもそも、それらをどのような枠組みでとらえるかということである。フレームワークが違えば、必要となるデータも、また活用すべき分析方法も異なってくる。今回の講演で井上氏が強調したかったのは、「重要なのは“フレームワーク”である」ということだという。
具体的なフレームワークの例として井上氏は、まず「レコメンデーション」を取り上げた。顧客に対して「お勧め商品」を提示するレコメンデーションには、まずどのような情報源(データ)を活用するかという点と、そうした情報源を用いてどんなレコメンデーション方法を選択するかという点を「フレームワーク」として設定しなければならない。情報源としては、消費者の商品選択、選好、商品「属性」に対する選択、選好、また他の消費者の選択や選好、専門家の意見などがある。一方、レコメンデーション方法としては、協調フィルタリングや属性(コンテンツ)ベース・フィルタリング、その合成(ハイブリッド)型など各種ある。データを使って実際の分析を行う前にこうしたフレームワークをきっちり押えておくことが必要なのだそうだ。
また、データマイニングにおいては、分析ツールをどのような戦略目標のために活用するのかという視点でのフレームワークづくりが重要である。データマイニング戦略目標は、セグメンテーションやターゲティングといった「マーケティング課題」別にさまざまな目標が設定可能である。井上氏はこうした目標設定の枠組みに基づいて具体的な分析ツールの選定・活用を勧めていた。
最後に井上氏は、「マーケターに求められる能力として、従来は“仮説構築能力”“分析能力”“施策立案執行能力”がいわれてきましたが、これからはフレームワーク・モデリング能力を高めることが重視されてくるでしょう」と述べて基調講演を締めくくった。
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シアー氏は冒頭、“Predictive Analytics(予測分析)”のリーディングカンパニーであるSPSS社の使命(ミッション)は、「意思決定における広範囲なデータ活用を牽引することである」と述べた。そして、すべては「データ」から始まり「データ」で終わることから、本講演では、SPSSのソフトウェアに組み込まれる「データ」、およびソフトウェアから出力される「データ」にフォーカスした話を展開した。
シアー氏によれば、分析のためのデータには、それぞれ人間と同じように固有の特徴(キャラクター)があるという。いわゆる「データセット」には、多くの変数が含まれており、それぞれ、例えば連続量か離散量か、あるいは、順序か、また文字か数値かといった特徴がある。また、あるべきデータが抜けている「欠損値」も含まれている。分析に当たっては、こうしたデータの特徴を良く理解することが必要だという。
次に「データを使って何をするか」いうことがある。これは、まず分析を通じて解決したいビジネス上の課題を理解することが出発点となる。次いで、分析対象のデータから、目的変数、入力変数、重みなどを適切に配置(マッピング)することによって、ビジネス課題を分析モデルに変換するのだという。
ここでシアー氏は具体例を挙げて説明した。朝食の選択に関するマーケティングを改善する取り組みで、消費財メーカーが880人の消費者を対象して行った調査である。調査内容は、3種類の朝食を試食してもらい、どれが一番好きかを答えてもらうというものだ。データの特徴については以下のとおりである。
- 年齢、婚姻区分、性別
- ライフスタイル(“0”運動していない、“1”週に2回以上運動している)
- 朝食の好み(“1”朝食用の携帯用食品、“2”オートミール、“3”シリアル)
次にビジネス課題であるが、以下のようなものであった。
- 朝食の選択は年齢またはライフスタイルに影響されるか?
このビジネス課題を分析モデルに変換すると次のとおりとなる。
- 目的変数=朝食の選択(好み)
- 入力変数=年齢、およびライフスタイル
分析手法としては「名義ロジスティックス分析」を採用している。
シアー氏は、このように分析の手順は、データの特徴把握→ビジネス課題の理解→分析モデルへの変換というステップになることを分かりやすく解説してくれた。
続いて、シアー氏は、分析を行う際に顧客が直面する課題として次の4項目を示した。
- データを分析する際に、どの手法を用いるか選択する必要がある
- 反復や無作為など、より複雑なモデルを理解する必要がある
- 結果を解釈するために統計を学習する必要がある
- 良い結果を得るために、悪いデータを除去する必要がある
また、近年は、eメールやブログ、MyspaceなどのSNS(ソーシャルネットワークサービス)を通じて人の態度に関するデータが入手可能になっており、こうした大容量データを広告施策などに応用するための分析が求められているという。
そこで、SPSSのソフトウェアは、上記のような課題を解決するための、新たな方向性に沿った機能拡充の取り組みを始めているそうだ。具体的には、1つは「データ準備の自動化」を進めている。質の悪い入力変数を除外したり、欠損値、異常値を適切に処理して、予測能力が向上できるように変数を変換するなど、手間のかかるデータ準備作業の自動化が可能になりつつある。
また、ビジネス課題に即して、最適な分析モデルを選択するプロセスの自動化にも取り組んでいるほか、大容量データの効率処理のため、マシンパワーを最大限に引き出せる新しいアーキテクチャを設計しているそうだ。さらに、分析結果としての「出力データ(アウトプット)」をビジネス上の意思決定プロセス(与信判定など)に「入力データ」として組み込み、継続的にデータを活用することにより、前述した顧客の課題解決に寄与できるとのことだった。
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日本のマーケティングリサーチ業界の最大手、インテージを率いる田下氏は、まず「リサーチデータ」と「ビジネスデータ」の違いを説明するため、最近行われた内閣支持率の調査を例に挙げた。今年8月に前福田首相が内閣改造を行った後や、9月に麻生新内閣が発足した後に、各新聞社はそれぞれ独自の世論調査を行って内閣支持率を発表したが、新聞社によって支持率に大きな差があった。
同じテーマにもかかわらず調査結果に差が生じる理由として、田下氏は、調査主体として出す新聞社名を聞いたことによるバイアスや、調査対象者を抽出する方法や回収率の違い、質問文の違いなどがあるとし、そもそも、調査の本質は「操作主義」にあると主張する。
すなわち、リサーチデータとは、何らかの意思決定(仮説検証)のために「操作的」に定義し、収集・分析された情報であり、「定義」(前述した調査主体や質問文の違いなど)が異なれば、当然ながら調査結果が違ってくるのである。
一方、ビジネスデータは、ビジネスの実行、つまり業務遂行に伴って発生するデータである。リサーチデータと異なり、ビジネスの実行が優先するため、意思決定のために必要なデータとして「定義」されていなければ、使えないことがあると田下氏はいう。
また、リサーチデータは、競合する商品・店のユーザーの情報を知ることができるが、ビジネスデータは基本的に自社データであるため競合との比較ができない点や、リサーチデータでは、「異常値」は全体の傾向をゆがめるものとして除去されるが、ビジネスデータでは、「異常値」にこそ、ビジネスチャンスが隠れている可能性があることを指摘する。
続いて田下氏は、技術革新がもたらしたリサーチパラダイムの変化へと話題を転じた。例えば、商品についているバーコードを読み取り(スキャン)、商品情報と販売情報などを記録する「POSシステム」の普及によって、家庭における日記式調査(消費者パネル調査)がスキャニングベースの調査へ、そして小売店に出向いて行っていた販売動向調査(小売店パネル調査)がPOSデータを入手しての調査に変わったという。これにより、上記のような調査の正確性、迅速性、網羅性が高まり、またレポートのタイミングも、月次、週次、日次と短縮化されていったそうだ。
また、インターネットを活用したリサーチは、圧倒的に安いコミュニケーションコストとスピードというメリットがあるため、日本だけでなく、世界中の国々でメインの手法になりつつあるという。また、前述の消費者パネル調査とインターネット調査による個別の調査を統合することによって、一定期間における特定商品のCM放映回数と、売上シェアの変化の関係性を把握するといったことが可能になっている。
以上のように、リサーチ業界も大きな変化の時期にあるが、情報のプロフェッショナルとして目指すべき道は、「情報価値鑑定士」だと田下氏はいう。情報の価値は、意思決定に役立つ情報であるかどうかで判定できるが、この価値を的確に鑑定できるのが「情報価値鑑定士」である。そして、情報価値鑑定士を目指すためには、情報の発生、収集のプロセスを知ること、ローデータ(原データ)を読み、文脈を理解すること、ITを駆使したデータハンドリング能力を高めること、業務プロセス、ビジネス戦略を理解することなど、いわゆる「情報リテラシー」を高める努力が必要だと強調して講演を終えた。
SPSS DIRECTIONS Japan 2008 イベントレポート − 後編へ
提供:エス・ピー・エス・エス株式会社
企画:アイティメディア 営業本部
制作:@IT 編集部
掲載内容有効期限:2008年12月31日
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