年次イベントとなった「SPSS Data Mining Day 2008」は今年で10回目の開催。会場となった渋谷セルリアンタワー東急ホテルのボールルームは1200名もの参加者でにぎわった。今年の会場には従来多かった若手の社会人だけでなく、比較的中高年層の参加者も目立ち、データマイニングに対する関心層・ユーザー層の拡大がうかがえた。
渋谷セルリアンタワー東急ホテルにて行われた 「SPSS Data Mining Day 2008」 |
基調講演に先立ち、SPSS Inc. President and CEOのジャック・ヌーナン氏、および今年3月、エス・ピー・エス・エス株式会社 社長に就任したばかりの真島英一氏があいさつに立った。真島氏は、米国本社は今年設立40周年、また日本法人も設立20周年を迎えることを述べ、Predictive Analytics(予測分析)の分野におけるマーケットリーダーとして、データを活用して効率的な企業運営を行う「Predictive Enterprise」の実現をSPSSはさらに推進していく決意を示した。
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当レポートでは、多数行われたセッションの中からいくつかを選び、その要旨をお届けする。
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田村氏によれば、過去10年間の流通業界は、売上げの成長率を売場面積の拡大率が上回っているのが特徴である。しかしこれは「過当競争」ではないという。すなわち、店舗数が増えすぎて、限られた顧客の取り合いに多くの企業が疲弊しているという状況ではなく、むしろ 「勝ち」「負け」がはっきりしている状態だという。実際、ヤマダ電機、ユニクロ(ファーストリテーリング)、マツモトキヨシ、無印良品(良品計画)、しまむらといった大規模な売り場面積を持つ専門店が年率10%を超える成長を遂げており、出店エリアの中小商店が淘汰されてしまっているのが現実である。
小売の業態(百貨店、スーパー、専門店といった区分)に、その誕生から成長、成熟し、そして衰退していく「ライフサイクル」の考え方を当てはめてみると、従来急成長してきた、ジャスコやイトーヨーカ堂といった「総合量販店(GMS)」はすでに成熟期にあり、また「百貨店」や「中小商店」は衰退しつつある。一方、「専門店」は前述したように加速成長の時期である。また、初期成長の時期にあるのが「ネット通販」である。つまり、大型専門店やネット通販といった新業態によって、古い業態は淘汰されつつあるということだ。
ネット通販についてみると、趣味・ホビー用品の伸びが大きい。この分野は消費者の好み、こだわりが色濃く反映される。つまり、個々の市場規模はさほど大きくないものの、消費者の嗜好が多様化している分野であり、ネット通販に適しているからだと、同氏は指摘する。また、ネット通販の優位性についてみると、利用を始めるきっかけは「買い物時間の節約」や「魅力的な特売」、「楽しい」といった点があがる。
ところが、ネット通販をいったんは利用するものの利用を止めてしまうユーザーもいる。ネット通販を続けるか、それとも止めてしまうかのポイントは、結局のところ、個人情報やカード情報の漏洩などのセキュリティの問題だという。このセキュリティ問題への対策としては、1つには技術的な対応を図ることである。もう1つは、企業としての信頼性を高めることによって、消費者に、「この企業なら利用しても大丈夫」という安心感を与えることだそうだ。
さて、リアルな店舗における差別化(競争力)の基盤には、次の4つの次元があると同氏は指摘する。
- 明確な店舗コンセプト(店の主張が明確であること、独自商品があることなど)
- マグネット売り場(豊富な品揃え、常連客特典、ディスカウントなど)
- 高度接客対応(店員の商品知識が豊富、接客対応が心地よいなど)
- 郊外型立地(郊外・ロードサイド立地、十分な駐車場など)
現在成長著しい専門店の特徴を基にクラスター分析を行ってみると6つのクラスターに分かれるそうだが、特に伸びているクラスターは、エルメス、シャネルといった「高級ブランドショップ」、次いでユニクロ、無印良品といった「ライフスタイルショップ」、ヤマダ電機、ニトリといった「郊外型販売店」、ヨドバシカメラ、マツキヨといった「都心型大型販売店」である。
こうした小売業態のフォーマットは、それぞれ前述の4つの次元で見ると、明確な強みを持っているという。例えば、ユニクロのように、「バリュー商品」と呼ばれる、値ごろ感のある価格でありながら高品質の独自の商品を展開したり、また、シマムラでは地域で異なるニーズに店舗ごとに仕入れ内容を変える「個店対応」で消費者の支持を集めたりしている。そして、新たな立地を創造することで急速な店舗展開を可能にしているという。
一方、専門店の隆盛で苦戦を強いられている総合量販店(GMS)は、専門店よりも損益分岐点売上高比率が高く、売上げが伸びないとすぐに赤字に陥る構造的な問題を抱えていると同時に、お互い幅広い顧客ニーズに対応しようとして模倣しあった結果、店舗の属性が似通ってしまい、差別化ができないという状況になっているという。百貨店もまた、全体的に店舗数の減少が進んでいるが、ショッピングセンターとの競合が厳しくなっていることが背景にある。
同氏は、以上のような分析を踏まえ、流通業界において次世代のイノベーションを起こす条件として以下の4つのポイントを示して講演を終えた。
- 市場レーダー
POS、ICカード、GPS、携帯、地理データーベースを統合し、地域の細かい市場(ミクロ市場)の変化を把握すること
- 立地創造
駅ナカや街角ショップなど、新たな立地を生み出していくこと
- 品揃えのモジュラーマネジメント
以前から、商品カテゴリー別のマネジメントは行われてきたが、さらにさまざまなカテゴリーの商品を組み合わせた品揃えの一定の組み合わせ(モジュール)で店舗の違い、個性を打ち出していく取り組み
- 時空間ミクロマーケティング
ニーズの地域差への個店対応、および時間帯によって異なるニーズに対して、売り場の構成を機動的に組み替えていく対応
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鈴木氏はまず、「予測分析(Predictive Analytics)」とは何かを定義した後、予測分析の世界規模での最新動向を米の調査会社(TDWI RESEARCH)が実施した最新の調査結果をもとに紹介してくれた。
同氏によれば、「予測分析」とは、統計解析、データマイニング、テキストマイニングといった「Advanced Analytics」と呼ばれる手法に、「Decision Optimization」と呼ばれるスコアリグエンジン、ルールエンジン、リコメンドエンジンを加えたものである。すなわち、単に予測(Predict)するだけでなく、それを実務に反映(Act)させること、またその結果をデータとして捕捉(Capture)し、次の予測に役立てるというサイクルを回す。こうすることで、顧客維持の向上や顧客シェアの拡大を可能にし、劇的な業績アップにつながるという。
Predictive Analyticsとは? (資料提供:SPSS) |
予測分析についての調査結果(回答企業の構成は米国60%、欧州14%、他地域26%)を見ると、予測分析を導入しているのはまだ21%に過ぎない。ただ、検討中が45%、導入中は19%であり、多くの企業が予測分析に前向きに取り組んでいることが分かる。また、予測分析がビジネスにどの程度の大きなインパクト(影響)があるかを聞いた結果では、「非常に高い」が27%、「高い」が39%となっている。
「ビジネスに対するインパクトが大きい」、言い換えると「業績を大きく左右する」と考えている企業は、それだけ予測分析に対する投資額も大きくなっており、回答企業全体の投資額(中央値)は60万ドルであるのに対し、ビジネスインパクトが非常に高いと回答した企業だけについてみると、同100万ドルと、投資額が40万ドル多いことが明らかになっている。なお、予測分析の適用範囲としては、「クロスセル/アップセル(47%)」がトップで、「キャンペーン・マネジメント(46%)」「顧客獲得(Acquisition)(41%)」「予測<売上予測など>(40%)」が続いている。
同氏は、調査結果の紹介に続いて、企業が顧客データ(People Data)を分析することで、収益をさらに高めるCRMソリューションについて話を進めた。フォーカスすべきは次の5つの点だという。
- Attract (獲得)
- Grow (拡大)
- Relation (維持)
- Fraud (不正)
- Risk (リスク)
例えば、Relation(維持)についてみれば、「誰が離反の可能性が高いのか」を見極めること、またそもそも「ちゃんとケアができているのか」「なぜ離反しそうなのか」「維持するために何ができるのか(例えば、無料グレードアップサービス、新しい製品・サービスの紹介など)」といった一連のプロセスを予測し、業務に反映させた結果、「維持できたのか」という検証を行うサイクルを回すことが可能である。
さらに同氏は、いくつかの欧米企業における予測分析の活用事例を紹介してくれた。
米国の投信運用会社、「T Rowe Price」では、コールセンターでの成約率が倍増、顧客満足度も向上したおかげで、1年間で2億ドルの増収を果たしている。これは、顧客からのコールセンターへの入電に対して、「取引履歴」と「顧客属性データ」に基づき、自動的に最適な担当者に割り当てること、また「ビジネスルール」と「リアルタイムスコアリング」を利用して、顧客ごとに最適なサービスを提案するコールスクリプトを提案する仕組みを構築したことによって実現したものである。
また、通信会社の「Cablecom」では、従来、顧客データを部分的にしか分析しておらず、顧客満足度調査の自由回答(テキストデータ)も利用されていなかった。このため、常に解約の脅威にさらされながらも、有効な手が打てないでいたが、予測分析の導入後は、顧客満足度調査の自由回答から顧客の示唆(求めていることなど)を抽出し、また顧客データの分析を通じて解約リスクの高い顧客や、クロスセルが可能な顧客、新たな顧客獲得機会を発見できるようになった。そして、こうした予測に基づいて解約防止施策や効果的なマーケティング施策の計画・実行を行った結果、解約率が19%から2%へと劇的に低下し、また、55%の顧客で満足度が向上するなど大きな成果を収めたという。
同氏は最後に、企業のゴールである「収益の拡大」のための要件としての前述の5つのポイント、そしてデータを蓄積することと、そのデータを分析できる能力の重要性を改めて強調して講演を締めくくった。
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北上氏は冒頭、リアルな販売と同様、インターネットにおいても考慮すべき基本的な販売構造を示した。それは、売上は、2つの重要ポイントの掛け算で向上することができるというものである。1つ目の重要ポイントは、「訪問客数のアップ」。具体的には、Webサイトに来てくれるユニークユーザー数を増やすことである。2つ目は「成約率(コンバージョン率)のアップ」。これは、Webサイトに来てくれたお客様が商品を買っていただける確率を上げることである。
これら2つの重要ポイントのうち、「訪問客数のアップ」のためのマーケティング施策としては、インターネット検索と連動した広告、すなわち「リスティング広告」が有効であることを同氏は強調する。というのも、インターネット利用者対象のアンケート調査(Yahoo! Japan実施、2007年4月10〜23日)によれば、利用者の75%がWebサイトを知るきっかけとして「インターネット検索」を挙げているからである。しかも、インターネット検索は、Yahoo! Japan、Googleという2つの検索エンジンだけで検索マーケット全体の86%以上を占めているという。
また、インターネットの浸透によって情報化社会となったいま、消費者の購買プロセスも変化してしまったという。これまで、購買行動は、「AIDMA(*1)」で説明されてきたが、現在は電通が提唱した「AISAS(*2)」の購買行動モデルがより妥当性の高い仮説として注目されている。
同氏は以上のようなインターネットを取り巻く状況を踏まえつつ、効果測定が可能なインターネット広告の魅力を語ってくれたが、近年、リスティング広告においては、人気の高いキーワードの購入単価が上昇しており、コストとパフォーマンス管理が重要になっているという。また、今後成長が期待される新たな広告手法・メディアとして、ブログやMixiのようなSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)などの消費者発信型のサイト、いわゆる「CGM(Consumer Generated Media)」や、キーワード連動型ではなく、コンテンツ連動型のリスティング広告を挙げていた。
ただし、このところ注目を集めた「セカンドライフ」については、日本ではチャットが発展していないことや、街中で知らない人に気軽に声をかけるようなことが根付いていないことを理由に、その将来性には多少懐疑的な印象を持っているそうだ。また、同氏は、パソコンからだけでなく、携帯電話からのインターネットアクセスも増加しており、モバイルビジネス市場が1兆円規模になっていることも示した。
同氏によれば、今後は、狙うべきターゲット顧客を明確化(選択と集中)すると同時に、冒頭に示した基本的な販売構造の2つの重要ポイントのうち、“訪問者数アップ”だけでなく“コンバージョン率アップ”までの成果も測定することが重要になってくるという。そして、ターゲットごとの施策の立案から、実施、施策の見直しのPDCAサイクルを確実に回すことが必要だという。そして、このPDCAサイクルの実践を支えるのが、データマイニングであり、その構築ポイントとしては以下の3つの分析を統合することが有効だと述べる。
- アクセスログを中心したサイト内回遊行動分析
- 販売データを中心とした販売データ分析
- プロファイル(顧客属性)を中心とした顧客分析
ただし、データ解析にあたっては、データのクリーニングや統合方法、膨大なデータ量の扱いといった課題を示す一方、こうした分析結果は、コンビニエンスストアのPOSデータ(販売データ)と同様、今日までの実績は把握できるものの明日の予測はできないことから、「仮説検証」の必要性を強調して講演を終えた。
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提供:エス・ピー・エス・エス株式会社
企画/制作:アイティメディア 営業本部
掲載内容有効期限:2008年8月31日
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