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守口氏はまず、顧客データ活用のトライアングルというシンプルな枠組みを聴衆に示した。これは、「CRM」を三角形の頂点に置き、右に「データマイニング」、左に「顧客データ」を置いてそれぞれ線で結んだものである。これは効果的なCRM実践のために顧客データを活用してデータマイニングを行うことの重要性を示したものである。
同氏は、CRMの目的を「顧客との長期的な関係性を構築・維持することによって、長期的な視点で見た利益を創出すること」と考えており、この目的達成のために、「顧客との接触履歴を組織的に収集・管理し、活用することによって、個々の顧客との間に学習関係を形成し、強固で長期的な関係を構築・維持する活動」と定義しているという。このCRM実践の身近な例として、「Amazon.co.jp」のWebサイトが示された。同氏も頻繁に利用しているという「Amazon.co.jp」は、積極的に顧客との接触履歴を収集・管理しており、ユーザーの過去の購買履歴に基づいて関心や嗜好を分析し、適切なレコメンデーションを行うことで長期的な関係を築くことに成功しているという。
同氏によれば、CRMの実践によって「顧客ロイヤルティ」が向上すれば、顧客維持率や顧客シェア(「財布シェア」とも呼ばれ、ある特定の商品カテゴリーに対する顧客1人の総支出額に占める特定ブランドの購入金額が占める割合)が上昇するだけでなく、顧客獲得コストの押し上げにもつながるという。なぜなら、顧客維持による1人の顧客からの収益性が大きくなればなるほど、その顧客を獲得するために多額のコストを投下しても十分に回収できるからである。したがって、「顧客ロイヤルティ」の向上こそが、CRMの効果を高める鍵なのだと同氏は指摘する。
ただし、すべての顧客の「顧客ロイヤルティ」を向上することは効率的ではないことから、顧客の識別と選別が重要になってくるという。このために同氏が示してくれたのが、「顧客ロイヤルティ」の2つの側面、すなわち、「行動面」と「心理面」のそれぞれのロイヤルティの指標である。行動面でのロイヤルティ指標としては、前述した顧客シェア(財布シェア)や、反復購入率、連続購買回数などがある。
一方、心理面でのロイヤルティ指標としては、「第1想起率(あるカテゴリーで最初に思い出すブランドの比率)」や「利用・購入意向率」などがある。なお、同氏は、米国コンサルタントのフレデリック・ライクへルド氏が提唱する究極の質問、「あなたはこの商品を他者に紹介したいと思いますか?」も示してくれた。ライクヘルド氏によれば、ほとんどの業種において、この質問と購買行動や口コミの有無との高い相関が見られたという。
さらに同氏は、顧客識別(判別、または分類)のためにデータマイニングをどのように活用できるかを具体的な計算例を元に説明してくれた。顧客識別のための手法としては、クラスター分析や決定木分析などがあるが、守口氏が具体例として紹介してくれたのは、あるWebサイトのアクセスログデータを利用して、購入する訪問者と購入しない訪問者を判別するものである。
分析対象期間中の総訪問回数は2万2275回、購入率は3.38%というデータを用いて「Clementine」の決定木分析を行ったところ、すべての訪問が「購入なし」と判別され、かつこの結果の予測精度を示す「正判別率」は96.3%と高い結果になってしまった。これでは判別モデルとしては役に立たないわけだが、こうした例は、このデータのように購買の発生頻度が少ない場合に発生しがちな問題だという。
同氏によれば、上記の問題を回避するための方法はいくつかあるが、留意しなければならないのは、回避方法にいくつかのトレードオフ関係が存在するということである。そのうちの1つを紹介しよう。分析結果が、実際の購入率の数値にどれだけ近いかという「再現率」と、購入する・しないの判別予測がどれだけ当たっているかという「適合率」の2つの間には、あちら立てればこちら立たずの関係があるという。つまり、再現率を上げようとすると適合率が低下し、逆に適合率を上げようとすると、再現率が低下する傾向があるというのだ。
そこで、同氏は、施策の目的に応じてどちらを重視するかを選択することを提唱する。例えば、離脱しそうな顧客を判別し、施策を打つのであれば、「再現率」を重視する。今後購入してくれない可能性の高い顧客を広くカバーすることが可能になるからである。また、多数の顧客の中から「購入見込み客」を判別し、営業担当者が個別にアプローチする場合であれば「適合率」を重視する、といった具合である。これは、高い精度で見込み客を抽出することが可能になるからである。
最後に同氏は、顧客ロイヤルティ向上のために、重要顧客を識別(判別)することがCRM実践のキーファクターであること、そして顧客判別を行う上で存在する3つのトレードオフを適切に考慮することの重要性を強調して講演を終えた。
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鶴井氏は、これまでの「SPSS Data Mining Day」では、主にデータマイニングによる分析方法や、予測の結果、事例が取り上げられてきたが、現在は、データマイニングを現状の業務プロセスにどのように組み込んでいくかにユーザーの関心が移ってきていると指摘する。これは、データマイニングによる分析・予測が一般的なものになるにつれ、データマイニングのプロセスを自動化することを通じて、業務の効率化を目指す進化の過程であると同氏はとらえているそうだ。
同氏によれば、これまでのデータマイニングプロジェクトには陥りがちなパターンがいくつかあったという。1つには統計解析の素養のあるアナリストをプロジェクトの中心に据えてしまうということだ。アナリストはしばしばノウハウを社内に広めることよりも、自分のスキルを磨くことの方を優先してしまいがちで、またノウハウを吸収した後に転職してしまうというリスクも高い。従って、プロジェクトの中核を担っていたアナリストが抜けてしまうと、社内にデータマイニングのスキルを持った人がいなくなり、データマイニングをそれ以上推進することができなくなってしまう結果となる。
また、経営層(またはそれに近いレベルの人)は、データマイニングを通じて得られる収益増などの財務的な最終成果には大きな期待を寄せるものの、データマイニングの複雑な分析プロセスに対しては関心が薄く、性急な結果を求めがちだという。しかし、現実には経営層が求める最終成果と、データマイニングから通じて得られる直接的な成果が最初からうまく一致することはない。このため、経営層とデータマイニングの現場担当者の間で緻密なコミュニケーションが本来必要だと同氏は指摘する。
データマイニングプロジェクトはまた、「とりあえずやってみよう」という一時的(アドホック)な取り組みとして行われることが従来多かったという。この背景には、「やってみなければ分からない」不確実なプロジェクトという認識があったためと同氏は理解しており、期待した成果が得られない場合は、尻切れトンボのプロジェクトになってしまう。
しかも、アドホックなプロジェクトは予算も固定化されていることが多く、限られた予算の中で最善の結果を出そうとするあまり、さまざまなデータを用いたり、モデルを柔軟に変更して複数のモデルの比較検討を行ったり、またどのように運用するかといった点がおろそかになり、結局のところ未消化のままお蔵入りとなるケースもある。
こうした過去の失敗パターンを踏まえ、同氏はこれからのデータマイニングプロジェクトのあるべき方向性を示した。第1に、分析結果をどう活かすかという具体的なアクションプランへの落とし込みを行うことである。つまり、データマイニングを単なる研究テーマで終わらせてはいけないということだ。第2に、データマイニングを業務に組み込むことは、プランの作成から始まり、体制の設計、要員の確保、要員のデータマイニングスキルの引き上げ、ツールの導入、プロセスの設計、運用・保守設計など、想像以上に長い道のりが必要であること、従って、単なるプロジェクトではなく、長期的な視野で取り組むべきものであることを関係者に周知徹底すべきということである。また、データマイニングにはまだまだ特殊なスキルを必要とするため、外部のコンサルタントを活用するのか、自社でどの程度までデータマイニングを実行できる人材を育成するのかという見極めも必要とのことだった。
同氏は、以上の留意点を踏まえ、データマイニングを実際の業務に組み込んでいくプロセスについて、以下の切り口に基づいて詳細な説明を行った。
- プロジェクト推進体制
- 現状の業務フローの確認
- 担当者のデータマイニングスキルをどこまで引き上げるか
- 分析テーマの選定
- データマイニングスキル達成基準の策定
そして、上記データマイニングの業務への組みこみプロセスにおいてSPSSがサポートできるサービス領域、例えば、「PES(Predictive Enterprise Services)」を導入することによって、分析業務の自動実行、分析モデルの最適化、過去の分析資産(各種モデル)の管理などが可能になることなどを、実際のデモ画面を交えながら紹介して講演を締めくくった。
SPSSのサービスメニューと業務効率化 (資料提供:SPSS) |
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村田製作所は、セラミックス素材の電子部品製造を主力とする社員数約3万3000名、売上高約6000億円の企業である。奥村氏によれば、売上の4割を占める「チップ積層セラミックコンデンサ」は、ノートPC1台当たり約730個、携帯電話は同230個、デジタルテレビに至っては同1000個も使用されているそうだ。
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奥村氏は、同社のものづくりの特徴について次の3点を挙げた。
- 原材料から製品まで一貫生産を行っている。このため、生産プロセスが長く、複数工場にまたがっている
- 市場ニーズ、顧客ニーズに合わせて多種多様の電子部品を製造しているため、製品ライフサイクルが短い(1商品あたりのライフサイクルは3カ月〜1年程度)
- 2と同様の理由から、新製品の比率が近年高まっている(直近の売上高に占める新製品比率は約40%)
さらに同氏は、上記のものづくりの特徴に呼応する形で、同社のものづくりの課題を示した。1の生産プロセスの長さと複数の工場にまたがる点については、原材料〜製品までスルーで見たつくり込みが重要な課題だという。また、2の製品ライフサイクルの短さ、3の新製品比率の高さに対しては、商品設計段階でのつくり込み、量産段階でのスピーディーな品質のつくり込みが課題である。
これらの課題のうち、「原材料〜製品までをスルーで見たつくり込み」について説明すると、1つの製品が出来上がるまでの製造途中の製品(仕掛かり品)は、全国各地に点在する同社工場を行ったり来たりするが、この製造プロセスにおいて品質を維持するための技術的な要因は、ある製品の場合には1万8000に上るという。スルーで見たつくり込みとは、この一連のプロセスにおける品質管理を徹底的に行うことによって不良品を選別、調整、あるいは排除し、コスト削減、生産性向上や生産期間の短縮を実現することである。
同社では、以前から生産現場の情報を吸い上げて活用し、品質(Q)・コスト(C)・納期(D)のつくり込みを支援する独自のシステム「PRASS(Problem Real time Action Support System」」が稼働していた。データマイニングはPRASSを通じて得られた情報の解析のために2001年から取り組みを開始、2002年には現場に展開したそうだ。ところが、実際にはなかなか現場に定着しなかったため、後述のとおり、根気強くデータマイニングの定着に向けた努力を続けているそうだ。
奥村氏に続いて登壇した下八重氏は、具体的なデータマイニングの活用事例を2つほど紹介してくれた。そのうち1つの事例をご紹介する。
事例の対象となったのは「BlueToothモジュール」である。同製品に使われている「積層基盤」はセラミックス(陶器)製であり、焼成時に収縮する性質がある。従って、この収縮率を事前に見込んで基盤製造が行われる。この工程における品質維持の鍵は、収縮率を安定化させることにあるという。つまり、収縮率のばらつき(変動)を可能な限り少なくするということだ。そこで、各工場から製造段階の1350項目におよぶデータを収集、決定木分析を行ったところ、原料生成後の特性A(企業秘密のため具体的な名称は伏せられている、以下同様)にばらつきがあることを突きとめたそうだ。これは、焼成温度だけでなく、実温の管理を行うことで抑えられることが分かったという。
しかし、さらに未知の変動要因が残っていた。そこで、さらに分析を深めた結果、原料物性値Cの変動に行きついた。これはD工程の加工段階における変動によるものであり、その背景には原材料に含まれる「物質E量」が影響を与えていることが判明。そこで、原材料に含まれる物質E量を事前に測定し、原材料の段階で選別することによって収縮率の大幅な安定化に成功したそうだ。収縮率の安定化、つまり焼成後の基盤の大きさのばらつきが小さくなるということは、基盤の一層の小型化を可能にするものであり、高品質な製品を狙ってつくり込むことができるようになったという。
同氏は続いて、社内でのデータマイニング活用の普及・展開について詳しく説明してくれた。データマイニングの導入を推進する本社スタッフ側としては、データマイニングを活用することによって、現場で蓄積されている技術的知見に科学的知見を加えることができ、より効率的な改善が可能になると考えていたものの、導入当初は、現場からさまざまな反発の声があがったという。例えば、「データだけでは改善できない」「マイニングを適用しても良い答えが出ない」「指導者が近くにいないと使えない」「データを集めるのが面倒、時間がかかる」といった声である。
本社スタッフとしてはこれらの声に1つ1つ応えていくことで現場の理解と積極的な取り組みを促進していったそうだ。「データマイニングだけでは改善できない」という声に対しては、データマイニングの改善プロセス上の位置づけを明確にし、まず現場、現物、現実を確認する段階を重視し、その時点で打てる対策は打ち、その後にデータマイニングを行うこととし、「なんでもかんでもいきなりマイニングではない」ということを示した。
また、「マイニングを適用しても良い答えが出ない」ということについては、適用の仕方を体系的にまとめたマニュアルを作成。時間をかけて現場のマイニングスキルを高めていった。「指導者が近くにいないと使えない」に対しては「インストラクタ制度」を導入、また、データ準備プロセスを標準化した「標準ストリーム」を展開して、現場の手間を軽減していったそうだ。最近では、各部門のマイニング技術の維持、向上を目的として各部門のインストラクタが出席する交流会を開催、活用事例の報告や日常業務上のマイニングの課題を検討するところにまで至っている。
最後に同氏は、同社のデータマイニング活用の展望として、「製造段階の量産データを有効活用できる人材の育成」「現場のデータを分析して得た因果関係をこれまでの技術的知見に融合することによるものづくり力の向上」「現場におけるマイニング実施のさらなる促進」という3点を挙げて講演を終えた。← イベントレポート前編へ戻る |
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提供:エス・ピー・エス・エス株式会社
企画/制作:アイティメディア 営業本部
掲載内容有効期限:2008年8月31日
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