サーバーの統合だけでは「もったいない」。「プライベートクラウド」の概念が広まってきたいま、仮想化によるサーバー統合の先に、情報システム部門は何を見るべきか。多くの企業・組織においてITインフラの構築を支援している人物に現実解を聞く。
企業のITインフラは、どのような方向に進んでいこうとしているのか。よりよいITインフラ運用とはどういったものなのか。一般的な企業にとって「プライベートクラウド」は現実的にはどのように位置づけられるのだろうか。
現場での経験が豊富な伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)のエキスパートに、これらの点を語ってもらった。取材に対応いただいたのは金融・社会インフラシステム技術開発室 社会インフラ技術第2部 大川貴司氏、エンタープライズビジネス第3本部 製造技術第2部 福本大輔氏、ITビジネス企画推進室 IT技術企画チーム 立石琢磨氏だ。
仮想化によるITインフラ統合は、いまや珍しいことではなくなっている。複数のシステムやアプリケーションを共通の仮想化基盤に載せていくプロジェクトが、国内の多くの企業や組織で進んでいる。教育および公共機関におけるITインフラ構築案件の技術支援を担当する大川氏は、共通基盤構築の動きが、現時点では2つの角度から見られると話す。
「サーバー仮想化が本格的に普及し始めた3〜4年前に既に導入済みの組織では、運用ノウハウが蓄積されてきています。そうした組織では、情報システム部門がこれまで運用に関与していなかったシステムを引き取り、共通の仮想化基盤として統合的な運用を目指す例が増えています。一方、新たに導入する組織では、コストの点で、当初から共通基盤の構築を考えるケースが増えています。部署あるいは業務ごとにそれぞれハードウェアを調達するよりは、大きな共通のITインフラを持って、共通基盤として運用した方が良いという考えが最近は多いと思います」。
導入済みの組織ではサーバー仮想化からの横展開として共通基盤構築に進む動きが、一方の新規導入では、当初から仮想化技術を使った共通基盤構築を目的とした導入が行われる傾向にあり、どちらのケースでも現在は「大きな共通基盤を持つ」ことを指向している。
しかし、企業や組織によって「共通基盤」へのハードルの高さは異なる。情報システム部門が組織のITシステム運用を一手に担っている場合は、全社のITシステム機能を網羅した共通基盤への統合を進めやすい。しかし、ユーザー部門それぞれがITシステムを所有し、個別の運用プロセスを持っている場合は部門の抵抗が大きいことが少なくないため、統合が容易に進まないこともある。システム面だけでなく、予算面など、組織上の問題もある。従来は社内の多様な部署がばらばらに執行してきたITシステム関連の予算を、少なくともインフラ部分に関しては統合する取り組みをしないと、企業全体にとっての大幅なコストダウンや効率化も見込めない。
製造業におけるITインフラ構築案件の技術支援を担当する福本氏は、次のように言う。
「『企業全体として、現在IT予算をこれだけ使っている、それを一元管理して運用も含めて変えることで、これだけ最適化できる』というビジョンで分業体制から抜け出すという意識を、社内のITシステムに関わっている方全員が持たないと、要件定義も難航しますし、コストの割り振りについても、『これまではこうだったから』という意見にとらわれて話が進みにくくなります。『これまで』は置いておいて、『これから』の全体最適を考えようというモチベーションを組織全体で共有していただければ、明確な効果が期待できます」。
ユーザー部門にとって、情報システム部門にインフラ周りの運用を一任することは悪いことではない。サーバーやストレージの調達や管理を情報システム部門に任せ、自らは業務に関わるアプリケーションを考えることに専念できた方がユーザー部門にとって都合が良いからだ。一方で、情報システム部門にまかせると、いままで自由にしてきたITインフラの利用方法について制限が出るのではないか、という懸念もある。
これは、部門ごとにITリソースが分散していることの利点の1つが、従来のような部門要請に即した、比較的迅速なIT投資にある、という現場の認識である。自らの部門の下にあるIT基盤が共通化によって別の所管に移ることで、意思疎通がかなわないのではないかというユーザー部門側の懸念だ。
だが、実際には「共通基盤化」の先にあるものこそが、ユーザー部門が求める迅速なITシステムの展開に結び付く。近年、“DevOps”といわれることの多い、業務部門ニーズを迅速に汲み取るIT部門の在り方を実現するための道具として、共通基盤化は重要なアイテムだ。逆に言うと、この共通基盤化までが実現すれば、DevOpsも、事業部門ニーズを吸い上げ、迅速なITリソース提供を支える情報システム部門の実現も視界に入ってくるのだという。
現在ある数々の障壁を想像するに、過酷な共通基盤化プロセス実現の先に、そのような未来が待っているとは、素直には理解し難いかもしれない。しかし、今回取材に対応いただいたCTCでは実際にこうした形態を目指したシステム構築を支援・実現しつつあるという。それでは、どのようにして理想的なプライベートクラウド環境構築を支援しているのだろうか。カギは、現場視点での意識改革と全体最適に向けた環境整備にあるという。
ユーザー部門は、サーバーやストレージといったITリソースを、必要なときにできるだけ早く使いたい。それに対応したスピード感が情報システム部門の運用管理業務には要求される。情報システム部門が提供するサービスレベルも、ユーザー部門が負担するコストに見合ったものでなければ、納得は得られない。
「コストに見合ったクラウドサービスを提供する究極の形態はいわゆる『クラウドサービス事業者』だと言えます。リソースを柔軟に提供し、コスト配賦も利用に応じて公平でかつ低価格。情報システム部門は自社のユーザー部門に対して『クラウドサービス事業者』のように振る舞い、ITシステムとそのサービスを提供していくのが理想だと考えます」(福本氏)。
このためには、サービス提供に見合ったITシステム・運用に変えていく必要がある。「プライベートクラウド」という言葉は、このように企業におけるITインフラとITシステム運用のあり方が変わっていくことを示す言葉だと、CTCでは考えているという。
企業によって、ITに対する考え方はさまざまだ。だが、多くの企業では、これまでに述べた意味での「プライベートクラウド」――つまり、クラウドサービス事業者のようにITリソースをユーザー部門に提供することのできる環境に近づこうとする動きが始まっている。とはいえ、クラウドサービス事業者のように振る舞うには課題もある。
情報システム部門が自社のプライベートクラウドに対してクラウドサービス事業者のように振る舞い、ユーザー部門の要求を十分満足させるためには、(1)リソースを迅速に提供できる運用管理、(2)リソース不足を事前に防ぐためのキャパシティ管理、(3)利用状況に応じたコスト感に見合った課金管理、この3つの課題に対する明確なビジョンを持たなくてはならない。
従来はこれら3つの日々の運用管理業務に対するルールやルーチンは、ITシステムごとにばらばらに設定されていた。共通基盤への統合に際しては、単純にITシステムを統合するだけでなく、それらに付随する運用プロセス全体も、各事業部門の要望を組み入れつつ適切に標準化・共通化しなければ運用管理の業務内容が発散してしまう。
「ビジョン構築のプロセスは、弊社が特にお客さまを支援できる部分だと考えています」と福本氏はいう。というのも、同社では一般的な企業がクラウドサービス事業者に似たマインドでITインフラを考えるためのヒントにしてもらうため、場合によっては個別案件ごとに、同社が事業として行っているクラウドサービスの運用ノウハウを顧客に共有することもあるのだという。
「当社におけるクラウドサービスの運用コンセプトを盗んでください、というスタンスで、仕組みなどを紹介することがあります。『CTCはIaaSサービス事業者としてこうやっている、自社も同じようなことをしなければ』といった、考え方のヒントにしていただけるのではないかと思っています」(福本氏)。
情報システム部門がクラウドサービス事業者のようにITリソースを提供する際の最大のポイントは、共通基盤の構築と併せて標準化した日々の運用管理業務がITインフラ運用担当者に集中し、「業務量によって破綻しない」ようにすることだ。ITインフラ運用担当者の「頑張り」にも限界がある。日々の運用管理業務が破綻し、新しいサービスを展開できないようでは元も子もない。
「サーバーの統合だけを実施して、OSやアプリケーション、運用プロセスと言った領域を、物理環境と同様の形態で運用している状況はもったいないと感じます。この状態では、仮想マシンイメージやOSだけをユーザー部門に個別に渡しているだけですから、ITガバナンスを効かせるのに従来同様の労力が掛かります。この部分は、運用ルールの厳格化によって対処するか、ツールで対処するかは判断が分かれるところではありますが、現在はこれらのプロセスをカバーするツールも数多く出そろってきています」(福本氏)
ここで重要となるのが、キャパシティ管理である。キャパシティ管理には2つの側面がある。1つは、サーバーやストレージリソースをタイムリーに提供できるように、共通基盤のリソースプールを健全に維持しておくこと。もう1つは、ユーザー部門に対して過剰に提供されているリソースを適切に回収すること。
情報システム部門側からすると、後者によって生じた余剰リソースはリソースプールを維持したり、他のユーザー部門に回すことで有効活用できる。一方のユーザー部門からすると、キャパシティ管理が課金管理と連動すればコスト負担に納得感が出てくる。
クラウドサービス事業者のように振る舞ううえで、キャパシティ管理や課金管理をしっかりと行い、コストに納得感を出すのは確かに重要だ。
だが、多くの企業がまだ管理作業にはコストが掛けられないと、従前通りの手作業管理を行っている状況もあるという。福本氏によると、現在多くの情報システム部門が、従来の手作業によるキャパシティ管理に限界を感じ始めているという。
「仮想化環境を導入してからの期間が長い組織の多くは、この点に気付きながら運用されている状況です。仮想化製品のリプレース時期などに、運用支援ツールのご相談を受けることが増えています」(大川氏)。
ITシステムの共通基盤化が進むにつれて、「運用担当者のがんばり」にも限界が見えてくる。だから、運用を支援するツールの必要性は、運用が本格化してから気付くことがほとんど。そこでリプレースを機会に運用支援ツールの導入を検討するケースが増えている。運用支援ツールによりITインフラ担当者の業務効率が改善されれば、ユーザー部門に対するサービス改善・向上を期待できるからだ。
自明のことだが、運用支援ツールは「買ってくれば済む」ものではない。立石氏は、これに先立つ、部門全体でのツール導入後の「その先」のビジョンを共有することの重要性を説く。
「ツールの導入だけでなく、まずは『全体最適』が重要です。ひとくちにITインフラといっても、従来の枠組みでは、サーバー担当者の領域、ネットワーク担当者の領域といったセグメントがあります。しかし、仮想化による全社統合基盤の構築には、情報システム部門全体のガバナンスをどう効かせるか、体制をどうしていくか、といった『その先』のビジョンが必要なのです。ここをクリアすれば、いわゆる『ユーティリティコンピューティング』を自社内で提供していくことも可能になります」(立石氏)
いつでもどこでも好きなリソースを使う「ユーティリティコンピューティング」の概念は、利用するユーザー部門側の視点からのものだ。では、その環境を提供する情報システム部門側の運用管理体制がどのようであるべきなのか。情報システム部門全体としての議論とビジョンの共有こそが、運用支援ツール類導入の前に必要なプロセスであるという。
プライベートクラウドを目指すには、ITインフラを構成するハードウェアも、そしてその調達や運用についての考え方も、迅速で柔軟なサービスを支えるものでなければならない。
「プライベートクラウド構築では共通部品を使い、標準化を行って『メニュー』として提供していく取り組みが基本です。ITインフラも同様で、運用管理業務を複雑にするものであってはならず、共通基盤への統合によってITインフラの運用効率を高めることが必要です。これは、ITインフラを大規模にサービスとしてうまく提供するにはどうしたらよいかということであって、サーバー、ストレージ、ネットワークの調達や運用管理が個々に行われてきた従来の状況を変え、情報システム部門がこれらを統合的に運用管理することで、一体のサービスとしてユーザー部門に提供することが求められます」(立石氏)。
立石氏のコメントによると、仮想化によるサーバー統合と標準化・共通化の先にあるのは、「サービス事業者」としての調達プロセスを意識した運用であるという。福本氏はこの点に付いて、具体的に次のように、その理想を説明してくれた。
「調達計画の考え方についても、クラウドサービス事業者との対比で考えると分かりやすいでしょう。大規模な小売業としてのノウハウを持つアマゾンが提供するAWSでは、規模の経済を効かせながら、市場動向を予測して綿密な調達計画を行っています。このアイデアを情報システム部門が実現する場合には、ユーザー部門からどれだけ確度の高い情報を集められるかという課題もあります。リソースのバッファリングをどう計画するかといった検討も必要です。また、予測計画と実績の差分をどのように回収するかも重要な要素です。導入や検討の際には、こうしたリソースのバッファをどのように維持するか、受発注プロセスや納期を考慮し、ベンダーとの調整をどのように行うかも情報システム部門側の重要なミッションとなります」(福本氏)。
ともあれ、こうした運用スタイルは「共通基盤」が実現した先にあるものだ。現段階で運用の効率化やキャパシティ管理の課題に懸念を持ち、運用支援ツールの導入を検討している企業情報システムの現場担当者からすると、想像し難いビジョンだろう。CTCでは、こうした現場担当者に向けて、自社の実践例を「見学ツアー」として紹介している。
「私たちのオフィスでは、自社の情報システム部門の見学ツアーを実施しています。当社の情報システム部門は『コストセンターではなく、情報システム部門が企業文化・風土を醸成する』という考えで運用を行っています。見学ツアーでは、こうした当社の取り組みを見ていただくことで、意識改革の一助となれば、と考えています」(福本氏)。
自社情報システム部門担当者との直接的なディスカッションの場を用意することもあるという。「机上の空論ではなく、実践的な手法や考え方を理解いただけるよう、当社情報システムの現場担当者の生の声として実践例を紹介することで、深く理解いただけていると思います」(福本氏)。
◇ ◇ ◇
仮想化技術を用いた共通基盤は、重要な業務を支える土台となるだけに、止まることが許されない。一方で、多様なベンダーの製品を組み合わせた複雑な環境を設計、構築、運用することが必須となるハードルの高い作業だ。また、ユーザー部門のスピード感に対応するには、インフラ製品の初期導入、拡張のいずれも迅速に行えなければならない。
CTCではこうした考えから、共通基盤に適した仮想化ソフトウェア、サーバー、ストレージの各製品をピックアップし、マルチベンダーで構成された検証済み構成として、同社のノウハウを集約したテンプレートを組み合わせた「VM Pool」というソリューションを、2007年から提供している。これは、ITハードウェアベンダーが「垂直統合システム」などと呼ばれる製品を提供し始めるかなり前の話だ。
理想的なプライベートクラウド環境とは、情報システム部門がクラウドサービス事業者として振る舞えるように共通基盤を運用し、ユーザー部門がリソースの利用に専念できることと言える。そのためには、ITインフラから運用管理業務の標準化までを見据えた全体最適の視点を欠かすことはできない。しかし現実の共通基盤では、運用管理業務の標準化、その効率化のための運用支援ツールの検討がようやく俎上に乗り始めた段階ではないだろうか。
CTCでは、このようにプライベートクラウド構築に適した製品を選定し、確実な運用を支援するためのソリューションをそろえている。また、「プライベートクラウド」という言葉に象徴されるようなITインフラへの移行のプロセスは、さまざまな事情によってユーザー組織ごとに異なるからこそ、これまでの経験を生かし、将来を見据えた無理のない最適な提案をしていきたいという。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年3月16日
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