データ管理から見たプライベートクラウド、ハイパースケールする世界への道程「プライベートクラウド」の理想と現実(2)

企業ITにおいて、データ管理は非常に重要な課題である。データ管理という観点から見ると、プライベートクラウドはどのような意味を持つのだろうか。また、その先にはどのような展望があるのだろうか。ストレージのエキスパートに語ってもらった。

» 2014年02月12日 10時00分 公開
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 ストレージベンダから見ると、「プライベートクラウド」という言葉に象徴されるような、よりよい社内インフラとはどういうものなのか。そのためのデータ管理は、どういったものが望ましいのか。本稿では、この課題について伊藤忠テクノソリューションズと連携しながら、企業内ITインフラ統合向けのストレージ製品の事業を拡大しているネットアップのシステム技術本部 エバンジェリスト 河西学氏を取材、多数のユーザー企業と議論を交わしてきた自身の経験を基に語ってもらった。

「機器」から「リソース」への変化、リソース管理

 河西氏は取材冒頭、IT機器の機能を「リソース(資源)」という考え方でとらえる発想が広まってきたことが、近年の最も大きな変化だと語った。変化をもたらした要因は主に2つあるという。

 まず「クラウド」という言葉とともに「所有から利用へ」という概念の変化がもたらされた。この際、多くの読者が経験したことと思われるが、IT機器=リソースを自分たちで所有するか、借りるかという議論があった。しかも、借りる対象は「機器」ではなく、演算資源やデータ格納資源であるということが、クラウドサービスの登場によって広く理解されるようになった。

 一方で、クラウド以前に企業の間で導入が進んでいたサーバ仮想化技術も、ITを機器としてではなく、リソースとして利用できるようにする技術だという認識が広がってきた、と河西氏は指摘する。サーバ仮想化を、いまだにサーバの数を減らすための技術だと考えている人もいるが、仮想化をより本質的な問題の解決に使えるということに気付いた人も増えているという。

 「よりよいITとは、エンドユーザーの方々にとって使いやすいということにあります。社内のITインフラをリソースととらえたとき、限りがあるリソースをどう配分するとエンドユーザーにとって使いやすいのか、という点に、情報システム部門の方々は頭を悩ませています」。

ネットアップ システム技術本部 エバンジェリスト 河西学氏

リソース最適化を考えると「クラウド」になる

 「どう配分すればいいかを考えていくと、『クラウド』という言葉で表現されるものに、自然に近づいてきます」。

 IT機器に限らず、広義のリソースを考えると、その中で最も限られているのは時間だ、と河西氏は指摘する。例えば、サーバリソース、ネットワークリソース、ストレージリソースと順番に用意していく時に、どれくらいの時間がかかるのか。やりたいことがどれくらいのスピードで実現できるか、それを最短経路で実現するにはどうすればよいかを考えることが重要になってきているという。

スピード感とデータの場所、統合管理

 時間を軸にしたリソースの最適な配分と提供を考える際、忘れてはならないのが、提供するシステムないしアプリケーションが持つ「データ」の物理的な格納場所だという。

 「データを格納する場所はアーキテクチャを考える上で大きなカギとなります――プライベートクラウド、つまり社内なのか、パブリッククラウド、つまり社外なのか」。

 企業が所有するデータの性質は、法的なルールに準拠して保護すべきものもあれば、一定のガバナンスを聞かせた上で比較的オープンに扱っても支障がないものまで、多様である。

 「そこで、特定のデータについて、自身の身近に置くか、それともクラウドに置いていいかという質問してみると、とたんに非常に真剣になられることがよくあります。それがきっかけで社内に置く前提で検討される場合もありますし、その逆もあります。つまり、特定のデータだけは社外のクラウドサービスに置いてもいいという判断です」。

データ統合管理ニーズとプライベートクラウド構築の合理性

 一方で、あらゆる場所に格納しているデータをできるだけ統合管理したいという要求が、意識的にも無意識的にも高まっているという。

 クラウドサービス事業者のサービスが進化を続けているのもたしかだが、実際に事業者が使っているような環境を実現できる技術を、一般企業も手にすることができるようになってきた。

 データを含めてコントロールしたい、あるいはカスタマイズしたいという要求が強いほど、社内で展開することに意味が出てくる。「そのうえで、システムまでを短時間で構築して動かすことができる、それを情報システム部門は、自分たちのノウハウとして蓄積して、横展開できる」。これこそが、プライベートクラウド環境を企業が構築する理由なのだという。

仮想化をきっかけとした物理制約からの解放と、その先

 仮想化しただけではプライベートクラウドではない、と言われることも多い。しかし、仮想化によるIT統合も、ITについての考え方が変わるという意味で、非常に大きな変化だと河西氏は指摘する。

 「仮想化で統合しようという話があっても、業務アプリケーション担当者の方々は、従来のやり方を守りたがる傾向にあります。これはごく自然です。しかし、各アプリケーション専用の機器を維持していくことは、どうしてもコスト高につながります。一方、物理的にこのハードウェアでなければできないという考え方を変えることで、コスト効率を高められます。さらに重要なのは、物理的な制約から解放されることにより、従来は考えられなかったまったく新しい世界がひらけるということです」。

サーバとソフトウェア、データを包括する“1個のデータ”がもたらす変革

 仮想化をきっかけとした、IT機器やリソースに対する思考の変化や「新しい世界がひらける」状況に付いて、河西氏は実例を示してくれた。

 「あるお客さまで、災害対策について議論されていたときに、『仮想化してみたらいいのではないか』という言葉が、仮想化に否定的な見解だった方々から出るという皮肉なことがありました。実際に仮想化をしてみると、物理サーバが(仮想マシンイメージとして)“1個のデータ”になります。すると、システムソフトウェアと業務データを、丸ごと遠隔地へ送れるということに気づかれるのです。1個のデータにすることで、業務データのみならず、システムやプロセス全体の保護が可能になります。それだけでなく、遠隔地側の待機用インフラを、平常時にはソフトウェア開発の場として使えるようになりました。仮想化をきっかけに、業務のあり方が変わったわけです。このケースから、結局、目的は仮想化ではなく、物理的な制約からどう離れるかということだったということに、弊社も気付かされました」。

 仮想化によって、システムやプロセス全体をまとめることで、ITの各種プロセスにおけるリードタイムを短縮できるようになれば、システムにまつわるさまざまなアクションのスピード感が格段に変わる。「一度そういう経験をしたお客さまは、社内でこれを推進しようと意識変革されます。これが、“クラウドの世界”に近づいていくということだと考えます」。

 スピードを実現する際のポイントは、業務アプリケーションそれぞれのリソースニーズは、読みにくくなってきているという事実から出発することだと、河西氏は説明する。もともと、個々のアプリケーションが必要とするリソースについて、事前に正確な予測を立てることは難しい。最近のアプリケーションはさらに予測が困難になってきている。仮想化がもたらす数多いメリットの1つは、社内のアプリケーション担当も、インフラ担当も、事前に正確なリソース予測をする必要がなくなるという点にある。アプリケーションを稼働開始後に、スペックを変更できるからだ。しかも、共用リソースからの切り出しの設定を変えるだけなので、特段コストが掛かるわけではない。

 これを前提として、インフラ担当者も、インフラの準備や設定に掛ける時間や手間を省き、運用に集中することで、迅速なサービスをアプリケーション担当者に対して提供できるようになる。

 「米国で、特にマルチベンダの垂直統合型ソリューションが非常に伸びているのは、このためです。ストレージ、ネットワーク、サーバで、どれくらいの構成が適切かと、試行錯誤しながらやっていると、平気で3、4カ月経ってしまいます。それを、わずか数日でできます。特にシスコとは考え方が似ており、双方とも自社の守備範囲でお客さまにメリットをもたらす機能を提供することに集中しているため、組み合わせやすいと思います」。

プライベートクラウドのデータ管理/ストレージ統合はショッピングモール運営と同じ

 1個のデータとしてのシステム・データ・プロセスを格納する物理ストレージ装置はどう考えるべきなのだろうか。「プライベートクラウド」という言葉を使うかは別として、一般的な企業におけるデータ管理基盤のあるべき姿について、河西氏は意外なことにショッピングモールの運営を例に挙げて説明してくれた。

全体の営業を停止することなく最適化し続けること

 「例えば、ショッピングモールの中はある種の共同体ですよね。場所を分割して人が効率よく動けるようにしています。ストレージ統合はそれに似ています。巨大なショッピングモールを運営していくのと同じように、業務ニーズに応じて順次、場所を割り当てます」。

 店舗や通路の配置、導線の設計など、利用者のニーズに則して適宜場所というリソースを最適に提供するショッピングモールの運営は確かに効率的だ。だが、リソースの最適化以上に重要なのが、停止しないことにある、と河西氏は強調する。

 「営業が止まらない、常に動き続けられることが一番重要なのです。全体を止めて何かを追加することは簡単です。そうではなく、きちんと稼働した状態を維持しながら、動的に、いつでも変化できることが非常に重要なのです。弊社は、実はそこに最も開発人員を投入しているのです」。

多様なデータの入出力を受け止めるストレージ装置構成の柔軟さ

 稼働し続けながら柔軟な構成が選択できることと併せて、多様なデータの格納場所を用意する点も重要だという。

 「同じショッピングモールの例でいうと、お客さまがたくさん来たら道を広くしたり、売り場面積を広くする必要があります。ITの用語では『QoS』ということになると思いますが、そういうことが自在にできるようになってきました。いわゆる“土管”の太さを変えられるだけでなく、それをきちんと受け止められることも重要な課題です。例えば最近では高速性に優れるフラッシュストレージ装置が出てきたので、非常に高速なやり取りを必要とするデータを受け止められる基盤が整ってきていると思います。そういった意味で、ストレージ装置はハイブリッドな形になってきています。速いところはフラッシュストレージで、そうでもないところは多少ゆっくり処理してもいい、ということです」。

 ストレージを統合し、フラッシュをはじめとする各種の記憶媒体を混在配置する。そして、アプリケーションの実際のニーズに基づいて、適切な記憶媒体を自動的に適用するということができるようになってきた。

 「代表的なアプリケーションは仮想デスクトップ環境です。多くのユーザーが同時に利用するため、システムデータの格納場所としてフラッシュを活用する。そういったことはすべて自動化されています」。

プライベートクラウドを支えるストレージは「どこでもドア」になるべき

 河西氏は、社内でITインフラ統合やストレージ統合を進めることは、データを社内に閉じ込めるということにはならないと強調する。

 「当社は、『どこでもドア』のように物理的制約を越えてデータにアクセスできるということをテーマとしていますし、実際にその考えを、ソフトウェアによって製品に反映させています。場所を問わず、さまざまな制限なしに、データにアクセスできるような技術を、今後も進化させていきます」。

 「どこでもドア」を実現する技術の進化の先には何があるのだろうか? 河西氏は、これについてデータを統合的に管理したうえで「ハイパースケール」できる環境を提供することにある、とする。

 「現在のところ、データをプライベートとパブリックのどちらに置くかは非常に重要な問題です。しかし今後は、データの特性に応じて臨機応変に、プライベート、パブリックを問わず配置し、そのうえで統合的なデータ管理が実現できるようにならなければなりません。ユーザーやアプリケーションは、データがどこに移動しても気にすることなく、これを利用できる環境。当社はこれを『ハイパースケール』と呼んでいますが、この世界が実現するのは遠い未来ではありません」。

 物理ストレージ環境が、「エンドユーザーにとって使いやすいIT環境」を制約しないこと=データのありかがパブリック/プライベートかを意識をせずに利用できること、必要な時にリソースをスピーディに提供できることを突き詰めた先にあるのが、同社のいう「ハイパースケール」な環境であり、「どこでもドア」の実現なのだという。同社の製品アーキテクチャ設計の根底にはこうした思想がある。

 「製品思想として、実はシスコシステムズ製品とはこの点で非常に親和性が高いのです。どちらも、プロトコルや構成について、極力制限を排除し、柔軟に幅広い環境に適用できるように作られているからです」。

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提供:伊藤忠テクノソリューションズ株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2014年3月16日

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