ゲーム開発者を対象としたカンファレンスイベント「CEDEC 2015」において日本マイクロソフトが多数のセッションを通じて伝えたかったメッセージは何なのか。@ITで行ったゲーム開発者向けアンケートの結果から分かるゲーム開発者が抱える課題や、「CEDEC AWARDS 2015」の最優秀賞を受賞したVisual Studioの役割、Windows 10のゲーム向け機能とともにお伝えする。
8月26〜28日の3日間、パシフィコ横浜において、ゲーム開発者を対象としたカンファレンスイベント「CEDEC 2015」が開催された。日本マイクロソフトは、このイベントにゴールドスポンサーとして協賛。加えて26日には五つのセッションを通じて、マイクロソフトがゲーム開発者に対して提供できる技術とサービスをアピールした。各セッションで同社が開発者へ伝えたかったメッセージは何かについて、セッションを担当したエバンジェリストに話を聞いた。
日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 ISV テクニカル エバンジェリズム部長である大西彰氏は、「今回のCEDECで行った5つのセッションは、現在マイクロソフトが取り組んでいる『三つの柱』を、ゲーム開発の視点から分解した構成になっていた」と話す。
マイクロソフトの『三つの柱』とは、『よりパーソナルなコンピューティング環境を作ること』『インテリジェントなクラウドプラットフォームを作ること』『生産性の向上とビジネスプロセスの再構築』を指す。「Windows 10やXboxに関するセッションは『パーソナルコンピューティング』、Visual StudioやUnityに関するセッションは『開発の生産性向上』、Microsoft Azureでのリアルタイムデータ分析やマシンラーニングに関するセッションは『クラウドプラットフォーム』と、各セッションが三つの柱のどれかと必ず関連していたのです」(大西氏)
今回のCEDECへの参加は、マイクロソフトにとって特別な意味を持っている。同社の今後の戦略上、極めて重要な役割を担う新OS「Windows 10」が7月29日に、リリースされたばかりだったからだ。
そもそもWindowsはPCゲームのプラットフォームとしても使われているが、「Windows 10」には標準機能として、ゲームのプレー動画を簡単に録画し公開できる機能を備えた「ゲームバー」や他のプレーヤーとのコミュニケーション機能やストアの機能などを持った「Xboxアプリ」、ゲーム開発において、よりCPUとGPUの性能を引き出す「DirectX 12」、Xboxと同様に対戦プレーや実績などを実現できる「Xbox Liveサービス連携」など、ゲームプラットフォームとしての魅力を高める仕組みが搭載されている。さらに「Universal Windows Platform(UWP)アプリ」として開発されたゲームは、Windows 10搭載のPC端末だけではなく「Windows 10 Mobile」端末や「Surface」のようなタブレット端末、さらにはコンソールゲーム端末の「Xbox One」上においても「クロスデバイス」で動作させることが可能になる。
これらの機能によってもたらされる新たな体験は、ユーザーがWindowsをゲームプラットフォームとして再評価するきっかけになるだけではなく、ゲーム開発者にとっては新たなビジネスチャンスとなる。今回のCEDECは、そのことを多くの開発者にアピールする絶好の機会でもあったわけだ。
さらにマイクロソフトは、iOS/Androidを含むクロスプラットフォーム開発に対応した統合開発環境である「Visual Studio 2015」、現在のゲームに必須といえるインフラ機能のバックエンドとして利用できる多様なサービスを備えた「Microsoft Azure」も提供している。
日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 プラットフォーム エバンジェリストの高橋忍氏は次のように語る。
「OS、プラットフォーム、開発ツール、クラウド、ハードウエア、さらにサービスと、マイクロソフトはゲームビジネスのエコシステム全体に対して製品を提供しています。今回のCEDECで1日かけて実施したセッション、そして展示ブースでは、それらをできる限り満遍なくお伝えしたいと思いました。
CEDECには、開発者だけではなく、ゲームビジネスにおける意思決定をされる方も来場しています。ゲームの分野で、何らかの役割を持った参加者の方に、いずれかのメッセージが『面白そうだな』、あるいは『ビジネスとして魅力的だな』と感じてもらえることができたら成功だと思っています」
今回のCEDEC開催に先駆けて、@ITでは読者に対して「ゲーム開発」に関するアンケート調査を実施した。ここからは、その結果を参考として紹介しつつ、マイクロソフトが「ゲーム開発を効率的に進めたい」「ゲームでのビジネスを有利に展開したい」と考える開発者の課題に対して、どのようなソリューションを提供できるのかについて、個別にコメントしてもらった。
iOS/Androidを搭載したスマートデバイスが一気に普及したことで、開発者からエンドユーザーへのアプリケーションの配布手段は、各プラットフォームホルダーの提供する「ストア」を通じて行われるというのが、もはや一般的になっている。この流れは、PlayStationやXbox、Wii UやNintendo 3DSといったコンシューマーゲーム機の分野でも同様であり、WindowsにおいてもWindows 8から実装された「Windows ストア」でのアプリ配信が、Windows 10の登場によって本格化しようとしている。
Windows 10では、Windows ストアアプリを従来のWindowsアプリケーションと同様にデスクトップ上でウインドウとして動かすことが可能になっている。これにより、さらにWindows ストアアプリの利用ユーザーは増えることが見込まれている。さらに、今後はPC、Windows 10 Mobile、Xbox Oneのストアに対する出品プロセスが一本化され、UWPアプリとして作成されたゲームは、それら全てのデバイスのユーザーに対して配信、販売を行うことが容易にできるようになる。
@ITのアンケートの「現在出品している、今後出品したいストアプラットフォーム」について聞いた設問では、「今後出店したいストア」としてiTunes、Google Playといったスマートデバイス向けストアでは「Windows ストア」が群を抜いていた。PlayStation Store、Nintendo eShopといったコンシューマー機向けストアでは、「Xbox Games ストア」も引けを取らない比率で挙げられており、関心の高さがうかがえる。
「マイクロソフトのストアプラットフォームへの関心が高いという結果が出ているのは、純粋にうれしいですね。また、今後の利用意向としてSteamの比率が非常に高い点も興味深いです。これまで以上に、開発者の皆さんが『PC』をゲーム配信のプラットフォームとして強く認識してくださっていることの表れなのではないでしょうか」(高橋氏)
こうした多彩なプラットフォーム上でのアプリ配信が可能になったことで、開発者のビジネスチャンスは大きく拡大したと言える。一方で、そのチャンスを最大限に生かすためには「クロスプラットフォーム」対応をいかに効率的に進めていくかが大きな課題となる。
「現在、ゲーム開発/販売において課題としていることは何か」を聞いた@ITのアンケート設問では、「人材不足」「人材育成」といった項目に次いで「クロスプラットフォーム対応」「品質管理/バグ出し」「スマートフォン対応」といった回答が多く、複数のデバイスやプラットフォームへの対応作業に課題を感じている開発者の存在が目立つ。
マイクロソフトでは、統合開発環境であるVisual Studio 2015において、iOS/Androidアプリの開発を可能にすることと併せて、現在「Windows Bridge for iOS」「Windows Bridge for Android」と呼ばれるプロジェクトにおいて、既存のiOS/Androidアプリを、UWPアプリへと容易に移行できる技術の開発を進めている。
日本マイクロソフト デベロッパー エバンジェリズム統括本部 テクニカル エバンジェリスト 鵜木健栄氏は次のようにコメントする。
「ゲームアプリについては、やはり各プラットフォーム向けにそれぞれネイティブで開発するのが、今のところ王道です。開発環境としてもVisual Studioがデフォルトな状況です。今回のCEDEC AWARDSでVisual Studioが最優秀賞をいただけたのも、ゲームの開発現場で多くの方に使っていただけていることの現れだと思っています。もちろん、スマートフォン向けのゲーム開発をメインに行われている開発者にとっても、効率的なクロスプラットフォーム展開を支援する機能をVisual Studioは備えています。
アンケートでは『人材不足』を課題として挙げている方が多かったようですが、特にUnityを使用しているゲーム開発者にとってはVisual StudioとUnityはとても親和性が高いのでPC、iOS、Androidを含めたクロスプラットフォーム化を効率的に進められます」
「Windows Bridge for iOS/Androidは、現在iOSやAndroidアプリでビジネスをしている開発者の方に、ぜひ注目しておいていただきたいプロジェクトです。この先、盛り上がりを見せるWindowsのアプリ市場を少しでも『面白そうだ』と感じていただけたら、既存のアプリ資産ですぐに参入できる環境を作ろうとしています。期待していてください」(高橋氏)
このように日本マイクロソフトは、Windows 10とMicrosoft Azure、そしてVisual Studio 2015を中心にゲーム開発者、ならびにゲーム業界に貢献したいという思いを持っているが、その思いはゲーム開発者にも伝わったようだ。前出の鵜木氏も触れていた通り、27日には「CEDEC AWARDS 2015」の発表が行われ、エンジニアリング部門の最優秀賞に「Visual Studio」開発チームが選ばれた。
CEDEC AWARDSは、エンジニアリング部門、ビジュアル・アーツ部門、ゲームデザイン部門、サウンド部門、ネットワーク部門の五つで、コンピュータエンターテインメント開発の進歩へ顕著な功績があった技術および開発者を表彰するもの。5部門それぞれに対して五つの技術/開発者に優秀賞が贈られる。
「Visual Studio」開発チームが優秀賞に選ばれた理由としては「開発環境の標準としてその技術コンセプトは開発スタイルの在り方そのものに大きな影響を及ぼし続けてきた。プログラム開発現場への長年にわたる多大な貢献を評価」となっている。優秀賞の五つの技術/開発者の中から、さらにCEDEC受講者、講演者、運営委員会の投票により最優秀賞が選ばれるわけだ。
ゲーム開発者およびゲーム業界への貢献が認められたVisual Studio 2015と、ゲームプラットフォームとして注目されるWindows 10は、さらにどんな進化を遂げていくのか、今後も目が離せない。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年10月31日