Windows 10やMicrosoft Azureといった最新ITテクノロジをビジネスで活用するためには、テクノロジに対してどのように向きあうべきなのだろうか。最新ITテクノロジを紹介することを“なりわい”とする日本マイクロソフトのエバンジェリストによるリレーコラムから、そのヒントを得てほしい。第1回はMicrosoft Azureを中心に幅広い知識と経験を持つ高添修氏による寄稿だ。
物事には歴史があり、歴史には人々の感情を奮い立たせるヒントが含まれている……はずだった。
しかしIT業界においては、その歴史こそが、若者と年長者の間に壁を作り、結果としてクラウドやデバイス、コミュニケーションツールといった新しいITのスムーズな利用を妨げている可能性がある。物心がついたころからITやネットが生活の一部だった若者と、「個人用と会社用のITは違う」と感じ、「予算と手間を掛けて導入するのが企業ITだ」という認識の年長者。一つ一つの小さな意見の相違を軽視せずに向き合えば、IT活用への糸口が見つかるのではないかと考えてみた。
そこで本稿では、最近直面したいくつかのエピソードを通して、世代間ギャップを露わにしつつ、オヤジと呼ばれてもおかしくない世代の一人として、これから活躍してほしい若者へ年長者の悩みと思いを伝えたいと思う。
Surface 3が登場した際の話だ。Surface 3は、何でもできる高性能デバイスSurface Pro 3とは違って、コンパクトで、軽量。Atomを採用したことでバッテリの持ちがよく、LTE版によって常時ネットにつながる最新のデバイスである。
私は、面白いデバイスが出てきたと思ったものの、ローカルストレージが64GB、最大でも128GBという容量が気になった。なぜかというと、私は仕事柄多くのドキュメントを作るため、作ったドキュメントの保存に加えて基になるデータはローカルストレージに置いてあった方が便利だと思うのだ。そうなると、最低でも256GB、できれば512GBのストレージを求めてしまう。
しかし、ある若いエンジニアは私にこう言った。
「64GBあれば十分でしょう。メールはWebでも見られるし、OneDrive for Businessがあるからローカルにドキュメントを置かなくてもいいし、データは検索すれば出てくるし、何よりローカルにデータを持たない方が他のマシンに入れ替えるのも楽ですから……」と。
正しい。しかし、私は256GB以上のマシンが欲しいと思ってしまうのだ。
さてさて、このギャップの裏にはITの歴史がある。
理由は人それぞれかもしれないが、私は、PCがオフィスになかったころからIT業界にいて、インターネットにアクセスできるOSの登場に熱狂した世代だ。何メガとか何ギガ通信なんてあり得ない。回線といえば細く不安定なイメージを持っていたから、ネットワークとの付き合い方には慎重なところもあった。だから、「大丈夫そうだ」と分かっていながらも、「つながらなかったらどうしよう?」と無意識のうちに反応をしてしまっている。そして、われわれの世代は仕事に完璧を求めようとし過ぎるきらいがあり、ネットがつながらないことがあるという事実についても若者の方が寛容だ。
若者よ、ネットを不安がるオヤジがいたら「最近のネットはもう大丈夫だ」と若さという武器で背中を押してほしい。
最近の社内コミュニケーションシステムはかなり良くなってきた。例えばマイクロソフトの社員は、電話もメールもPCで受けられる。シングルサインオンでチャットやビデオ会議もスムーズに使えるし、Yammerのような企業向けSNSもあり、テザリング可能な携帯電話も支給されているので社内も社外も同じように仕事ができる。おそらく、Office 365やSkype for Business(Lync)を使ってくれているお客さまの中にも同様の感想を持ってくれる方がいるだろう。
しかし、そんな会社にいても、若者はコミュニケーションツールに不満を持っているらしい。
会社のメールは予定表との連動や宛先検索にはいいが、単にコミュニケーションを取りたいと思ったときに使う必要はないらしい。チャットも、誰から見られているか分からない社内専用のツールを使うより、普段から使っているLINEやFacebookやTwitterを使えばよいと考えるのだそうだ。
ある意味正しい。確かに、コミュニケーションを取ることが目的であるならばそれでよいし、そちらの方がスムーズであるならば否定するべきものではなさそうだ。
しかも、社内からの情報に期待し過ぎることのない若いエンジニアにとって、自分のコミュニケーション相手は常に外にいて、無償のツールがいつでもコミュニケーションできる状況を作ってくれる。そして、会社の他の社員も同じツールでつながっている状況にあって、仕事という枠の中に存在する社内のコミュニケーションツールの優先度が上がらないのだ。
ただ、ここにも歴史がある。
IT業界といえども、コミュニケーション手段は固定電話だけだった時代がある。ポケベルを鳴らして近くの公衆電話から社内に連絡をする時代もあった。それが、携帯電話、PCの普及、メール、スマートフォンの普及にSNSの台頭などで大きく変わってきた。その間には、営業の仕方も変わったし、情報漏えいがどうとか、個人情報保護がどうとか、BYODを許す許さないとか、企業の中ではいろんな葛藤があったのだ。社内のIT部門は試行錯誤をしながら社員のために稟議書を通し、ベンダーと交渉を行って今の基盤を作り上げた。どうしても社内と外のツールとを区別してしまうわけだ。
だから、便利だから使えばいいという正しさと、便利さ故のリスクを考えた上で会社全体を最適化したいと思う正しさ、両方の正しさが存在することを理解してほしい。
しかし、それでも時代が変わってしまったことは事実だ。私自身も、お客さまやパートナーとの間のやりとりをFacebookで済ませることもあるし、正式な依頼だけはメールを使うといったことも日常茶飯事なのだから。
若者よ、オヤジたちが会社のツールを大事に考えていることだけは否定しないでほしい。そして、オヤジたちに社内SNSの使い方を教えてやってほしい。SNSは電話代わりに使うだけではなく、投稿(=コンテンツや意見を中心にさまざまな人の見解が聞ける情報収集)ツールでもあり、その情報がディシジョンを下す際にも役に立つことがあるのだと。
マイクロソフトにはSwayという新しいツールがある。プレゼンテーションツールでもあり、ちょっとした情報伝達アプリケーションでもあり、写真などをふんだんに使ったビジュアルな画面がいい感じのツールでもある。
ただ、マイクロソフトにはPowerPointというプレゼンテーションツールもある。年間100〜150回ものプレゼンテーションをする私にとって、PowerPointこそが仕事をする上で不可欠なツールといっても過言ではない。しかもPowerPointは便利だし、これまでは「PowerPointというツールの良さを生かしながら思い通りのプレゼンテーションをしてきた」という自負があるから、Swayを遠く感じてしまう。
でも若者は言う。「Swayのプレゼンの方がカッコ良いじゃないですか」と。
正直に言って、PowerPointの感覚でSwayに向き合っても無理がある。しかし、自分が作った力作のPowerPointファイルをSwayにインポートしてみると、そこで何かが起こる。実際に使うにはきれいに整える必要があるものの、気にせずにSwayによるプレゼンテーションを試してみると、そこには私が作ったPowerPointではない新しいプレゼンテーション資料があることに気付くのだ。そして、これまで自分が考えていたプレゼンテーション資料とのギャップを思い知らされることになる。
どちらが正しい? とかではなく、カッコいいプレゼンへの近道もあるのだと。
そこにも歴史がある。
今の日本のIT業界においては、プレゼンテーション資料と提案書の違いが不明確である。PowerPointはお客さま先でプレゼンテーションをするものではなく、説明という作業を行うものだったりする。だから、1ページに数行の短い文字が書いてあるようなスティーブ・ジョブズ氏のプレゼンテーション資料ではお客さまから帰れと言われかねず、みっちりと細かな文字で、お客さまのご要望に対する提案が書いてあり、時には表形式の○×表で競合製品との差異を明確にし、エビデンス(証拠)としてお客さまに置いていくものがPowerPointのファイルだったりするのだ。
しかも、会社という枠の中で育ってきた年長者にとって、社外に向けた自己表現などは不要であった。上司への自己表現は日々のコミュニケーションの中でできるし、提案活動のための説明にはどんな質問にも答えられるような詳細な情報が最適だと思っている。だから、そもそもプレゼンテーションと聞いたときにイメージするものが違う。そして、いざ大きな場で発表をするときにも細かな文字が書かれた提案書をそのまま使ってプレゼンテーションをしようとしてしまう人もいるわけだ。
若者よ、プレゼンテーションとは何か、カッコ良いプレゼンテーションがもたらす価値とは何かを年長者に教えてあげてほしい。数カ月おきに進化するクラウドやデバイスの時代にあって、細かな○×表はあまり意味をなさないのだから、相手に響くメッセージを伝えるプレゼンの重要度が増しているのだと。おそらく、相手を口説き落とすことの重要性は長く会社にいる人も理解しているから、きっと話がかみ合うはずだ。
さて、とりとめもなく三つのエピソードを書いてみたが、他にも、開発した新機能を無償提供するモデルWindows as a Serviceへの反応や、Cortanaという音声エンジンをフロントにしたパーソナルアシスタント機能への向き合い方、さらには1年で500以上もの新機能追加を行い続けているMicrosoft Azureの受け止め方など、これまでの常識が通用しなくなってきていることを年長者の一人として自覚しなければならない。
もちろん、私が知っている年長者もいろいろな努力をしているが、今起きていることを理屈ではなく自然に理解しているのは若者たちだと思う。そして、クラウドや最新のデバイスを活用したITを企業の先頭に立って推進していくべき若い人材が、会社という枠の中で小さくまとまってしまわないように、年代の壁を超えて、一緒にITを活用していければと願っている。
最後に、クラウドセミナーでよく訴えている「トライファーストの重要性」に近い言葉が歴史上の人物から発せられていたことに驚いたので、ここで紹介しておこう。
何かを学ぶためには、自分で体験する以上に良い方法はない。
日本マイクロソフトのエバンジェリストとして、イベントやセミナーでの登壇、記事執筆などを通じて、マイクロソフトの製品やテクノロジ、サービス、時にはマイクロソフトそのものについての情報を日本中に発信している。最近では、クラウドファースト実践企業となったマイクロソフトならではのハイブリッドクラウド戦略について社内外の啓発に勤しんでいる。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2015年11月6日