今、さまざまな企業がIoTへの取り組みを開始し、新しいビジネス価値を創出しようとしている。しかし、IoTで収集されるデータは想像以上に膨大で、多くの企業がその管理や分析、利活用での課題を抱えているのが現状だ。そうした企業の課題を解決するために、SCSKはMicrosoft Azure上で「Red Hat JBoss」を素早くかつ柔軟に利用するためのサービスを開始し、企業のIoT利活用を力強く後押ししようとしている。
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に対する企業の取り組みが活発化している。多くの企業がセンサーやデバイスをインターネットに接続し、そこから得られるデータを分析して、既存サービスの改善に生かしたり、新しいビジネスの立ち上げに役立てたりしようとしている。ただ、これまでにない新しい取り組みであるだけに、四苦八苦しているのが現状のようだ。
企業のIoTの取り組みをシステム面から支援しているSCSKの加藤順昭氏(プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 ミドルウェア部 第二課)によると、企業の悩みの多くは「何から始めればいいか分からない」「始めてはみたものの、次にどうすればよいか分からない」というものだという。加藤氏は次のように話す。
「“デジタル技術を活用してビジネスをトランスフォーメーションしていこう“という機運は、非常に高まっています。特にIoTは、自社の製品やサービスなど、目に見えるモノがあるだけに、具体的な施策や効果を想像しやすい面があります。ただ、実際に取り組みを始めてみると、なかなか想像した通りには進まないことが多い。どんなデバイスが必要になるのか、サーバはどうするのかといった、細かいことが足かせとなって取り組みが頓挫してしまうことが少なくありません」(加藤氏)
例えば、初期投資を抑えるために、既存システムを流用したいという声があったとする。この場合、意図するIoTサービスに適したシステムならばいいが、ほとんどの場合、条件を満たすことができないという。外部から社内システムにアクセスできるようにしたり、外部データを蓄積して分析できるようにしたりするといった改修作業が発生するため、コストやセキュリティ、コンプライアンスなどの条件がクリアできないのだ。
システムを整備することができたとしても、課題はまだ残る。SCSKの富杉正広氏(プラットフォームソリューション事業部門 ITエンジニアリング事業本部 ミドルウェア部 第二課)によると、大きなカベとして立ちはだかるのが人材の確保だという。
「IoTの取り組みでは、データの収集、蓄積、分析、フィードバックといったサイクルをどう回していくかがカギを握ります。どのようなデータをどう集め、それを現場に反映させていく作業は、従来のシステム開発や運用とは異なるスキルセットが求められます。そうした人材をどう確保、育成していくかは難しい問題です」(富杉氏)
一見取り組みやすそうに見えるIoTだが、具体的な成果を出すのは決して簡単ではないのだ。
SCSKがそうした悩みを抱える企業を支援するために提供しているのが、IoTイノベーションの創出を目指したクラウドプラットフォーム「Red Hat JBoss BRMS on Azure」だ。クラウド環境に「Microsoft Azure」を採用し、その上で、レッドハットのミドルウェア製品であるアプリケーションサーバ「JBoss Enterprise Application Platform(EAP)」やビジネスルールエンジン「JBoss BRMS」をIoTサービスの分析エンジンとして活用するというソリューションだ。
Microsoft Azureは、サービス開始当初はPaaS(Platform as a Service)の提供基盤として見られることが多かったが、2013年からIaaS(Infrastructure as a Service)の提供を開始したことで、総合的なクラウドプラットフォームになった。
そして2015年11月にはレッドハットとパートナーシップを締結し、AzureのIaaS上で「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」の稼働を正式にサポートした。
その後も協業関係の強化を続け、RHEL上で動作するJBossをはじめとしたさまざまなミドルウェアを正式にサポートするようになった。今やAzureは、オープンソースソフトウェア(OSS)サポートに最も力を入れているクラウドサービスといっても過言ではない。
一方、レッドハットが提供するJBoss EAPは、Java EEに準拠したアプリケーションサーバとして多くの企業での採用実績を誇る。標準でクラスタリング、メッセージング、キャッシュ、次世代アプリケーション開発フレームワークなどを提供し、パフォーマンスと開発生産性に優れたソフトとして知られる。
また、JBoss BRMSは、ビジネスルール管理、ビジネスリソースの最適化、複合イベント処理(CEP)を包括的に提供する強力なプラットフォームだ。Webベースのグラフィカルツールを備え、ビジネスアプリケーションを管理するルールを明確に可視化する。デシジョンテーブル、スコアカード、ドメイン固有言語などを使って、シンプルにビジネスルールを作成、実行できるようにする。
「JBoss EAPとJBoss BRMSを組み合わせると、オンラインサービス上での複雑な計算を簡単に行うことができます。すでに、ECサイト上での割引料金や配送料金の計算、オンラインゲームの課金計算、生命保険や損害保険の査定などでの実績もあります。膨大なデータから特定のルールに従って迅速に処理を行うことも得意です。このため、クレジットカードの不正利用の検知や、セキュリティインシデントの検知、自動車の生産計画といった分野でも活用されています」(加藤氏)
AzureとJBoss EAP、JBoss BRMSを1つのパッケージにして、SCSKのシステム構築ノウハウと独自の付加価値を組み合わせて提供されるのが、Red Hat JBoss BRMS on Azureソリューションになる。
それでは、SCSKのRed Hat JBoss BRMS on Azureは、ユーザーにどんなメリットをもたらすのか。冒頭でも触れたように、IoTに取り組む際の課題の1つは、システムの整備が想像以上に難しく、整備した後も継続的にアップデートしていく必要があるという点だ。富杉氏はこの点について、Azureというプラットフォームの持つ優位性を挙げ、次のように説明する。
「SCSKはマイクロソフトのGoldコンピテンシーパートナーとして戦略的な提携を行っており、今回、このソリューションを提供した大きな目的の1つとして、ユーザーがIoTで抱える課題を一緒に解決することにありました。Azureの特徴の1つは、課金体系が細かく、分単位での課金も可能なことです。IoTの取り組みはスモールスタートし、問題があればすぐにやり方を変えたり、場合によっては撤退したりといった素早い判断が重要になってきます。Azureの課金体系は、取り組みに掛かるコストを最小限に抑えることが可能で、必要に応じてシステムをスケールアウトさせていくことに向いています」(富杉氏)
また、Azure上でJBossミドルウェアを展開するメリットは、「マイクロサービスアーキテクチャ」を容易に実現できることだという。マイクロサービスアーキテクチャとは、UI(ユーザーインタフェース)や業務ロジック、データベースが密結合した「モノリシック(一枚岩)」なシステムでなく、UI、業務ロジック、データベースをそれぞれ独立した小さなサービスとして扱い、システムをサービス同士が疎結合した集合体として構築する手法だ。システムの改修が容易で、ビジネスの変化に迅速に追随しながら、新しい技術を導入していくといったこともやりやすいという特徴がある。
「JBoss MiddlewareはEAPやBRMSの他にも、BPM SuiteやFuse、A-MQ、Data Virtualization、Web Server、Data Gridなど、特定の機能に特化した製品群です。このため、マイクロサービスとして考える際に最適な粒度を持ち、システムの柔軟性も保ちやすい。また、Red Hat OpenShiftのような、DockerとKubernatesを採用したコンテナ技術もマイクロサービスアークテクチャを実現する上で大きな武器になります」(富杉氏)
もう1つの課題だった人材については、SCSKが持つノウハウを最大限に活用する。SCSKは2009年にレッドハットとJBossに関する戦略的な契約を締結し、さまざまな業種の顧客に対してJBoss導入を支援してきた実績がある。2013年にはJBoss BRMSエンジニアを100人育成するプロジェクトを開始し、2013年にはレッドハットの「Partner of the Year」を、2016年には「Red Hat Japan App Dev Partner of the Year」を獲得している。これまでのサポート件数は、2200件を超えている。
「BRMSスペシャリストの有資格者が、お客さまのIoTの取り組みを全面的にバックアップする体制です。業務のヒアリングからPoC(Proof of Concept)の作成、ビジネスルールの作成と改善までを一貫して担当し、IoTで求められるスキルセットの獲得を支援します。SIerに丸投げするのではなく、業務に詳しい担当者と小さなチームを構成し、数週間から1年かけて、アジャイル開発の手法を取り入れながら、IoTサービスを作っていくことになります」(富杉氏)
AzureやJBoss Middlewareは、こうした臨機応変で柔軟な取り組みに向いており、それをパッケージとして利用しやすくしたのが、SCSKが提供するRed Hat JBoss BRMS on Azureというわけだ。
Red Hat JBoss BRMS on Azureは、ビジネスに利用可能なデータの「フィルタリング」「蓄積」「分析」「見える化」を行うIoTクラウドプラットフォームだ。具体的には、以下の図のような構成となっている。
まず、センサーやデバイスから収集されたデータは、JBoss BRMSで「フィルタリング」される。その基盤となるのが、REHLやJBoss EAPだ。この基盤は、コンテナプラットフォームとしてOpenShiftを採用することで、マイクロサービスアーキテクチャに準拠した基盤として運用することもできる。
フィルタリングされたデータは、Azure上で「蓄積・分析」される。そのAzureの基盤には、SCSKが2015年3月から提供しているAzureを使ったクラウドサービス「USiZE(ユーサイズ)」が利用される。USiZE上では、Azureの機械学習やビッグデータ分析のスイートソリューション「Azure IoT Suite」を稼働させる。
Azure IoT Suiteには、データをリアルタイムで処理して分析するストリーム分析の「Stream Analytics」や、機械学習によるモデル生成までを自動で行うことができる「Machine Learning」、Hadoopの基盤と連携してビッグデータ分析を行う「HDInsight」など、特徴的なサービスが多数含まれている。
そして、最終段階の「見える化」では、大量のデータを素早く処理し、可視化できる「Power BI」「MotionBoard」等のBI製品が活用される。
このように、Red Hat JBoss BRMS on Azureは、Red HatとAzureのソリューションを有機的に組み合わせ、そこに、SCSKのシステム実装の経験とノウハウを取り入れたユニークなソリューションになっている。サービス稼働後は、例えば、以下の図のようなマイクロサービスの構成で、サービスを柔軟に展開していくことができる。
「SCSKでは、お客さまがやりたいことを最適な形で提供し、ビジネスに貢献できるように取り組んできました。今回のソリューションもその1つであり、今後もその姿勢は変わりません。マイクロサービスのようなアーキテクチャを採用していくことで、お客さまは常に新しい技術やトレンドを取り入れながら、新しいビジネスにチャレンジしていくことができます。デジタルトランスフォーメーションを支えていくパートナーを目指してさらに活動を推進していくつもりです」(加藤氏)
IoTの取り組みは今後さらに高まることは間違いない。そんな中、マイクロソフト、レッドハット、SCSKのパートナーシップは取り組みを進める企業にとって大きな力になるはずだ。
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アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2017年2月22日