仮想通貨だけではない!ブロックチェーンで信頼が担保された新たな経済圏を構築するための3つの勘所企業の隠蔽体質の改善にもつながる

ブロックチェーンの本質的な価値は、取引の信頼性を担保できることであり、「競合との協業」を実現するような、経済の仕組み自体をも変えてしまう可能性があることだ。本稿では、ブロックチェーンにおける「開発」「ガバナンス」「運用」の課題について、解決に向けた勘所と求められる技術要件を明らかにする。

» 2018年03月13日 10時00分 公開
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 仮想通貨の急騰などにより、その根幹技術である「ブロックチェーン」にも注目が集まっている。仮想通貨やブロックチェーンに関する理解が不足している人には、その技術自体に懐疑的なところもあるようだ。だが、技術自体には問題がなく、その活用の仕方に問題がある場合はビジネスに損失をもたらすのは何もブロックチェーンに限った話ではない。そもそも仮想通貨はブロックチェーンの活用形態の1つにすぎず、他の領域にも置き換えることが可能だ。ブロックチェーンの本質的な価値は、取引の信頼性を担保できることであり、「競合との協業」を実現するような、経済の仕組み自体をも変えてしまう可能性があることだ。

 その可能性に気付いた金融、流通、製造などの幅広い分野の企業が既に実証実験を開始しており、さらに本番展開へと進みつつある。だが、リアルタイム性やプライバシーコントロールなどに幾つか課題があるため、本番展開をためらう企業も少なくないだろう。

 本稿では、ブロックチェーンにおける「開発」「ガバナンス」「運用」の課題について、解決に向けた勘所と求められる技術要件を明らかにすべく、エンジニアコミュニティー「Blockchain EXE(ブロックチェーンエグゼ」を主宰する、クーガー 代表取締役 CEOの石井敦氏(写真左)と、日本IBMでブロックチェーンソリューションを担当する高田充康氏(写真右)に話を聞いた。

ブロックチェーンの実証実験では、どんなことが行われているのか

――近年、世界的にブロックチェーンの実証実験が増えていますが、その背景について教えてください。

石井氏 ブロックチェーンを使ったインターネット上で価値を交換する仕組みとして、ビットコインがうまくいったことが大きいと思います。ビットコインでは、お金という価値が、インターネットを通じて、改ざんされることなく移転できることが証明されました。そこで、「ブロックチェーンの仕組みが他のモノにも活用できるのではないか」と注目が集まり、各企業が実証実験を始めています。ブロックチェーンの課題について探るためには、実際にモデルケースを作って、実証実験を行うのが最も分かりやすいですから。

 特に海外では、さまざまな分野に実証実験のバリエーションが広がっています。その中でも、通貨の次の適用分野として実証実験が進んでいるのが、サプライチェーンやトレーサビリティーです。この分野では、不特定多数の人が関わる中で「誰が何を行ったか」という履歴が残るところがポイントになります。

 また、海外の実証実験では、地域ごとの傾向も見られます。例えば、ニューヨークは、ビジネス視点が強い傾向です。「パブリック型とプライベート型は共存できるか」など、ブロックチェーンがエンタープライズ用途で本当に使えるのかを探るための実証実験が進んでいます。一方、サンフランシスコでは、技術指向が強く、ブロックチェーンとAIとの連動やロボットへの応用に関する実証実験が進められています。

 ヨーロッパは、ドイツを中心にブロックチェーンの実証実験が進んでいます。ヨーロッパ自体がさまざまな国の集まりで、それぞれ独立志向があり、関係が不安定でもあるため、ブロックチェーンの特徴をより本質的に適用しようとする傾向があります。

――具体的に、どのような実証実験が行われているのでしょうか。

高田氏 ヨーロッパでは、国や業種をまたいだボーダーレスな取引をコンソーシアム型ブロックチェーンで実現しようとしています。IBMの事例では、デンマークの海運大手A.P. Moller - Maerskと、ブロックチェーンを活用した国際物流システムの実証実験を行っており(参考)、2018年1月にはジョイントベンチャーを設立することを発表しました。この実証実験では、国際貿易における煩雑な紙の書類業務を改善するとともに、輸出から輸入までに関わる業者とモノの流れをエンドツーエンドで可視化することを目指しています。

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 さらに、世界的なブロックチェーン活用の事例としては、IBMとWalmart、Unilever、Nestlé、Doleなど食品大手企業がコンソーシアムを作り、ブロックチェーンを活用した食の安全に向けた取り組みを始めています。

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 日本でもブロックチェーンのさまざまな取り組みが進んでいます。代表的なものでは、岩手銀行様を中心とする地銀コンソーシアムが、ブロックチェーンを活用する金融サービスプラットフォームの開発を進めています(参考)。また、ソニー・グローバルエデュケーションでは、ネット上の算数大会「世界算数」で、ブロックチェーンを活用した学習履歴の管理および成績証明書システムの試験運用を行っています(参考)。

企業は、なぜブロックチェーンに注目しているのか

――ブロックチェーンをビジネスで活用するメリットはどこにあるのでしょうか。

クーガー
代表取締役 CEO
石井敦氏

石井氏 ビジネスでは、取引をした履歴が残って、それが改ざんできないというデータが価値になります。つまり、「このデータは信用できるのか」と疑問に思わずにすむことがブロックチェーンの最大のメリットといえます。世界各国で、ブロックチェーンによる食肉や生鮮食品のトレーサビリティーが始まっているのも、このメリットが大きいからです。現在は、ブロックチェーンへのデータ入力には人の手による作業が必要になりますが、将来的に、IoTデバイスによるセンシングなどで入力の段階からデジタル化できれば、履歴データの信頼性はさらに高まり、その応用範囲は計り知れないものになると考えています。

 一般企業でのメリットとしては、社員の行動や利用履歴などに関連するものへの適用が向いているでしょう。例えば出勤・退社時間の記録や、社用車の使用履歴などがブロックチェーンに自動的に記録されれば、社内の行動の可視化が容易になります。また、企業の隠蔽(いんぺい)体質の改善にもつながると思っています。例えば、地方の支店で顧客トラブルが発生したとき、「評価が下がらないように、本社には報告せずにトラブルを解決しよう」というバイアスが掛かるのが現状です。しかし、ブロックチェーンを導入することで、トラブルの履歴が確実に残り、全社で可視化されます。隠し事ができない、本当のことから、企業の透明性向上への改善につながると思います。

高田氏 ブロックチェーンのビジネスでのメリットは、プラットフォームにより取引の信頼性と透明性が担保されることです。先ほど紹介した、ウォルマートなど大手食品企業による食の安全に対する取り組みも、これらが背景にあります。このコンソーシアムには、食品業界で競合する企業も参加しており、業界全体で食の安全性を担保するための共通プラットフォームの構築に向けて、「競合との協業」が実現しています。

実証実験から本格的なブロックチェーンの企業利用に向けた課題

――実証実験から本番運用に入る際の課題について教えてください。

日本IBM
インダストリー・ソリューションズ事業開発
ブロックチェーン・ソリューション
統括部長
高田充康氏

高田氏 ブロックチェーンに入ってくるデータそのものの信頼性が課題として挙げられます。食品サプライチェーンのケースでいえば、「取引企業が本当に全てのデータを、透明性をもってブロックチェーンに入れてくれるのか」という点が課題になります。この課題に対しては、全ての企業がブロックチェーンを活用する真のメリットを理解した上で、データを提供してもらえるよう、地道に啓蒙(けいもう)する取り組みが必要になるでしょう。

 また、入力されるデータについて、フィジカルな部分での整合性が保証されてない点もブロックチェーンの課題です。そのため、取引されるモノ自身もブロックチェーンに参加させる必要があると考えています。この課題に対して、IBMでは、「Physical Blockchain」という、非常に小さなチップを使ったブロックチェーンについて研究開発を行っています。チップを商品などに付けることで、モノとデータをより密接にしていけるように取り組んでいます。

――現在、企業ではどのようなブロックチェーンの技術が使われ、どのような技術的課題があるのでしょうか。

石井氏 「Bitcoin Core」「Hyperledger Fabric」「Ethereum」が3大ブロックチェーンといわれています。「Bitcoin Core」は通貨専用で、「Hyperledger Fabric」「Ethereum」は通貨だけではなくさまざまな用途で使えます。「Hyperledger Fabric」の特徴は、認証された人のみが使えるコンソーシアム型のブロックチェーンで、実際のビジネス活用に向けて、多くの企業で実証実験に使われています。

 バブリック型のブロックチェーンは、「不特定多数の相手と取引の信頼性が担保される」という安心感がある一方で、コンソーシアム型と比べて処理スピードが遅いため、今後はここがボトルネックになってくる可能性があると感じています。特に、スマホアプリのサービスなど、リアルタイム性が求められる用途には、従来と比べて少し安全性が低くても処理スピードを重視したブロックチェーンの技術が必要になると考えています。その対応として、オンチェーン/オフチェーンの使い分けで処理の高速化を図る流れもあります。高い信頼性が必要なデータは、ブロックチェーン上で“オンチェーン”で処理する、そうではないデータについては“オフチェーン”で高速に処理するという方法です。

「開発」「ガバナンス」「運用」の課題をどう解決すればいいのか

――企業がブロックチェーンを活用するには、コンソーシアム型の「Hyperledger Fabric」などが有効のようですが、まだまだ課題も多いようです。企業がブロックチェーンにおける課題を解決するために有効なツールはないのでしょうか。「開発」「ガバナンス」「運用」の3つの面から教えてください。

高田氏 「開発」の面では、「Hyperledger Fabric」のプロジェクトで、開発者を支援するツールとして「Hyperledger Composer」が提供されています。さまざまな技術が乱立し、チェーンコードやスマートコントラクトの書き方も異なる中で、このツールでは、JavaScriptの開発者であれば簡単にブロックチェーンを開発できる仕組みになっています。

Hyperledger Composer

 「ガバナンス」については、複数の企業が関わるコンソーシアム型ブロックチェーン・ ネットワークにおいて大変重要です。例えば、新しい参加者をオンボードさせる、新しい台帳を作成する、スマートコントラクトを新たに配置するなど、ネット ワークに対する変更を民主的に意思決定する必要があります。従って、各参加者の役割と権限を決め、意思決定を円滑に進めるための仕組みが必要です。

 併せて「運用」面のサポートも重要です。「Hyperledger Fabric」に備わっているID管理やプライバシーコントロールなど、充実したセキュリティ機能を活用しています。特に、プライバシーコントロールで は、メインの台帳とは別にサブ台帳を作ることが可能です。コンソーシアム内の競合企業に公開したくない情報がある場合は、サブ台帳を使うことで、秘匿性を 担保しながらブロックチェーンでの取引が実現できるようになります。しかし、これだけでは十分ではありません。例えば、コンソーシアムに参加している企業のうち、1社でもセキュリティ対策が不十分で管理者権限が奪取されたら、そこから情報漏洩する恐れがあります。従って、ブロックチェーン・ネットワーク全体のインフラと運用の標準化が成功の鍵となります。

 当社では、こうした開発からガバナンス、運用までを包括したソリューションとして「IBM Blockchain Platform」を提供しています。このソリューションでは、「Hyperledger Fabric」をベースにしながら、IBMが実証実験を通じて蓄積したノウハウや知見を生かし、ブロックチェーンのプラットフォームをマネージドなクラウド環境で提供します。これによって、お客さまは、開発、ガバナンス、運用の課題に悩まされず、スマートコントラクトの開発やブロックチェーンと接続するフロントエンドアプリケーションの開発、既存システムとの接続などに注力することが可能になります。

IBM Blockchain Platform

石井氏 ブロックチェーンの運用面では、バージョンアップへの対応も大変な作業だと思います。インターネットは、基本的に情報のコピーマシンなので、バージョンアップの際にデータ自体の整合性について大きく懸念する必要はありませんが、データ自体が価値を持っているブロックチェーンではそうはいきません。旧バージョンから新バージョンに変わった際に、データの価値が担保されていることが必須になります。この点は、世界的にも問題になりつつありますが、IBMではどう対応しているのですか?

高田氏 「Hyperledger Fabric」は、成熟過程にあるため、頻繁に更新されますが、「IBM Blockchain Platform」では、当社がフルマネージドで更新作業に対応しています。日本の企業は、慎重な企業が多いため、タイムリーなバージョンアップがなかなか進まないのが実情です。しかし、バージョンアップせずに、そのまま塩漬けにしてしまうと、急速に進化しているブロックチェーンのメリットを全く享受できない状態になります。そうならないためにも、「IBM Blockchain Platform」では、お客さまのシステムを落とすことなく、ローリングで定期的なバージョンアップに対応しています。

石井氏 「IBM Blockchain Platform」は、これからブロックチェーンに取り組む日本の企業でも、非常に導入しやすいソリューションだと感じました。今後、業界ごとのフローやデータモデルなどをまとめたパターンブックのようなものが公開されれば、国内でのブロックチェーン活用がもっと広がると思います。

高田氏 確かに、データモデルに関する問い合わせは多くもらっています。IBMのサービスの中には、スマートコントラクトのワークフローを自動生成するアセットやデータモデルのレファレンスアーキテクチャもあるので、実証実験を通じて蓄積してきたノウハウをテンプレートとしてお客さまに提供する取り組みも重要だと考えています。

「IBM Blockchain Platform」ではメインフレームで培ったセキュリティ技術を採用

――最後に、これからブロックチェーンを活用し始める企業へ、それぞれの視点からのメッセージをお願いします。

石井氏 今後、IoT化が進んだり、さらにAIやロボティクスが連動してきたりすると、データ量は100倍、1000倍にも膨れ上がる可能性があります。そうなると、「どのデータが信頼できるのか、改ざんされているのか」を判断する余裕はなくなってきます。そこで、ブロックチェーンの仕組みが必要不可欠になるでしょう。関連したトピックとして、「ユーザーのデータは、ブロックチェーンを活用することでユーザー自身が管理できるようになるのでは」という試みも世界で動いています。

 これからブロックチェーンの導入を検討する企業には、「社内にどんなデータがあって、どこでどう活用できるのか」というデータの価値をあらためて考えるきっかけにしてほしいと思います。

高田氏 1990年代に導入したシステムもかなり残っており、非効率な業務もまだまだ存在していると感じています。ブロックチェーンを活用すれば、複数の企業間で信頼できるデータを共有して、合意したビジネスロジックに基づいて自動的に処理を進めていくことができます。これは、大幅な業務効率向上とコスト削減につながるだけではなく、新しいビジネスを生み出す画期的なソリューションだと考えています。

 ブロックチェーンの活用に当たって、セキュリティ面の不安を感じている企業もまだ多いと思いますが、「IBM Blockchain Platform」では、メインフレームで培った最高レベルのセキュリティ技術を採用しており、お客さまに安心して活用してもらえる高信頼のプラットフォームであると自負しています。

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提供:日本アイ・ビー・エム株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2018年4月25日

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