DXトレンドの進展を背景に、ビジネスが「体験価値の競争」に変容して久しい。これに伴い、企業のDXを支援するSIerにも従来型の受託ビジネスモデルから、共に価値を考え、スピーディーに実現していく提案型のビジネスモデルへの変革が求められている。だが一社単独での変革はなかなか難しいのが現実だ(詳しくは文末の「セールスフォースに聞く『DX時代に必要とされるエンジニア』とは?」をぜひ参照してほしい)。そうした中、セールスフォースでは、今のIT業界全体の課題でもある『人材の採用』『教育コスト』『継続的な案件創出』といった3点を軸とした支援策「DXアクセラレーションプログラム」を提供している。実際にパートナーは、セールスフォースとのビジネスによる社内の変化やパートナー支援について、どう感じているのか。――今回はSalesforceを中心としたソフトウェア開発、コンサルティング事業、IoT事業を行うフレクトに話を聞いた。
DXに向けた企業の取り組みが進む中、これまで情報システム構築/運用を支援してきたシステムインテグレーター(以下、SIer)にも変革の波が訪れている。特にDXトレンドを考える上で不可欠な要素の一つがクラウドだ。中にはクラウドを活用しながら、従来型のSIerが提供できなかった高付加価値なサービスを提供する例も増えつつある。
そうした中でも、Salesforceを中心にしたマルチクラウド環境で「SIサービス」と「自社サービス」の2つを展開し、急成長を遂げているのがフレクトだ。2005年に設立され15年を迎える同社は、SalesforceのインプリメンテーションパートナーとしてあらゆるSIサービスの開発/運用を支援する一方で、Salesforceプラットフォーム上でリアルタイム車両管理システム「Cariot」を自社で開発し、セールスフォースが提供する業務アプリのマーケットプレースであるAppExchange上に展開/提供する新しいビジネススタイルを採っている。
SIサービスはいわゆる受託業務ではなく、アイデアの提案からアジャイル型でのシステム開発、継続的な保守運用までを手掛ける。自社サービスも、単なるパッケージ製品の売り切りビジネスではなく、SaaSで提供するサブスクリプション型ビジネスとして展開している。代表取締役の黒川幸治氏は、そんな同社の立ち位置を「DXのラストワンマイルを埋めるプレイヤー」と表現する。
「弊社の企業ビジョンは『あるべき未来をクラウドでカタチにする』こと。これからの時代に求められるヒト、モノ、コトを滑らかにつなぐデジタルサービスを提供していきたい。常に見据えているのは、サービスの先にある顧客の成功、カスタマーサクセスです。現在は、DXトレンドを背景に、IoT、モビリティ、AIなどの分野で新たなテクノロジーが数多く登場しているものの、顧客企業がそれらをうまく使いこなせていない状況です。弊社はそうした中で、ラストワンマイル――“顧客接点に関わる部分”にフォーカスし、カスタマーサクセスに向けて、クラウドの先端テクノロジーとデザインの実装まで包括的に提供しています」(黒川氏)
黒川氏は、「DXにおける重要なテーマは、“顧客体験をいかに高めていくか”にあります」と強調する。そこで顧客ニーズの変化に迅速に対応するためにクラウドを活用して俊敏性(アジリティ)を獲得し、さらにUI/UXを高いレベルで提案、実装することで体験価値を高めるというわけだ。当然ながら、そうした取り組みを実現する上では従来型のSIerのスタンスでは立ち行かない。
「言われたものを作るという時代は終わったと思っています。SIはアイデアの提案からものづくりまでを担うことが求められるようになってきた。もちろん経営環境変化が速い中、顧客企業のゴールを最初から理解するのは難しい時代になっていますし、そもそも正しいゴールを設定することも難しくなっている。そうした中でも状況変化に応じて顧客企業と共に正しいゴールを目指す、その方向をSIとして指し示すことが重要だと考えています」(黒川氏)
Salesforceを中心としたマルチクラウド環境を活用するフレクトだが、創業当初はWebアプリケーション開発が事業の柱だったという。クラウドインテグレーターへと舵を切った背景について、黒川氏は「技術革新の速さと、それに伴う技術の陳腐化に対応する必要があった」ことを挙げる。また、当時は「技術的な境界」を埋めることが難しく、ユーザーニーズに迅速、柔軟に応えにくくなっていたことも大きな理由だったという。
「例えば当時は、インフラとアプリで技術領域が分断されていて、一方の技術を一方で生かすことが難しいという事情がありました。また、アプリケーション開発とUI/UXなどのデザインについても境界がありました。そうした境界を埋めることがサービスのスピーディーな提供、さらには提供価値の向上につながります。その境界を埋めるのに適した技術がクラウドだったのです」(黒川氏)
クラウドプロバイダーとしてSalesforceを選択した理由は大きく3つあったという。1つ目は、フロント開発に強みを持つフレクトとの補完性が高かったこと。バックエンドにSalesforceを用いることで開発の俊敏性を高めるとともに、フロント開発にリソースを集中させて、強化することができた。2つ目は、エンジニア集団であり営業職が存在していなかったフレクトにとって、セールスフォースからの営業支援が大きな助けになったこと。具体的には、リードの獲得からアプリのセールスまで支援してくれることが魅力だった。3つ目は、他のクラウドサービスプロバイダーと比較して、アライアンスの体制がしっかりしていたこと。充実したパートナー制度があり、運用にも力が入っていて、先行するパートナーの成功事例も多数あったという。
「当時のわれわれの弱みの一つだったセールスやバックエンドでの実績を補完してくれ、強みであるフロント開発やデザインを伸ばすことができるのがSalesforceでした。クラウドインテグレーターへの変革とは事業自体のピボットでもあり、当初こそ苦労はしましたが、Salesforceをバックエンドの軸としてフロント開発に注力することで、HerokuやAmazon Web Services(AWS)を加えたマルチクラウド環境でのインテグレーションやデザインアプローチを活用した独特なポジションを作ることができたのです」(黒川氏)
先の言葉のように、メリットは技術面だけにとどまらなかった。セールスフォースの営業支援力は、フレクトのマーケットそのものを大きく広げる一助にもなった。
「当時のわれわれではなかなか出会いの場がなかった大手ユーザー企業と仕事ができたり、Salesforceを活用した国内初のAI事例のような、先端テクノロジーを導入する現場に居合わせたりすることができました。リアルタイム車両管理システム『Cariot』(キャリオット)をSaaSで自社サービスとして開発、提供できたのも、Salesforceをプラットフォームに使い、パートナーに選択したからこそです。ビジネス機会の拡大も含めて、われわれ単独で実現することは難しかったと思います」(黒川氏)
セールスフォースのパートナーであることは、ビジネス面だけでなく、技術面でも大きな意味があった。取締役 COO(最高執行責任者)の大橋正興氏は「“共通解”と“個別解”を組み合わせることで、顧客接点を強化できるようになった」と説明する。共通解とはすなわちSalesforceの各種サービス、個別解とはフロントエンドを軸にフレクトが独自に開発する部分を指す。
「Salesforceなどのクラウド技術を共通解として利用することで、より付加価値の高い個別解の部分にリソースと時間を集中できるようになったのです。顧客にとって他社との差別化を図る部分は個別解です。そこにエンジニアのリソースを集中させ、すでにある使える技術はできるだけ使う――エンジニアがそうしたマナー、マインドで取り組むことで、われわれは付加価値の高いサービスを提供でき、顧客企業はサービスという顧客接点を強化できるのです。換言すれば、バックエンドでSalesforceというベストプラクティスを活用し、われわれは差別化領域となるフロントエンドで勝負するということです」(大橋氏)
こうした共通解と個別解の組み合わせは、エンジニアのキャリアやモチベーションにも大きく影響するという。特に、“バックエンドのベストプラクティス”であるSalesforceは、大規模企業の開発要件にマッチする傾向が強い。「自分が携わったサービスが、実際に社会で役立っている」ことにエンジニア自身が触れる機会が増えたのだという。例えば、建設機械をIoT化した大手建設会社のプロジェクトに、フレクトはアプリ開発パートナーとして参加した。建設現場で稼働する建設機械を見たエンジニアは、「自分の開発したアプリで社会貢献できた」と感じ入っていたという。
一方で、個別解にリソースを集中することは、エンジニア自身がスキルやノウハウを磨きやすくなるというメリットにつながっている。実際、現在のフレクト社内には、IoTやAI関連のシステム開発やデザインを突き詰めた社員が数多くいるという。
「エンジニアにとって未知の分野に取り組むことは大きな喜びです。共通解に力を割かずに未知の分野にチャレンジし続けられるので、大変ではありますが実現したときの喜びはおのずと大きくなります。こうした環境をSIerが一社単独で整えることは実に難しい。しかしセールスフォースのパートナーとなることで、それが実現できたのです。技術面から見て、このメリットは非常に大きいと思います」(大橋氏)
ただ一方で、「Salesforceはプロプライエタリなサービスであり、オープンスタンダードではない」と思われている面もあるが、大橋氏はその見方は一面的だと指摘する。
「共通解とは、すなわち『大きく手を加えることなく、実現したいことができる』という意味です。手を加えない部分でオープンであるかどうかを問う意味はあまりありません。最も重要なのは『顧客にどんな価値を提供できるか』です。実際、フレクトにも顧客への価値提供にフォーカスしたいがために、Sales CloudやService Cloudなど高いレイヤーの技術を習得してカスタマーサクセスを追求しているエンジニアがいます。その一方でオープンソースソフトウェア(OSS)が好きなエンジニアは、下回りがSalesforceであろうとなかろうと関係なく、顧客の差別化要因になるところでオープンな技術を駆使しています」(大橋氏)
また、近年はSalesforceのコアな部分もオープンなマナーで実装できるように変化しつつある。オープンな技術を習得している開発者にとって、Salesforceを組み合わせて利用することが以前より容易になってきたという。大橋氏は、「顧客企業に価値を提供するために、既存のサービスをどう組み合わせていくかという点で、Salesforceは重要な選択肢になるのです」と、目的を見据えて手段を使いこなすことの大切さを改めて強調する。
そうしたセールスフォースとの出会いの中でピボットと拡大を繰り返してきたフレクトだが、パートナーとなった2009年からちょうど10年がたった2019年現在、売り上げは10倍に拡大した。セールスフォースとの出会いと、進化し続けるテクノロジーの吸収がビジネスの幅を広げ、共に育っていくという好循環を生んできたわけだ。
自社サービスとして展開しているCariotもビジネス面、技術面の両方で好循環を生んでいるという。クラウドインテグレーションで培った技術やノウハウはCariotのサービス改善に生かされ、Cariotで成果を挙げた技術はクラウドインテグレーション事業にフィードバックされる。さらに、セールスフォースが企業として取り組むSaaSビジネスを参考に、フレクトがCariotのSaaSビジネスを改善することもあるという。
「Cariotは現在170社に利用されています。お客さまからヒントをいただいて、自社サービスの改善に生かしたり、逆に自分たちが失敗した経験を基により良いサービスを提供したりということができています。Salesforceのコミュニティーにも積極的に参加し、技術やビジネスのヒントをつかむようにしています」(大橋氏)
このように、顧客企業に寄り添って2つの事業を運営しながら、Salesforceコミュニティーへの参加も積極的に行う中で、さまざまなものから学びを得る、お互いに学び合うという文化が醸成されてきたという。
「常に新しいテクノロジーが登場し続ける中、勉強会の実施やコミュニティーへの参加を会社としても奨励しています。経営環境変化が激しい中では、今持っている技術に満足せず、いかに新しい知識やスキルを習得し、活用するかという能力が重要です。例えば、エンジニアの採用においてもすでに持っている知識や技術より『知識欲があるか』『学習習慣があるか』『新しいことに関心があるか』『分からないことを聞けるか』という点を重視しています。育成においても、新しいことにチャレンジする姿勢を重視しています」(黒川氏)
これも前述のように、「差別化領域に注力できる」というメリットの大きな効用の一つといえるだろう。DXアクセラレーションプログラムでは、複数のパートナーでチームを組成してプロジェクトに当たるケースもあるが、こうした学び合う、教え合う文化は、フレクトが他のパートナーと共同プロジェクトを実施したり、プライムとしてプロジェクトをリードしたりする際にも生かされているという。Salesforceでの業務経験がないエンジニアでも、お互いに学び合いながら、適材適所でブロジェクトを進行させていくわけだ。
「今日ない技術で明日戦うにはどうしたらいいか――教育も人事制度もパートナーとの関係も、そうした“常に新しい技術を取り入れ続ける”観点で設計しています。基本的な発想はマルチスキルをいかに養っていくかです。また、Salesforceを軸にマルチクラウドで展開することもポイントです。それによって、まだ残っている“境界”を見つけて埋めにいくことができる。それを地道にやってきたことで今があると思っています」(大橋氏)
フレクトは今後、どのようなビジョンのもとに新しい取り組みを展開していくのか。大橋氏は、「来年、再来年とさらに新しいことに取り組んでいきます。テクノロジーが進化すれば、新しいサービスを届けられるようになり、“顧客に届けられるハッピー”も変わってきます。僕らは一生懸命学んで、成果をシェアしていく。これからも社内のエンジニア同士はもちろん、顧客企業、セールスフォースと共に学び合って成長していきたいです」と話す。
黒川氏も「カスタマーサクセスが何より大事です」と改めて強調する。
「DXトレンドをキャッチアップしながら、常に顧客にとっての価値を考えていきます。場合によっては、その過程でビジネスモデルを切り替えることもあるかもしれません。顧客企業がどういう課題を抱え、何を目指そうとしているのか。顧客のことを知り、寄り添い、求められている価値を提供する――立ち戻る場所は常にそこです。これが、これからのSIerに求められるものでもあると思っています」(黒川氏)
セールスフォースは“カスタマーサクセスのプラットフォーム”として、フレクトと同じ目線で将来を見据える。新たなチャレンジに向けて、両社の取り組みはさらに加速しそうだ。
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