データの重要性が増す中、課題になってきたファイルサーバ管理部門ファイルサーバか、Azureストレージか、両立させる手法とは

増え続ける企業内のデータが課題になっている。オンプレミスのファイルサーバからクラウドへと一気に移行するのも一案だが、ファイルサーバとして使いにくい面もある。使い勝手を保ちながら、ハイブリッド環境でMicrosoft Azureのメリットを享受する方法はないだろうか。

» 2021年10月18日 10時00分 公開
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 データ管理に手を焼く企業が増えてきた。ビジネスのデジタル化が進む中、データは貴重な経営資源の一つとなり、ありとあらゆるシーンで利用されるようになった。それに伴い、企業にはデータがあふれ返り、必要なときに必要なデータを利用できないケースが増えてきたのだ。

 これまでは、データ量が増加すればそれに見合う容量のメモリやストレージを確保しておけば良かった。例えば、クライアントPCを例に取れば、大容量のメモリやHDD、SSDを搭載することで、多数の画像や動画などのファイルを取り扱うことができていた。

 しかし、近年は、単に容量を増やすだけでは不十分だ。大容量のストレージを搭載するだけでなく、さまざまな部署でデータを共有したり、必要なデータを素早く取り出して活用したりする必要があるからだ。

 こうした課題は企業が社内で利用するファイルサーバで特に顕著に表れる。ユーザー一人一人に多くの容量を割り当てれば済むというわけではなく、データ活用の観点からユーザーや企業が抱えるさまざまな課題に対応しなければならなくなっている。NEC プラットフォームソリューション事業部 主任の長坂頼人氏はこう話す。

NECの長坂頼人氏

 「データの重要性が増す中、IT部門の業務はコンテンツの管理からサーバやストレージ機器などのインフラ管理まで、非常に多岐にわたるようになりました。ファイルサーバの容量管理はもちろん、IT戦略の検討やデジタルトランスフォーメーション(DX)推進に関して経営からの要請も増えています。データに対するセキュリティ対策やコンプライアンス対策、事業継続計画(BCP)、災害対策(DR)も不可欠です。ファイルサーバ向けの機器を調達し、提供するだけでなく、将来の事業への影響を考え、適切なデータ管理やIT運用管理を実施していくことを求められています」

 こうした課題に対応するために、クラウドサービスとして提供されるストレージを利用する動きも進んでいる。クラウドは容量の拡張も容易で、サーバやストレージ機器のメンテナンスも不要だというメリットがある。しかし、デメリットも存在する。

 「物理的に距離が離れるためアクセスに遅延が発生しますし、社内のファイルサーバとシステムが異なるため、操作性が変わって使いにくさを感じることもあります。オンプレミスとクラウドをハイブリッド環境で利用する企業も増えていますが、その場合、ユーザーの手間やIT部門の管理工数が増大します」(長坂氏)

データ管理のカギは「クラウドと連携するハイブリッドなファイルサーバ」

 データ管理のこうした課題に対応すべくNECが提案しているのが、「クラウドと連携するハイブリッドなファイルサーバ」だ。オンプレミスとクラウド、それぞれの利点を享受しながら、ハイブリッド環境で生じるデメリットや管理課題も解消できる。

 オンプレミスのファイルサーバのメリットは次の通りだ。

サーバ機器が物理的にユーザーの近くにあるために遅延が少ない
ファイル共有により、ユーザーがクライアントPCからシームレスに操作できる
社内で厳格なセキュリティ対策ができる

 デメリットもある。

容量を拡張する際、機器の手配など手間や時間がかかる
部門ごとにファイルサーバが乱立しやすく、管理や容量面で非効率になる
データ活用に向けた社外のクラウドサービスなどとの連携が難しい

 これに対し、クラウドのファイルサーバのメリットはこうだ。

ストレージ容量の拡張が簡単で、必要なときにスピーディーに増強できる
ユーザーがいつどこからでも利用できる
オンプレミスよりも高い冗長性を確保できる場合が多い
他のクラウドサービスとの連携が容易

 対してデメリットはこうなる。

移動やコピーなどで遅延が発生する
操作体系や操作画面がオンプレミスと異なる
従量課金のため、データ容量の増加や転送などで追加コストが発生する

 オンプレミスとクラウドのファイルサーバをハイブリッド環境で利用しようとすると、それぞれのメリットとデメリットを考慮する必要がある。単純に組み合わせただけでは、デメリットがメリットを上回ってしまうこともある。

 「ユーザーはオンプレミスのファイルサーバとクラウドのファイルサーバを使い分ける必要が出てきます。操作感も異なるため、思わぬミスが発生することも増えてきます。加えてIT部門には運用管理の手間が二重にかかることになります。管理負担の増加は、他の業務の遂行にも影響を与えかねません。こうした課題を解消するのが、クラウドと連携するハイブリッドなファイルサーバです。オンプレミスのファイルサーバの裏側で自動的にクラウドのファイルサーバと連携・同期する仕組みを作ります。これにより、ユーザーとIT部門は、クラウドを意識することなく、オンプレミスのファイルサーバを利用しながら、クラウドとオンプレミスのいいとこ取りができるのです」(長坂氏)

iStorage NSシリーズとAzureを連携させた「ハイブリッドNAS」

 クラウドと連携するハイブリッドなファイルサーバを実現するための具体的なソリューションとしてNECが提供しているのが「ハイブリッドNAS」だ。

ハイブリッドNASの構成(提供:NEC)

 ハイブリッドNASはオンプレミスのファイルサーバに「Azure File Sync」というエージェントをインストールして用いる。オンプレミスのファイルサーバには、NECのNAS製品「iStorage NSシリーズ」もしくはPCサーバ製品「Express5800シリーズ」を利用する。その上で「Azure Files」という「Microsoft Azure」のクラウドストレージと同期を取る構成だ。

 利用者はクラウドを意識せず、使い慣れたWindowsのエクスプローラーでファイル操作が可能だ。利用者がファイルを更新すると、自動的にオンプレミスのファイルサーバとクラウドが同期して、クラウドのデータも更新される。このようなハイブリッド環境により、オンプレミスの特徴である高速なアクセス、柔軟な操作と、クラウドの特徴である柔軟な拡張性を実現することが可能だ。

 ハイブリッドNASは大きく3つのステップで、オンプレミスとクラウドのデータ同期・連携を実現する。まずステップ1では、オンプレミスのファイルサーバにファイルを保存する。これは、通常のファイルサーバと全く同様の操作だ。

 ステップ2では、オンプレミスからクラウドに対して、システムが自動的にファイル単位でコピー(複製)を行う。この時点では、基本的に全てのファイルをクラウドにコピーする。オンプレミスとクラウドに同じファイルが2つ存在している状態だ。

 ステップ3では、オンプレミスのファイルのうち、利用頻度が低いファイルだけを「ポインター」へと自動的に変える。ポインターは、クラウドのファイルサーバへの目印になるもので、実データ量は数バイトしかない。ユーザーがポインターをクリックすると、自動的に実データがダウンロードされて、通常のファイルとして利用できるようになる。

ハイブリッドNASの仕組み(提供:NEC)

 NEC クラウドプラットフォーム事業部 主任の庄司隆夫氏はこう解説する。

NECの庄司隆夫氏

 「全データが自動的にクラウドに複製され、オンプレミスにはよく使うデータだけが残ります。オンプレミス側の空き容量が増加するため、限られたストレージ容量を効率良く使うことができます。一方、クラウドストレージ側には、オンプレミスのデータが自動的に保存、蓄積されていきます。クラウドストレージ側の容量はデータの増加に応じて自動的に拡張されるため、厳密な容量設計などは不要です。料金は使用容量分の従量課金で、余分に容量を確保する必要がなく、実際に使った分だけを支払う形で最適化できます」(庄司氏)

 「ハイブリッド環境において、高速な操作性、BCP、柔軟な拡張性を実現していることがポイントです。クラウドを意識せず、高速なアクセスと柔軟なファイル操作が可能です。さらにデータがクラウドに保全されるため、ハードウェアが壊れても新サーバにエージェントを設定し直すだけで簡単に復旧できます。データのリストア作業は不要です。クラウドで必要な分だけ容量を拡張できるため、データ使用量に応じた柔軟な投資が可能です」(庄司氏)

DXの潮流の中、クラウド移行の第一歩としてハイブリッドNASを活用する

 ハイブリッドNASは、データ管理に関する業務課題の解消にもつながるソリューションだ。よくある課題の一つに、拠点ごとにNASが分散配置され、情報の共有やデータ活用が難しいというものがある。ハイブリッドNASは、こうした複数の拠点のファイルサーバであってもクラウドに集約可能だ。

 「拠点の各ファイルサーバにAzure File Syncエージェントを設定すると、全拠点のファイルをクラウドに集約できます。各拠点からはオンプレミスのファイルサーバにアクセスすることで、他の拠点の情報を簡単に共有できるようになります。その際には既存のNTFSアクセス権もクラウドへ引き継がれるため、設定の誤りで重要な情報が漏れるという心配もありません」(庄司氏)

複数拠点のデータを容易に参照できる(提供:NEC)

 一般に、こうした環境を構築するためには、ファイルサーバ機器の導入作業や、クラウドサービスの構築、設定作業が必要になる。特に中堅中小企業にとっては、Azure File SyncやAzure Filesの知識やノウハウを新たに習得することは大きな負担だ。

 その点、ハイブリッドNASは、NECが構築から運用、保守までをワンストップで提供するソリューションであるため、クラウドの特別な知識やノウハウなしに利用できる。

 「構築サービスや保守サービスでは、事前にお渡しするパラメータシートに必要な項目を入力するだけで、NECのエンジニアがシステムの導入から構築、運用/保守までをワンストップで担います。このパラメータシートにより、最短で構築作業1日と、スピーディーで効率的なファイルサーバ導入を実現します」(長坂氏)

システムの導入から構築、運用/保守までワンストップでNECが担う(提供:NEC)

 静岡県浜松市を中心に「スーパードラッグストア」チェーンを展開する杏林堂薬局では、Azure File Syncを用いて管理工数の大幅削減を実現した。それまでファイルサーバと待機系サーバ、バックアップ用NASという3種類の機器を運用管理していたが、Azure File Syncによって待機系サーバとバックアップ用NASを不要にした。

 「クラウドかオンプレミスか、悩んでいる担当者は多いと思います。ハイブリッドNASなら、オンプレミスとクラウド双方のメリットを享受できるハイブリッドなファイル共有環境を簡単に構築できます。ファイルサーバの管理を効率化できるため、セキュリティ対策やIT戦略の立案や検討に時間を割くことができるようになります」(長坂氏)

 「DXの潮流もあり、クラウド移行は一つの選択肢です。ただクラウド特有の文化に慣れるには時間もかかります。クラウド移行の第一歩としてハイブリッドNASはよい選択肢になります」(庄司氏)

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