リクルートの研究所が社会に価値を提供するまでの道のり量子アニーリングの研究と日々の生活をつなぐ

多くの企業が最新技術の研究に取り組んでいるが、潜在的な課題を解決し、サービス実装まで到達することは困難を極める。リクルートのATLにそれを実現するための答えが隠されているかもしれない。

» 2022年01月27日 10時00分 公開
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 一口に最先端の研究といってもさまざまだ。人工知能やブロックチェーン、そして量子コンピュータといった単語を耳にしたことがある人もいるのではないだろうか。リクルートの「アドバンスドテクノロジーラボ」(ATL)では、そういった「具体的にどうビジネスに展開できるかいまはまだ分からないけれど、潜在的な課題を解決するかもしれない、未知の可能性を秘めた技術」の研究に取り組んでいる。

 これまでの記事(ヴェールに包まれたリクルートの研究組織。“次のイノベーション”の作り方未知の可能性を探求し、価値創造につなげる:リクルートが世の中に先駆けて変化できるワケ)ではATL組織の思想や成り立ちを中心に紹介してきたが、研究内容が実際にどのようにサービスに実装され、社会に価値を提供していくのだろうか。ATLで「量子アニーリング」の研究に取り組んでいる棚橋耕太郎氏に話を聞いた。

 そもそも量子コンピュータは、「量子ゲート」と「量子アニーリング」の2つの方式に大別できる。前者は比較的汎用(はんよう)的な計算方式で、後者はいわゆる「組み合せ最適化問題」に特化した計算方式である。どちらもPCやスマートフォンに搭載されている汎用コンピューティングシステムとは異なり、粘菌コンピュータやDNAコンピュータのように自然現象をコンピュータと見なし、ある処理に特化したコンピュータを作ろうとする最先端の取り組みだ。

 「量子アニーリングの原理は物性物理における磁性体の物理現象と深く関係しています。鉄の原子にはスピンというものがあり、ある程度の温度ではそれがランダムに上を向いたり、下を向いたりしているのですが、冷やしていくとだんだんとスピンの向きがそろっていきます。こういう性質を持ったものを強磁性体というのですが、その自然現象をコンピューティングと見なして最適化問題を解いてしまおうという手法が量子アニーリングです」

 棚橋氏は、学生時代に量子アニーリングを専門に研究していたわけではない。それなのになぜこの研究に足を踏み入れ、サービスに実装されるような成果を生み出し、国内でも第一人者と認められるまでに至ったのだろうか。

初めて出席した勉強会をきっかけに足を踏み入れた、新たな分野

 棚橋氏は2015年に、当時のリクルートコミュニケーションズに入社した。

 「もともと、広告配信の仕組みに興味を持っていたことが入社の動機です。広告配信は1秒間に数万件という非常に速いコンピュータの処理性能が要求される部門です。しかも、機械学習で。そんな世界観に憧れて入社しました」と話す棚橋氏。入社当時は、量子アニーリングの研究に携わるとはまったく思いもしなかったという。

リクルート ATL 棚橋耕太郎氏

 当時の部署には、いわゆる「とがった」エンジニアが何人もいて、先輩の一人が量子アニーリングの論文を読んで、その内容を会社の勉強会で共有していたという。棚橋氏も、当時の業務とは関係なかったが、量子アニーリングに興味があることを伝えると、その先輩の紹介で社外の勉強会に参加するようになった。そこで、量子アニーリング研究の第一人者である早稲田大学の田中宗先生(現:慶應義塾大学)に出会い、リクルートの事業と組み合わせ、価値を生み出せないかという検討が始まった。

 「私は大学時代に高分子物理を専攻し、分子シミュレーションを研究していました。量子アニーリングも高分子物理と同じく統計物理学に基づいた研究なので親近感があり、非常に興味を持ちました」

 そもそもリクルートは広告配信を、ユーザーと広告のマッチングの問題と捉えている。量子アニーリングは組合せ最適化という意味でリクルートの事業と相性が良く、研究を進めていくことでリクルートの事業成長に貢献できるのではないかと考えた。商用量子アニーリングマシンを開発しているカナダの企業D-Waveから社長や技術者を招いた公開セミナーも開催するなどして、社内外で研究を進めていった。

 「当時はリクルートコミュニケーションズに所属しつつ、サイドワークとしてこの研究に取り組んでいました。立ち上がり時は、自らの好奇心が強かったですね。研究を進める中で、量子アニーリング×リクルートの掛け算に、非常に可能性を感じるようになりました。そして社内でもこの研究がリクルートのサービス実装への可能性や事業成長につながると認められ、早い段階で業務時間を使っての研究が始まりました」

 その後、リクルート社内の組織再編のタイミングで、棚橋さんが携わっているような「中長期的に、潜在的な課題を解決する」研究を主業務として行っている組織、ATLに異動し、メタヒューリスティックをはじめ、組み合わせ最適化問題に関する従来型手法も研究しながら量子アニーリングの研究に取り組んでいる。

 一方で、棚橋氏は「専門で研究しているからといって、決してこの技術が万能だと考えているわけではありません」と話す。適正を見極めた上で、どのようにサービス実装に導くのだろうか。

深い技術理解が、事業の悩みを解決する糸口となる

 「量子アニーリングは解けない問題もありますし、従来の手法の方がずっと速く解けることもよくあります。そこで、まず従来の手法をしっかり学ぶことで立ち位置が明確になり、どのようにサービスに実装できるのかがクリアになっていきます。そうすることで、研究でとどまるのではなく、その先のサービス実装まで見えてくる。国内で、商用で量子アニーリングを活用し切っているケースはまだほとんどないので全てが手探りですが、何度もトライ&エラーで研究と実装を繰り返しています。大学の研究室には真理を突き詰めていくピュアな部分がありますが、ATLでは、短期/長期の両面でリクルートの事業にどう役に立つのか、そして社会にどう役立つのかという視点を常に持つことが求められますね」

 量子アニーリングが得意とするのは、膨大な組み合わせの中から最適な選択肢を見いだすことだ。これまでの研究と実装からこの技術を有効活用できるシーンを知り尽くしているからこそ、事業課題を解決できた事例を紹介しよう。

 ある時、棚橋氏が開催した量子アニーリングの勉強会に参加していた同僚から、事業の悩みを聞く機会があった。

 旅行予約サイトの「じゃらんnet」では、かつては宿泊したいエリアと日時を指定すると、ビジネスホテルからシティーホテル、高級ホテルに至るまで、さまざまな宿泊施設が一律のスコアに基づいて表示されていた。だがこれでは、ユーザーそれぞれの嗜好や興味とマッチしない状態だったという。

 そこで棚橋氏は、この課題を量子アニーリングの活用で解決できるのではないかと考えた。しかし、日本中でも商用量子アニーリングの活用は進んでいない状況下だった。この挑戦を推進する社内メンバーも、量子アニーリングについては詳しくない。そんな人でもこの技術を使用でき、同じ目線で議論が進められる状況を作る必要があった。

 量子アニーリングで問題を解くためには、特殊な計算式――イジングモデル、または「QUBO」(Quadratic Unconstrained Binary Optimization)という形式のコード――を手入力する必要があり、その習得と書き込みが課題となっていた。そのため、棚橋氏は独自でその特殊な計算式への変換を自動でできるライブラリを制作。これにより、詳しくない人でも学習コストをかけずに量子アニーリングを活用することができ、周囲と協業して推進することを可能にした。

 そして、さまざまなタイプをうまく混ぜて、多様な宿泊施設を表示し、かつ、最も予約につながるような並べ替えを二次割当問題として定式化してサービスに実装。結果、予約数が向上した。

 そしてこのライブラリがスピンオフしたものが、D-Waveの公式SDKの一つに登録されている「PyQUBO」だ。

 いずれ量子アニーリングマシンが広く使われる時代を見据えて、より簡単に使えるようにし、オープンソースソフトウェアとして公開している。こうした開発環境やミドルウェアが整備されていけば、型にはまらない形でコンピュータが発展するのではないかという思いを込めている。

 「PyQUBOはいま、世界中で約35万回ダウンロードされ、国際的に使われています。量子アニーリングに関する論文でプログラムのベースに使われたり、スタートアップ企業のプロダクトに組み込まれたりするなど、いろいろなレベルで活用されています」

 また、リクルートが提供するフリーペーパーの配送経路の最適化にも、量子アニーリングの活用を模索している。拠点から複数のラックを回って帰ってくるまで、数十万という組み合わせの中から最適なルートを見いだせないか考えているという。

 ただ、実はこの問題、量子アニーリングをそのまま使うだけではうまく解決できない。棚橋氏はそこに、二段階アプローチを組み合わせ、問題を扱いやすい形に変換していくアプローチを研究している。

 前述の配送計画問題を直接解こうとしても、量子アニーリングにマッピングすると表現が冗長になり、難しい問題になってしまう。そこで、二段階アプローチを生かし、イジングモデルやQUBOに近い形に持ってくることで、性能が出る方法を現在研究しているという。

 「この研究によってかなりサービス実装に有用な性能が出ると期待しています。そして、この成果を出せれば、配送計画に限らず、『誰がどの仕事を担当し、どの機械にどの処理を任せるか』といった工場内の最適化問題をはじめ、さまざまな企業、組織が抱える課題を量子アニーリングに適した問題に落とし込み、高速に解けるのではないかと考えています」

 手法探索からツール開発、アプリケーションへの応用に至るまで、量子アニーリングという一つのキーワードに関連する幅広い領域を研究できるのは、ATLならではだ。それも、短期的な視点で目標をクリアするだけでなく、長期的な目標を持って取り組めるところが貴重な機会だとした。

研究内容がリクルートに、社会にどう役立つのかを考え抜き、困難なサービス実装に挑戦していく

 「量子アニーリングを適切に活用することで、膨大な選択肢からベストな選択肢を探索することが可能になります。よりクオリティーが高くなり、かつ計算のスピードが10倍、100倍と速くもなる。このように計算性能が上がることによって、社会を支える道具がどんどん便利になり、日々の暮らしが変わるのがすごく面白い。いままでできなかったことができるようになって、これまで想像もできなかった社会を創っていきたいと思います」と、棚橋氏。

 まだ具体的な活用は定まっていないけれど、多くの可能性を秘めた技術の研究に取り組んでいるATL。彼らはその研究が将来リクルートに、社会にどう役立つのかという視点を常に持ち続けている。最新技術の研究をサービスに実装することは容易ではない。しかし、研究員の思いを重視して研究対象を決めてきたからこそ、その熱量で困難をも乗り越えられるのだ。

 新たなイノベーションが起こる日を見据え、ATLはこれからも研究を続ける。

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