快適なハイブリッドワーク実現のカギは“まるでフェースツーフェース”のような環境づくり――半導体・ICT商社が行き着いた改善策とは昭和スタイルが残る会社が目指したのは「働き方、働く環境のDX」

多くの企業がオフィスとリモートが混在したハイブリッドワークの確立を模索している。その難題に取り組んでいるのが菱洋エレクトロだ。コロナ禍発生直後からリモートワーク導入が加速し、現在はハイブリッドワークを見据えて働く環境のアップデートを進めている。同社の事例からハイブリッドワーク実現のポイントを学ぶ。

» 2022年06月29日 10時00分 公開
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“昭和スタイル”の働き方が続いていた現場

 1961年設立の菱洋エレクトロは、日本の電機メーカー向けに半導体を取り扱う商社として事業をスタートした。1986年からはICT(情報通信技術)製品を扱うようになり、現在の売り上げは、半導体とICT製品がほぼ半々となっている。商社機能の他に、技術部門や子会社によるシステムインテグレーター(SI)事業によって、部品調達からシステム導入までを含めた独自のソリューションを展開している。

ALT 菱洋エレクトロ
取締役 常務執行役員
技術戦略本部管掌
佐野 修氏

 「当社の基本である商社としての機能に付加価値を加えていくことで、お客さまの問題解決を担うパートナーとして独自のポジションを築きたいと考えています」と、同社取締役 常務執行役員 技術戦略本部管掌の佐野修氏は語る。

 グループ全体で720人(2022年1月末時点)の従業員を抱え、事業所は当初は国内中心だったが、電機メーカーの製造が海外にシフトするのに伴い、海外拠点も増えてきた。現在は国内に10、海外に12の拠点を構えている。

 同社では2010年代まで「“昭和スタイル”の働き方が続いていた」と佐野氏は振り返る。多くの企業がそうであったように、商社である同社も会社に出勤するのは当たり前で、営業はもちろん対面、というスタイルが続いてきた。そのため、リモート会議は重視してこなかった。

 「遠隔地や海外の拠点、お客さまと話をするときだけ、例外的に電話会議を使っていました。ですが、仕組みも含めて、お世辞にも使いやすいといえるものではありませんでした。会議室の予約に加え、スピーカーホンを使用するためにわざわざ総務部に予約を入れ、会議室の準備をするのに大騒ぎしていました。今だから言えますが、あれは思い出すのもいやです(笑)」(佐野氏)

 自嘲気味に話す佐野氏だが、これは冗談ではなく、大問題だった。本来コミュニケーションを深めるためのツールだが、簡単に扱うことができず、音声だけの情報では現場の温度感を伝えることも難しい状態だった。そのため社内では、電話会議は全く定着していなかった。

2017年にリモートワークを検討するも具体化せず

 一方、同社の人事部では2017年ごろ、当時の「働き方改革」の一環として、子育て中の従業員を支援するためにリモートワーク(テレワーク)制度の導入を検討していた。そこでまず、管理本部だけで、実験的にリモートワークを実施した。

ALT 菱洋エレクトロ
企画本部
人事部 採用教育グループ
グループリーダー
五十嵐 歩氏

 「当時は画一的な働き方が当たり前でしたから、リモートワークでできる仕事が十分に用意できませんでした。また、現場の理解も得られず、できない理由ばかりを探すようになり、結局活用されませんでした」(企画本部 人事部 採用教育グループ グループリーダー 五十嵐歩氏)

 この失敗から2年後の2019年、同社は再びリモートワーク導入を検討することになる。その背景には、2020年(当時)に開催が決まっていた東京五輪があった。同社の東京・築地の本社は、選手村に近く、周辺は選手や関係者などで混雑することが予想された。そのため、五輪期間中は出社を避けるためにリモートワークを導入すべきという機運が再び高まったのだ。ただし、前回の苦い経験から、管理本部単独での検討ではなく、佐野氏が率いる情報システム部の支援を仰ぐことになった。だが、最初の反応は厳しかったという。

 「リモートワークの目的が、一時的なイベントへの対応であるとか、一部の例外的な仕事の扱いになっていたことが非常に気になりました。本気でやるなら、全員が使えるものでなければ浸透しません。まず大事なことはプロジェクトメンバー全員が“共感する目的”と思い、人事部と議論を重ねました」(佐野氏)

 ちょうどそのころ、同社では2019年7月から、佐野氏をリーダーにした「生産性向上プロジェクト」をスタートさせていた。

 「当社は、お客さまの課題やお困りごとを他社よりも早く、優れたやり方で解決させていただく企業を目指しています。お客さまの満足度を高めるには、まず社内の生産性を上げなければいけないと考えました」(佐野氏)

 生産性向上プロジェクトが当初掲げたテーマは、「営業生産性の向上」「ビジネスプロセス改革」「標準化」だった。営業生産性は、それまでの属人的な営業スタイルを廃し、営業の「型」を作っていく取り組みだ。また、営業生産性を上げるには、バックオフィスの受発注管理や営業サポートなどの仕組みも同期させなければならない。そこで、社内のビジネスプロセス改革にも着手する。同時に、営業管理の標準化も進めていく狙いがあった。

 リモートワークはこれらのテーマを議論していくにあたり、従業員の働く環境を左右する重要な要素であったため、この生産性向上プロジェクトのテーマに加わることとなったが、明確な目的が定まらないまま時は過ぎ、後に働き方の大変革点となった2020年を迎えることになる……。

強制的なリモートワークの実施で課題が浮き彫りに

 2020年4月、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大による最初の緊急事態宣言が発令された。それまで目的が曖昧だったリモートワークが、一夜にして企業のBCP(事業継続計画)の中心に躍り出たのだ。

 「リモートワークを『やる』ということは決めたものの、規程もできておらず、必要な機材や装備も整わない状態での決断でした。そのため、暫定的な運用で始めざるを得ませんでした」(佐野氏)

 当時の同社では、管理部門や営業の事務部門はリモートワーク可能なノートPCを使っていなかった。ノートPCを購入するのは間に合わないと思い、リースで200台ほどの端末を手配した。供給は混乱したが、何とか2020年4月中に必要な台数をそろえることができた。

 一方、外出先での仕事が多い営業部などの従業員は、セキュリティを重視する観点からシンクライアントを使用していた。しかし、これも問題だった。全員がリモートで接続する環境下では、シンクライアントはネットワークの負荷を増大させ、全く使い物にならなかったという。ネットワークの増強とノートPCへの置き換えが必要だった。

 リモートワークの基盤であるビデオ会議ツールは、全社の標準ツールだったMicrosoft製品との親和性を考え、「Microsoft Teams」(以下、Teams)に即決した。ユーザー自身が導入でき、操作も簡単だったため、すぐに本番運用ができたことは幸いだった。Teamsを活用して、怒濤(どとう)のリモートワークに揺れた2020年は何とか乗り切ることができた。

 緊急避難的な対応から徐々にリモートワーク中心の働き方が安定してきたところで、2020年後半から同社は新しい社内規程である「リモートワーク制度」の策定に着手する。

 同制度の基本方針として、従業員全員がリモートで働くことを前提とはしなかった。むしろ、感染対策を徹底させ、対面対応が必要と判断したコミュニケーションはオフィスで行い、そこにリモートワーカーを参加させる「ハイブリッドワーク」を目指した。

 「当社はあくまで商社です。技術系企業のように全員がリモートで働けるわけではありません。やはり対面での会議やお客さまとの面談は不可欠と考えています。その上で、当社としてハイブリッドな環境をどのように構築すべきかを検討していきました」(佐野氏)

 検討の結果、同社のリモートワーク制度は、出社を基本として「週3日まではリモート」という形に落ち着いた。

会議室の音声をいかに拾うか、試行錯誤を繰り返す

ALT 菱洋エレクトロ
技術戦略本部
情報システム部 システム第3グループ
グループリーダー
柳原 浩樹氏

 ハイブリッドワークを前提にしたとき、新たな問題も明確になってきた。

 「Teamsの利用が定着し、出社している従業員は会議室に各自のノートPCを持ち込んでリモートの人とつないで会議を実施していました。そうすると、社内のネットワークリソースはあっという間に枯渇し、満足に通信できなくなりました。社内の参加者が同じ場所にいながら、それぞれ別々にTeamsにログインしているため、ネットワーク帯域やVPN(仮想プライベートネットワーク)装置にも大きな負荷がかかることになりました」(佐野氏)

 これでは仕事にならないと考えた同社では、会議室の通信を集約するクラウド型ビデオ会議システムを導入することにした。このプロジェクトを担当したのが、情報システム部 第3グループ グループリーダーの柳原浩樹氏だ。

 「コロナ禍でビデオ会議のニーズが高まる中、各社からさまざまな製品が登場していましたが、既に業務で使用していたTeamsがそのまま使える『Microsoft Teams Rooms』(以下、Teams Rooms)一択でした」(柳原氏)。

ALT クラウド型ビデオ会議システムにMicrosoft Teams Roomsを選定した理由、導入の決め手となったポイント(提供:菱洋エレクトロ)《クリックで拡大》》

 導入チームでは会議室を「大」「中」「小」3つに分類し、それぞれに適したスペックのTeams Roomsデバイスを設置することにした。

ALT 「大」「中」「小」それぞれの会議室に適したスペックのTeams Roomsデバイスを設置

 Teams Rooms デバイスの選定に当たり、最大のポイントは音声だった。リモートワークを開始した当初から感じていた「社外にいるリモートワーカーが社内会議室の音声を聞き取りにくい」という課題は、非常に厄介だった。特に、大会議室の音声をどう拾うかが柳原氏を悩ませた。

 「通常の集音マイクでは、リモートで接続した人は、会議室で誰が話しているか全く分からない状態になります。これでは会議の質が低く生産性を上げることができません」(柳原氏)

 この問題を解決するために、情報を集め、テスト機を借りながら検証を進めた。その過程で、会議室の天井に設置する「シーリング(天井設置)マイク」の存在を知る。高価ではあったが、デモを体験すると性能が非常に高いことが分かり、良い感触をつかんだ。

ALT 大会議室に設置したシーリング(天井設置)マイク

 音声問題に解決のメドが立った検討チームは、2020年9月に本社の大小5つの会議室に先行してTeams Roomsを導入し、実際の会議で検証を開始。大会議室には、検討を重ねたシーリングマイクを設置して運用を進めた。結果は非常に良好で、テーブルを囲んで配置したスタイルの会議でも話者の音声をクリアに集音し、リモート環境に届けることができるようになった。

 また、中会議室と小会議室には、モニター下部に設置したカメラとマイクが威力を発揮した。カメラやマイクに搭載されたAI(人工知能)が話者を自動的に判断してズームしたり、エコーやノイズを制御したりすることで、クリアに聞き取ることができるようになった。

 「ただ、初期に導入した会議室では、特定の席の人だけ声を全く拾えない場合がありました。そこで、部屋ごとにあるデッドスポットを見つけて、マイクの感度や位置などを調節することが必要なことも分かりました」(柳原氏)

生産性向上のためには心理的安全性がカギに

 先行した5つの会議室で浮上した音声問題を解決し、残っていた本社と国内拠点全ての会議室、合わせて30カ所にTeams Roomsの導入を完了した。今後は、海外の拠点にも展開していく計画だ。

 生産性向上プロジェクトでは、可能な限り会議をスムーズに進行することもテーマに掲げている。例えば、「会議室に入ってから15秒で会議を始める」ことを目標とした。

 その点でも、Teams Roomsは大きく貢献している。スケジュール管理に使用している「Microsoft Outlook」と連携して日程と会議室を決めれば、リモートでも会議室でも、どちらからでも会議に参加可能になる。従来のように、会議室と機材を別々に予約し、メンバーの出欠を確認するといった手間も不要になった。

 「実際には、15秒もかからずに会議をスタートすることができます。もちろん、資料の共有も容易です。会議の生産性は飛躍的に向上したと思います」(柳原氏)

 また、人事部ではTeams Roomsの導入によって全社の人事研修がしやすくなったという。

 「例えば、Teams Roomsを使った集合研修中に、リモートで別の拠点の従業員を呼び出してコメントをもらうといったことなども、スムーズにできるようになりました」(五十嵐氏)

 ただし、ハイブリッドな会議がしやすくなったことで、逆に会議が乱立するという問題も発生してしまった。そこで同社では会議自体の質を見極め、必要なものに絞って行うように働き掛けている。

 同社では現在、社内外のコミュニケーションインフラの整備が一段落したところで、次の課題への取り組みを始めている。人事部でアンケートを採ったところ、リモート環境ではコミュニケーションのハードルが高くなったと答えた従業員がかなり多い結果となったのだ。ITでは解決できない、非言語コミュニケーション不足による生産性の低下をどう解消するのかという、難しい課題への挑戦が始まっている。

 「この2年間、従業員間の直接的な交流が激減し、互いの信頼関係を築くことができなくなりました。そのため、仕事上でも気軽な質問や意見交換などがしにくい状況が生まれています。これは今、どの企業も同じ課題を抱えていると思いますが、従業員が会社をどれだけ信頼できるか、また会社は1人の従業員が自走するのをどれだけサポートできるのか。それが問われています」(佐野氏)

 この課題に、まだ明確な解決策は見つかっていない。ただ、思い付いた施策はできるだけ素早く実行し、改善を繰り返すアジャイルな手法で臨んでいる。そのとき、Teams Roomsを中心とした同社のコミュニケーション基盤が有効に機能することは間違いない。

 アフターコロナが見えてきた現在、多くの企業がオフィスとリモートが混在したハイブリッドワークを模索している。その課題にコロナ発生直後から取り組んできた菱洋エレクトロ。同社らしい働き方はいち早く確立され、さらに高い生産性と働きやすさを求めて動き始めている。

ハイブリッドミーティングを体験してみませんか?

 自社にハイブリッドミーティング導入を検討するにあたり、現在の会議や会議室の評価をした上で、Microsoft Teams Roomsによるハイブリッドミーティングを体験いただけます。

 


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提供:日本マイクロソフト株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2022年8月1日

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