半導体製造装置はさまざまな先端技術が集結した精密機器だ。ITエンジニアとして世界最先端の技術に触れながら開発に携わることは、社会貢献に深く関わっている。
近年、「半導体」という言葉を頻繁に目にするようになった。2021年は半導体の供給不足によりPCや電化製品などがなかなか手に入らなかったり、翌年には、自動車向け半導体の不足により新車の納車まで1年以上待たなければならなかったりなど、半導体が社会に与える影響についてあらためてクローズアップされる場面が増えてきた。
そもそも半導体はこれらの工業製品だけにとどまらず、知らない間に私たちの生活の隅々にまで入り込んでいる。世界最大級(※)の半導体製造装置メーカーとして知られる「東京エレクトロン」でES副BU General Manager 兼 SPE事業本部長補佐を務める樋口公博さんによれば、半導体はもはや電気やガス、水道と同じように、社会の重要インフラとして位置付けられているという。
「世の中に存在するあらゆる機器に使われている最先端の半導体は、弊社の製造装置を通って製造された半導体だと言っても過言ではありません。さまざまな社会課題をテクノロジーで解決し世の中をより良くしていく、そこに半導体は欠かせません」
ITを駆使して、都市を「スマート化」する動きが活発になっている。スマートシティーにおいて、半導体は欠かすことができない存在であり、重要な鍵を握る。例えば電力の需給バランスを最適化することによって火力発電所の稼働を最小限に抑え、CO2排出量を削減するためには、電力需要をリアルタイムで把握してそれに見合う量の電力を過不足なく供給する必要がある。これを可能にするには、複数の半導体が埋め込まれた「スマートメーター」の活用が欠かせない。
また、環境問題を解決する切り札の1つとして期待されている電気自動車も、大量の半導体を使うことで初めて成り立つ。近年注目を集める自動運転技術も、やはり多くの半導体を使ったセンシング技術や画像認識技術なくしては成立しない。
このように半導体は社会インフラとして、また社会課題を解決するための要素技術として、私たちが暮らす社会の中で極めて重要な役割を果たしている。そしてこの半導体を作るための「製造装置」もまた同様に、社会にとってなくてはならない存在である。
社会インフラを支える製造装置と聞くと、重厚長大で巨大な“鉄の塊”というイメージを連想する方が多いかもしれない。確かに半導体製造装置は極めて大掛かりで、かつ価格も1台数億円から数十億円もする高価な製品なのだが、同時に極めて高い精度が求められる超精密機器であり、また技術進歩のスピードが極めて速いイノベーティブな技術分野でもある。
「より高機能な半導体を実現するために回路の高集積化を推し進めてきた結果、現在では数ナノメートルの精度が求められるようになりました。もはや『髪の毛の何分の1』というレベルではなく、原子数個分という世界に突入しています。このような世界で最先端かつ高品質の半導体を製造できるよう、製造装置にも年々より高い精度が求められるようになっています」
このような桁違いの精度を実現するために、東京エレクトロンでは製造装置を構成するさまざまな機械の設計、製造の精度を日々追い求めている。ただし個々の機械やパーツの精度をいくら高めても、必ずしも生産物の精度に直結するとは限らないという。
半導体の製造工程は、さまざまな機能の材料の薄膜を形成したり、塗布したり、真空状態を作り上げて加工したり、洗浄したりと、数百ものプロセスで構成される。従って各工程同士をうまく連携させないと、いくら個々のプロセスの精度を高めても最終的に出来上がる半導体の精度はなかなか上がらない。そのため、それぞれのプロセスの精度を高めると同時に、プロセス同士の連携の精度を高めるためのソフトウェア制御技術が極めて重要な鍵を握っている。
精度だけでなく生産効率を高める上でも、やはりソフトウェアによる制御技術が重要になってくる。ある工程から次の工程へと半導体の基板となるシリコンウェハー(仕掛品)を移動させる際、早く移動させればそれだけ製造時間を短縮できるが、早く移動させ過ぎると位置がずれてしまい、加工精度を低下させる原因となりかねない。ここでもまたソフトウェア技術を駆使して、移動速度と精度との間のバランスを極限まで追求することが求められる。
「その他にも温度を0.1℃単位で細かく管理したり、マイクロ秒レベルで電圧を制御したりするために高度なソフトウェア技術を必要とします。ソフトウェアの良しあしが、社会インフラの重要な構成要素となる半導体の出来を大きく左右しているのです」
こうして半導体製造装置のハードウェアとソフトウェアがともに進化を続けることによって、製造される半導体がより小さく、また多様化、複雑化することで、その機能が進化していく。こうして実現される半導体の高機能化による恩恵として、ITエンジニアにとって最も身近な例はやはりPCやサーバに搭載されるCPUやメモリであろう。CPUの高性能化やメモリの大容量化は、まさに半導体の進化による恩恵の代表例だといえる。
より生活に身近な例を挙げれば、スマートフォンの高性能化もまさに半導体の進化の賜物(たまもの)だ。例えばスマートフォンは約1~2年ごとに新製品が世に出ているが、これも内部に搭載されている半導体の進化があってこそである。最新のスマートフォンに搭載されるカメラはたとえ暗所であってもかつてであれば考えられないほどきれいな写真を撮れるようになっている。これもカメラ内部に搭載されたセンサーが半導体の技術革新で高性能化したおかげで実現している。これらの背後では半導体製造装置が大きな技術革新を遂げている。
こうしたデバイスの進化をもたらす半導体の性能向上は、半導体を製造する装置が絶えず進化し続けているからこそ可能になっており、東京エレクトロンでも常に次世代の技術革新に向けた研究開発に余念がないという。こうして長年にわたって築き上げてきた世界屈指の技術力こそが、同社を世界トップクラスのメーカーたらしめているという。
「弊社では今後5年間(FY2023~27)で約1兆円超の研究開発投資を行い、絶えず新たな技術を追求しています。半導体業界は技術革新のスピードが速く、競争も激しいため、製造装置においても強い財務基盤に基づいた継続した研究開発投資で最先端技術の開発に取り組まなければ、世界トップクラスの座は維持できません。裏を返せば、これだけの研究開発投資を行える企業はそう多くはありませんから、新参企業がそうそう簡単に参入できる業界ではありません」
こうした積極的な研究開発投資は、ハードウェア分野はもちろんのこと、ソフトウェア分野にも向けられている。しかも半導体製造装置におけるソフトウェアの重要度は、年々増しているという。
「ハードウェアによる精度向上は、ここへ来て技術的な限界に近づいてきたように思います。そのためハードウェアではこれ以上精度を追い込むのが難しい領域については、今後はソフトウェアによる工夫で精度を追い求めていくことになるのではないかと個人的には思っています」
例えば同じモデルの製造装置であっても、個体ごとに微妙な精度差や動作の“癖”のようなものがどうしても出てくる。そこで各個体の差を吸収してより品質を安定させるために、AI技術を活用する技術が注目を集めている。具体的には、個々の装置のログデータをAIに学習させ、装置のパラメータ設定とプロセス結果の因果関係を割り出すことでその装置の最適なパラメータ設定を割り出す。言うまでもなく、こうしたチューニングを可能にするには優れたAI技術者やデータサイエンティストの存在が不可欠だ。
同じく、装置の稼動ログをAI分析することで故障やトラブルの予兆を検知し、それに先立ってメンテナンスを行うことで装置自体の稼動率を向上させることもできる。東京エレクトロンでは、データ分析技術を使った研究開発に加え、こうした予知保全や稼動最適化を支援するサービスの提供も検討しているという。
「こうしたサービスを適用すれば、製造装置の稼動率を高められるだけでなく、例えば稼動していない時に、消費電力を最小化するように装置を制御するなどしてよりエネルギー効率が高い稼動方法も実現できます」
このような新たなサービスやビジネスを創出する上では、ソフトウェアエンジニアの存在が欠かせない。それも単に優れた技術を持つだけでなく、ソフトウェア業界特有の「サービス志向」「サブスクリプション型」のビジネスモデルに明るいソフトウェアエンジニアであれば、製品・サービスの開発のみならず事業企画などの分野においても活躍できる可能性がある。
そのためには、やはりソフトウェアエンジニアにも新たな技術やビジネスを生み出していけるだけの「発想力」が求められると樋口さんは言う。
「弊社はフォロワーではなく、半導体製造における世界的なリーダーとして最先端を自ら切り開いていく立場にあります。そのため、ソフトウェアエンジニアにも大胆な発想やチャレンジ精神が求められます。社会インフラを支える製造業というと保守的で古風なイメージを持つ方も多いかもしれませんが、弊社のビジネスは技術革新を常に求められ、真逆にあります」
事実、同社で現在活躍しているソフトウェアエンジニアは皆大胆でチャレンジ精神旺盛でありながら、同時に地に足をしっかり着けて目の前の課題にじっくり取り組むタイプが多いという。また業務の性質上、コミュニケーション能力に長けているのも大きな特徴だという。
半導体装置におけるソフトウェアは、さまざまなハードウェアの機能を制御したり互いに連携させたりする重要な役割を担う。そのためソフトウェアエンジニアはさまざまな領域のハードウェアのエンジニアと常に密に連携しながら設計・開発を進めていく必要があり、おのずと高いコミュニケーション能力が求められると同時に、一人では得られない、誰かと協力して成果を出す楽しみを体感できる。
一方、日々の仕事の中でやりがいを実感しやすいことも同社の職場の大きな特徴だという。樋口さんは「東京エレクトロンにいると『社会に貢献して利益を得ること』の大事さを身をもって実感できます」と同社における働きがいを語る。
「より良い社会の実現に向けて、社会に貢献して利益を上げ、それを研究開発投資に回すとともに社員にも還元し、さらなる社会貢献へとつなげていきます。これから世の中で使われる半導体の数が増えれば増えるほど地球環境に与える影響も大きくなってきますから、環境保護への関わりもますます深くなってきます。このように世界最先端の技術に触れつつ、同時に社会貢献にも深く関われる点が弊社で働く最大の魅力なのではないでしょうか」
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
提供:東京エレクトロン株式会社
アイティメディア営業企画/制作:@IT 編集部/掲載内容有効期限:2023年3月8日