「退職理由は繰り返す」のはなぜ?:自分が変わらない限り、環境は変わらない
人事採用に携わっていた筆者は、面接で応募者のさまざまな退職理由を聞いてきたという。退職理由に表れるものとは何なのか。正しい退職理由というものはあるのか。
ITエンジニアのお母さんは病弱?
「母が病気になり、実家に帰って看病していました」
何のことか分かりますか? 実はこれ、わたしが前職で採用面接をしていたときに、過去の退職理由としてよく聞いた言葉です。はてさて、ITエンジニアのお母さんは、そんなに病弱なのでしょうか? 東京で働いている息子や娘を呼び戻して看病させるほどとなると、よほどの大病です。
もちろんそんなわけはなく、「仕事がつらくてつらくて」「会社の方針にどうしても納得がいかなくて」など、ほかの退職理由がある場合がほとんどです。本当にご家族が大病でやむなく、という場合もあります。病気は本当だけれども、退職しなくても休職や時短勤務で看病できたのに、というパターンもあります。この場合、ほかにも退職したいと思う理由があり、ご家族の看病が必要ということが最後の一押しになるようです。
採用担当もプロですので、これらの退職理由を聞いたとき、その言葉のすべてを額面どおりに受け取るわけではありません。でも、うそだと決め付けるわけでもないのです。表現が難しいのですが、あえて言葉にすると、「その人がそういったという事実を信じる」ということになります。なぜなら、この退職理由をおっしゃる人には、気持ちがとても優しい人が多いからです。“在籍していた会社を悪くいいたくない、でも自分も悪くない、誰も悪くない。この退職は不可抗力、仕方のないことだったんだ”、そんなときにお母さんが病気になるようです。
偽りの退職理由
「お母さんの病気」は過去の退職理由に多く見られますが、現在働いている会社を辞めるときには、ご自身の体調が退職の理由となる率が高くなります。悲しいことですが、仕事に真剣に取り組みすぎたがために、激務がたたって体調を崩してしまう人が多くいるのです。
しかしまれに、本当の理由がほかにあるのに、「不可抗力な理由」として自らを病気ということにしてしまう人もいます。一見、穏便に退職する手段のように思えますが、このような偽の理由で会社を辞めようとするのは考えものです。本当に体調を崩してやむなく退職する人に対して失礼ですし、診断書の提出を求められてつじつまが合わなくなり円満退社できなくなるなど、しっぺ返しがくる可能性があるからです。
以前私の知人で、本当は転職が決まっているのにいい出せず、理由がはっきりしないために激しい引き止めにあい、困り果てた揚げ句に「膵臓(すいぞう)の重い病気にかかった」とうそをついて会社を辞めようとした人がいました。彼はこれで会社もあきらめてくれるだろうと思ったのですが、実際は逆効果となりました。会社は彼の体調をいたく心配し、休職療養の手配をしてくれたのです。しかも、社長直々に膵臓の権威といわれるお医者さまを紹介してくれるという話にまでなってしまいました。うそだといい出せなくなった彼はどうしようもなくなり、失そうしてしまいました。もちろん、決まっていた転職もパーです。
正しい退職理由とは
ここで質問です。あなたは、会社が新しい技術を取り入れようとせず、既存の技術でできる仕事しか取ってこないため、このままでは時代に取り残されてしまうのではないかと心配していたとします。新しい技術を取り入れる必要性を何度も上に掛け合い、独学で得た知識を基に社内で勉強会を開くなどの働き掛けをしてきたのですが、取り合ってもらえず、無念の思いを抱えて退職することになりました。こんなとき、あなたが退職届に書くべき理由は次のうちどちらでしょう?
A.一身上の都合
B.退職までの経緯を記し、方針の再考を促す
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