メンバーとの仕様打ち合わせは海を越えて:システム開発プロジェクトの現場から(5)(1/2 ページ)
開発現場は日々の仕事の場であるとともに、学びの場でもある。先輩エンジニアが過去に直面した困難の数々、そこから学んだスキルや考え方を紹介する。
初めてづくしのプロジェクト
2003年3月、私は、現在も所属しているアクセンチュア・テクノロジー・ソリューションズ(以下、ATS)に転職しました。
入社後最初に配属されたプロジェクトは、私にとって大変チャレンジングなものでした。新しい会社での、また大阪から東京に来ての最初の仕事であり、パッケージシステム(SAP)の導入プロジェクトもオフショア(中国・大連)開発も初めての経験で、まさに初めてづくしだったのです。
このプロジェクトで得た経験はいずれも貴重なものでしたが、今回はオフショア拠点との協業に絞って振り返ってみます。
大連との協業
近年、ITの世界ではオフショア開発が珍しいものではなくなってきています。ATSを含むアクセンチュアグループ(以下、アクセンチュア)でも、当時からオフショア開発拠点の展開を進めていました。
ご存じの方もいるかもしれませんが、アクセンチュアはグローバル主義・自前主義を掲げています。
グローバルカンパニーであるアクセンチュアでは業務の標準化が進んでおり、国や拠点間の垣根は比較的低いといえます。ATSのメンバーにとって、海外の拠点や要員と協業することは、私が入社した当時から特別なことではありませんでした。
また自前主義、すなわち基本的にすべての工程を自社のメンバーで手掛けるというポリシーにより、オフショアにも例外なくアクセンチュアの拠点を設置しています。
世界中にいくつかあるアクセンチュアのオフショア拠点のうち、日本と最も関係が深いのは、中国の大連にあるデリバリーセンターです。私が配属されたプロジェクトも、大連と協業することとなりました。
うまく協業するには
一般的に、オフショア開発は難しいといわれています。それはなぜでしょうか。よく言及されるポイントについて考えてみましょう。
- 契約や作業範囲で認識や意見に食い違いが生まれ、トラブルになる
よくある話ですが、これは本質的には委託側と受託側が異なる企業体であり、利害が衝突するために起こることです。同じグループ内のメンバーで、多少の食い違いはその都度修正していく前向きさがあれば、ほとんどこの問題は当てはまりません。
- オフショア側でアサインされたメンバーのスキルが低く、品質・納期が保てない
これもオフショア特有の課題とはいえないでしょう。初めて一緒に仕事をするメンバーのスキルに注意を払い、必要があればトレーニングやチーム編成の変更などの対策を取らなければならないのは、基本的にはオンショアでも同様のはずです。もちろんオフショアでは、メンバーのスキルを把握するのがより難しくはなりますが。
私自身がこのポイントにどう対応したかを紹介します。このプロジェクトでは、オフショア側のメンバーが日本側とどのようなやりとりをしているかに注意を払いました。その内容いかんで、おおよそのスキルレベルが把握できるからです。さらに、オフショア側のチームリーダーから、メンバー全員の経歴と現有スキルの情報を取り寄せて各人の適性を整理し、適切と思われる役割分担をオフショア側に提案するなどしました。
- 国と文化が異なるため、メンバーの常識や発想が異なる
この点については、かなりの配慮が必要といえるでしょう。
仕事を進めていく中で、異なるメンバーから同じ質問が何度も寄せられるケースがありました。「大連のメンバーは仲が悪く、風通しが悪いのでは?」。最初はそう思い、大連のマネジャーに問い合わせましたが、「いいえ、みんな仲が良く、ランチも一緒に食べていますよ」という答えでした。どうやら仕事は個人で進めるという意識が強く、仲間と情報を共有するという意識は比較的薄いようでした。
こちらが当たり前と思っている事柄も、相手に通用しないことはやはりあります。「自分の常識を疑う」ような姿勢でコミュニケーションに臨む必要があるといえそうです。
- 物理的に拠点が離れており、コミュニケーションがうまくいかない
離れている以上、やはりコミュニケーションの手段は限られてしまいます。表情や身振り、雰囲気といった言語によらないコミュニケーションもほとんど取れません。
このプロジェクトではセキュリティなどの関係から、ビデオ会議のような環境をつくることはできませんでした。その分、電話やメール・ドキュメントによるコミュニケーションの質・量を向上させることが重要となります。
詰まるところ、オフショア開発特有の課題を解決するには、やはりコミュニケーションが大きな鍵となります。
このプロジェクトを進めるに当たっても、特にコミュニケーションに注意を払い、工夫していくことにしました。
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