ほかのSNSたちのジレンマ
MySpaceを含めたほかのSNSは慌てました。
分業体制を作っていなかったSNSはどこも多かれ少なかれ「サービスのファミレス化」が進行しており、面白いサービスがたくさん提供されているFacebookにアクセスを奪われる状況に陥りました。
コラム 「どのSNSがはやっているかを見極める指標」
SNSはその活性度の指標としては、登録メンバー数よりもアクセス数の推移の方がより重要です。ほかのSNSに移動するときにわざわざ元のSNSを退会する人は少ないからです。ほとんどの利用者は、元のSNSのことはほったらかし(休眠状態)にしておいて、ほかのSNSに移動します。
ほかのSNSも「分業」システムの確立に向けて準備を始めようとしました。しかし、そこで気になるのが、それぞれのSNSがそれぞれ独自のAPIを作ったとして、後発のSNSがすでに多くの開発者を抱え込んでいるFacebookに対抗できるか? ということです。
そもそも、APIの提供には膨大な費用が掛かります。もちろん、アプリケーション開発者は、Facebook以外にも多くのSNSにアプリケーションを提供したいと思っていますが、それぞれのSNSのAPIに全部対応するのは不可能で、簡単に対応可能な有力SNSのみにサービスの提供を絞る必要が出てくるでしょう。こうしたジレンマにほかのSNSが陥っている中、Facebookだけは着々と成長し続けています。
Googleの共通API、OpenSocialが登場!
この状況で登場したのが、なぜかSNSの専門家ではない検索の王者Googleでした。Googleは「Facebook」以外のSNSサイトに、共通APIである「OpenSocial」の採用を働き掛けました。当時(現在もですが)、仕様策定を行い、各SNSが簡単に対応できるようなソースコードやドキュメントも無償で提供しています。
これにより図6のような構図になります。
「アプリケーション開発者」は、1つの共通APIに対応するだけで、OpenSocialに対応したすべてのSNSに対して、アプリケーションを提供する準備が可能となりました。実際にアプリケーションの設置を許可するか否かは、SNSサイトが判断する必要がありますが、少なくとも、技術的な面では設置できるようになりました。
「共通APIに対応するSNS側」にとっては、多くの開発者が作ったアプリケーションが手に入るというメリットがあります。
すなわち、開発者が作成した1つのアプリを複数のSNSに提供でき、反対に1つのSNSから見ると複数の開発者が作成したアプリケーションをホスティング(設置)できるようになります。
世界中のWebサイト、アプリケーション開発者に顔が利くGoogleの登場により、SNS上のAPI競争は Google率いるOpenSocial連合とFacebook率いるFacebook Platform陣営の戦いという形で、動き出しました。
なぜ「検索」のGoogleが「SNS」で張り切っているのか?
しかし、なぜGoogleが、わざわざ旗を振ってAPIを策定したのでしょうか? 容易ではない仕様策定を行い、豊富なドキュメントを整備し、キャンプファイヤーイベントまで開催しての紹介ムービーまで作っています。これだけ見ても、非常に大きなコストを掛けてGoogleが「OpenSocial」に取り組んでいることが分かります。もともと、OpenSocialは、Google社内の1人のエンジニアが考え出した、小さなプロジェクトとして始まったといわれています。
それが、いまでは会社を挙げてやっきになって取り組むのは、一体なぜなのでしょうか?
筆者はGoogleはSNS市場では(少なくとも検索エンジンほどには)勝てていないと見ています。Googleは老舗SNSの「Orkut」を擁していますが、そのシェアは10番目付近と後れを取っています。先ほどご紹介した「MySpace」や「Facebook」に、大きく水をあけられてしまっている状態です。
また、最近では「Facebook」が提供した分業モデルが大成功しました。Googleは、ますます手を出せない領域が広がってしまうこの状況に危機感を抱いたのではないでしょうか? とはいえ、どうしてもSNSの市場では、「MySpace」や「Facebook」にすぐに勝てそうにありません。
そこで、Googleは一策を講じました。
ならば、ライバルSNSを1人勝ちさせないように、Google主導で平準化してしまおうではないか。その平準化のためにSNSに関する共通のAPIとなる「OpenSocial」を作ってしまえ、と。
共通APIを提供することで、各SNSのサービスを平準化し、同時にいわばSNSにAPIというGoogleが通ることのできる穴(トンネル)を作っておく……という作戦です。そうすれば、Googleの優れたサービス(検索、AdSense、GmailやGoogleマップなど)を後から提供できるから、いまSNSで勝てなくても安心、という算段ではないでしょうか。面白くなってきましたね。
いったいどちらが勝つのか? 今後のSNS業界を左右する問題
ちなみに、2008年3月現在のところは、早くから開発を進めていた「Facebook」が優勢です。しかしながら、日本のmixiやMySpaceが、OpenSocialに賛同を表明しています(とはいえ、2008年3月現在、賛同を表明しただけで本格的なサービス提供を始めていません)。
VHSとベータの戦いを消費者が「どっちを買おうか」と、かたずをのんで見守っていたように、世界中のSNS開発者やSNSオーナーたちが勝負の行方を探っています。
どうなる? OpenSocial今後の動き
OpenSocial騒動の渦中にいるOpenPNE
この2つのSNS共通APIのせめぎ合いは、筆者が手掛ける「OpnePNEプロジェクト」にとっても人ごとではありません。人ごとどころか、まさに、いま渦中にいる状態です。
OpnePNEプロジェクトは「SNSの共通API化」には諸手を挙げて賛成です。なぜなら、OpenPNEには現在約3万種類のSNS(SNS登録者は、300万人程度)があります。その個々のSNSが、それぞれ自分のSNSの特性に合わせたアプリが欲しくても、プログラマーを置いている大企業でもない限り、無料でアプリを提供してくれるような開発者はなかなかいません。
ところが、「OpenPNE」が共通APIに対応すれば、どんな小規模のSNSでも、ある開発者が作成したアプリを受け入れ、取り込むことができるので、非常に大きなメリットがあるのです。
では、OpnePNEプロジェクトは、いま、「Facebook Platform」か、「OpenSocial」で頭を痛めているのかって? いえいえ、OpenPNEプロジェクトとしてはもともと「Facebook Platform」という選択肢はありませんでした。OpenSocialが発表された当初、Facebookは外部にAPIを公開していなかったからです。
OpenPNEプロジェクトとしては、ひとまず2008年5月にはOpenSocial APIに対応したOpenPNE2.12.0をリリースする予定です。
次ページでは、引き続きOpenSocialの今後の動きを解説し、OpenSocialで具体的にどんなアプリケーションを作るべきかの案をいくつか提案します。
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