滋賀限定、残業なし、社内SE。そりゃ苦戦するでしょう:転職活動、本当にあったこんなこと(20)(1/2 ページ)
多くのITエンジニアにとって「転職」とは非日常のもので、そこには思いがけない事例の数々がある。転職活動におけるさまざまな危険を紹介し、回避方法を考える。
皆さんが転職を考える場合、いろいろな条件を検討することでしょう。勤務地、年収、仕事内容、企業規模……。優先順位を付けがたいものも中にはあろうかと思います。
しかし、すべての条件がかなう転職先に巡り合うことは難しいのが実情です。すぐに転職をしたい場合、長期的にじっくりリサーチしながら転職したい場合、それぞれで状況は異なってきますが、絞り込みの方法を誤ると、どちらにしても苦戦するかもしれません。
今回は、転職活動の「落としどころ」という点から、事例を踏まえてお話しします。皆さんの参考になれば幸いです。
複数の案件に追われる毎日。このままじゃ結婚できない!
大川さんは滋賀県在住の29歳。物流系のシステム開発企業で働くITエンジニアです。会社が大阪市内のため、通勤に約2時間かけていました。翌年に結婚を控え、仕事もプライベートも慌ただしい日々を送っていました。
入社以来、一貫して食品メーカー向けの在庫管理システム、配車管理システムの開発を担当し、ここ数年はプロジェクトリーダーとして経験を積んできました。プロジェクト全体で効率良く業務が行えるよう、工夫して仕事を行う毎日。しかし、会社の業績不振による人手不足もあって、次第に複数の案件を兼任するようになりました。仕事量も倍増し、「次はこの案件だったな」と、切り替えに相当なパワーと時間を要するようになりました。
朝6時半前に家を出ても、帰りは11時を必ず回るようになりました。ストレスもたまり、結婚の準備をする時間もつくれず、彼女ともけんかをしてしまう始末。大川さんは、「このままで、無事に結婚できるのだろうか……」と思い悩んでいました。
人手不足も解消される様子はなく、このままの勤務状況が続くのが目に見えている状況。会社の経営も、この先どうなるか不安。大川さんは転職することを考え始め、彼女に決心を告げました。
条件付きで、彼女は賛同してくれました。条件とは、できるだけ家から近く、残業の少ない企業に転職してほしいというものでした。
彼女はこの業界の忙しさについて理解はあるものの、同じような会社には行ってほしくないという気持ちでした。大川さんもその点は同じで、条件を定めて転職活動をスタートしました。
「そりゃ苦戦するでしょう……」
私が大川さんに会ったのは、彼が転職活動で苦戦しているころでした。話を聞いてみると、以下のような条件で活動をしていたのです。
- メーカーの社内SE希望
- 残業時間が少なく、土日祝日が休みであること
- 勤務地は滋賀県内、自宅からの通勤時間が30分以内であること
そりゃ苦戦するでしょう……。私の正直な気持ちでした。
希望職種、残業時間については理解できるのですが、問題は勤務地です。そもそも滋賀県内での求人自体が少ないからです。難しいだろうと思いながらも、大川さんの要望をかなえるべく転職の支援を進めました。しかし、そう簡単にはいきません。やはり苦戦は続きました。
ここで仕切り直しです。私は、もう一度条件面を見直してみることを大川さんに提案しました。内定を得るためにはどうしたらいいのでしょう。一緒に1つずつ整理していきました。
藤本(筆者) メーカーの社内SEを希望している理由は何ですか。
大川 残業時間に対しての概念が徹底されていて、残業が少ないイメージがあるから……。
藤本 では、残業時間がきっちり管理されていれば、ソフトハウスでもいいのでしょうか。
大川 そうですね、いいと思います。
藤本 社内SE自体へのこだわりがあるわけではないのですね。
大川 はい、いままでの経験が生かされる職種であれば、社内SEでなくても問題ありません。
藤本 勤務地に関してですが、なぜ滋賀県内にこだわるのですか。残業時間の問題がクリアになれば、京都まで広げることも可能ではないでしょうか。
大川 おっしゃるとおりですね。
藤本 職種も勤務地も、可能な限り広げて動いてみましょう! 大川さんに入社してほしいという企業がグンと増えると思います。その中で一番希望条件に近いものを選べばいいのですから。
こうして、大川さんの転職活動が再スタートしました。条件を見直したことで選択肢が広がり、多くの企業に応募することになりました。もともとしっかりとしたスキルと経験のある大川さんです。書類選考も面接もスムーズに進み、京都市内で何社か内定を得ることができました。
中でも、京都に拠点を置く上場企業が、大川さんの希望に一番近いものでした。
自宅からの通勤時間は1時間、残業は多いときでは70時間程度あります。しかし、通勤時間も苦にならない程度ですし、勤務時間に対する企業の考え方も共感できるものでした。面接時の会話から、「ここなら経験も生かせるし、オンとオフの切り分けがしっかりできる。新しく始まる結婚生活も楽しく過ごせるだろう」と感じた大川さんは、内定を承諾しました。
現在、大川さんはその企業で、プロジェクトリーダーの経験を生かして活躍しています。
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