VMotion、DRS、そしてVMware HA:VMware Infrastructure 3 徹底入門(3)(4/4 ページ)
ハイパーバイザの「VMware ESX」をベースに、サーバ運用の自動化と円滑化のためのさまざまな機能を組み込んだのが「VMware Infrastructure 3」だ。仮想マシンを無停止で別の物理サーバに移動することで、ハードウェアのメンテナンスを楽にしたり、自動的に各物理サーバ上の負荷を調整したり、低コストで可用性を確保したりすることができる。今回はこれらの有用な機能について解説する
VMware HA - シンプルで効果的な高可用性機能
仮想マシンを用いてサーバ統合を実施すると、物理マシン1台の故障の影響範囲も大きくなる。1台の物理マシン上で複数の仮想マシンを動作させている場合が多くなるためだ。そこで、物理マシンの故障からサービスを短時間で回復させる機能がVMware Infrastructure 3で提供されている。VMware HAである。
VMware HAを有効にすると、VMware VirtualCenterとVMware ESXはハートビートを用いて死活確認を実施するようになる。またVirtualCenterが停止中であってもVMware HAが動作するよう、VMware ESX同士も互いに死活監視を行う。VMware ESXが動作する物理マシンが故障した場合、システムはそれを自動的に検出し、残された動作中のVMware ESX上で停止してしまった仮想マシンの再起動を行う。
VMware HAの利用には共有ストレージ装置の利用が必須となる。仮想マシンを共有ディスク上に配置しておくことで、その起動領域も含めたすべてのデータがサーバの外部に格納されることになる。このため物理マシンが故障で停止してしまった場合でも、他の動作中のVMware ESXに仮想マシン単位でフェールオーバーさせることが可能となる。
VMware HAには幾つかの素晴らしい特長がある。1つは非常にシンプルで、設定が容易であるということである。通常のクラスタリングソフトウェアを構成・管理するスキルを習得するには一定の知識収集が必要とされるのが一般的だが、VMware HAは極めて容易な操作のみで仮想マシンのフェールオーバー機構を利用できる。また、VMware HAを利用するのに当たり、ゲスト OSやアプリケーションを変更する必要は一切ない。
また、アプリケーションを選ばないというのも大きな特長である。物理マシンが故障した場合、VMware HAでは停止してしまった仮想マシンを OS の起動も含めて別のマシン上でやり直す。このため、アプリケーションごとに監視エージェントを購入したり、あるいは開発したりする必要性がない。OSの起動からのやり直しとなるためサービスが再開するまでには一定の時間を要するが、極めて現実的で手ごろなアプローチといえるだろう。また仮想マシンは電源の投入からOSの起動が完了するまでの時間が、物理マシンと比較して非常に短いということもぜひ覚えておいてほしい。
物理マシン、特にサーバ機種の場合は、マシンの電源を投入してからOSの起動が開始されるまでの間に、さまざまなハードウェアの診断や初期化のプロセスが実行される。機種や構成によってはこの処理に数分以上を要する場合がある。仮想マシンではこの処理は不要であるため、電源を投入してから OS の起動プロセスが開始されるまでの時間が短く、結果としてサービスが再開するまでの時間も短くなるのである。
設計にもよるが、VMware HAでは専用の待機系を保持しておく必要はない。故障発生時は縮退運転ということになるが、例えば物理マシン10台でVMware HAを構成するような場合は、どのマシンが故障した場合でも残りの9台でサービスが継続できるよう仮想マシンの数を調整することで対応することができる。VMware HAにはAdmission Controlという機構が備わっており、フェールオーバーを行う際に、その仮想マシンを受け入れられるだけのCPU、メモリ資源がフェールオーバー先となるVMware ESXに備わっているのかを確認するようになっている。設計の段階で、物理マシン9台でも計算資源が足りるよう仮想マシンの配置を行っておくことで、コスト効果の高い可用性システムを実現することができる。
ゲストOSのメンテナンスの工数という面でもVMware HAは優れている。従来型のクラスタリングソフトウェアでは駆動系と待機系でそれぞれOSが動作しているため、例えばOSやクラスタリングソフトウェアに対してパッチを適用する場合の手間は2倍になる。台数が多くなると、それらの一貫性を維持するだけでもそれなりの工数を見込む必要が出てくる。VMware HAではこのような工数も発生しないため管理・運用は極めてシンプルになる。
通常、重要なデータを処理するシステム以外はスタンバイ構成を行わずスタンドアロンで運用することが多いと思われる。VMware HAを利用することで、すべての仮想マシンに対してコールドスタンバイ程度のアベイラビリティを持たせることが可能になる。
今回はVMware Infrastructure 3の特長的な機能、VMotion、DRSそしてVMware HAを紹介した。どれも共有ストレージ装置が必要となる機能だが、それによって享受できるメリットは計り知れないものがあるということもお分かりいただけたかと思う。VMotionは 2003年から、DRSとVMware HAは2006年から提供している機能であり、どれも安定動作する枯れた技術となりつつある。これらの「仮想マシンならでは」の機能をぜひ活用していただきたい。
次回は「カプセル化」、「ハードウェア非依存」といった、仮想マシンの優れた特長を紹介する。
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