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「ITエンジニアは職人気質を取り戻すべき」ソフトウェア開発の匠(1)(1/3 ページ)

匠Lab 代表取締役の萩本順三氏が、既存のソフトウェア開発プロセスにメスを入れる!

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 「ソフトウェア開発の匠」。このタイトルには、ソフトウェアエンジニアは現代の匠(たくみ)になるべきだという筆者の思いを表現している。現在のソフトウェア開発は、残念ながら多くの人が過去の職人気質(かたぎ)を捨て去り、サラリーマン化しすぎている。ビジネスの価値を高める最適なソフトウェア開発の姿について、自ら描くことをしていない。

ソフトウェアエンジニアは、
過去の職人気質を取り戻すことが重要なのである。

 しかし、ただ旧来の職人気質を取り戻すだけでは駄目なのである。ヨーロッパのマイスター(匠)のように尊敬されるためには、ビジネスを知り、ビジネス価値を高める職種になることが必要である。それが、ITエンジニアの目指すべき匠である。そのような人材像を「ソフトウェア開発の匠」とし、本連載では、そこに近づくための考え方や解決法を読者にお伝えできればと思う。

 まず第1巻(連載第1〜2回)では、現在のソフトウェア開発手法が未熟であることを、さまざまな問題を例に述べる。そして、これらの問題の本質と対処法を説明することにしよう。第2巻では、ソフトウェア開発プロセスの未熟さに焦点を当てる。これを、まずは読者の皆さんが理解することが重要である。そして、解決するための“匠の技”を身に付けるべきなのだ。第3巻では、ソフトウェア開発を全体的に見たとき、第1〜2巻で挙げた問題がなぜ起こっているのかと、筆者の考える解決策の根本に触れていく。この解決策には、IT業界を変革するパラダイム転換を必要とする内容が含まれる。将来のIT業界をどう形成すべきか、あるいは、未来のIT業界はどうあってほしいのかという観点で読んでいただけるとうれしい。最後に第4巻として、開発方法に関するさまざまな問題に対して、どのような意識改革が必要なのか、3つの視点(開発者の視点、IT企業の視点、ユーザー企業の視点)で書いていく。

 本連載に書かれていることは、いままでの技術書籍に書かれていることを否定しているかのように思えるかもしれない。それは正しい。ソフトウェア開発手法は、時代の流れとともに変化している。その変化を肌で感じつつ、普遍性を見いだしながら、自分たちの開発手法を洗練させていくことが重要である。そのためには、既存の開発手法について、常に「なぜ」「なぜ」「なぜ」と問い掛け、最適解を見つけ出すことが必要だ。「なぜ」の習慣を付けるためにも、以下で述べる問題について、じっくりと考えていただきたい。


第1巻 「現状のソフトウェア開発は間違っていないか?(手法編)」

 ここでは、ソフトウェア開発手法の問題点を挙げる。この問題は、ソフトウェア開発を真っ当に行っていることが前提となる。というのも、ソフトウェア開発の中には、その場のユーザーの要求どおりにドキュメントレスでソフトウェアを開発する方法が存在する。そのような場合、その開発者(チーム)がいなくなるとメンテナンス不可能となる。そういう開発は、ここでは対象外とし、第2巻(連載第3回)の開発プロセス編で触れることとしたい。

ユースケースがうまく使えていない

 まず、大きな問題点として最初に取り上げたいのは、要件定義のフェイズで使われるユースケースについてである。

 ユースケースモデルを使った開発は、読者の多くが経験し、学んでいると思う。ユースケースモデルとは、ご存じのとおり「ユースケース図」と「ユースケース記述」がセットになった、要求定義を行うためのUML記法である。最近では普通に使われているものだ。

 しかし、ソフトウェア開発においてユースケースモデルが、適切かつ有効に使われているかと考えると、かなり疑問がある。

 そこで、ある問題事例を基に、開発者の悩みを表面化し、考察する。以下は、民間における中・大規模システム開発、および政府における大規模システム開発でよく見受けられるユースケースモデルの利用方法だ。

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