訴訟が増えている!? OSSライセンス違反:企業技術者のためのOSSライセンス入門(1)(2/2 ページ)
この連載では、企業がオープンソースソフトウェアとうまく付き合い、豊かにしていくために最低限必要なライセンス上の知識を説明します。(編集部)
ソフトウェアのライセンスは「著作物の利用を許諾」するもの
コンピュータ・プログラムは、著作権法で保護される著作物の1つです。著作権法の第10条(著作物の例示)でプログラムは、「小説、論文、脚本、講演」「音楽」「絵画」「映画」「写真」などとともに、著作物として挙げられています。
そして、第21条から第28条で、(著作権に含まれる権利の種類)として、複製権、公衆送信権、頒布権、譲渡権、翻訳権や二次的著作物の利用に関する原著作者の権利などの記述があります。
改変したプログラムでも、この「二次的著作物の利用に関する原著作者の権利」により、原著作者の許諾なしに再頒布できません。
第63条で(著作物の利用の許諾)として「著作権者は、他人に対し、その著作物の利用を許諾することができる」とあります。ソフトウェアのライセンスとは、この「許諾」のことです。
さらに、その2項で「前項の許諾を得た者は、その許諾に係る利用方法及び条件の範囲において、その許諾に係る著作物を利用することができる」とあり、この「許諾に係る利用方法及び条件」が「ライセンス条文」、つまり許諾要件なのです。
流通しているパッケージソフトウェアの多くはシュリンクラップなどの契約行為をよりどころに使用制限している(図2)のに対し、OSSのライセンスは、この著作権法における「著作物の利用の許諾」をよりどころに成り立っていること(図3)が大きな違いです。
著作権法では、「使用」と「利用」という似た言葉が使い分けられています。「平成10年2月文化庁著作権審議会マルチメディア小委員会ワーキング・グループ中間まとめ」では、以下のように定義されています。
- 「利用」(exploit)とは、複製や公衆送信等著作権等の支分権に基づく行為を指す。
- 「使用」(use)とは、著作物を見る、聞くなどのような単なる著作物等の享受を指す。
いろいろな著作物において、使用と利用がそれぞれ何を意味するかをまとめたものを参考までに掲載しておきます。
OSSライセンスの解釈では、対象が著作物(プログラム)であり、その「利用」の際の許諾であることがポイントになります。逆に、著作物と見なされないものはライセンスの対象外と考えると、OSSライセンスの解釈に役立ちます。
例えば、GPLは改変したプログラムも派生物としてGPLのライセンスで頒布することが条件になっています。「派生物」とは著作権法での「二次的著作物」のことです。
理系的な答えを求めては対応を誤る
今回は、OSSライセンス違反のリスクとそのOSSライセンスのよりどころとなっている著作権法について、概略をお話ししました。
OSSライセンスに限らず、こういう話をすると、必ず「チェックリストが欲しい」とか「『こうしたら×(バツ)といったから、残りの行為は○なんだな』と勝手に推測」する人がいます。ですが、そういう考え方しかできない人には、OSSライセンスについても概説・紹介をお勧めできません。
コミュニティのメーリングリストでは、ライセンスに関する「教えてくん」的質問に対しては、「ライセンス文を読め」という回答で対応するのが常とう手段になっているようです。ある意味では、その対応が正しく、誤解を招かないかもしれません。ただ、それだけではOSSの活用が進まず、ひいてはOSSへの還元も増えないわけです。
OSSへの還元を増やすためにも、OSSライセンスを正しく理解し、活用する製品を増やすことに役立つ解説も意味があるのではないかと思っています。
それでも、「OSSライセンスの対応は、理系的な答えを求めては対応を誤る」といっておく必要があると思います。理系/文系に対して先入観のあるいい方ですが、自分が理系出身であることから、自戒を込めて、こういう表現をご容赦願います。
デジタルな「0か1か」という固定的な考え方では済まない例を2つ挙げてみます。
1つは、2005年に起きた「松下電器vs.ジャストシステム アイコン特許」の事例です。この事例は、「特許権を獲得した登録された特許といえども、絶対的なものではない」ということを知らしめたという意味で、1つのエポックではないでしょうか。
2月の東京地裁の判決では特許侵害の判決が出たものの、9月の知財高裁での判決では、特許無効との判決が出ました。これでは特許庁の面目丸つぶれではないかと思いきや、「いまでは、あんな特許を認めはしない」との特許庁の方がコメントしたという話を、人づてに聞いたことがあります。
つまりこの事例は、知的財産権の権利は、時代により、世間の状況により、判断基準が変わるということを如実に表しています。理系的に「これさえやっておけば大丈夫」と世情(の変化)を勘案せずに、機械的なチェックで済ませていては、判断を誤るということです。
もう1つは、1999年にJLAのLinux商標調査WGで商標法を調べていて気が付いたことです。法律に詳しい方には当たり前なのでしょうが、法律は意外に柔軟で、何重にも救済策が張り巡らされていることを認識しました。
商標法50条では、商標権者等が、各指定商品について、継続して3年以上日本国内においてその登録商標を使用していないときは、その使用していない指定商品についての商標登録を取り消すために請求する、「不使用の取消審判」というものも可能なのです。
つまり、商標を取ったからといって永続的な保証が得られるわけではなく、使用していて実効性がなければ、「不使用の取消審判」が条文上も認められており、実効的な活動をしているものに権利を移すことが妥当であるという考えに基づいたかのように理解できたのです。そういう法律であるということを初めて知って、当時は驚いたものです。
特許権、商標権の主管庁は特許庁であり、著作権の主管庁は文化庁であることから、日本国における条文から読み取れる姿勢や主管庁の姿勢の違いを感じることはありますが、世界知的所有権機関(WIPO)で特許権、商標権、著作権などの知的財産をまとめて扱っており、国際協調の観点から、それほど齟齬(そご)が目立たなくなってきているように思えます。
そもそも、海外の著作物の著作権が日本でも保護されるのも、ベルヌ条約をはじめとする各種国際協定・条約によるものです。実務に携わっていると、そういったところまではなかなか気が回らないところですが、国際協定・条約によっても知的財産権の扱いが異なってしまうことを頭に入れておく必要があります。
さて、一口にOSSライセンスといっても、代表的な「GPL」以外にもさまざまなタイプのライセンスがあります。次回は、それらの違いを紹介するとともに、順守すべき事柄について紹介しましょう。
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