公共サービスにおける「システム導入の勘所」:味わい深いシステムを開発するための業界知識(5)(1/3 ページ)
ITエンジニアの日々の業務は、一見業界によって特異性がないようだ。だが、実際は顧客先の業界のITデマンドや動向などが、システム開発のヒントとなることもある。本連載では、各業界で活躍するITコンサルタントが、毎回リレー形式で「システム開発をするうえで知っておいて損はない業務知識」を解説する。ITエンジニアは、ITをとおして各業界を盛り上げている一員だ。これから新たな顧客先の業界で業務を遂行するITエンジニアの皆さんに、システム開発と業界知識との関連について理解していただきたい。
さまざまな業界を担当しているアクセンチュアのITコンサルタントが、ITエンジニアのための業界知識として、リレー連載をお届けしています。第5回のテーマは、公共サービスにおける「システム導入の勘所」です。
ひとくくりに公共サービスといっても、国(官公庁)・自治体などの行政機関、電力・水道などの公益事業、公共交通機関、教育機関とその範囲は非常に多岐にわたります。今回はIT政策の動向を踏まえながら、官公庁関連のITエンジニアとしてこれから業務を遂行する方へ、必要となる業界知識をお伝えします。
一般的に、民間企業は利益追求型のIT投資ですが、公共サービスは国民生活や社会基盤の整備などを考慮した多角的な視点でのサービス提供が求められ、ITエンジニアとしてのやりがいや現場で求められる役割・スキルといったものも一味異なるものです。だからこそ、工夫を要するところや苦労もあります。そんな現場ならではのお話も、後半でお届けしたいと思います。
味わい深いシステムを開発するための業界知識 バックナンバー
- 第1回 保険大国日本で保険のシステムを作るコツ
- 第2回 通信業界は売上高に占めるITコストが高い
- 第3回 組み立て型製造業、今後の要はサービスにあり
- 第4回 化学産業を下支えする3つのIT
- 第5回 公共サービスにおける「システム導入の勘所」
- 第6回 詳細データから消費トレンドを読むアパレルのシステム
- 第7回 電力会社の最新技術、スマートグリッドが未来を変える
官公庁におけるIT政策の動向
電子政府の推進をはじめとした国のIT戦略の基本方針を決める政府のIT戦略本部は2001年以来、「e‐Japan戦略」(2001年1月)、「e‐Japan戦略II」(2003年7月)、「IT新改革戦略」(2006年1月)を発表し、2010年度までのIT政策の方向性を示してきました。さらに、上記IT戦略を着実に遂行するための施策集である重点計画や政策パッケージも定めています。
最新の重点計画「重点計画−2008」(2008年8月)では、IT新改革戦略で掲げられた3つの軸(1)IT構造改革力の追求、(2)IT基盤の整備、(3)世界への発信に基づき、「ITによる医療の構造改革」「世界一便利で効率的な電子行政」「ユニバーサルデザイン化されたIT社会」などの実現に向け、具体的な施策が打ち出されており、これを受けた各府省で取り組みが進められています。
このように、官公庁における情報システムの在り方は、予算取りの観点からも、政策に大きく左右されるため、その方向性および指針を念頭に置いておくことをお勧めします。
また、予算の効率的な活用および透明性の確保に対し、国民の目が厳しくなっている昨今、官公庁におけるIT関連投資についても見直しが求められるようになりました。こうした世論を受けて、情報システムにかかわる政府調達制度を見直す動きがここ数年顕著になってきており、上記IT戦略にも、効率的な情報システムの調達を目指す政策が盛り込まれています。
政府調達制度の詳細については後述しますが、官公庁においてシステム導入にかかわる際には、こうした政府の指針や制度の見直しの動向をタイムリーかつ正確に把握し、導入スケジュールや適用するソリューションに適切に反映していくことが重要なポイントとなってきます。
官公庁システムの特徴
各府省のメイン業務を支える業務系システムは、おのおのの固有業務を手厚くサポートするカスタムメイドの巨大かつ複雑なシステムが、長年にわたって拡充されてきているため、業務の継続性の観点から刷新の難しいものが数多く残っています。
また、経理や人事といったバックオフィス業務を支える基幹系システム(財務会計システム、人事給与システム、購買管理システムなど)は、メインフレームなどの大型汎用コンピュータ上で稼働するレガシー・システムが多いのが特徴です。
いずれも、非競争的な環境で膨大な維持運営コストがかかっていることから、それらを見直し、政府全体として統一的な業務・システム管理手法の下、府省間・府省内各組織間で整合的な業務の遂行と情報システムの整備を行うことを目指して、「業務・システム最適化計画策定指針」(ガイドライン)が定められています。この最適化の流れを受け、近年、レガシー・システムのオープン系サーバへの刷新、ERPパッケージの導入、各府省間でのシステム共同利用(センター)化の動きが活発になってきています。
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