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「3Kは大した問題ではない」――今年の学生は模範的?学生とITプロフェッショナルの討論会

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 情報処理推進機構(IPA)は5月26日、主催イベント「IPAX2009」で、学生とITプロフェッショナルの対談会を開催した。テーマは「今、IT業界の見える化を志向する」。IT業界が具体的に何をしているか、学生たちに見えにくいのではないかという問題意識のもと、討論が行われた。討論会は今回で4回目。

 パネリストとして登壇したのは、日本アイ・ビー・エムの明石雅典氏、日立システムアンドサービスの石川拓夫氏、SAPジャパンの大岩康志氏、東京海上日動システムズの高木靖史氏、日本電気の高橋伸子氏、マイクロソフトの高橋秀樹氏の6人。これまでの討論会と異なり、パネリストは現場で働く人々だ。職種もITスペシャリストやコンサルティング営業、人事など幅広い。

 学生は、九州大学、公立はこだて未来大学、静岡大学、筑波大学から各2名の大学院生が参加。インプレスビジネスメディアの田口潤氏がコーディネーターを務めた。

登壇した現役大学院生たち
登壇した現役大学院生たち

10年は無理でも、5年なら「泥のように」働こう

 「IT技術者の仕事のイメージは」という質問に対して、学生から最も多く出た回答は「顧客の需要を見極めて、製品を開発する」だった。ほかにも「大人数でシステムを開発する」「顧客の業務内容が分かっていないといけない」「システム要件の提示力が問われる」などの意見が出て、パネリストたちは「しっかりした回答だ」と驚きを示した。一方で「残業が多い」「常駐が多く、社には席がないのでは」といったマイナスイメージも相変わらずあるようだ。

 学生は、8人中7人が修士課程2年生。2年生のうち、1人を除いて全員がIT企業に就職する予定だ。「企業での自身の活躍イメージ」については「大規模システム開発を経て、プロジェクトマネージャになりたい」「開発工程の全ての技術を体得した技術者になりたい」などの目標が挙げられた。パネリストからは「思い込み受験が多い中、皆すごくしっかりしている」と賞賛の声が出る一方、「模範的な回答すぎる」「教科書的」などの意見も散見した。

 一方で、「具体的にどんな仕事をするのかまだ分からない」と答える学生もいた。「まだ何をするか分からない。10年だと諦めてしまうだろうが、5年は泥のように働こうと思う。働いていく中で、やりたいことを見付けていきたい」と、昨年の議論を引用しながら語った。発言を受けて、石川氏は「経験を通して、仕事に意味付けをしていくのは大事なことだ。意味のない仕事はない。例えば検査工程は面白くないと思う人がいるかもしれないが、意味はある。働く中で、この意味を見付けられるかどうかが重要」だと強調した。

 赤石氏は「学生のころは、プログラムを作ることが好きだった。その感動が原点」と述べた。「プログラムを作って、感動したことがある人は?」という質問には、学生8人中7人が手を挙げた。

 「ITの将来性への期待はあるか?」という質問に対しては、学生の間で「そう思う」と「そうは思わない」の意見が半分ずつに分かれた。

 「そう思わない」と答えた学生は「次がどうなるかのイメージがわかない」「残業時間の減少が期待できない」「SIの受注型は長く続かないのでは」と答えた。一方で「そう思う」と答えた学生からは、「技術の進歩があるので、まだまだ新しい使い方ができる」「今後が分からないからこそ可能性がある」との声が上がった。

 パネリストからはさまざまな反応が出たが、共通して出た単語は「厳しい」だった。「働く人間としては厳しいものがあるが、業界としての将来性はある」と高木氏。赤石氏は「日本のSIerが厳しい理由」として「技術のコモディティ化」と「国際化」を挙げ、「日本の技術者の価値は何かと問われることになるだろう」と語った。「IT業界で働いて後悔しているか?」と田口氏が聞いたところ、パネリストたちは「今のところはまだ後悔していない」と苦笑混じりで答えた。

パネリストが現場からの意見を語る
パネリストが現場からの意見を語る

いい子なだけでは、世界に対抗できない

 最近の学生、新入社員に対して感じること、思うことは何か。この質問に対して、パネリストは「優秀でいい子」「言われたことはきちんとやるが、主体性に欠けている」「ハングリー精神が足りない」と、ここ数年の変化に対する印象を語った。

 石川氏は「自分を中心にした論理展開で、社会の中での自分の立ち位置や価値を考えていない。他者からのフィードバックに対する感度が弱いのでは」と意見を述べた。これに対して学生からは「他人からの視点を得るのは、実際は難しい。機会そのものが、現在は少ない」「大学院ではともかく、大学の4年間では、他人からの視点は得にくい」など、とまどい気味の反論が出た。

 しかし、それでは国際社会に対抗できないと外資系企業のパネリストは主張する。高橋秀樹氏は「グローバル視点で人材を見る場合、アメリカの学生と日本の学生ではやはり差がある。講義を受ける際に黙って聞くのは日本的。アメリカは教授と議論する。そういう人材と戦うのは厳しい」と語った。大岩氏も「インドや中国などの技術者は、ハングリー精神が強く優秀だ。日本の学生は、サッカー代表と同じで、最後のふんばりが足りないように思う」と、国際社会における日本の競争能力の低さを指摘した。

「3Kはある」けど、それは大した問題ではない

 学生からの自由質問では「就職活動で“人間力”という言葉を聞くが、技術者に必要な人間力とは何か?」という質問が出た。赤石氏は、説明力、傾聴力、テクニカル・リーダーシップの3点を挙げ、特にテクニカル・リーダーシップが重要だと答えた。「技術が分かるリーダーの言うことは、皆納得してくれる。コミュニケーション能力だけではリーダーにはなれない。やはり技術力がないと」と、自身の経験を交えて語った。

 「一般的なIT業界のイメージと、実際のIT業界とのギャップはどうするか」という質問に対して、高木氏は「アピールするしかない」と断言する。「仕事を楽しんでいるかどうかが、うまく伝わることの秘訣ではないだろうか。子供に憧れの職業を聞いた時、IT技術者と答えてもらうにはどうすればいいか。もっと楽しくやっていくには、3Kから脱出するにはどうすればいいかを考えていく必要がある」と語った。田口氏は「今子供たちに人気なIT関連の職業はゲームデザイナー。やはり子供の目に見えているからだと思う。一方で、システムは見えにくい。こういう場での発言が広がればいいのでは」とコメントした。

 「IT企業は差別化を行っていかないのか。IT業界の実態が見えないのはそのせいでは。どの就職説明会に行っても、同じような説明ばかり受ける印象だ」という意見に対して、パネリストは「厳しい質問ですね」と苦笑する。田口氏は「これまではたくさん仕事があったが、景気状態とグローバル化で、そうもいってられない状況になった。どう差別化するか、みんな必死で考えているところだろう」とまとめた。

 田口氏の「3Kはあると思うか」という質問に対して、学生全員が手を挙げた。「それは大した問題ではないし、ほかの業界も同じだと思う」という学生は、8人中7人だった。

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