スクラム提唱者から学ぶ、チームの不幸を減らすたった2つの方法:スクラム提唱者が教える、チームの不幸を減らす方法(2/2 ページ)
スクラム提唱者のジェフ・サザーランド氏を講師に招いた、日本初の「スクラムアライアンス認定プロダクトオーナー研修 レポート」レポート。チームも顧客も不幸な状態をなくす方法は実にシンプルだ。
プロダクトオーナーの仕事を学ぶ
スクラムでは、プロダクトを作ることに関わる3つの役割があります。
- チーム
- プロダクトオーナー
- スクラムマスター
- チーム
自律的に動くプロフェッショナルの集団で、集中してプロダクトを作る責任を持ちます。
- プロダクトオーナー
顧客の立場に立ち、プロダクトに対する要求とその優先順位についての責任を持ちます。
- スクラムマスター
チームとプロダクトオーナーがスクラムのフレームワークを健康的に遂行するためのファシリテートを行い、阻害要因を取り除く役割です。
ジェフいわく「プロダクトオーナーは、マーケットとチームについて詳しく知っていて、プロダクトに対するビジョンを持ち、情熱を燃やし、出荷したプロダクトが“その分野では一番だ!”と言われるようになることに対して責任を持つ人」だそうです。ものすごく大変ですね。
プロダクトオーナーの仕事はどんなものなのか、どれくらい大変なのかを知るためのワークも行いました。受講者は、チームごとにアイデアを出し合ってプロダクトを決め、エレベーターピッチ(プロダクトに関する簡単な説明)を作り、ユーザーを想定してペルソナを作ります。
さらに、目標を明確に設定したプロダクトを作るために、ユーザーストーリーを識別 して優先順位をつけ、プロダクトバックログを完成させていきました。
【用語解説辞典:ユーザーストーリー】
プロダクトが備えるべき要件を定義したもの。一般的には「As a <type of user> I want <some functionality> so that <some benefit>.」(こういうユーザーとして、こういう機能が欲しい、それによってこういう利益を得ることができるから)の形で定義される。ジェフによれば、プロダクトオーナーが「so that」つまり価値ある目的について説明できなければ、ストーリーはバックログに戻していいとのこと。よくこう言われる。「プロダクトバックログの3分の1はガラクタだ」
ユーザーストーリーについては、ゴールが明確であればあるほどチームの理解度が高くなり、Doneに到達するスピードが速くなるのだそうです。まさに「Ready,ready.Done,done!!」ですね。
では、プロジェクトを始める前に、プロダクトオーナーはどれぐらい準備をしなければいけないのでしょうか? 講師の2人からは、このような答えが返ってきました。
ギャビー「必要十分なだけ」
ジェフ 「最初の1スプリント分のReadyなプロダクトバックログを作っておく必要がある」
つまり、スプリントがスタートしたら、チームが一丸となってゴールに向かい疾走できるだけの準備が必要なのです。ギャビーはこうも言っていました。
「細切れのプロセスで作られたプロダクトは、流れのあるユーザーエクスペリエンスを実現できない」
スクラムを頭でも学び、体でも学ぶ
アジャイル関連の研修で私が面白いと思うのは、ワークショップの多様さです。研修そのものがスクラムのエッセンスを含んでおり、まさに「スクラムを習いながらスクラムを体得する」ワークショップでした。研修で実践したスクラム手法をいくつか紹介しましょう。
- スクラムボード
教室の後方の壁には「TO DO」「DOING」「DONE」と書かれたスクラムボード(カンバン)が貼られていました。壁のカードには、2日間で学ぶ内容が書かれています。それぞれの規模を見積もり、「TO DO」の列に並べます。
カードは研修用テキストの各章とリンクしており、講師が説明を始めると同時に「DOING」に移動させます。今、何の説明なのかを会場で共有し、説明が終わって受講者の理解が得られたことを確認したら、カードは「DONE」に移します。
- バーンダウンチャート
コースの進ちょく状況を見るためのバーンダウンチャートもありました。研修の進み方を見ながら、優先度の高い項目から着手できるように、進捗(しんちょく)を可視化します。
講義の速度を決めるのは、チームのベロシティ、すなわち受講者の理解度や態度です。バーンダウンチャートによって、2日間で内容をやりきれるかどうかを確認しました。
ビジョンとパッションを持て、そしてリスクを取れ!
研修最後の質疑応答の最中に、野中郁次郎先生が登場するというサプライズがあり、場内は色めき立ちました。
この2日間で学んだことは、「プロダクトオーナーがプロダクトに対して、いかに情熱的に、いかに真摯に向き合わなければいけないか」という一言に尽きます。チームはそれを実現するために猛進します(もちろん、持続可能なペースで、ですが)。
“Vision! Passion! Ready,ready.Done,done!!”「マネージャはリスクを取れ!」――特にこの2つのキーワードは頭に叩き込まれました。
ジェフとギャビーのCSPO研修は、とても力強く印象的なものでした。野中先生からスクラムという言葉を受け取り、17年間もかけて実践例を詰め込んできたジェフが、その知見を示してくれる機会などそうそうありません。今回のレポートを見て興味を抱いた人は、次回にはぜひ参加してみてください。
コミュニティに参加してみるのも手
アジャイルは導入してからが本当のスタートです。アジャイルは本を読んだだけでは大事な部分は伝わらず、自分の組織や現場でどうやったらうまくいくのかを、日々考えて行動していかなくてはなりません。
そんなスクラム実践者のために、私はコミュニティ「スクラム道」のスタッフとして活動しています。スクラム道は「他の現場ではどう取り組んでいるのか?」「よく直面する問題は何か?」をシェアし、「より上手くやるには?」「その背景にある重要な事は何か?」などをみんなで考えていく勉強会です。
実践しているエンジニア同士が抱える悩みを共有し、明日から少しでもうまくいく何かを見つけていくことが、アジャイルを導入して成功する現場が増えることにつながるのではと考えています。スクラム道の Twitter 上での公式アカウントは ”@tao_of_scrum”、公式ハッシュタグは ”#scrumdo” です。
また、スクラムのプラクティスを中心に活動しているコミュニティとして「すくすくスクラム」があります。東京を中心に活動している老舗コミュニティで、地方開催もしています。私はスタッフではありませんが、参加するたびに新しい気づきを得ることができるので、おすすめです。
皆さん、ぜひ一緒にスクラムの“道”を実践してみませんか?
筆者紹介
永瀬美穂(ながせみほ)
中堅SIer ディアイスクエアで働くデベロッパー。従来型PLやPMの経験が長いが、最近はもっぱらアジャイルな開発を実践したり、コーチしたり人前で説明したりすることが専門。2011年4月からは数年ぶりに現場回帰が実現し、のびのびとより良い開発現場を実現するために、社内外問わず活動中。日本も含め、世界のクラフトビールが大好物。セミナー講師としてのギャラは、「ナイスビア1本」との噂。
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