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第144回 Intelが最先端工場で他社製品の製造を請け負う意味頭脳放談

Intelがファブレスのベンチャー企業の製品製造を請け負うと発表。それも最先端の22nmプロセスを利用するという。その意味するところは?

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 Intelが他社製品の製造を請け負うファウンダリ・ビジネスをやっているようだ。とはいっても、自社の工場をファウンダリ専業の別会社(GLOBALFOUNDRIES)として分離したAMDのケースとは大きく異なり、何か目的があるようである。こういっては悪いが「腹に一物ある」ファウンダリ・ビジネスに見える。

 普通、ファウンダリといったら、数量と価格さえ折り合えば、その目的とか売り先とかに関わらず、まずは仕事を受けてもらえるものだ。何に使うか、どこに売るかは、発注する委託元の問題で、ファウンダリ側がとやかくいう問題ではないからだ。とはいっても、発注された数量がちゃんと流れるのかどうかは、ファウンダリ側も市場と相手の会社を見ている。先のない市場向けの仕事や、あまり細々としたものは手間ばかりがかかるので、ファウンダリに嫌がられるだろう。昨今、日本向けのチマチマした仕事だと、引き受けてもらえないかもしれない。

 しかし、Intelの場合はもっと大変だ。Intelから「戦略的なパートナー」だと見なされないと、Intelの工場をファウンダリとして使える栄誉にはありつけないようだからだ。どうしたら「パートナー」と見なしてもらえるのだろうか。だいたい、その「戦略」って何だ?

 いまのところ、Intelのお眼鏡にかない、自社製品をIntelの工場で製造してもらえるようになった会社は、知られている限り3社ある。Achronix Semiconductor(Achronix Semiconductorのニュースリリース「ACHRONIX AND MENTOR GRAPHICS PROVIDE STATE OF THE ART PHYSICAL SYNTHESIS SUPPORT FOR SPEEDSTER22I FPGAs - THE WORLD’S MOST ADVANCED FPGAs LEVERAGING INTEL’S 22nm PROCESS TECHNOLOGY」[PDF])、Netronome(Netronomeのニュースリリース「Netronome to Build World's Highest Performance Flow Processors on Intel 22nm Technology」(PDF))、Tabula(Tabulaのニュースリリース「Tabula Confirms Move to Intel’s 22nm Process Featuring 3-D Tri-Gate Transistors」)である。いずれも若いファブレスのベンチャー企業だ。多くの場合、ファブレスの半導体メーカーは、自社製品がどこのファウンダリのどのプロセスで作っているなどということは、奥まったところでひっそりと語るか、いわなかったりするものである。場合によっては「より安い」ファブに切り替えることもあるからだ。けれどもこの3社については、ニュースリリースを配信し、目立つところに誇らしげにIntelの22nmプロセスだと書いてある。当然か。

 製造を依頼する側のファブレス企業にすれば、量産プロセスとしては世界最先端で、最も高速かつ、速度と消費電力のバランスでも優れたIntelの最新鋭プロセスを使えるわけだ。このプロセスを使えるというだけで、ほかの「遅い」プロセスを使っている同業他社というものがあるならば、それらに性能面で差をつけることが可能となる。これは大きなメリットだ。

 しかし、Intel側からするとどうなのだろう。新鋭プロセッサを作らなくなってしまった古いプロセスのキャパシティが余っていて、それを外の会社に売るというのなら、巨額の投資をした半導体工場を無駄にしないで最後まで利益を絞りとるための有効活用ということになるが、そうではなさそうである。3社ともに、22nmのいわば「プレミア付き」のよいところを利用しているからだ。Intelにそれを埋めるだけの需要がないとも思えない。だいたいプロセッサ・ビジネスは、常に先端プロセスの製品が一番の売れ筋になるもので、古いやつはどんどんディスコンにして、利幅の大きい新鋭製品に誘導するのが定石だ。そこをあえて、他社に分けてやるというのは、何かなければやるわけはないだろう。それも相手は、株式公開前の新興企業で、いっちゃ悪いがまだ海のものとも山のものとも分からない段階である。

 3社の狙っている市場をざっと見ていると、何となくIntelの意図するところが分かってくるような気がする。Achronix SemiconductorとTabulaの2社はFPGAの会社である。そしてNetronomeはネットワーク向けのプロセッサである。FPGAの仕向け先にもネットワークやクラウドのインフラ用途は多いから、3社とも狙っている市場は似たように見える。そしてFPGA業界を長らく牛耳ってきたのは、XilinxとAlteraの2強だ。どうもIntelは、その市場に殴りこむ別働隊として3社を選んだようにも見えるのである。また何でか? FPGAとマイクロプロセッサは、市場であまり被ることもなく長年すみ分けてきた。しかし、IntelはFPGAの市場を強奪しに来ているのではなかろうか。

 見かけはまったく異なるのだが、ある意味、FPGAとマイクロプロセッサは似たもの同志でもある。どちらも、用途をあまり限定しない汎用の製品であり、そしてハイエンドは集積度とスピード勝負のデバイスでもある。そしてどちらもプログラマブルである。マイクロプロセッサは出荷された後、使用者の元でプログラムされて使われるが、FPGAは設計時にプログラムされて使われる。違いはプログラムされるステージと回路のアーキテクチャだ。いままで市場ではすみ分けてきたが、意外と似たもの同士でもあるのだ。そして、このところ市場が成熟気味なマイクロプロセッサより、FPGAの方がまだまだ変化を起こせそうな可能性がありそうだ。

 実際、3社のうちのTabula社の製品を見ると、なかなか面白い製品である。従来も実行時に機能を変えるリコンフィギャラブルという製品はあった。しかし、ここのFPGAは、実行時に素早く(GHzのオーダーで)回路を再構成することで、大きな規模のFPGA回路と同じ処理を、実際には小さな規模のFPGA回路で処理してしまおうというのだ。平面内のXY軸におかれた実体のある処理ユニットに対して、それらを再構成した時間軸方向の変化を仮想的なZ軸とみなして3次元のFPGAのように使える、といっている(実際にチップが3次元なわけではない。なお、Intelの22nmプロセスは、3Dトランジスタ技術といって喧伝されているが、その3Dとは違う概念の「3D」である)。

 チップ面積が小さければ、配線距離は短くなり、速度は速く、消費電力も小さくなる。そして値段も安くなる。いいことづくめである。本当に大きなFPGAと同じことを回路規模の小さなFPGAでできるのであれば、大手の2社も安閑としておられまい。ちゃぶ台返しの可能性すらある。

 なお、3社とも本社所在地は同じカリフォルニア州サンタクララ市、いわずと知れたIntelの本拠地だ。

筆者紹介

Massa POP Izumida

日本では数少ないx86プロセッサのアーキテクト。某米国半導体メーカーで8bitと16bitの、日本のベンチャー企業でx86互換プロセッサの設計に従事する。その後、出版社の半導体事業部を経て、現在は某半導体メーカーでRISCプロセッサを中心とした開発を行っている。


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