スクラムマスター――あえて不都合な事実に目を向ける“チームの医者”:開発チームを改善するためのスクラムTips(7)(1/2 ページ)
「スクラム」は、アジャイル開発の手法群の中でも、「チームとしての仕事の進め方」に特化したフレームワークだ。スクラムの知識を応用して、開発チームの日常をちょっとリファクタリングしてみよう。
チームが主役のスクラムにおいて、2つだけ定義された特殊な役割。それが、プロダクトオーナーとスクラムマスターです。前回は、プロダクトオーナーについて紹介しました。プロダクトオーナーはチームが進むべき方向、ゴールへの道筋を示す役割です。
今回はもう1つの役割、「スクラムマスター」について紹介します。
チームには、不都合な事実に目を向ける「医者」が要る
リーダーの仕事の中でも、「チームにビジョンを示す」ことは特に重視されてきました。ビジョンを示し、チームを励ましながら目標に向かってひたまい進する――優れたリーダーと熱意に満ちたチームがあれば、素晴らしい成果が得られるでしょう。
しかし、状況は変化します。全力で前進するリーダーとチームは、チームの何かが壊れそうになったとき、しばしばその徴候を見逃してしまいます。
「この事実をチームの皆が知ったら、士気が下がるだろうな……」
といって不都合な事実を見逃すと後々、大惨事を引き起こします。チームには、不都合な事実をしっかり見つめ、対策を促すドクターのような存在が必要です。それがスクラムマスターです。
スクラムマスターの役目は「壊れた状態から遠ざける」
チームを“壊れた状態”からなるべく遠ざける――これがスクラムマスターの責務です。
健全に保つ、と言い換えてもいいのですが、健全とはどういう状態のことか、という定義が複雑なので、本記事ではあえてこのように定義しました。“壊れた状態”から、チームを引き離すために、あの手この手を繰り出していくのが、スクラムマスターです。
チームの仕事を妨げている障害物を取り除く
スクラムが定義する用語の1つに、「インペディメント」(Impediments:障害物)があります。
Impedimentsという単語の語源は、ラテン語由来の“歩く/足”という意味の“ped”に、否定を表す接頭辞“im”が付き、さらに接尾辞としてモノを表す“ment”。つまり「歩くことを、させない、もの」つまり「歩みをとめる障害物」といった意味です。
チームの生産性を高める最大の方法は、「もっと歩け!」とチームを鼓舞することではなく、チームの歩みをとめる障害物を取り除くことです。医者が、不調の原因を見極めて必要な処方を行うのと同じです。ただし、一度に大量の問題を片付けようとすると、体力が持ちませんし、日常生活に支障を来たす恐れがあります。 以下の2つがポイントです。
- 状況を適切に把握すること
- 障害を“1つ1つ”片付けていくこと
●障害物を徹底的に洗い出し、リスト化する
このため、スクラムマスターはチームが抱えている障害物をリストアップします。ジム・コプリエン氏によると、項目が100を超えることは決してめずらしくないそうです。リストには、今すぐに解決する必要がないものや、いくら頑張ってもすぐには解決しようのないものも多数、含まれます。「そんなことは言わなくてもみんな分かっているはず」というものも、すべて障害物リストに入れます。
第1回で紹介した「デイリースクラム(朝会)」では、3つの質問に全員が答えますが、その中の質問に「進行の障害になっていること」があります。
メンバーが挙げた障害のうち、その場で解決できないものは、障害物リストにがんがん突っ込みます。スプリントの終わりにチームで行う「ふりかえり」も障害物リストの貴重な情報ソースです。また、スクラムマスターがチームを観察する中で得られる、自身の経験に基づく気付きもリスト化します。
チームに解決を促す
こうして蓄えられた障害物リストのうち、「問題が大きく、かつ、いま解決しやすいもの」を選び、スクラムマスターは解決に取り組んでいきます。
障害を乗り越えることは、チームにとって貴重な成長の機会です。そのため、スクラムマスターはなるべくチーム側に考えてもらい、チーム自身で解決できるように促します。
どうしてもチームが解決できない時は、スクラムマスター自身や、外部の力を使えないか、検討します。社内に他にもチームがあり、スクラムマスターがいる場合は、定期的に組織内のスクラムマスターが集まって解決を検討する「スクラム・オブ・スクラムズ」というやり方もあります。
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